祓い屋はじめました。

七海さくら/浅海咲也(同一人物)

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051.

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 どうしよう、と円は思った。
 瞳のベッドは血まみれだ。
 怪我人をここに寝かせておいていいのか? せめてシーツくらい取り替えるべき?
 でも動かして傷にさわったらどうしよう?
 それより瞳ってまだ意識あるの? 寝てる? どっち?

 そう、ソワソワしていたら、朱雀と白虎が帰ってきた。


「朱雀! 白虎!」
「マドカか!」
「ヒトミは!?」


 血相を変えている朱雀と白虎に、今までの経緯を説明する。


「そうか、ありがとうマドカ」
「騰蛇も愛想がないだけで悪いやつではないんだ、……たぶん」
「いい人だと、思う。それで、瞳なんだけど。移動させてもらえる?」
「どこへ?」
「こっち」


 やはり瞳は眠っているようだった。気絶、といった方が正しいだろうか。
 朱雀が抱き上げてくれるので、円は一度だけ使ったことのある部屋へと誘導する。


「ここなら夜中でも瞳のこと看ていられるから」
「すまない、頼む」


 使っていなくても綺麗にしてある、瞳の両親の部屋。ベッドメイクも完璧だった。
 布団をバサリと剥がして、瞳を寝かせてもらう。傷口があるからうつ伏せに近い横向きにしてもらった。


「たぶん、しばらく熱が出ると思うから……」
「そうだな」
「あ……」


 そうか、と思う。
 あの、背中の傷痕。あれの時に、きっとみんな経験したのだろう。


「ヒトミの霊力も残りが少ないから、オレたちは戻る。……頼むぞ」


 円は黙って頷くことで返事とした。
 それを見届けて、朱雀と白虎も戻っていく。


「さて」


 円は瞳の身体にそっと布団をかけ直してやると額に触れた。


「やっぱり熱あるな……」


 できれば氷のうとか氷まくらとか欲しいところだけど、この家には無さそうだなぁ、と思う。
 とりあえずは冷たい濡れタオルを用意してきて、瞳の額にのせた。


「ぅ……」


 かなり苦しそうである。
 熱と痛み、両方と戦っているのだろう。
 太陰みたいに、本当に代わってあげられたらと思う。
 そうだ、と思い出し、スマホを取り出した。
 瞳の眠りを妨げないように、でも近くにいたいから廊下に出てすぐのところでメッセージではなく通話ボタンをタップした。
 すぐにコール音が途切れる。


「あ、美作? 円だけど」
『円さま? どうなさいましたか?』
「瞳が……『仕事』で怪我をしてきて」
『まさか酷い怪我を!?』
「うん……そこそこ」
『今から向かいますか?』
「いや。式神たちに協力してもらって、今は寝てるから」
『……そうですか』
「とりあえず、明日の朝にまた連絡するから。もしかしたら応援頼むかも」
『かしこまりました。円さまもご無理はいけませんよ』
「わかってる。じゃあ」
『はい。失礼します』


 通話を切って、すぐにまた部屋に戻る。
 相変わらず瞳の呼吸は苦しそうで胸がつまる。
 どうしよう。もしこのまま瞳が目を覚まさなかったら?
 そう思ったらゾッとした。
 嫌だ。

 ──アセクシャルって、知ってるか?

 そう言ってとても寂しそうな微笑みを見せた瞳。
 あれが最期になるなんて、絶対に嫌だ。
 今回も、これからも。
 瞳を助けられるような存在になりたい。
 騰蛇に言われた。病院はダメだ、と。
 椿がいてくれなかったらどうなっていただろう。
 それに、円にもっと霊力があれば。椿にもっと術を行使してもらえたに違いないんだ。
 まずは強くなろう。それから、無いに越したことはないけれど、必要になった時のために医学を学ぼう。医学じゃなくてもいい、なにか、それ相応の。
 なにがいいだろう。やはり勉強もしなくてはダメだな。

 いろいろ考えすぎてネガティブになっているのが自分でもわかった。
 陰陽道はバランス。最初に朱雀に教えてもらったことだ。
 円はゴソゴソとベッドに潜り込む。
 ゴロリと横になって瞳を見れば、やっぱり綺麗だった。髪をワックスで撫で付けたままだから、動けるようになったらシャンプーしてあげよう。
 きっと嫌がるだろうけど、円がしたいのだ。
 そこまで考えてからやっと気付いた。


「あー。俺、瞳のことめっちゃ好きじゃん」


 瞳はアセクシャルだと言った。
 別に恋愛対象にならなくてもいいや、と思う程度には楽観的である。
 実は、検索して調べていた時に、自分もそうなのではないかと思ったくらいなのだ。
 でもやっぱり瞳は好きだ。
 こういう恋の仕方をなんていうのか。円はまだ知らなかった。
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