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069.
しおりを挟む「瞳さま、こちらをどうぞ」
そう言って、美作が新しい護符を三枚手渡してくれた。
「みどりさん、古い方の護符を」
「あ、はい」
頷いたみどりは、今度はスカートのポケットを探る。取り出したのは、可愛らしい布で作られた御守り。袋は巾着状になっていて、みどりはその中から折りたたんだ護符を取り出して瞳に渡す。
瞳はそれを開いて確認する。
次に、瞳は新しい護符と水晶をみどりに手渡した。
「ありがとうございます」
みどりは両手で受け取り、護符の一枚を丁寧にたたんで、水晶の一つと一緒に守袋の中に入れる。残りも無くさないようにとバッグに入れた。
「失礼します。……また燃えたらすみません」
瞳は一言断りを入れてからみどりの腕に絡みつく糸に触れた。今回もプツリとすぐに切れてポッと燃える。
「あ……」
「うん……。嫉妬は消えてますね。その代わり独占欲が強くなった」
「そうなんですか?」
「まあ、会った訳ではないので、関係あるものに触れた感覚からしか読めませんが。悪い感情ではないんですよ。ただ、想いが強い」
「はい」
「姉妹制度の件は考えてみてください。解決の糸口になるかもしれません」
「はい! ありがとうございます」
「吉田さま、この度もありがとうございます」
「いえ! オレで良ければ……!」
ずっと話を聞いていた田中からも礼を言われて、恐縮してしまう。
「また何かあればご相談させてください」と。そう言ってみどりと田中は帰っていった。
美作はしっかりと護符と水晶と相談の代金としてまあそこそこの金額を徴収したらしい。美作のことだから、水晶に相当な値段を付けていそうでこわい。
「ふぁーっ!」
ため息とも叫びともつかない声を上げて瞳がソファに沈む。
なんだか変に緊張した。
「あの嬢、大丈夫かな……」
そんなことをぼんやり呟いてみるが。
なにやら妖精たちが騒がしい。
『あっきめっさつー』
『おたきあげー』
「え? これ?」
瞳が、みどりが持っていた古い方の護符をピラリと出せば。
『火』の属性である妖精たちがボッと燃やしてしまう。
「え?」
『よくないのついてたー』
「よくない?」
『しっとー』
『おんなのしっとー』
「嫉妬?」
『みにくーい』
まぁ、男であれ女であれ嫉妬は醜いな、と納得しながら。
けれど先ほど触れたみどりの糸には嫉妬は無かった。
どういうことだ、と気になった。
「……空狐」
全身白銀の青年は、やはり服装を黒スーツに改めさせられていた。まあ外に出るならこの姿の方が良いのだが。
「お前、千里眼使えるな?」
「はい」
「この気配を追えるか」
『糸』と『護符』に触れた手を差し出す。
空狐はその気配を読み取り、瞳に問う。
「両方辿りますか?」
「両方?」
「対象は二人います」
二人。本当にどういうことだ。
例の後輩だけではないということか。そうだとしても、誰が?
「瞳さま」
考え込みそうになって、美作に名前を呼ばれてハッとする。
「とりあえず、両方頼む」
「御意」
空狐が意識を集中している間、固唾を飲んで見守っている。
「……少女、ですね。神社。縁結びでしょうか。特に悪い気は見当たりませんが」
「もう一人は」
「…………家に狐が居て守っていますが、これは……憑かれている……?」
「家に狐……?」
「先日の……」
「一条さやかか!」
「気配が定まりませんが、これは、悪霊かも、しれません……断定はできません」
空狐は少し迷っているようだ。
一条さやかが憑かれているのだとしたら、嫉妬はなんだ。何に対して嫉妬している?
「玄武。一条家の術者の様子は」
「いえ、気づいていないようです。私も……気づきませんでした」
見事に隠れているということか、悪霊ではないのか。どちらだ。
「え、待って。待って? 一条さやかって、狐の時のお嬢様よね?」
「そうですね」
「たしか一番酷い状態でしたね」
「それが今、なんで高科みどりに嫉妬なんて……」
「……空狐。いつから憑かれているか分かるか」
「数日前ですね」
数日前……。
待て。そういえば、例の画像を見て寝込んだとか言ってたな? 本人が悪霊を呼んだか?
