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三人の意外と本気だった申し出を丁重にお断りして、自分の分の煮込みハンバーグを頬張った。
円が食べたいと言っただけあってボリュームもあるし、とても美味しかった。
メニュー的には冬のものかと思っていたが、この店では定番の看板メニューらしい。
瞳が極度の猫舌なのを知る円は、瞳のペースに合わせてなのかゆっくり食べてくれるから、なんとなく気忙しくならないで食べられるのがありがたいと思う。
「気になったのだけど。瞳が疲れる術を使ってまで式神さんたちの姿を見せてくれたということは、こちらでは人の姿をしていないということなの?」
「そうですね。二人の霊力レベルがもう少し上がれば人型での召喚もできると思いますよ」
「レベル上げ……」
「そう、レベル上げ」
円が呆然とマジか、と呟くと、椿の『声』を玄武が瞳に伝えてくるから思わず笑う。
「え、なに?」
「椿が筋トレしろって言ってるそうです」
「体力とかやっぱり関係あります?」
美作が風音に言われたことを思い出して瞳に聞く。風音は、美作にもまだ伸び代があると言った。
「ありますね。まず器を作らないと霊力も上手く扱えませんし。ある程度ならそんなに気にしなくていいと思いますけど、レベル上げ狙うなら筋トレも効果的です」
「瞳さまも筋トレしてるんですか?」
「……オレこう見えても腹筋割れてますけど」
「「「えっ?」」」
見事に重なった声に、瞳はちょっと傷付いた。
「オレそんなにひ弱そうに見えます?」
「いや……身長は俺と同じくらい?」
「一応、175?」
「体重は?」
「60だったか?」
「で、この細さか。ガッツリ筋肉じゃん!」
「ま、円……?」
「俺てっきり瞳は華奢で身体が弱いものだとばかり……」
「なんか……ごめんな?」
「謝るな! 余計に俺が不憫だ!」
「ええぇ……」
理不尽だ。
まあ、『人間界』ではなく『式神の世界』でトレーニングをしていたから、やはり反則技なのだが。
「ちょっと見たい……」
「ダメ!」
「いいじゃん、男同士!」
「それでも嫌なもんは嫌なんだよ」
腹筋を見せるということは、上半身裸。万が一にも『アレ』を見られる訳にはいかないのだ。
「分かった……嫌われるのイヤだから我慢する」
渋々とではあったが、引き下がってくれた円に安堵した。
「ちょっと触るくらいなら……」
「お前そんなに疑ってんの……?」
前言撤回。全く引き下がってなかった。
「だって倒れたりとかしてんの見てるから……」
「あれは霊力の使いすぎだし。祓い屋稼業なんて霊力もそうだけど体力勝負だぞ?」
「理不尽……」
「いや、それはオレの台詞だわ」
「瞳の腹筋なら見てみたかったわ……」
「え、嫌ですけど」
律までそんなことを言い出すので、思わず瞳は真顔で返したのだった。
「すみません、瞳さま。トレーニングとは具体的どのような……」
三人のやり取りで笑ったのだろう。美作がコホンと咳払いをしてから切り出してくる。
かなり興味があるようだ。
「あー……、オレのは反則技なんですけど」
「反則技」
またしても出た『反則技』に、そろそろ頭痛がしそうな美作である。
「あちらの世界に、トレーニングルームがありますね……。というより、勝手に作られてました」
「ジム……のようなものでしょうか」
「そうですね、そんな感じだと思います」
「なるほど」
ふむ、と美作が考え込む。
やはりジム通いをすべきか、でもその間の律さまが、などとブツブツと呟くのを見て、瞳は思わず声をかけてしまう。
「あの、朝の一時間程度でよければご一緒しますか?」
「え?」
「その間、律さんはウチの誰かに守らせますし」
「いいんですか?」
「オレは構いませんよ」
勢い込んで美作が瞳の方へ身を乗り出し、そして律の方を見て彼女の意志を確認する。
「私も構わないわ」
「では、お願いします!」
「あ、俺も!」
ちゃっかりと円が便乗し、これで朝の日課が決まった。
「ところでさぁ。俺そろそろ瞳と連絡先交換したいんだけど」
「え?」
瞳がギクリとしたのは言うまでもない。
「いつも張り付いてたいのはやまやまだけど、そうもいかないだろ。そうなると連絡先が知りたいんだけど、いつになったら教えてくれるわけ?」
「あー……」
「あら! それなら私も知りたいわ」
「わたしも是非」
口々に言われて詰め寄られて。
「それって必要ですか……?」
思わず聞いた瞳だったが。
「緊急の場合には必要になると思います」
美作の一言で、うなだれる。
ああ、やはりか。いよいよか。瞳はそう思った。もはや観念するしかない。
「あの、美作さん」
「はい」
「お願いがあります」
「はい?」
「オレの分のスマホ、代わりに契約してもらえませんか?」
