79 / 186
077.
しおりを挟む 結局、読書談議に花が咲き、円は少しも宿題が進まず、瞳も1ページも読めずに昼食となった。
「今日は! なんと美作がお弁当を作ってくれたのよ!」
「え!」
「美作の弁当とかめちゃくちゃ貴重……」
「僭越ながら、ご用意させていただきました」
美作はそう言って、朝、冷蔵庫に入れた大きめの包みをテーブルへと持ってくる。
「季節柄、冷蔵庫へ入れてそのままで申し訳ないのですが。昨日はパンでしたので、今日は是非ご飯をと思いまして」
包みを開くと重箱が姿を表す。三段重ねである。
ぱかり、と一段目の蓋を開けると、そこには、小さめに握られたおにぎりがみっちりと詰まっていた。
見た目が少しずつ違うから、味も違うのかもしれない。
次の2段目は、おかずのオンパレードだった。定番の卵焼き、唐揚げ、レンコンのはさみ揚げ、筑前煮、たこさんウィンナーにコロッケ。
そして三段目は、デザートがてんこ盛りだった。市販品ではあるが、ゼリーやプリン、クッキーにチョコレートまで。
「……これ、美作さんが一人で作ったんですか?」
「そうですが……お気に召しませんでしたか……?」
なんだかしゅんとする美作に、瞳はブンブンと首を振った。とんでもないことである。
瞳はその体質のせいで自炊がほとんどだったし、弁当も自分で作っていたから、その大変さはわかるつもりだ。
「とても美味しそうです! あの、食べてもいいんですか? 本当に?」
「毎日デリバリーでも飽きてしまうでしょうし、気分転換になればと」
「本当に、これだけの量はすごいですし、手間だったでしょう。ありがとうございます」
ちょっと感動しながら瞳が言うと、美作は嬉しそうに笑ったので、言って良かったと思う。
「俺の弁当なんて作ってくれたこともなかったのに……」
ちょっと拗ねたように円が言うから、瞳は笑ってしまった。
美作の弁当はやはり絶品だった。さすがは料理人でも食べていけそうな腕前の持ち主である。
瞳が美味しいと何度も言うから、美作も終始嬉しそうだった。
「このおにぎりがさー、塩味が絶妙なんだよなぁ」
「ああ。海苔のおかげかもしれません」
「海苔?」
「とある筋から仕入れている海苔を使っているんです。塩のりなんですよ」
「どこから……」
「秘密です」
「くっそ……」
円と美作のやり取りにも笑った。そしてそこで新たに塩のりなる存在も知ってワクワクする。
瞳はきっと、知らないこともたくさんある。今まで人付き合いを極端に制限してきたからだ。
円によって強引にではあるが、無関係ではなくなった円と律と美作は、瞳にたくさんのことを教えてくれる。それが素直に嬉しいし、感謝もしている。
「そういえば、瞳さま」
「はい」
「読書の話ですが、スマホでも読めますよ」
「えっ?」
「出版社から購入するタイプのものもありますが、素人の投稿サイトなども作品は充実してます」
「投稿サイト……」
「いわゆる趣味で書いて自由に投稿できるサイトよ」
「たとえばこちらですが……」
美作は自分のスマホを取り出してトトッと操作してひとつのサイトを起動して見せてくれる。
「まぁ、素人ですので更新はまちまちですし、未完のまま終わりになる場合もありますが。長期間更新がない場合はサイトからのメッセージも出ますし、わかりやすいです。流行り物の作品も多いですね」
「へぇー」
「読みたい内容やキーワードを入れて検索ができるので便利ですよ」
「キーワード……」
「逆に、読みたくないキーワードを入れて検索することもできます」
「あ、それは便利ですね」
「特に課金もないですし」
「課金……。そうだ、課金といえば!」
ハッと思い出す。瞳は美作が見せてくれていたスマホからパッと顔を上げて律を見る。
「え、どうしたの?」
「あの! スタンプ買ってもいいですか!?」
メッセージをやり取りする、あのアプリのスタンプのことである。やはり文字だけは寂しい。スタンプ使いたい。と切実に思ったのだ。
律はキョトンとしていたが、やがてふふふ、と笑った。
「問題ないわ。好きなだけ買ってちょうだい」
瞳がホッと胸を撫で下ろしてお礼を言えば、瞳がどんなスタンプを使うのか楽しみだわ、と律は言った。
「あ、美作さん。そのサイト教えてください」
「はい。他にもいくつかピックアップしましょうか?」
「そんなにあるんですか?」
「そうですね……課金を目的としたサイトや、書籍化を目標として投稿されているサイトなどもあります」
「うーん……。とりあえず、課金はやめておきます。出してくれるの律さんだし……」
「わかりました。では、こちらがおすすめですね」
瞳が、だいぶ慣れてきた手つきで教えてもらったサイトをチェックしている間、円は美作特製の弁当をもぐもぐと食べていたのであった。
