【完結】バングル売りのナディル 〜俺のつがいは獅子獣人の次期領主様〜

N2O

文字の大きさ
上 下
12 / 15
番外編

ハニルの従兄弟

しおりを挟む
「ハニルにい、頼むって!一回だけ。一回だけだから!」

「そうだよ、兄さん!可愛い甥っ子の頼みじゃん?!」

「あの子が忘れられないんだよ~~!お願い!」

「・・・・・・ダメだっつってんだろ、脳みそ入ってんのか!この三馬鹿が!」






ランドルフの護衛騎士の一人、ハイエナ獣人のハニルの前には、彼と同じハイエナの獣人が三人。
ハニルを囲い込むように駄々をこね、騒ぎ立てている。

この三人は先日成人したばかりだが、同い年のナディルと比べても幼い気がする。(精神年齢的に)
しかし体はハニルよりも大きく、三人とも立派な肉食獣人。

ハニルは眉間に深い皺を寄せ、ハァ、とため息をついた。



こと始まりは三時間ほど前のこと。
いつものようにランドルフの護衛業務に従事していたハニルは帰り際、ランドルフと番になったばかりの人間ナディルに呼び止められた。
ナディルの背後には、じとっとした嫉妬心を隠そうともしないランドルフが睨みを利かせている。



「あ、あの・・・ハニルさん、これよかったら・・・!ハニルさんをイメージして彫ったんです。」

「・・・私に、ですか。よろしいので・・・?」

「は、はいっ。いつも優しくしていただいてる、お、お礼なので・・・!」

「ランドルフ様睨まないでください。ナディル様のご厚意が受け取れません。」

「・・・チッ」




あまりの鋭さにハニルは苦言を呈す。
舌打ちをしたランドルフとは反対に、目を見開いたナディルは慌てて後ろを向いた。




「こら!ランドルフはもう三つも持ってるでしょ?欲張ったらダメだよ?!」

「・・・ナディル様、そうではなくて・・・。おそらくただの嫉妬かと。」

「・・・バングルに嫉妬・・・?」

「・・・コホン。では、ありがたく頂戴します。ありがとうございます。」

「ナディル、もういいだろ。部屋に行こう。」

「っ、わ!」






ランドルフはナディルの返事を待たず、華奢な体を抱え上げ自室へと向かう。
ナディルは人前で抱え上げることに慣れておらず、必死に抵抗するが全く持って意味をなさない。
真っ赤な顔の人間と、鼻歌混じりの獅子の獣人。

護衛達は最近こんな光景ばかり見ていた。



ハニルはただ単に二人の惚気を見せつけられただけなのでは、とさすが口にはしないが、二人の背中を見ながら棒読みの挨拶をしてさっさと屋敷を後にした。


屋敷の広い廊下を歩く途中、今日は用事があったことを思い出した。
ハニルの父の弟、つまり叔父一家が三日程こちらの街に遊びに来るらしく、今夜は実家に顔を出すよう連絡が来たのだ。
いつもは騎士団の宿舎生活を送るハニルには少し面倒な案件なのだが、久しぶりに可愛い従兄弟たちに会えるのなら、と実家へ帰ることにした。


従兄弟たちに会うのも・・・六年ぶり。
ハニルは自分の記憶を辿り、可愛い甥を思い出す。
従兄弟たちが好きだった『ララの焼き菓子店』の甘い焼き菓子を買って、屋敷からそう遠く離れていない実家へと歩き始めた。



年季の入った玄関扉を二度ノックする。
ドタバタと、想像以上に大きく鳴り響く足音がこちらへと近づいてきて、ハニルは何故か嫌な予感がした。






「「「おかえり!」」」

「・・・・・・思ってたのと違う。」





数年前に会った従兄弟は、ハニルの胸元ぐらいの背丈だったのにとっくに越されている。
デカい、ゴツい。可愛さはどこへ?

そんなハニルのもやもや感なんて、微塵も気づかない三つ子は突然、揃いも揃って鼻を動かし始めた。
くんくんくんくんくんくんくん・・・もう鬱陶しいほどに。

ララの焼き菓子がそんなに食べたいのか、とハニルは三人の目の前に紙袋を差し出す。




「ほら、これだろ。お前たちの好きなララの焼き菓、」

「何で兄さん、この匂いさせてんの?」

「やっぱ、そうだよな?あの子の匂いだ!」

「すっげぇ、いい匂い!どこから・・・あっ!これじゃん!このバングルから匂いがする!」

「・・・はあ?」





せっかく買ってきたララの焼き菓子を丸無視した三つ子が夢中になっている物。
それは先ほどナディルに貰ったばかりのバングルだった。

くんくんくんくんくんくんくんくん・・・・・・
ああ、鬱陶しい・・・!
大男が群がって、鬱陶しすぎる!





「~~っ、このバングルが何だ!?ランドルフ様の番からいただいたんだよ!ああっ、もういい加減離れ、」

「「「はあああ?!番?!」」」

「っ、そうだよ、番!それが何だ?!」






三人揃ってぽかんと口が開く。
こんな時でも三つ子は息ぴったりだ。

ハニルは自分に纏わりついた手を払いのけ、三人を置いて一人リビングの方へ向かった。


リビングには自分の両親と叔父がテーブルを囲んでいた。





「久しぶりだな!・・・ん?どうした、疲れてるのか?仕事が忙しすぎるのもよくないぞ。」

「・・・叔父さん、これは三つ子のせいだから。」






お門違いの心配をする叔父に、ハニルはまたため息をついた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

もふもふな義兄に溺愛されています

mios
ファンタジー
ある施設から逃げ出した子供が、獣人の家族に拾われ、家族愛を知っていく話。 お兄ちゃんは妹を、溺愛してます。 9話で完結です。

助けた竜がお礼に来ました

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
☆6話完結済み☆ 前世の記憶がある僕が、ある日弱った子供のぽっちゃり竜を拾って、かくまった。元気になった竜とはお別れしたけれど、僕のピンチに現れて助けてくれた美丈夫は、僕のかわいい竜さんだって言い張るんだ。それで僕を番だって言うんだけど、番ってあのつがい?マッチョな世界で野郎たちに狙われて男が苦手な無自覚美人と希少種の竜人との異種間恋愛。 #ほのぼのしてる話のはず  ☆BLランキング、ホットランキング入り本当に嬉しいです♡読者の皆さんがこの作品で楽しんで頂けたのかなととても励みになりました♪

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

獣人公爵のエスコート

ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。 将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。 軽いすれ違いです。 書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。

神獣様の森にて。

しゅ
BL
どこ、ここ.......? 俺は橋本 俊。 残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。 そう。そのはずである。 いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。 7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。

処理中です...