祓い屋はじめました。

七海さくら/浅海咲也(同一人物)

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019.

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 今まで特殊な環境で育ったために携帯を契約した事がない。身元がバレると困る仕事をしているので、代わりに契約してほしい。
 瞳はそう美作に言った。


(言い訳が苦しいか? 苦しすぎるか?)


 内心では心臓がバクバクしていて今にも貧血をおこしそうである。


「わかりました。では至急手配しましょう」


 瞳の心配は無用だった。
 美作は至極あっさりと頷き、すぐに必要事項を次々と質問してくる。


「契約者の名義はわたしでよろしいでしょうか。律さま円さま以外とも通話されるようでしたら通話が無料になるプランで契約いたします。通信量もMAXにしておきましょう」
「あ、はい。お任せします」
「機種はどうなさいますか?」
「え」
「ご希望がありましたら」
「あー、じゃあ円と同じので」
「えー。俺そろそろ機種変したいんだけど」
「ではそれも同時に手続きして参ります」


 言いながら、美作は自分の端末をポケットから取り出してトトッと操作する。


「今日は少し混雑しているようですね。夕方に一度行ってみます。円さまのスマホもお借りしますが大丈夫ですか?」
「大丈夫ー」
「ご希望の機種は?」
「今までと同じでいいよ。この前最新が出たから型落ちで」
「かしこまりました」


 ここで最新機種ではなく型落ちをわざわざ指定するあたりはさすが庶民派御曹司だな、などとへんなことに感心する瞳は、ハッとする。


「あ、請求はちゃんとオレにまわしてください!」


 これは重要なことだ。
 だが、美作も律もそれを許さなかった。


「いいえ、これは必要経費です」
「……は?」
「今どき社用のスマホなんて当然よ。経費は全てこちらで持つわ」
「いやでも、もしかしたらプライベートで使うことになるかもしれないですし……」
「使っていいに決まってるじゃない! ウチのお手伝いをしてくれている限り、全て経費よ!」
「ええぇ……」
「諦めろ、瞳。律は言い出したら聞かないぞ」


 円の一言が、トドメだった。
 美作が食べ終わった全員分の容器を片付けるのをなんとなく瞳も手伝う。スマホ契約はともかく、料金まで支払ってもらうつもりなんてなかったのに。
 申し訳なさでいっぱいである。

「なぁ、それよりさぁ」
「うん?」
「気になったんだけど。瞳、スマホ無しで今までの仕事どうやってたの?」
「式神経由だけど?」


 何を言い出すかと思ったら。さらりと答えた瞳の言葉に、やはりというか美作がピタリと動きを止めた。
 あれ、何かまずかったかな? と瞳が思った時には遅かった。


「円さま、瞳さま。その話、詳しく」


 笑顔が怖い。そう思う瞳の手から容器を受け取ってパパッと片付けて、ソファへ座るように促す。
 そして、これは『術者』として話を聞くつもりなのだろう、美作も律の隣に座った。それには律も驚いたようだった。


「まず、瞳さまのお仕事というのはどういうことでしょう?」
「ええと。オレが個人でやってる祓い屋……デス」
「瞳の生活費」
「なるほど。それが式神経由というのはつまり?」
「正当な方法で依頼された術者の手に負えないケースがあります。その場合、その術者の式神からウチの式神にヘルプが入るんです。もちろん、術者にはオレの情報は一切渡さないという条件で受けることがあります」
「それがお仕事ですか……」
「はい……」


 瞳が頷くと、美作は大仰なため息をついてガックリとうなだれた。


「え、ええ!?」


 オレ何かした!? と、瞳は慌ててしまうけれど。ある意味ではとんでもないことをやらかしている。


「……噂では聞いていたんですよ。一般からの依頼は一切受けない、術者たちの最後の頼みとなる祓い屋がいると……」
「え」
「どんなに凄まじい怨霊ですら祓ってしまう凄腕の持ち主で、その素性は男性か女性かも分からないという、『謎の祓い屋』」
「ええと……」


 怨霊ってどれの時のことかなぁ、などと考えながら他人事のように聞く。
 瞳が受ける依頼のほとんどは怨霊の類が相手である。
 欲の渦巻く世界は、自ずと『悪いもの』を呼んでしまう時もある。そんな時に術者が呼ばれるのだ。
 つまり、瞳の『客』は政界絡みや大企業の関係者などの大物が多い。彼らはスキャンダルを恐れるから瞳の『秘密』も守ってくれる。万が一にも守らなかった場合は式神が動くし、脅しも忘れない。
 だからこそ『謎の祓い屋』などと呼ばれることになってしまったのだろう。


「……都市伝説だと思ってました」
「あはは」
「笑い事ではありません! そんな破格の祓い屋が、ウチではボランティアとか! いいんですかそれで!」


 笑って誤魔化そうとしたら怒られた。なぜだ。


「別に。ただ、友達の家の仕事を手伝うだけだし」


 仕事はただの生活費稼ぎだし。
 だから、そんなの関係ない。
 そう言えば、美作はまたしてもため息をついて苦笑する。


「本当に……瞳さまはお人好しが過ぎる」
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