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いよいよ明後日、三科交流会本番。
全科・全校生徒がこの前の・・・(思い出したくないけど)あの大きな訓練場に集まる大きなイベントなわけで、学校中がお祭り騒ぎになってる。


そして今日から科代表生徒、つまり僕とその指導役のユキ先輩は午後の授業公欠になり、午後は交流会に向けた最終調整をする。


なのに・・・、あ、あれ?ここはどこだっけ。


確か魔法科の訓練場に入った途端、突然空から現れたあの鳥人の学科長にユキ先輩諸共知らない教室に連れて行かれて、「はい!ここから披露着選びなさぁい♡」とか何とか・・・よくわかんないこと言われて・・・

思わず僕はいつもの訓練着で良くないですか?って聞いてしまったんだけど、学科長まさに鬼の形相で「まずは見た目で勝負だろうが。舐めてんのか。」ってメンチ切られたんだった・・・



もう・・・本当なんなの・・・・・ずっとルンルンで衣装選んでる・・・柄がちょっと違うだけなのに・・・なんなの・・・あの自由人・・・・・・そもそもこの衣装どこから持ってきたの・・・



で、かれこれ一時間。
僕とユキ先輩(指導役も同じ物を着るのが通例なんだって)は着せ替え人形状態なわけで・・・・・・







「コソコソ(・・・あの・・・ユキ先輩が好きなの選んでもらって構わないので、僕、そろそろ帰っていいで、)」

「えーーーーー!?どこに?もしかして魔法科寮の一階、実は今年から一人部屋でのびのび生活してた俺の部屋の隅に急遽つくった簡易ベッドの上?そーーーんなわけないよね、理由もろくに話さないくせに、泣き腫らした顔で突撃してきたかと思えば、それからもう三日?いや四日?も居座ってるんだから、まだまだ学科長に付き合いますよねぇ、ラウーちゃん?」

「・・・・・・ハイ・・・スミマセンデシタ・・・」

「分かればよろしい。」





引き攣った笑顔で詰め寄られたら、こんなにも怖いなんて初めて知った。
大人しく学科長の着せ替え人形になっとこう。
大体決まって、あと装飾品を残すのみ(それ、いる?)。そろそろ終わると信じよう。


ちなみに今学科長は、補佐っぽい人と何やら立ち会議中。
よかったぁ~・・・今の話聞かれてたら、僕またメンチ切られるところだった・・・・・・って、内心ホッとしてたら、ユキ先輩にギュッと角掴まれて「んひっ」と声をあげてしまった。







「ユキ先輩・・・角の扱い雑すぎますって・・・」

「あのさ、ちゃんと飯を食べなさい。ここ数日でラウー痩せすぎ。そんなんじゃ本当に本番で体力持たないよ。」

「・・・はい。」

「今日は俺と夕飯一緒。ティフと違って俺は無理矢理にでも口の中に押し込むからな。このアホ竜。」

「痛ッ!!」




おでこを容赦なく指で弾かれる。
ズキズキするところを摩りながら、ユキ先輩の方を覗き見ると、呆れたような、それでいて心配しているような、複雑な顔をして僕をじろりと睨みつけていた。





「意外と似てるところあるよね。一つのことにいっぱいで、周りが全然見えなくなるところとか。」

「・・・何の話ですか。」

「さあね。自分で考えなよ。」

「・・・意地悪しないでください。」

「むしろ優しさなんですぅ。あ、そういえば花の色決めた?」

「・・・・・・・・・」

「いい加減決めて練習しようね?明後日本番ですよ?ラウーちゃん?ぶっつけでやるつもりなの?」

「・・・・・・・・・」







僕が返答に困っているとタイミングよくユキ先輩が学科長に呼ばれた。
ユキ先輩は黙り込んだ僕の角をまたギュッと握って、そちらに向かっていく。
優しいのか、意地悪なのか、本当に判断が難しい。