「お待ちください。何か、言っています」
「…………」
「『許さない、わたしとあの人を引き離すのは、誰であっても、許さない』……と。ヒトミ、これは……」
「オレのせいかよ!?」
もう瞳は頭を抱えるしかない。
未だに『運命』だとか言って信じてる訳か。だから悪霊なんか呼んだのか。
「瞳? どういうことなの?」
「瞳さま?」
「……俺こわい……」
「空狐、ありがとう。玄武はとりあえず一条の式神に知らせろ」
それぞれに言えば、二人ともがスッと消える。
そして瞳は、律と美作、円をソファに座らせて自分は正座をした。
「いやいや! ちゃんと座って!」
たぶん一番の被害者である円がそう言うから、瞳は円の隣に座った。
「……説明、します」
かたい声で、話し始める。
そう言って、美作が新しい護符を三枚手渡してくれた。
「みどりさん、古い方の護符を」
「あ、はい」
頷いたみどりは、今度はスカートのポケットを探る。取り出したのは、可愛らしい布で作られた御守り。袋は巾着状になっていて、みどりはその中から折りたたんだ護符を取り出して瞳に渡す。
瞳はそれを開いて確認する。
次に、瞳は新しい護符と水晶をみどりに手渡した。
「ありがとうございます」
みどりは両手で受け取り、護符の一枚を丁寧にたたんで、水晶の一つと一緒に守袋の中に入れる。残りも無くさないようにとバッグに入れた。
「失礼します。……また燃えたらすみません」
瞳は一言断りを入れてからみどりの腕に絡みつく糸に触れた。今回もプツリとすぐに切れてポッと燃える。
「あ……」
「うん……。嫉妬は消えてますね。その代わり独占欲が強くなった」
「そうなんですか?」
「まあ、会った訳ではないので、関係あるものに触れた感覚からしか読めませんが。悪い感情ではないんですよ。ただ、想いが強い」
「はい」
「姉妹制度の件は考えてみてください。解決の糸口になるかもしれません」
「はい! ありがとうございます」
「吉田さま、この度もありがとうございます」
「いえ! オレで良ければ……!」
ずっと話を聞いていた田中からも礼を言われて、恐縮してしまう。
「また何かあればご相談させてください」と。そう言ってみどりと田中は帰っていった。
美作はしっかりと護符と水晶と相談の代金としてまあそこそこの金額を徴収したらしい。美作のことだから、水晶に相当な値段を付けていそうでこわい。
「ふぁーっ!」
ため息とも叫びともつかない声を上げて瞳がソファに沈む。
なんだか変に緊張した。
「あの嬢、大丈夫かな……」
そんなことをぼんやり呟いてみるが。
なにやら妖精たちが騒がしい。
『あっきめっさつー』
『おたきあげー』
「え? これ?」
瞳が、みどりが持っていた古い方の護符をピラリと出せば。
『火』の属性である妖精たちがボッと燃やしてしまう。
「え?」
『よくないのついてたー』
「よくない?」
『しっとー』
『おんなのしっとー』
「嫉妬?」
『みにくーい』
まぁ、男であれ女であれ嫉妬は醜いな、と納得しながら。
けれど先ほど触れたみどりの糸には嫉妬は無かった。
どういうことだ、と気になった。
「……空狐」
全身白銀の青年は、やはり服装を黒スーツに改めさせられていた。まあ外に出るならこの姿の方が良いのだが。
「お前、千里眼使えるな?」
「はい」
「この気配を追えるか」
『糸』と『護符』に触れた手を差し出す。
空狐はその気配を読み取り、瞳に問う。
「両方辿りますか?」
「両方?」
「対象は二人います」
二人。本当にどういうことだ。
例の後輩だけではないということか。そうだとしても、誰が?
「瞳さま」
考え込みそうになって、美作に名前を呼ばれてハッとする。
「とりあえず、両方頼む」
「御意」
空狐が意識を集中している間、固唾を飲んで見守っている。
「……少女、ですね。神社。縁結びでしょうか。特に悪い気は見当たりませんが」
「もう一人は」
「…………家に狐が居て守っていますが、これは……憑かれている……?」
「家に狐……?」
「先日の……」
「一条さやかか!」
「気配が定まりませんが、これは、悪霊かも、しれません……断定はできません」
空狐は少し迷っているようだ。
一条さやかが憑かれているのだとしたら、嫉妬はなんだ。何に対して嫉妬している?
「玄武。一条家の術者の様子は」
「いえ、気づいていないようです。私も……気づきませんでした」
見事に隠れているということか、悪霊ではないのか。どちらだ。
「え、待って。待って? 一条さやかって、狐の時のお嬢様よね?」
「そうですね」
「たしか一番酷い状態でしたね」
「それが今、なんで高科みどりに嫉妬なんて……」
「……空狐。いつから憑かれているか分かるか」
「数日前ですね」
数日前……。
待て。そういえば、例の画像を見て寝込んだとか言ってたな? 本人が悪霊を呼んだか?
「お待ちください。何か、言っています」
「…………」
「『許さない、わたしとあの人を引き離すのは、誰であっても、許さない』……と。ヒトミ、これは……」
「オレのせいかよ!?」
もう瞳は頭を抱えるしかない。
未だに『運命』だとか言って信じてる訳か。だから悪霊なんか呼んだのか。
「瞳? どういうことなの?」
「瞳さま?」
「……俺こわい……」
「空狐、ありがとう。玄武はとりあえず一条の式神に知らせろ」
それぞれに言えば、二人ともがスッと消える。
そして瞳は、律と美作、円をソファに座らせて自分は正座をした。
「いやいや! ちゃんと座って!」
たぶん一番の被害者である円がそう言うから、瞳は円の隣に座った。
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かたい声で、話し始める。
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