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番外編
ハニルの従兄弟
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「ハニル兄、頼むって!一回だけ。一回だけだから!」
「そうだよ、兄さん!可愛い甥っ子の頼みじゃん?!」
「あの子が忘れられないんだよ~~!お願い!」
「・・・・・・ダメだっつってんだろ、脳みそ入ってんのか!この三馬鹿が!」
ランドルフの護衛騎士の一人、ハイエナ獣人のハニルの前には、彼と同じハイエナの獣人が三人。
ハニルを囲い込むように駄々をこね、騒ぎ立てている。
この三人は先日成人したばかりだが、同い年のナディルと比べても幼い気がする。(精神年齢的に)
しかし体はハニルよりも大きく、三人とも立派な肉食獣人。
ハニルは眉間に深い皺を寄せ、ハァ、とため息をついた。
こと始まりは三時間ほど前のこと。
いつものようにランドルフの護衛業務に従事していたハニルは帰り際、ランドルフと番になったばかりの人間ナディルに呼び止められた。
ナディルの背後には、じとっとした嫉妬心を隠そうともしないランドルフが睨みを利かせている。
「あ、あの・・・ハニルさん、これよかったら・・・!ハニルさんをイメージして彫ったんです。」
「・・・私に、ですか。よろしいので・・・?」
「は、はいっ。いつも優しくしていただいてる、お、お礼なので・・・!」
「ランドルフ様睨まないでください。ナディル様のご厚意が受け取れません。」
「・・・チッ」
あまりの鋭さにハニルは苦言を呈す。
舌打ちをしたランドルフとは反対に、目を見開いたナディルは慌てて後ろを向いた。
「こら!ランドルフはもう三つも持ってるでしょ?欲張ったらダメだよ?!」
「・・・ナディル様、そうではなくて・・・。おそらくただの嫉妬かと。」
「・・・バングルに嫉妬・・・?」
「・・・コホン。では、ありがたく頂戴します。ありがとうございます。」
「ナディル、もういいだろ。部屋に行こう。」
「っ、わ!」
ランドルフはナディルの返事を待たず、華奢な体を抱え上げ自室へと向かう。
ナディルは人前で抱え上げることに慣れておらず、必死に抵抗するが全く持って意味をなさない。
真っ赤な顔の人間と、鼻歌混じりの獅子の獣人。
護衛達は最近こんな光景ばかり見ていた。
ハニルはただ単に二人の惚気を見せつけられただけなのでは、とさすが口にはしないが、二人の背中を見ながら棒読みの挨拶をしてさっさと屋敷を後にした。
屋敷の広い廊下を歩く途中、今日は用事があったことを思い出した。
ハニルの父の弟、つまり叔父一家が三日程こちらの街に遊びに来るらしく、今夜は実家に顔を出すよう連絡が来たのだ。
いつもは騎士団の宿舎生活を送るハニルには少し面倒な案件なのだが、久しぶりに可愛い従兄弟たちに会えるのなら、と実家へ帰ることにした。
従兄弟たちに会うのも・・・六年ぶり。
ハニルは自分の記憶を辿り、可愛い甥を思い出す。
従兄弟たちが好きだった『ララの焼き菓子店』の甘い焼き菓子を買って、屋敷からそう遠く離れていない実家へと歩き始めた。
年季の入った玄関扉を二度ノックする。
ドタバタと、想像以上に大きく鳴り響く足音がこちらへと近づいてきて、ハニルは何故か嫌な予感がした。
「「「おかえり!」」」
「・・・・・・思ってたのと違う。」
数年前に会った従兄弟は、ハニルの胸元ぐらいの背丈だったのにとっくに越されている。
デカい、ゴツい。可愛さはどこへ?
そんなハニルのもやもや感なんて、微塵も気づかない三つ子は突然、揃いも揃って鼻を動かし始めた。
くんくんくんくんくんくんくん・・・もう鬱陶しいほどに。
ララの焼き菓子がそんなに食べたいのか、とハニルは三人の目の前に紙袋を差し出す。
「ほら、これだろ。お前たちの好きなララの焼き菓、」
「何で兄さん、この匂いさせてんの?」
「やっぱ、そうだよな?あの子の匂いだ!」
「すっげぇ、いい匂い!どこから・・・あっ!これじゃん!このバングルから匂いがする!」
「・・・はあ?」
せっかく買ってきたララの焼き菓子を丸無視した三つ子が夢中になっている物。
それは先ほどナディルに貰ったばかりのバングルだった。
くんくんくんくんくんくんくんくん・・・・・・
ああ、鬱陶しい・・・!
