祓い屋はじめました。

七海さくら/浅海咲也(同一人物)

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079.

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 翌朝はスマホがメッセージを受信した音で目が覚めた。
 忘れないようにしなければ、と充電しながら枕元に置いておいたのだった。
 もぞ、と起き上がりメッセージを確認すれば、なぜか円からだった。


「…………?」


 なんでわざわざ、と思いながらトークルームを見れば「おはよー、起きた? ごはんできたよ!」の文字と、昨日瞳が買ったのと同じ、モモンガのスタンプ。


「ふはっ」


 なんだか面白くて可愛くて思わず笑ってしまう。今はキッチンだろうか。
 とりあえず、スマホだけを持って部屋のドアを開けた。
 ダイニングへと続くドアを開けてすぐに声をかけられる。


「お。おはよー」
「おはよ。つか、声かければいいのに」
「いや、睡眠大切だから!」


 そう言いながら円がテーブルに並べたのは、ピザ風トーストにサラダとコーンスープ。


「トーストもスープも熱いから気を付けてね!」


 超絶猫舌な瞳への注意も忘れない。
 瞳はスマホを置いて椅子に座ると、円が席につくのを待った。


「先に食べていいのに」
「いや。やっぱり一緒じゃないと意味ないだろ」
「そういうところだよね……」
「ん?」


 瞳が、影で人たらしと言われる所以である。
 人どころか、式神や神まで瞳のことが大好きである。めちゃくちゃライバル多くね!? などと思う円は既に末期だ。
 とりあえずは何でもない、と言ってごまかされて、二人そろっていただきます、と食事の挨拶をする。
 いただきます、というのは、「あなたの命をいただきます」ということだと瞳は思っている。人として、何かしらの命をもらって生きている。だから、これは生かしてくれる命に対しての言葉。
 欠かしてはならない言葉だと、瞳は思う。


「なぁ。ところでさ」
「ん?」


 食事をお互いに半分くらい終えたところで、どうしても気になる、といったように円が言葉を紡いだ。


「妖精たち? めっちゃ飛んでない?」
「あー……」


 円から見たらほわほわと光るだけの妖精たちだが、瞳にははっきり見えている。はやくたべて、とか急かされているのだけれど。


「今日、例のアレ、まだなんだよ」
「なるほど……」


 ここ数日は日課になってしまった、怪我の時間を進めるアレである。
 もう少し、と言っていたから妖精たち的に早く治したいのだろう。
 けれど。
 瞳の言葉に、円が納得してしまうのも問題があると思う。円に言わせれば「慣れた」ということらしいのだが。
 妖精たちに急かされつつもゆっくりじっくり味わって食事を済ませてごちそうさまと言った。
 食器はそのままでいい、という円に甘えて一旦自室に戻ると、妖精たちに例のアレをお願いする。
 妖精たちは、待ってましたとばかりにぽんぽん触ってきた。そろそろ終わりにしてもらおう、と思った時だった。


『これでおしまいー!』


 最後にひときわ高らかに宣言して一人の妖精が触っていくと、他の妖精たちもわぁーっと盛り上がった。


『なおったよー』
『ヒトミー』
『よかったねー』
「ありがとうな」
『どういたしましてー』


 少し動かせば、皮膚が引き攣れる感じは残っているがもう痛くはないし、妖精たちが言うのだ、完治で間違いないだろう。
 時間を進めてもらっただけなので傷痕は残っているが、これは仕方がない。
 あとはこの貧血さえなんとかなれば、早朝トレーニングを再開できる。
 よし。とりあえず、自室で腹筋くらいはしてもいいだろうか?
 そんなことを考えていると、再びスマホがメッセージを受信する。今度はグループの方で、美作からだった。
 目を通してリビングに行くと、円がやはりスマホを確認していた。


「円」
「うん。準備しよう」
「そうだな」
「で、瞳。怪我は?」
「完治」
「おめでと」


 そんな簡単なやり取りを交わして、二人同時にふぅ、とため息をついた。
 高科みどりが事務所に来ると予約が入った。
 美作からのメッセージはその件についてだった。


「とりあえず、シャワーだけ浴びさせてくれ。あと、背中だけでいいから絆創膏取って」
「はいよ」
「ありがとう」


 瞳はシャツをするりと脱いで、円に背中を向ける。妖精たちが完治させてくれた怪我の絆創膏をペリッと剥がしてもらって受け取り、ゴミ箱へ捨てた。パタパタと準備して浴室へ向かう瞳。円も着替える為に自室へと向かった。
 それから、まるで示し合わせるようなタイミングで、浴室から出た瞳と自室から出てきた円が鉢合わせる。


「あ、悪い! ちょっと待って。荷物だけ持ってくる!」
「いや、まだ時間あるよ!」


 慌てて自室からボディバッグを持ってくる瞳だったが、円の言う通り、本当に時間に余裕はあるのだ。
 リビングのソファに並んで座って、少しばかりの時間調整をする二人だったが。


「なぁ」
「んー?」
「俺、嫌な予感しかしないんだけど」
「奇遇だな。オレもだよ……」


 そう。タイミング的にはどうしても可能性を拭いきれないのだ。『彼女の件』での仲介が、みどりに任されている可能性が十分にある。
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