さて、僕が学科紹介で披露する魔法は当初の予定通り、テーマは『花』だ。
あれだけ大きな訓練場でも僕の魔法が映えるように、とユキ先輩が考えてくれた。
花を魔法で出し、それを風で操ったり、水や雪を舞わせたりしながら、感情や季節を表現して、最終的に大きな花束を僕が抱きしめて演目は終了。


先ほどユキ先輩が聞いてきた"花の色"というのは、この最後に僕が抱きしめる花の色のこと。
この流れが決まってすぐ学科長に相談・報告しに行った時、「せっかくだからその花を大事な人に渡せばいいじゃない♡」と提案されて僕は異論なく頷いてしまった。


ユキ先輩は頭を抱えて「ラウーはその意味分かってないと思いますよ」って苦笑いだったけど、僕の頭の中はすでに花でいっぱい。


あの人だったら、きっと喜んでくれる。


想像しただけで僕は誕生日をこっそり祝う準備をする時みたいに、わくわくしたものだ。



渡したかった相手は言わずもがな・・・・・・である。



だから決まった時から僕の中で花の色は一択だったし、当日までユキ先輩にとやかく言われたくなかったから花の色は伏せていた。
・・・・・・まさか従兄弟だとはこの時、夢にも思ってなかったけど。


むしろ練習ではいつもユキ先輩の瞳の色である灰色の花を出したり、ティフくんやアントス先輩の瞳の色を出したりしてイメージトレーニング。

花の色を変えるのもイメージが大事で、それなりに練習が必要だ。


だからユキ先輩は正しい指導をしてくれてる。
でも・・・さ、今はイメージするのさえ、辛い。






「ラウー、もう今日は寮に帰ろう。学科長は満足したんだってさ。」

「へ?で、でも、練習は、」

「そっんなジメッとした顔で魔法使われてもねぇ。」

「ゔっ、」

「花以外は完璧。あとは自分の腹を括れ。」

「・・・・・・やっぱり、何か知ってるんですね。」

「はあ?ラウーが何も知らないだけで、周りはみんな知ってるよ。」

「・・・はい?」




な、何を言い出すんだ、ユキ先輩・・・?!
だって僕は我儘を突き通して、ユキ先輩に一言も説明してないのに・・・みんな、知ってる・・・??


何を・・・?



「あーーーーーー、その顔。ラウーじゃなかったら殴ってる。それであいつもあいつ。進む方向極端すぎて馬鹿なんだよ。言葉が足りないからこんなことになった。自業自得。大体"あの後"荒れ狂うあいつ止めるのめっっちゃ大変で、アントスだって超キレてるし、もう本当・・・・・・お前ら二人とも馬鹿!!!!」

「ユキ先輩?!さ、さっきから、悪口だらけ、」

「ばーか!ばーーーか!あいつの話ちゃんと聞いてもないくせに!ラウーだって何も伝えてすらないだろ!伝えてから泣け!!」

「・・・・・・?!」

「俺はもう帰る!!あ、夕食はいつもの席に時間通り来い。ちょっとでも遅れたらその自慢の角、曲げる。いいな?」

「ちょっ、えっ?!」

「わ・か・っ・た・か!!!?」

「~~~~っ、はっ、はい!!!」

「よし!じゃあな!!」







とんでもない声量で怒鳴り散らしたユキ先輩は、どすどすと足音を立てながら部屋を出ていった。
僕は一気に足の力がふぅー・・・と抜けて、教室の真ん中に座り込む。





「・・・伝えても・・・いいのかな・・・」




ぎゅうっと力を入れて握りしめた手は、汗でびしょびしょ。
あれからずっと下を向いて、あんなに自分の殻に閉じこもっていたのに、殻から急に引っ張り上げられて、今・・・本当にたった今、背中をぽんっと押してもらった。




「・・・・・・優しすぎます、ユキ先輩。」



感謝は明後日伝えよう。
僕は頬をパンっと叩いて、魔法科の訓練場へと一人向かった。
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