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「お待たせしました」
美作が、ダイニングのテーブルにオムライスとオムレツを並べる。
オムライスは、ふわとろオムライスにデミグラスソースをたっぷりとかけたお店に出しても恥ずかしくないような美味しそうなやつである。
綺麗な形のオムレツもきっとふわとろで、チーズ入りをリクエストしたから瞳の好みだし、こちらにもデミグラスソースがかけてある。
「美味しそう……」
思わず呟いた。
最後に食べた食事はなんだっただろうかと考えて、そうだ、と思い出す。『仕事』が入った日の朝に食べた、円が作ってくれたイングリッシュマフィンのフレンチトーストだ。
あの後は移動と打ち合わせ、そして実戦があって怪我をした。食事をしている暇なんてなかったのだ。
「じゃあ、いただきましょう!」
「はい」
「いただきます」
「いただきまーす」
それぞれのスタイルでいただきますを言って、スプーンですくって頬張る。
瞳も、まだ動かすと痛い腕をなんとか駆使してオムレツを口に入れた。絶妙な焼き加減ととろけたチーズの塩気、それにデミグラスソースがマッチしていて本当に美味しかった。
美味しいと感じることで、ああ、生きているんだな。などと感じてしまう。
前回はそんなこと考えるヒマもなかったけれど、今回は本当に死ぬかもしれないと思ったのだ。出血のせいで薄れていった意識。失血死、という言葉が浮かんで、それも自分らしいな、などと考えていた。
でも。
(生きてる……)
円や式神たち、果ては美作や小田切のおかげでしかないのだが。
まだ、もう少し。
両親と同じ道を辿るのは、もう少し後でいい。そう思った。
「瞳、オムライスも美味い。食べてみるか?」
「は?」
思わず開いた口に、えいっとばかりに入れられるから、反射的にそのまま食べることになるけれど。円の言う通りに美味しかった。
「美作さんて、どこかで料理も修行したんですか?」
思わず、そんなことを聞いてしまう。
「いえ。……西園寺の賄いを作りながら、料理人たちに教えてもらった程度です」
「ああ……」
なるほど。金持ち屋敷のお抱え料理人直伝か。それは美味しいはずである。
「美作は、お店の味を再現するのも得意よ!」
なぜか律の方が誇らしげである。
当の美作の方は恐縮している。
「いえ、再現というほどでは……」
「むしろお店よりも美味しい時も多いわ」
「それはただ律さまの好みを把握しているだけであって……」
そういえば、律は気になる店などをチェックしていて、美作も一緒に店を訪れると言っていた記憶がある。それで店の味を再現という言葉が出たのか。
店の味を更に律の好みに寄せるだろうし、それは律にとっては自慢だろう。
どうしてもゆっくりになる瞳の食事のペースに何気なく合わせてくれる三人の気遣いに癒されつつ食事を終える。
まだ寝ていた方がいい、と全員に言われて、すごすごと両親の寝室へ向かった。というより、円に連れていかれたのだが。
ゆっくりとした動きで寝かせられて、瞳はちょっとホッとする。まだいろいろと動くには少ししんどい。
ダイニングでしっかりと鎮痛剤も飲んできたから、円からの口移しもない。安心だ。
と、いうか。それより。
「なぁ、円」
「んー?」
「お前、オレに隠してることあるだろ」
しかも、瞳に後ろめたい内容で。
言い当てられて、円は言葉に詰まる。
「えーっとぉ……」
『闇医者』のことかな、椿のことかな。それとも他にもなにかあったっけ? と、思い当たることがあるから迂闊には何も言えない円は、なんとかはぐらかすしかない。
「ごまかすな。右側の怪我! 今朝と今では感じが違う。また椿使っただろ!」
後遺症が残るかもしれない、そう小田切に言われた方の怪我だ。今朝と比べてだいぶ楽になっている。
また椿を使って治癒を施しただろう、と。
そう瞳が言えば、円はなんだ、と言った。
「なんだ、そっちかー」
うっかりぺろりと失言をして、しまったと思ったけど顔に出さなかった円であるが。
「ほう……」
瞳は聞き逃さなかった。
「洗いざらい全部白状してもらおうか……?」
美人が怒るとこわい。
いつだったか美作が思ったことを、円も感じた瞬間であった。
