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「ところで、ひとつ質問なのですが」
「はい」
「瞳さまの式神は、いったい何人ですか……」
「14人になりましたね」
けろりと答える瞳が逆にこわい。
十二神将に刀の付喪神、そして今日の天狐。
うん、14人ですね。と美作は思う。
「お見かけしてない方もいらっしゃいますが……」
「あー、やっぱり式神たちにも性格があるし、適性というか……」
「あ、やはりそういうのがあるんですね」
「ありますね」
瞳が頷けば、律までもがそうよねぇ、などと言っている。
「貴人とはそりが合わなかったけれど、太陰とは話していて楽しいわ」
「貴人は……そこそこ万人受けするタイプなのですが……」
「合わなかったわ」
なるほど、貴人が太陰を推薦しただけはある。
どうやら律と太陰はタイプが似ているようだ。こうと決めたら曲げない、だが懐に入れた者には心を砕く。
貴人はどちらかといえば誰にでも平等に接する。悪く言えば融通がきかないのだ。
「玄武がお父さんなら、お母さんは誰になるんだ?」
「…………………青龍、かな?」
考えたこともなかった問いに長い沈黙の後で答えれば、あちら側から抗議の声が上がる。
「あははっ」
「怒ってる?」
「怒ってる!」
とりあえず『お母さん』の適任者が他にいなかったのだから仕方ない。
瞳も、何かと言えば玄武か青龍を呼び出しているのだからそういうポジションなのだろう。
「式神といえば、美作さんは風音とはどうです?」
「たぶん、良好だと思います」
「あー、すみません。今朝のトレーニングおやすみにさせてしまいましたよね……」
あちら側へ実体を持ちつつ行くには、瞳の反則技が必要である。その瞳がダウンしていたのだ。まあ夜中まで『仕事』だったのだ、仕方がない。風音も納得していると美作が言えば、瞳はホッとした表情を見せた。
「というか。そういえば美作さん、風音と『念話』できるんですよね?」
「言われてみれば。できてますね……」
「ねんわ?」
「えっと、心の中で式神と話すことだよ。円の場合は……相手に難がありそうだな。おとなしいからな……」
「あら、そうなの?」
「うーん、おとなしいというか、無愛想!」
「そんなふうには見えなかったけれど?」
「律さんは映像だけでしか見てませんからね……」
そう言ってしまうと、見たい聞きたい会いたいという律の期待のまなざしが痛い。
痛すぎて思わずため息をついてしまう瞳だ。
「瞳?」
「あー、円……は、まだダメか」
「うん?」
「美作さん」
「はい」
「風音にこっち来てみる気があるか聞いてみてください」
「え……。でも、わたしではまだ人型での召喚は無理だと……」
「ええと、召喚すると多少なりとも霊力を『喰われ』るんです。美作さんはまだ耐性が出来てない。だから、『オレの』霊力なら貸しますから」
「わかりました」
ひとつ頷いて、美作は『念話』に入ったようだった。
「ねぇ。風音ってこの前見せてくれた男の人よね?」
「そうです。美作さんの式神です」
「会えるの?」
「風音が承諾すれば、ですね」
律とこそこそ話していると、美作が瞳の方を見る。
「瞳さま。大丈夫だそうです」
「わかりました」
瞳は頷いて右手を手のひらを上にすると、ふわりと空気が動いた。光が吸い込まれるように瞳の手のひらに集まって光球を作る。
「円も確認しろ。これが、風音や椿を人型で召喚するために必要な霊力だ。これで時間は10分しかもたないぞ」
言いながら、瞳は円の両手に光球を乗せてやる。
凝縮された霊力。綺麗で、あたたかかった。
ゴルフボールくらいの小さな光球。
「わかるか?」
瞳の問いかけには、ただ頷くことしかできなかった。これで、10分。
円が頷くのを確認した瞳は、光球を今度は美作へと渡す。手のひらから、手のひらへ。
「円にも言いましたが、10分です。ここへ来いと、願うように名前を呼んでください」
美作は、はい、と頷いて深呼吸をする。
「……風音」
ゆるり、と空気が動く。瞳が式神を呼ぶ時ほどの速さではない。だが、しゅるりと顕現したのは確かに風音だった。
精悍な顔立ち。にこ、と笑っているその身は、スーツをまとっていた。
「トール!」
「……こんな、感じなんですね」
「はい?」
「いえ……、わたしの身体を通して、瞳さまの霊力が『喰われ』ていくのがわかります」
「慣れればどうということはないです」
さらりと言う瞳はいったいどれだけの霊力をその身体に内包しているのだろう。空恐ろしいものがある。
「人型よりも刀の時の方が霊力の消費は少ないです」
「なるほど」
「……風音のスーツは青龍の仕業だそうです」
「そうでしたか……」
だいぶイメチェンしたな、とは思ったのだ。まさか青龍の仕業だったとは。申し訳なさしかない瞳である。
他人様の式神に何やってるんだ。
瞳と美作がそんなやり取りをしている間にも、風音は律の姿を見つけて膝を折っている。
「律さまですね? はじめまして、風音と申します。トールの式神です。どうぞお見知り置きを」
「風音……」
「最初の挨拶は丁寧にしなきゃな!」
いつもとのギャップに美作が呆れた声で名前を呼べば、今度はいつもの調子で美作に言うものだから律はおかしくて笑ってしまう。
