祓い屋はじめました。

七海さくら/浅海咲也(同一人物)

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033.

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 田中は瞳と美作の訪問を待ちかねていたようだった。
 インターホンを押す前に田中が玄関ドアを開けて駆けつけてくる。


「昨日はありがとうございました。どうぞこちらへ」


 丁寧な対応で通された先は、やはり応接室だった。
 対応したのは両親ではなく、やはり田中。仕方がない、と思いつつ、瞳は話を始めることにする。


「まず、お嬢さんの今朝の様子はいかがでしたか?」
「少しぼんやりとされていましたが、無事にお目覚めになりました。本当に、なんとお礼を言えばいいのか」
「いえ。こちらも慈善事業ではありませんし」
「それでも。ありがとうございました」
「……眠っていた間のことは?」
「覚えていらっしゃいません。そんなに眠っていたのかと、逆に驚いておいででした」
「そうですか。食事は?」
「おかゆを少し」
「学校は」
「大事をとっておやすみしております」


 ふむ、と瞳は考え込む。手を顎へ当てるのは、瞳が考え込む時のクセなのだと、美作はなんとなく知った。


「例の……『怒らせた』と言っていたらしいもののことですが……」
「はい。『天使さまを怒らせた』と、言っていらっしゃいます」


 田中の言葉に、瞳だけでなく美作も盛大なため息をついた。
 知らないというのは、本当に恐ろしい。


「あれは天使ではありません。狐です」
「狐……」
「降霊術……そうだな、田中さんは『コックリさん』をご存知ですか?」
「はい、存じております。確か、あまり良くないものだと……」
「そうです。それと同じことをやっていたようです。狐を呼び出し、取り憑かれてしまったのです」
「お嬢様が……」
「ええ、四人で、ですね。特に一条さやか嬢は酷かった」


 美作が頷くのを見て、田中は顔色を変える。
 まさか、という思いがあったのだろう。


「四人がなぜそんなことをしていたのか。そこまでは分かりませんが、とにかく危険です。今回のことがなくても、いずれ精神をおびやかすことになっていたでしょう」
「そうでしたか……」
「よく見て差しあげてください」
「はい」
「狐は浄霊しました。もう大丈夫でしょう。ですが、そうですね……」
「はい?」
「もう二度とやらないように指導しますので、2時頃に一条邸に集まるように伝えていただけませんか?」
「かしこまりました」
「多少の暴言はお許しくださいね」


 意味ありげにニコリと笑う瞳がこわい。美作はそう思った。

 それから、支倉邸、藤宮邸、一条邸へと順番に赴き、高科邸で田中にしたのと同じ話を事務的に繰り返した。使用人たちはみんな同じような反応ではあったが、さすがに事態を目の当たりにしているだけあって瞳の言うことを信じたようだった。
 そうでもなければ信じられない世界の話だろう。

 一通りの説明を終わらせて一条邸を出た時は、1時になろうかという時間だった。
 一度帰るにはムリな時間だ。だが、精神的な疲労もあるし、肉体的な疲労でお腹も空いた。


「瞳さま」
「はい」
「ランチが美味しいお店が近くにあるのですが、よろしければ行きませんか?」
「でも、律さんは……」


 律の昼食はどうしただろう。瞳が心配になって尋ねると。


「大丈夫です。準備してきましたし、完食されたようです」


 ワンディッシュで用意したのだろう、大きめに見える皿が空になっている写真が送られてきているトークルームを見せてくれる。


「そういうことなら、喜んで」
「はい」


 案内された店は、住宅を改装して店舗にしたような店だった。
 座席数は決して多くはないが、1時過ぎという時間帯のおかげですんなりと入れた。
 前述した通り外食の機会がほとんどない瞳にとっては珍しいものばかりである。


「ええっと……」
「ランチプレートがおすすめです。メインとスープも選べますよ」
「じゃあそれで」
「メインはどれにしましょう。お肉か、パスタかサンドイッチです」
「パスタですかね」
「スープが、コンソメとコーンスープとミネストローネから選べます」
「うーん、コンソメ」
「はい」


 瞳の希望を聞くと、美作は素早く店員を呼んでスラスラと二人分の注文を済ませてメニュー表を店員に渡している。瞳はただそれを見守るだけだ。


「美作さんて、こういうお店よく来るんですか?」
「ええ、律さまがお好きなので」
「へえ」
「ネットで調べてくるんですよ、あの方」
「ああ……」


 なるほど、と瞳は思った。
 ネットは便利だ、とこの二日ばかりで知った初心者だけれども。


「瞳さまは苦手っぽいですね」
「あー、そうですね。少し、苦手です。でも……」
「はい?」
「たまにはこういうのもいいですね」


 ざわざわしていて、妖精たちや霊も居るし落ち着かないけれど。
 でも、誰かと来ることなんてなかったから知らなかった。少し、楽しい。


「では、またご一緒しましょう。今度は律さまと円さまも」
「はい」


 楽しみだな、と思った瞳は、そう思える自分自身に驚いてもいたのだった。
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