美作が、ダイニングのテーブルにオムライスとオムレツを並べる。
オムライスは、ふわとろオムライスにデミグラスソースをたっぷりとかけたお店に出しても恥ずかしくないような美味しそうなやつである。
綺麗な形のオムレツもきっとふわとろで、チーズ入りをリクエストしたから瞳の好みだし、こちらにもデミグラスソースがかけてある。
「美味しそう……」
思わず呟いた。
最後に食べた食事はなんだっただろうかと考えて、そうだ、と思い出す。『仕事』が入った日の朝に食べた、円が作ってくれたイングリッシュマフィンのフレンチトーストだ。
あの後は移動と打ち合わせ、そして実戦があって怪我をした。食事をしている暇なんてなかったのだ。
「じゃあ、いただきましょう!」
「はい」
「いただきます」
「いただきまーす」
それぞれのスタイルでいただきますを言って、スプーンですくって頬張る。
瞳も、まだ動かすと痛い腕をなんとか駆使してオムレツを口に入れた。絶妙な焼き加減ととろけたチーズの塩気、それにデミグラスソースがマッチしていて本当に美味しかった。
美味しいと感じることで、ああ、生きているんだな。などと感じてしまう。
前回はそんなこと考えるヒマもなかったけれど、今回は本当に死ぬかもしれないと思ったのだ。出血のせいで薄れていった意識。失血死、という言葉が浮かんで、それも自分らしいな、などと考えていた。
でも。
(生きてる……)
円や式神たち、果ては美作や小田切のおかげでしかないのだが。
まだ、もう少し。
両親と同じ道を辿るのは、もう少し後でいい。そう思った。
「瞳、オムライスも美味い。食べてみるか?」
「は?」
思わず開いた口に、えいっとばかりに入れられるから、反射的にそのまま食べることになるけれど。円の言う通りに美味しかった。
「美作さんて、どこかで料理も修行したんですか?」
思わず、そんなことを聞いてしまう。
「いえ。……西園寺の賄いを作りながら、料理人たちに教えてもらった程度です」
「ああ……」
なるほど。金持ち屋敷のお抱え料理人直伝か。それは美味しいはずである。
「美作は、お店の味を再現するのも得意よ!」
なぜか律の方が誇らしげである。
当の美作の方は恐縮している。
「いえ、再現というほどでは……」
「むしろお店よりも美味しい時も多いわ」
「それはただ律さまの好みを把握しているだけであって……」
そういえば、律は気になる店などをチェックしていて、美作も一緒に店を訪れると言っていた記憶がある。それで店の味を再現という言葉が出たのか。
店の味を更に律の好みに寄せるだろうし、それは律にとっては自慢だろう。
どうしてもゆっくりになる瞳の食事のペースに何気なく合わせてくれる三人の気遣いに癒されつつ食事を終える。
まだ寝ていた方がいい、と全員に言われて、すごすごと両親の寝室へ向かった。というより、円に連れていかれたのだが。
ゆっくりとした動きで寝かせられて、瞳はちょっとホッとする。まだいろいろと動くには少ししんどい。
ダイニングでしっかりと鎮痛剤も飲んできたから、円からの口移しもない。安心だ。
と、いうか。それより。
「なぁ、円」
「んー?」
「お前、オレに隠してることあるだろ」
しかも、瞳に後ろめたい内容で。
言い当てられて、円は言葉に詰まる。
「えーっとぉ……」
『闇医者』のことかな、椿のことかな。それとも他にもなにかあったっけ? と、思い当たることがあるから迂闊には何も言えない円は、なんとかはぐらかすしかない。
「ごまかすな。右側の怪我! 今朝と今では感じが違う。また椿使っただろ!」
後遺症が残るかもしれない、そう小田切に言われた方の怪我だ。今朝と比べてだいぶ楽になっている。
また椿を使って治癒を施しただろう、と。
そう瞳が言えば、円はなんだ、と言った。
「なんだ、そっちかー」
うっかりぺろりと失言をして、しまったと思ったけど顔に出さなかった円であるが。
「ほう……」
瞳は聞き逃さなかった。
「洗いざらい全部白状してもらおうか……?」
美人が怒るとこわい。
いつだったか美作が思ったことを、円も感じた瞬間であった。
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