「あなた、面白いわ!」
「はい」
「瞳さまの式神は、いったい何人ですか……」
「14人になりましたね」
けろりと答える瞳が逆にこわい。
十二神将に刀の付喪神、そして今日の天狐。
うん、14人ですね。と美作は思う。
「お見かけしてない方もいらっしゃいますが……」
「あー、やっぱり式神たちにも性格があるし、適性というか……」
「あ、やはりそういうのがあるんですね」
「ありますね」
瞳が頷けば、律までもがそうよねぇ、などと言っている。
「貴人とはそりが合わなかったけれど、太陰とは話していて楽しいわ」
「貴人は……そこそこ万人受けするタイプなのですが……」
「合わなかったわ」
なるほど、貴人が太陰を推薦しただけはある。
どうやら律と太陰はタイプが似ているようだ。こうと決めたら曲げない、だが懐に入れた者には心を砕く。
貴人はどちらかといえば誰にでも平等に接する。悪く言えば融通がきかないのだ。
「玄武がお父さんなら、お母さんは誰になるんだ?」
「…………………青龍、かな?」
考えたこともなかった問いに長い沈黙の後で答えれば、あちら側から抗議の声が上がる。
「あははっ」
「怒ってる?」
「怒ってる!」
とりあえず『お母さん』の適任者が他にいなかったのだから仕方ない。
瞳も、何かと言えば玄武か青龍を呼び出しているのだからそういうポジションなのだろう。
「式神といえば、美作さんは風音とはどうです?」
「たぶん、良好だと思います」
「あー、すみません。今朝のトレーニングおやすみにさせてしまいましたよね……」
あちら側へ実体を持ちつつ行くには、瞳の反則技が必要である。その瞳がダウンしていたのだ。まあ夜中まで『仕事』だったのだ、仕方がない。風音も納得していると美作が言えば、瞳はホッとした表情を見せた。
「というか。そういえば美作さん、風音と『念話』できるんですよね?」
「言われてみれば。できてますね……」
「ねんわ?」
「えっと、心の中で式神と話すことだよ。円の場合は……相手に難がありそうだな。おとなしいからな……」
「あら、そうなの?」
「うーん、おとなしいというか、無愛想!」
「そんなふうには見えなかったけれど?」
「律さんは映像だけでしか見てませんからね……」
そう言ってしまうと、見たい聞きたい会いたいという律の期待のまなざしが痛い。
痛すぎて思わずため息をついてしまう瞳だ。
「瞳?」
「あー、円……は、まだダメか」
「うん?」
「美作さん」
「はい」
「風音にこっち来てみる気があるか聞いてみてください」
「え……。でも、わたしではまだ人型での召喚は無理だと……」
「ええと、召喚すると多少なりとも霊力を『喰われ』るんです。美作さんはまだ耐性が出来てない。だから、『オレの』霊力なら貸しますから」
「わかりました」
ひとつ頷いて、美作は『念話』に入ったようだった。
「ねぇ。風音ってこの前見せてくれた男の人よね?」
「そうです。美作さんの式神です」
「会えるの?」
「風音が承諾すれば、ですね」
律とこそこそ話していると、美作が瞳の方を見る。
「瞳さま。大丈夫だそうです」
「わかりました」
瞳は頷いて右手を手のひらを上にすると、ふわりと空気が動いた。光が吸い込まれるように瞳の手のひらに集まって光球を作る。
「円も確認しろ。これが、風音や椿を人型で召喚するために必要な霊力だ。これで時間は10分しかもたないぞ」
言いながら、瞳は円の両手に光球を乗せてやる。
凝縮された霊力。綺麗で、あたたかかった。
ゴルフボールくらいの小さな光球。
「わかるか?」
瞳の問いかけには、ただ頷くことしかできなかった。これで、10分。
円が頷くのを確認した瞳は、光球を今度は美作へと渡す。手のひらから、手のひらへ。
「円にも言いましたが、10分です。ここへ来いと、願うように名前を呼んでください」
美作は、はい、と頷いて深呼吸をする。
「……風音」
ゆるり、と空気が動く。瞳が式神を呼ぶ時ほどの速さではない。だが、しゅるりと顕現したのは確かに風音だった。
精悍な顔立ち。にこ、と笑っているその身は、スーツをまとっていた。
「トール!」
「……こんな、感じなんですね」
「はい?」
「いえ……、わたしの身体を通して、瞳さまの霊力が『喰われ』ていくのがわかります」
「慣れればどうということはないです」
さらりと言う瞳はいったいどれだけの霊力をその身体に内包しているのだろう。空恐ろしいものがある。
「人型よりも刀の時の方が霊力の消費は少ないです」
「なるほど」
「……風音のスーツは青龍の仕業だそうです」
「そうでしたか……」
だいぶイメチェンしたな、とは思ったのだ。まさか青龍の仕業だったとは。申し訳なさしかない瞳である。
他人様の式神に何やってるんだ。
瞳と美作がそんなやり取りをしている間にも、風音は律の姿を見つけて膝を折っている。
「律さまですね? はじめまして、風音と申します。トールの式神です。どうぞお見知り置きを」
「風音……」
「最初の挨拶は丁寧にしなきゃな!」
いつもとのギャップに美作が呆れた声で名前を呼べば、今度はいつもの調子で美作に言うものだから律はおかしくて笑ってしまう。
「あなた、面白いわ!」
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