「今日は! なんと美作がお弁当を作ってくれたのよ!」
「え!」
「美作の弁当とかめちゃくちゃ貴重……」
「僭越ながら、ご用意させていただきました」
美作はそう言って、朝、冷蔵庫に入れた大きめの包みをテーブルへと持ってくる。
「季節柄、冷蔵庫へ入れてそのままで申し訳ないのですが。昨日はパンでしたので、今日は是非ご飯をと思いまして」
包みを開くと重箱が姿を表す。三段重ねである。
ぱかり、と一段目の蓋を開けると、そこには、小さめに握られたおにぎりがみっちりと詰まっていた。
見た目が少しずつ違うから、味も違うのかもしれない。
次の2段目は、おかずのオンパレードだった。定番の卵焼き、唐揚げ、レンコンのはさみ揚げ、筑前煮、たこさんウィンナーにコロッケ。
そして三段目は、デザートがてんこ盛りだった。市販品ではあるが、ゼリーやプリン、クッキーにチョコレートまで。
「……これ、美作さんが一人で作ったんですか?」
「そうですが……お気に召しませんでしたか……?」
なんだかしゅんとする美作に、瞳はブンブンと首を振った。とんでもないことである。
瞳はその体質のせいで自炊がほとんどだったし、弁当も自分で作っていたから、その大変さはわかるつもりだ。
「とても美味しそうです! あの、食べてもいいんですか? 本当に?」
「毎日デリバリーでも飽きてしまうでしょうし、気分転換になればと」
「本当に、これだけの量はすごいですし、手間だったでしょう。ありがとうございます」
ちょっと感動しながら瞳が言うと、美作は嬉しそうに笑ったので、言って良かったと思う。
「俺の弁当なんて作ってくれたこともなかったのに……」
ちょっと拗ねたように円が言うから、瞳は笑ってしまった。
美作の弁当はやはり絶品だった。さすがは料理人でも食べていけそうな腕前の持ち主である。
瞳が美味しいと何度も言うから、美作も終始嬉しそうだった。
「このおにぎりがさー、塩味が絶妙なんだよなぁ」
「ああ。海苔のおかげかもしれません」
「海苔?」
「とある筋から仕入れている海苔を使っているんです。塩のりなんですよ」
「どこから……」
「秘密です」
「くっそ……」
円と美作のやり取りにも笑った。そしてそこで新たに塩のりなる存在も知ってワクワクする。
瞳はきっと、知らないこともたくさんある。今まで人付き合いを極端に制限してきたからだ。
円によって強引にではあるが、無関係ではなくなった円と律と美作は、瞳にたくさんのことを教えてくれる。それが素直に嬉しいし、感謝もしている。
「そういえば、瞳さま」
「はい」
「読書の話ですが、スマホでも読めますよ」
「えっ?」
「出版社から購入するタイプのものもありますが、素人の投稿サイトなども作品は充実してます」
「投稿サイト……」
「いわゆる趣味で書いて自由に投稿できるサイトよ」
「たとえばこちらですが……」
美作は自分のスマホを取り出してトトッと操作してひとつのサイトを起動して見せてくれる。
「まぁ、素人ですので更新はまちまちですし、未完のまま終わりになる場合もありますが。長期間更新がない場合はサイトからのメッセージも出ますし、わかりやすいです。流行り物の作品も多いですね」
「へぇー」
「読みたい内容やキーワードを入れて検索ができるので便利ですよ」
「キーワード……」
「逆に、読みたくないキーワードを入れて検索することもできます」
「あ、それは便利ですね」
「特に課金もないですし」
「課金……。そうだ、課金といえば!」
ハッと思い出す。瞳は美作が見せてくれていたスマホからパッと顔を上げて律を見る。
「え、どうしたの?」
「あの! スタンプ買ってもいいですか!?」
メッセージをやり取りする、あのアプリのスタンプのことである。やはり文字だけは寂しい。スタンプ使いたい。と切実に思ったのだ。
律はキョトンとしていたが、やがてふふふ、と笑った。
「問題ないわ。好きなだけ買ってちょうだい」
瞳がホッと胸を撫で下ろしてお礼を言えば、瞳がどんなスタンプを使うのか楽しみだわ、と律は言った。
「あ、美作さん。そのサイト教えてください」
「はい。他にもいくつかピックアップしましょうか?」
「そんなにあるんですか?」
「そうですね……課金を目的としたサイトや、書籍化を目標として投稿されているサイトなどもあります」
「うーん……。とりあえず、課金はやめておきます。出してくれるの律さんだし……」
「わかりました。では、こちらがおすすめですね」
瞳が、だいぶ慣れてきた手つきで教えてもらったサイトをチェックしている間、円は美作特製の弁当をもぐもぐと食べていたのであった。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる