祓い屋はじめました。

七海さくら/浅海咲也(同一人物)

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010.

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 食事の後のコーヒーは瞳が淹れた。
 昨日と同じで、円はブラック、瞳はカフェオレだ。
 ダイニングからリビングに移動して、ソファへ身体を沈めると、瞳がコホンと咳払いをする。


「さて。いくつか聞きたいことがあるけどいいかな?」


 瞳はにっこりと笑いつつも有無を言わせぬ態度で円に切り出す。


「ハイ……」


 何を聞かれるのかという恐怖があるのか、円はなにやらカタコトだ。


「まずひとつ。お前んとこの生活費どうなってる?」


 律は、4月から祓い屋を始めたと言っていた。けれど、西園寺の家を出たのはもっとずっと以前だ。


「あー……」
「うん?」
「西園寺からの仕送りと、あと、3月までは律が株のトレーダーやってて……」
「株……」


 なんと『お嬢様』に似つかわしくない言葉だろうか。


「で、つまらないから辞めるって言い出して。それで今の霊障専門の探偵……」
「つまらないって……」
「飽きた、って言ってた」


 金持ちの感覚は分からない。瞳は頭を抱えた。


「いや、それ言うなら瞳だって生活費どうしてるんだよ!」
「オレは自分で稼いでるんだよ!」
「は?」
「あ……」


 しまった、と思った時には遅かった。ぺろりと言ってしまった言葉を、円は聞き逃してはくれなかった。


「バイト、とか? え、でもここの家賃とかヤバくね?」
「あー……」
「そもそもウチの学校バイト禁止じゃん!」


 御曹司はそんな校則気にしないでくれ。とは言えなかった。


「待て。聞け」
「ハイ」
「年に何回かのペースで、祓い屋のようなことを請け負ってる。バイトじゃない。仕事だ」
「えっ……」
「それを言うなら、お前の所の祓い屋だって手伝えないぞ?」
「あ」
「それにここは持ち家だ。家賃は必要ない」


 年に数回なら一回につき単価はいくらだとか聞かれなくて良かった、と瞳はこっそり思う。


「じゃあ次。今までの依頼件数は?」
「ええと、二件」
「月イチか。看板出してない新しい事務所にしては……」


 顎に手を当て、瞳はなにやら考え始めるけれど、円には相場が分からないから黙って次の質問を待った。


「これが最重要。今まではどうやって祓ってたんだ」
「…………」
「おい」
「…………」
「分からないとか言うなよ?」
「スミマセン……」


 瞳の中で、何かがプツリと切れた。たぶん理性の糸だ。


「お前! 祓い屋稼業なめんな! 命懸けだぞ! お母上の守護がなかったらとっくに死んでるぞお前!」
「ひえぇ、すみません! でも本当に今までのは弱いヤツらで……!」
「うるさい黙れ!」


 降霊の疲れと今の会話でどっと疲れた。
 瞳は落ち着こうとカフェオレを入れたマグカップに口をつける。こくりと一口。飲むのと同時に怒りを飲み込んだ。
 ふぅ、と大きく吐息する。


「で、もうひとつ。お前、式神いないよな?」
「式神って……」
「オレで言うところの、玄武みたいなやつ」
「ああ、うん」
「まずはそこからか……」


 再び、考え込む瞳。
 今はメガネをしていない。長めの前髪は気になるけれど、瞳の顔立ちも実に整っている。こんなに綺麗な顔をしているのに女子たちに騒がれないのはなぜだろう、と。円はぼんやりと場違いなことを考えていた。
 瞳にバレたら張り倒されそうだ。


「円。お前、何系の式神が欲しい?」
「は、え?」


 瞳からの質問を待ってはいたが、予想外の内容に円は戸惑った。
 何系。何系、とは?


陰陽五行思想おんみょうごぎょうしそうっていうのがあるんだが、オレは独学だからそんなの分からない。知りたかったら美作さんに聞け」
「美作?」
「あの人はきちんと手順を踏んでしっかり修行した『術者』だ」
「美作が?」
「知らなかったのか?」


 瞳の言葉に、円はこくりと頷く。というより。


「つか、なんで瞳が知ってるんだって話なんだけど」
「そういう気配がしたから」


 あっさり返す瞳に、円はそうだコイツの霊力は常人のそれとは比較にならないんだったと思い直す。


「ソウデスカ……」
「うーん、守りはお母上がいるから、やっぱり攻撃系か? 武器……」


 なにやら物騒なことを呟き始める瞳に、円は大丈夫だろうかと不安になる。


「なんか怖いんですけど……」
「仕方ないだろう。祓い屋ってのはそういう稼業だ」
「え……」
「除霊とか送りとかその程度ならまだいい。だが、これが『術者』対『術者』の図式になったら、どちらかが死ぬか、それなりの怪我をすることになる」
「……っ!」
「そういう世界なんだ。だから律さんにも言っておいてくれ。オレが居ない時には依頼を受けないでほしいと」
「……わかった」


 神妙な顔をして円が頷く。
 まあ美作がいるから大丈夫だとは思うが、念には念を入れて、だ。
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