祓い屋はじめました。

七海さくら/浅海咲也(同一人物)

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021.

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 部屋に入ってすぐに、『声』が聞こえた。
 呼ぶ訳ではない、でも様子をうかがうような心細そうな声。
 瞳は、ふ、と笑んだ。


「どうした、朱雀」
『ヒトミ……』
「いいよ、おいで」


 呼んでやれば、空気がざわめく。ふわり、と顕現すると、朱雀はぎゅうと瞳に抱きつく。
 すると、『ずるい』とか『我も』と声がさざめくから、瞳は一人ずつ名前を呼んでやる。


「円が寝てるから、みんな静かにな」


 ふふふ、と笑う瞳は、まるでおしくらまんじゅうのように式神たちに抱きしめられている。
 『ヒトミ』『ヒトミ』と、瞳の名前の大合唱である。
 瞳は丁寧に一人ずつ頭を撫でたり、髪を整えたりしてやる。


「お前たちを、信用してない訳じゃないんだ。ただ……オレはみんなの負担を減らしたい」


 今日、六合と共に迎えに行って契約した新しい式神の話だ。


「オレは実戦には加われない。それは自分を守る上でも不利だった。だから、『彼』を迎えたんだ。それは、分かってくれ」
「我々にとっては、ヒトミが全てです。あなたのすることに異論なんてない」
「そうか……」


 気付いたらそばにいて、気付いたら契約していた十二神将。
 順番が違うが、後から陰陽道の本を読んで驚いたことも懐かしい。


「ひねくれた奴だけど、仲良くしてやってくれ」
「あなたの、望みとあらば」


 瞳もこくり、と頷く。


「ところで」
「はい」
「『本家』の動きはあったか?」


 ここ数日の『西園寺』との接触。
 接触どころか、円とは同居までしている。
 『本家』の動きが気になっていた。


「今のところは何も」
「そうか……」


 瞳はしばし考え込む。
 西園寺の家を出ている以上、律と円に対する後ろだてはないだろう。そうであれば、やはり美作と協力して二人を守る他はない。
 円が、それなりの能力を身に付けてくれれば椿も使いこなせるはずだ。だからこその、早朝トレーニングなのだから。


「律さんの守りは交代で頼むことになると思う。円はだいたいオレがいるし、美作さんも実力はあるから大丈夫だろう。ただ、何かあったら手助けしてやってくれ」
「御意」


 そこまで指示して、指で目頭を抑えて大きく吐息する瞳を、式神たちが心配する。


「ヒトミ?」
「疲れたか?」
「休もう。明日は早いのだろう?」
「そうだな……。まぁ早いとは言ってもあちらのトレーニングルームを借りるだけだがな」
「他にも二人来るんだろう?」
「そうだけど……」
「ヒトミに害を成すような奴らならその時に直接……」
「こらこら」


 一番気性の激しい騰蛇とうだが言うからシャレにならない。


「オレはね、初めて友達って呼べるような友達ができて嬉しいんだよ。みんなは家族みたいなもんだからさ。だからさ、今回は少し大目に見てほしい」
「家族……」
「そう」


 家族だと言われてほわほわと嬉しそうな騰蛇に、瞳もまんざらでもない。
 本当に、瞳にとっては家族同然なのだ。


「わかった。家族としてしっかり見極めよう」


 こくり、と。使命感たっぷりに頷く騰蛇と、他にもいる。
 あれれ、失敗した? と焦っていると。


「彼らはおそらく問題ありません」


 玄武が助け舟を出してくれる。
 だが、ホッする間もなく。


「それよりもっとお仕置きが必要な輩がでてきそうですから、やるならそちらへ」


 玄武の目が笑っていない。
 あ、これは何か面倒ごとが起こりそうなパターンだ。
 瞳も笑顔を浮かべているが、ちょっと先のことを考えたらゾッとしてしまった。玄武がこんな風に言う時には、本当に何かある。


「さあ、ヒトミはお疲れですよ。気が済んだのなら戻りましょう。朝のトレーニングの邪魔もいけませんよ」


 さすが玄武。引き際を心得ている。しかも明日からのトレーニングにも来ないようにしっかり釘を刺してくれている。


(美作さんが見たら卒倒しそうだもんなぁ)


 円や律は式神たちへの理解はあるが、知識はほとんどない。だからこそ、最初に玄武と青龍を呼んだ時も『突然現れた見知らぬ人』に驚いただけだろう。だが美作の驚きは意味合いが違う。彼は『術者』だ。十二神将の名前くらいは聞いたことがあるだろう。


(あんまり心労はかけたくないなぁ)


 ただでさえ苦労性のようなのに。
 できればこれ以上衝撃を与えてしまうことは避けたい。
 ……『謎の祓い屋』の件は、あれは不可抗力だ。
 そう自分に言い聞かせ、式神たちがあちらの世界へ戻ったのを見届けてから泥のような眠りに落ちる。
 時計は日付けが変わったことを知らせていた。
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