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062.
しおりを挟む「まずは先程の女性ですが。彼女は正真正銘、お二人を守護する母君です」
玄武は淡々と告げる。
「降霊……イタコとは違いますよね?」
口元に手を当てるようにして考えながら問うたのは美作である。
「違います。主は完全な自己流です。『対象者』を呼び、その身に宿らせて直接の会話を可能とさせます。その間、宿らせる代償として霊力を消費しています。『対象者』のチカラが強ければ強いほど、主の負担は大きくなります」
「あ……!」
「今回はその心配はありませんでしたが、『宿主』としての主を乗っ取ろうとする輩も居ますので、その対策も必要なのです」
以前にそんなことがあったのだろうと思わせる、玄武の言葉に美作はゾッとする。
降霊どころか口寄せすら相当な修行が必要であると聞く。
それを自己流でやってしまう瞳の能力の強大さ、そしてそれを乗っ取られて悪用された場合のことを考えたのだ。
「あの、お母様の姿は? あれは幻影なのですか?」
恐る恐る、といったように玄武に聞くのは律だ。
「あれは主の霊力を借りて母君が姿を具現化させたもの。主の意思は一切働いておりません」
「そうなのね……」
「彼女はあなた方の守護としてずっと側についていました。主は、それを伝える手助けをしただけです」
「触れるなと言ったのは?」
「あなた方は彼女に触れることは出来ません。触れようとすれば、主に触れることとなり、主の集中が途切れます」
「なぜ、そこまで……」
疑問を口にしたのはやはり美作だった。
彼は加護を持たない。少しの守護に守られているだけだ。むしろ彼がすごいのは、本人の『術者』としての実力だろう。
それを、おそらくは瞳も、玄武も青龍も気付いている。美作はそう思った。
美作も相当な修行を経てやっと今日に至る。『視る』ことも決して得意ではない。
そんな美作にさえ『視える』ようにしてしまうほどの実力を持つ人を、彼は他に知らない。
「……主の両親は殺されました」
「え……」
「傍系であるという理由で。チカラのある主を本家に入れるために」
「お家事情というやつです」
淡々と告げる玄武の言葉に、青龍が言葉を足して。そして、これ以上は聞いてくれるなと釘を刺す。
「……人付き合いが下手なくせに、お人好しなんですよ」
ふと、玄武の口調がやわらかくなり、瞳の髪を撫でる。
「……主は、ずっと悩んでいました。この強いチカラは何のためにあるのかと」
「あ、メガネ……」
「はい。主は視えるだけではなく、彼らの声も『聴こえる』し、『話す』ことも出来ます。だからこそ、人との距離を上手く掴めずにいたのです」
円は昨日のメガネの件を思い出した。
視え過ぎるせいで結界を貼ったメガネをしていた瞳。
「主が、『視え過ぎる』ことを話したのは、あなたが初めてです」
それは出会いが出会いだったからだろう、と円は思うけれど、それでも誤魔化さずに教えてくれた瞳には感謝するしかない。そうでもなければこんなことにはなっていない。
「ほんと……バカ正直」
「そうとも言いますね」
「あんた達もだよ」
「おや」
玄武はいかにも心外だと言いたそうだったけれど、青龍は苦笑していた。
「我々は主に使役される身です。主の命とあらばあなた方のこともお守りいたしましょう。ですが、主を傷付けたなら、我々全員を敵に回すことになりますこと、お忘れなきよう……」
玄武の剣呑な言葉を真の意味で理解したのは、おそらく美作だけだっただろう。
玄武は、『我々全員を』と言った。少なくとも、この二人だけではない、という意味と捉えて間違いはない。
「ぅ……」
美作一人が青ざめている中、瞳が身じろぎした。
ぱっとそちらに視線が集まる。
「ヒトミ」
「……玄武?」
「はい」
ぼんやりとしていた瞳だったが、次第に覚醒してきて現在の体勢に気付いた。
玄武に膝枕。まあ仕方ない。
「ありがとう」
「起きられますか?」
「大丈夫」
手を貸そうとする玄武と青龍を手で制し、自力で起き上がる。
瞳がソファへ座ると、玄武はサッと立ち上がり、瞳の後ろへ青龍と並んで立つ。
「どこまで聞いた?」
瞳からの問いは、円へ。
「瞳のチカラがすごいってとこまで」
明るく答える円だが、瞳の顔色が悪いことは見逃さない。早くゆっくり休んだ方がいい。
「……名前で呼ぶなって言ったろ、御曹司」
「そっちこそ、円って呼べって言ったろ?」
「……オレの言霊は強いから、お前を縛るんだよ」
何度も言ったし、『言霊』の意味さえ調べさせたのに。
「『西園寺』じゃ姉貴にも当てはまるじゃん! それに俺は御曹司じゃないし」
やけに食い下がるな、と瞳が思っていると。
「とりあえず、瞳はゆっくり寝ないとダメだ。じゃあ律、俺ら帰るから!」
「ん? 帰るって……」
「俺、いま瞳の家に居候してるんだ!」
「ちょ……!」
あれよあれよという間に、円は瞳と式神ふたりを連れて行ってしまった。
残された律と美作は顔を見合わせる。
「これからどうなるのかしら……」
