【完結】待って、待って!僕が好きなの貴方です!

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士官科棟の門前、白黒の髪の毛を風に揺らしながら佇む人がいる。
これだけ離れていても、存在感が凄い。
門から出ていく他の生徒、横目で見るだけで誰も近寄れない。

ぽけっと立ち尽くす僕の存在に気がついたその人は、こちらへゆっくりと歩き出す。
一歩ずつ、一歩ずつ、僕に近づくたび、夕日を溶かしたような橙色の瞳がはっきりと見えてきて、僕の心臓は爆発しそうだ。





「こ、こ、こんにちは、クロヴィスさん。今日は、く、訓練お休みですか?」

「・・・いや、このあと向かう予定だ。」

「そ、そうなんですね!毎日お疲れ様です。えっと、今は誰かと、待ち合わせでもされ、」
「ラウーを待っていた。」

「へ?」

「ラウーが来るのを、待っていた。」

「・・・・・・っ、そ、うで・・・すか・・・」




クロヴィスさんにも聞こえたんじゃないかと思うくらい大きな音を心臓が鳴らす。
予想外の返答に驚いて何も言えずに固まっていると、クロヴィスさんの手が僕の頭にふわりと乗った。
大きな手で、ぽん、ぽん、と頭を二度撫でられ、すぐ離れたけど・・・・・・・・・ティフくん!いつもごめん!
これは耳がピーンとなっちゃう!僕、獣耳無いけど!


小さい頃、クロヴィスさんはよくこうやって頭を撫でてくれた。
ティフくんの頭を撫でてしまうのも、その時の影響だと思ってる。
でもまさかクロヴィスさんが僕を撫でてくれるだなんて思ってもみなかったから、嬉しくて、照れてしまって、顔が一気に赤くなっていった。





「・・・・・・最近、親しい・・・者がいるのか。」




熱の集まった顔を冷やそうと、パタパタ手で風を送っていた僕の耳に入ってきたクロヴィスさんにしては控えめな声。
僕が顔を上げた先のクロヴィスさんは、相変わらず真っ直ぐ僕を捉えていて、今度は耳まで赤くなりそう。耐えろ、僕!

えっと、今クロヴィスさんは何て言ったっけ。
し、親しい者って言ったよな・・・親しい・・・・・・・・・・・・あ!


「ティフくんのことですね!同じクラスで、毎日僕と一緒に昼食を食べてくれてます!」

「・・・・・・獣人か?」

「?はい、えっと、ティフくんは兎の獣人ですね・・・?」

「・・・そうか。」

「・・・・・・???」







あまり表情が変わらないクロヴィスさんだけど、この顔は分かる。
これは、機嫌がよろしくない時の顔だ。
だって口元がやや下がってるし、目元もきゅっとなってるもん。





「あの・・・ティフくんが何か・・・?強くて優しくて、とても良い子ですけど・・・」

「・・・・・・強いのか。」

「?そ、うですね。こないだの演習で先輩にも勝ってました。」

「・・・・・・・・・わかった。」

「わかった?」

「ちょっといいか。」

「???はい、んえっ?!ク、ク、クロッ、クロヴィスさん!?」

「・・・・・・・・・」




僕の後頭部にクロヴィスさんの手が回り、ぐんっと体を引き寄せられた。
目の前に!!ク、ク、ク、クロヴィスさんの分厚い!胸板!!筋肉凄っ!!力強っ!!
心臓が飛び出る!!

大パニックの僕に追い打ちをかけるように、クロヴィスさんは僕の首元に顔を寄せ、すりすりと撫でるように動かす。
サラサラな髪の毛から、とてつもなく良い匂いする!そしてくすぐったい!

あのクロヴィスさんが、甘えん坊の猫みたいに見える!



何度か猫のような仕草を見せたあと、僕から離れたクロヴィスさん。
あ・・・、さっきより機嫌が良さそう・・・!
でも一体何事!?僕にとってこのご褒美でしかない時間は・・・っ!





「ど、ど、どうかしましたか?」

「・・・急にすまなかった。」

「いっ、いえ!かわ・・・・・・えっと、お気になさらず!」

「俺が寮まで送ろう。」

「ええっ!?ひ、一人で、だ、だ、大丈夫ですよ!?」

「いや、今度から俺が送る。いつもアントスが送っていたのだろう?」

「そ、そうですけど・・・」

「・・・そこまで気が回らなかった。すまない。」

「ええ!!!??」




一瞬だけ逸らされた橙色の瞳が、また僕に向く。
僕はもう随分前からこの瞳に囚われているけど、こんなクロヴィスさんは初めて見た。



「俺に送られるのは嫌か?」

「いいえ!!!!!?」

「よかった。」

「・・・っ、その、う、うれ、しいです。」

「・・・そうか。」




ふっと笑ったその顔があまりにも優しくて、僕はぎゅーっと胸が苦しくなる。

聞きたいことはいっぱいあるのに、クロヴィスさんを目の前にすると、言葉が引っ込んでしまう。




恋人がいるって、本当ですか。


僕のこと、どう思ってますか。




立ち止まった僕を見て、クロヴィスさんは僕の顔を覗き込む。
近くで見たクロヴィスさんは、やっぱり綺麗で、かっこいい。
「何でもないです」と僕は笑って、クロヴィスさんの大きな背中を見ながら寮へと帰った。





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