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あっという間に三科交流会の一週間前リハーサルの日を迎えた。
あれから毎日ユキ先輩から、指導という名の暴りょ・・・・・・、目線が怖いから心の中で呟くのもやめとこう。あの人、もしかして心が読めるのかもしれない。

さて。
午後の授業を公欠してまでやってきたのは、この学校自慢の全校生徒が収容できる一番大きな訓練場。何と観覧席付き。
絶対交流会のために造ったんだろうなぁ・・・




この一週間、クロヴィスさんには一切会いに行けず(そんな空気を出そうもんなら氷の玉が物凄い勢いで飛んできた)、ただひたすら記憶の中のクロヴィスさんに会うしかなかったんだけど・・・・・・?






「おーい!クロちゃ~ん!おーい!」

「$☆°%○*×€!?」





訓練場に入ってすぐ目に入ったのは、士官科の一年生らしき人が地面に這いつくばる姿。
そのすぐ側で大剣を地面に突き刺し、見下ろすように立っていたのは、僕が一番会いたかった人だった。

クロヴィスさんに気がついたユキ先輩は、そちらに向かってぴょんぴょん跳ねながら大きく手を振る。それに合わせて黒い尻尾も左右にゆらゆら。


手を振られた本人は、ユキ先輩と僕を交互に見た後、眉間に深く皺を寄せ、大剣をさらに深く地面に突き刺したのち、ずんずんとこちらに向かってきた。
事情が飲み込めない僕は、ユキ先輩の制服をぐいぐい引っ張りながら、出来るだけ小声でユキ先輩に探りを入れる。






「ユキ先輩は、ク、クロ、クロヴィスさん、あ、クロヴィス先輩と、お知り合いなんですか?」

「んー?そうそう。クロちゃんは俺の従兄弟。言ってなかったっけ。」

「い!と!こ!?ええっ!?」

「おー・・・クロちゃんのあのこっわい顔。ヤダねぇ~」

「従兄弟?!えっ!?従兄弟?!」

「ユキヒョウなのにクロ、クロヒョウなのにユキっていうあべこべ従兄弟ね。」

「だから耳の形似てるんだぁ・・・!わー!わー!従兄弟かぁ!」

「・・・ラウーくん、そろそろお黙り。」

「ぴっ?!」






しまった、せっかく小声だったのに騒ぎすぎて結局怒られた。
二本の角を遠慮なくぎゅっと掴まれて、僕は一瞬で静止。
ユキ先輩、竜人の角をそんな風に持たないでください。雑すぎませんか。ぞわぞわします。
あなたの思惑通り静かになったんでしょうけど。

ああ~~久しぶりにクロヴィスさんに会えたのに~~~情けないところ見られちゃった~~~・・・





「ユキ、やめろ。今すぐ離せ。」

「・・・痛いなぁ。久しぶりだって言うのに酷くない?」





僕の角を持つユキ先輩の手首をグッと強く掴み、引き離しにかかる。

にこにこ笑いかけるユキ先輩とは反対に、いつの間にか僕のすぐ後ろまで来ていたクロヴィスさんの声は恐ろしいほど冷たかった。
ユキ先輩が「これでいいでしょ?」と角から手を離した瞬間、後ろに体をぐんっと引っ張られ、僕の体に逞しい腕が回る。


この状況を飲み込むのに約三秒。
理解した瞬間、僕の顔は一瞬でボッと火がついた。





「は、ひ・・・・・・!」

「あーあ。ラウーくん面白い顔して固まってるよ。離してあげたら?」

「嫌だ。」

「・・・クロちゃんってば意外と独占系か~。いや、全然意外ではないか~」

「何故お前が一緒にいる。」

「俺、彼の指導役だから。クロちゃんは"知ってる事"だよね?」

「・・・あ゛?」

「(ヒェ~~~~~~)???!」






どこか棘のあるユキ先輩の言葉に、僕の体に巻き付いていたクロヴィスさんの尻尾がぼわっと一気に膨らんだ。
今の「あ゛?」の声もだけど、背後からの威圧感というか・・・気迫?が・・・もう凄い。
それが僕に向けたものじゃないと分かっていても、背中が勝手にぞわりと震えるくらいには。





「ま、俺はラウーくんと来週まで・・・もしかしたらこれからもっとお近づきになるわけだし?クロちゃんも指導役がんばってね~」

「ちょ、ちょっと、ユキ先輩?何言って、」

「ほら、ラウーくん早く行こ!もうすぐ魔法科のリハーサルの時間だよ?」

「あ、えっと・・・は、はい。でも、その・・・」

「・・・クロちゃん?往生際が悪いよ。」

「・・・・・・・・・」





僕の体に強く巻き付いた腕と尻尾。
耳のすぐ近くで、不機嫌そうに鳴る喉。
・・・こんな緊迫した空気で、本当、何考えてんだって自分でも思う。

でもね、言わせて。
今、僕めちゃくちゃ嬉し恥ずかしな体験をしているところ・・・!





「あ、あの、士官科はもうリハーサル終わった、んですか・・・?」

「・・・ああ。」

「じゃ、じゃあ、このあとクロヴィスさんは寮へ帰られますか?」

「・・・・・・そうだな。」

「あの・・・えっと、僕、リハーサル終わったら今日は特訓休み、で・・・、クロヴィスさんがお疲れじゃなかったら、なんですけど、あとで、会いに行ってもい、」
「もちろんだ。」

「へ?」




優しく少し力が緩んだ腕。
振り向くと至近距離に橙色の瞳が見えた。
想像以上にクロヴィスさんの整ったお顔が近くにあったことに、僕は驚いて言葉に詰まる。
そんな僕を見て、不思議そうに首を傾げるクロヴィスさんの・・・破壊力、スゴイ。




「俺もラウーと話したい。だから待ってる。」

「・・・・・・は、い・・・」

「怪我をしないようにな。」

「・・・・・・っ、う、」




突然の優しい声に、奥歯をぎゅっと噛み締めないと泣きそうでうまく声が出せない。
代わりに首を大きく、何度も縦に振って返事をすると、巻き付いていた腕と尻尾がゆっくりと離れていった。





「・・・あーあ。面白くな~い。」

「お前は早く消えろ。」

「ほっっんと!そういう冷ったいところ変わってないよね!」

「クロヴィスさんはいつも優しいですよ?」

「・・・俺、もう帰ろうかな。」

「ええっ?!リハーサルは??」

「無責任な奴。」

「あんた達のせいなんですが?!」






毛を逆立てたユキ先輩はしばらくキィィィィと怒っていたけど、去り際にクロヴィスさんから頭を撫でられた僕はにこにこが止まらない。


それがユキ先輩の癇に障ったらしく、クロヴィスさんが完全に訓練場から見えなくなったあと、また角をギュッと掴まれ、ぞわぞわさせられたのである。



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