「それは分かりかねます……」
とりあえず美作は、瞳の式神たちの怒りを買うことだけは避けようと心に誓った。
玄武は淡々と告げる。
「降霊……イタコとは違いますよね?」
口元に手を当てるようにして考えながら問うたのは美作である。
「違います。主は完全な自己流です。『対象者』を呼び、その身に宿らせて直接の会話を可能とさせます。その間、宿らせる代償として霊力を消費しています。『対象者』のチカラが強ければ強いほど、主の負担は大きくなります」
「あ……!」
「今回はその心配はありませんでしたが、『宿主』としての主を乗っ取ろうとする輩も居ますので、その対策も必要なのです」
以前にそんなことがあったのだろうと思わせる、玄武の言葉に美作はゾッとする。
降霊どころか口寄せすら相当な修行が必要であると聞く。
それを自己流でやってしまう瞳の能力の強大さ、そしてそれを乗っ取られて悪用された場合のことを考えたのだ。
「あの、お母様の姿は? あれは幻影なのですか?」
恐る恐る、といったように玄武に聞くのは律だ。
「あれは主の霊力を借りて母君が姿を具現化させたもの。主の意思は一切働いておりません」
「そうなのね……」
「彼女はあなた方の守護としてずっと側についていました。主は、それを伝える手助けをしただけです」
「触れるなと言ったのは?」
「あなた方は彼女に触れることは出来ません。触れようとすれば、主に触れることとなり、主の集中が途切れます」
「なぜ、そこまで……」
疑問を口にしたのはやはり美作だった。
彼は加護を持たない。少しの守護に守られているだけだ。むしろ彼がすごいのは、本人の『術者』としての実力だろう。
それを、おそらくは瞳も、玄武も青龍も気付いている。美作はそう思った。
美作も相当な修行を経てやっと今日に至る。『視る』ことも決して得意ではない。
そんな美作にさえ『視える』ようにしてしまうほどの実力を持つ人を、彼は他に知らない。
「……主の両親は殺されました」
「え……」
「傍系であるという理由で。チカラのある主を本家に入れるために」
「お家事情というやつです」
淡々と告げる玄武の言葉に、青龍が言葉を足して。そして、これ以上は聞いてくれるなと釘を刺す。
「……人付き合いが下手なくせに、お人好しなんですよ」
ふと、玄武の口調がやわらかくなり、瞳の髪を撫でる。
「……主は、ずっと悩んでいました。この強いチカラは何のためにあるのかと」
「あ、メガネ……」
「はい。主は視えるだけではなく、彼らの声も『聴こえる』し、『話す』ことも出来ます。だからこそ、人との距離を上手く掴めずにいたのです」
円は昨日のメガネの件を思い出した。
視え過ぎるせいで結界を貼ったメガネをしていた瞳。
「主が、『視え過ぎる』ことを話したのは、あなたが初めてです」
それは出会いが出会いだったからだろう、と円は思うけれど、それでも誤魔化さずに教えてくれた瞳には感謝するしかない。そうでもなければこんなことにはなっていない。
「ほんと……バカ正直」
「そうとも言いますね」
「あんた達もだよ」
「おや」
玄武はいかにも心外だと言いたそうだったけれど、青龍は苦笑していた。
「我々は主に使役される身です。主の命とあらばあなた方のこともお守りいたしましょう。ですが、主を傷付けたなら、我々全員を敵に回すことになりますこと、お忘れなきよう……」
玄武の剣呑な言葉を真の意味で理解したのは、おそらく美作だけだっただろう。
玄武は、『我々全員を』と言った。少なくとも、この二人だけではない、という意味と捉えて間違いはない。
「ぅ……」
美作一人が青ざめている中、瞳が身じろぎした。
ぱっとそちらに視線が集まる。
「ヒトミ」
「……玄武?」
「はい」
ぼんやりとしていた瞳だったが、次第に覚醒してきて現在の体勢に気付いた。
玄武に膝枕。まあ仕方ない。
「ありがとう」
「起きられますか?」
「大丈夫」
手を貸そうとする玄武と青龍を手で制し、自力で起き上がる。
瞳がソファへ座ると、玄武はサッと立ち上がり、瞳の後ろへ青龍と並んで立つ。
「どこまで聞いた?」
瞳からの問いは、円へ。
「瞳のチカラがすごいってとこまで」
明るく答える円だが、瞳の顔色が悪いことは見逃さない。早くゆっくり休んだ方がいい。
「……名前で呼ぶなって言ったろ、御曹司」
「そっちこそ、円って呼べって言ったろ?」
「……オレの言霊は強いから、お前を縛るんだよ」
何度も言ったし、『言霊』の意味さえ調べさせたのに。
「『西園寺』じゃ姉貴にも当てはまるじゃん! それに俺は御曹司じゃないし」
やけに食い下がるな、と瞳が思っていると。
「とりあえず、瞳はゆっくり寝ないとダメだ。じゃあ律、俺ら帰るから!」
「ん? 帰るって……」
「俺、いま瞳の家に居候してるんだ!」
「ちょ……!」
あれよあれよという間に、円は瞳と式神ふたりを連れて行ってしまった。
残された律と美作は顔を見合わせる。
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