祓い屋はじめました。

七海さくら/浅海咲也(同一人物)

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066.

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「小田切さん」
「はいよ」
「今からちょっと現実離れしたことが起こりますけど、信じてくださいね?」
「お? おお、わかった」


 瞳がそう言うと、小田切は頷き、円は慌てる。


「ちょ、瞳! 目の前でやる気?」
「それしかないだろ?」
「え、待って。美作、律ー! 珍しいモン見られる!」


 円がリビングに声をかけるから、思わず、見せ物じゃないんだけど、と言いそうになった。我慢した。
 円の言葉につられて姿を見せた律と美作に円が事情を説明すると。


「見せていただけるんですか?」


 と、目をキラキラさせた美作が子犬みたいに見えてめまいがしそうだった。律も円も興味津々である。


(子犬が三匹……)


「……じゃあ、始めます!」


 瞳は見えやすいようにと、四人に背中を見せる。
 それから、近寄ってきている妖精たちに声をかけた。


「みんな。昨日と同じやつ、頼む」
『はーい』
『まっかせてー』
『それー』


 口々に言いながら瞳にぽんぽん触れていく妖精たちの姿は、円たちにはふよふよと光っているもの、という認識しかなかったらしいので、たぶん声も聞こえていない。
 瞳には、少しずつ怪我の痛みが引いていくような気がしているので、たぶん見た目も大きく変わっている、はずだ。


「……おい、これは早送りか何かなのか? コイツ実体あるよな?」


 テレビの映像の早送りを見ているようであるらしい。
 円たちも初めて目の当たりにする、妖精たちがお願いを聞いてくれている様子に驚いているようだ。
 納得してもらえただろうかと、瞳は妖精たちにストップをかける。


「みんな、ありがとう。もういいよ」
『えー』
『まだやるー』
「あとでね」


 そう言ってやれば、素直に応じる妖精たち。これは完治するまでやるパターンかな? などと考えてみたりする。ちょっとこわい。
 瞳はくるりと小田切の方へ向き直る。


「すみません、こういうことです」
「つまり、妖精……だったか?」
「はい」
「その、妖精に治癒の術をかけてもらっていると……」
「ええと。正確には、怪我をした場所の時間を進めてもらってます」
「うぅーん?」


 小田切が今見たことを必死で理解しようとしている横では、三人が大興奮である。


「すごいわ! 初めて見た!」
「妖精があんなにたくさんいるのも初めて見ました」
「どんどん時間が進むの魔法みたいだな!」


 そんな三人の様子を見て、多少は事態を把握したようであった。


「うん、あー。なんか理解した……気がする。信じてないわけではなかったが、目の前で見せられちゃあな……」
「なんか……すみません」
「本来なら軽く一ヶ月はかかる怪我がこんな数日で目に見えて良くなればな。まあそもそも撃たれてすぐの傷口にしてはおかしかったし」
「他言無用だぞ、小田切」
「わかってるよ! そこは信用しろよ!」


 美作に念を押すように言われて、小田切が叫ぶように応じる。
 なんか、仲良いんだな。などと思った瞳は、同じ感想を円も抱いたことを知らなかった。


「んー、ちょっともう一回傷口診るぞ」
「あ、はい」


 背中側の傷口をしげしげと眺めて、それから左肩は前からもじっくりと診る。


「……うん。ちょっと消毒するから痛いぞ?」
「え。あ、はい」


 言いながら小田切が取り出したのは、普通の市販されているような消毒液ではなく、なんだか茶色っぽいものだった。脱脂綿に染み込ませて瞳の傷口にぽんぽんと当てていく。


「我慢できるか」
「……このくらいなら」
「よし」


 一度確認をしてから処置を済ませて、また絆創膏のようなものを貼られた。


「もう往診は必要ないと思う。問題があったらまた呼んでくれ。絆創膏は多めに置いていくから風呂に入ったら貼り替えろ。多少濡れるくらいなら構わん。念の為に消毒はしたが化膿する様子もないし、妖精とやらがいるならたぶん大丈夫だろ」


 小田切は美作と円に向かって言っていた。それから瞳の頭をわしっと掴み、ニヤと笑う。


「頑張ったな」
「ありがとうございます……」
「まあ、これを機にご贔屓ひいきに頼むよ」
「あ、診察料……!」
「今回は美作からの依頼だからな、そっちに回す。次があれば、あんたに請求するぞ」
「えっと……」


 美作を見れば大きく頷いているからその方法が最善なのだろう。瞳はおとなしく従うことにする。


「ありがとうございます……」
「じゃあ、おれは本業があるから」
「送るか?」
「いや、大丈夫」


 小田切はそう言って、瞳には名刺だけを渡して帰っていった。
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