円が食べたいと言っただけあってボリュームもあるし、とても美味しかった。
メニュー的には冬のものかと思っていたが、この店では定番の看板メニューらしい。
瞳が極度の猫舌なのを知る円は、瞳のペースに合わせてなのかゆっくり食べてくれるから、なんとなく気忙しくならないで食べられるのがありがたいと思う。
「気になったのだけど。瞳が疲れる術を使ってまで式神さんたちの姿を見せてくれたということは、こちらでは人の姿をしていないということなの?」
「そうですね。二人の霊力レベルがもう少し上がれば人型での召喚もできると思いますよ」
「レベル上げ……」
「そう、レベル上げ」
円が呆然とマジか、と呟くと、椿の『声』を玄武が瞳に伝えてくるから思わず笑う。
「え、なに?」
「椿が筋トレしろって言ってるそうです」
「体力とかやっぱり関係あります?」
美作が風音に言われたことを思い出して瞳に聞く。風音は、美作にもまだ伸び代があると言った。
「ありますね。まず器を作らないと霊力も上手く扱えませんし。ある程度ならそんなに気にしなくていいと思いますけど、レベル上げ狙うなら筋トレも効果的です」
「瞳さまも筋トレしてるんですか?」
「……オレこう見えても腹筋割れてますけど」
「「「えっ?」」」
見事に重なった声に、瞳はちょっと傷付いた。
「オレそんなにひ弱そうに見えます?」
「いや……身長は俺と同じくらい?」
「一応、175?」
「体重は?」
「60だったか?」
「で、この細さか。ガッツリ筋肉じゃん!」
「ま、円……?」
「俺てっきり瞳は華奢で身体が弱いものだとばかり……」
「なんか……ごめんな?」
「謝るな! 余計に俺が不憫だ!」
「ええぇ……」
理不尽だ。
まあ、『人間界』ではなく『式神の世界』でトレーニングをしていたから、やはり反則技なのだが。
「ちょっと見たい……」
「ダメ!」
「いいじゃん、男同士!」
「それでも嫌なもんは嫌なんだよ」
腹筋を見せるということは、上半身裸。万が一にも『アレ』を見られる訳にはいかないのだ。
「分かった……嫌われるのイヤだから我慢する」
渋々とではあったが、引き下がってくれた円に安堵した。
「ちょっと触るくらいなら……」
「お前そんなに疑ってんの……?」
前言撤回。全く引き下がってなかった。
「だって倒れたりとかしてんの見てるから……」
「あれは霊力の使いすぎだし。祓い屋稼業なんて霊力もそうだけど体力勝負だぞ?」
「理不尽……」
「いや、それはオレの台詞だわ」
「瞳の腹筋なら見てみたかったわ……」
「え、嫌ですけど」
律までそんなことを言い出すので、思わず瞳は真顔で返したのだった。
「すみません、瞳さま。トレーニングとは具体的どのような……」
三人のやり取りで笑ったのだろう。美作がコホンと咳払いをしてから切り出してくる。
かなり興味があるようだ。
「あー……、オレのは反則技なんですけど」
「反則技」
またしても出た『反則技』に、そろそろ頭痛がしそうな美作である。
「あちらの世界に、トレーニングルームがありますね……。というより、勝手に作られてました」
「ジム……のようなものでしょうか」
「そうですね、そんな感じだと思います」
「なるほど」
ふむ、と美作が考え込む。
やはりジム通いをすべきか、でもその間の律さまが、などとブツブツと呟くのを見て、瞳は思わず声をかけてしまう。
「あの、朝の一時間程度でよければご一緒しますか?」
「え?」
「その間、律さんはウチの誰かに守らせますし」
「いいんですか?」
「オレは構いませんよ」
勢い込んで美作が瞳の方へ身を乗り出し、そして律の方を見て彼女の意志を確認する。
「私も構わないわ」
「では、お願いします!」
「あ、俺も!」
ちゃっかりと円が便乗し、これで朝の日課が決まった。
「ところでさぁ。俺そろそろ瞳と連絡先交換したいんだけど」
「え?」
瞳がギクリとしたのは言うまでもない。
「いつも張り付いてたいのはやまやまだけど、そうもいかないだろ。そうなると連絡先が知りたいんだけど、いつになったら教えてくれるわけ?」
「あー……」
「あら! それなら私も知りたいわ」
「わたしも是非」
口々に言われて詰め寄られて。
「それって必要ですか……?」
思わず聞いた瞳だったが。
「緊急の場合には必要になると思います」
美作の一言で、うなだれる。
ああ、やはりか。いよいよか。瞳はそう思った。もはや観念するしかない。
「あの、美作さん」
「はい」
「お願いがあります」
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「オレの分のスマホ、代わりに契約してもらえませんか?」
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