大男が群がって、鬱陶しすぎる!
「~~っ、このバングルが何だ!?ランドルフ様の番からいただいたんだよ!ああっ、もういい加減離れ、」
「「「はあああ?!番?!」」」
「っ、そうだよ、番!それが何だ?!」
三人揃ってぽかんと口が開く。
こんな時でも三つ子は息ぴったりだ。
ハニルは自分に纏わりついた手を払いのけ、三人を置いて一人リビングの方へ向かった。
リビングには自分の両親と叔父がテーブルを囲んでいた。
「久しぶりだな!・・・ん?どうした、疲れてるのか?仕事が忙しすぎるのもよくないぞ。」
「・・・叔父さん、これは三つ子のせいだから。」
お門違いの心配をする叔父に、ハニルはまたため息をついた。
「そうだよ、兄さん!可愛い甥っ子の頼みじゃん?!」
「あの子が忘れられないんだよ~~!お願い!」
「・・・・・・ダメだっつってんだろ、脳みそ入ってんのか!この三馬鹿が!」
ランドルフの護衛騎士の一人、ハイエナ獣人のハニルの前には、彼と同じハイエナの獣人が三人。
ハニルを囲い込むように駄々をこね、騒ぎ立てている。
この三人は先日成人したばかりだが、同い年のナディルと比べても幼い気がする。(精神年齢的に)
しかし体はハニルよりも大きく、三人とも立派な肉食獣人。
ハニルは眉間に深い皺を寄せ、ハァ、とため息をついた。
こと始まりは三時間ほど前のこと。
いつものようにランドルフの護衛業務に従事していたハニルは帰り際、ランドルフと番になったばかりの人間ナディルに呼び止められた。
ナディルの背後には、じとっとした嫉妬心を隠そうともしないランドルフが睨みを利かせている。
「あ、あの・・・ハニルさん、これよかったら・・・!ハニルさんをイメージして彫ったんです。」
「・・・私に、ですか。よろしいので・・・?」
「は、はいっ。いつも優しくしていただいてる、お、お礼なので・・・!」
「ランドルフ様睨まないでください。ナディル様のご厚意が受け取れません。」
「・・・チッ」
あまりの鋭さにハニルは苦言を呈す。
舌打ちをしたランドルフとは反対に、目を見開いたナディルは慌てて後ろを向いた。
「こら!ランドルフはもう三つも持ってるでしょ?欲張ったらダメだよ?!」
「・・・ナディル様、そうではなくて・・・。おそらくただの嫉妬かと。」
「・・・バングルに嫉妬・・・?」
「・・・コホン。では、ありがたく頂戴します。ありがとうございます。」
「ナディル、もういいだろ。部屋に行こう。」
「っ、わ!」
ランドルフはナディルの返事を待たず、華奢な体を抱え上げ自室へと向かう。
ナディルは人前で抱え上げることに慣れておらず、必死に抵抗するが全く持って意味をなさない。
真っ赤な顔の人間と、鼻歌混じりの獅子の獣人。
護衛達は最近こんな光景ばかり見ていた。
ハニルはただ単に二人の惚気を見せつけられただけなのでは、とさすが口にはしないが、二人の背中を見ながら棒読みの挨拶をしてさっさと屋敷を後にした。
屋敷の広い廊下を歩く途中、今日は用事があったことを思い出した。
ハニルの父の弟、つまり叔父一家が三日程こちらの街に遊びに来るらしく、今夜は実家に顔を出すよう連絡が来たのだ。
いつもは騎士団の宿舎生活を送るハニルには少し面倒な案件なのだが、久しぶりに可愛い従兄弟たちに会えるのなら、と実家へ帰ることにした。
従兄弟たちに会うのも・・・六年ぶり。
ハニルは自分の記憶を辿り、可愛い甥を思い出す。
従兄弟たちが好きだった『ララの焼き菓子店』の甘い焼き菓子を買って、屋敷からそう遠く離れていない実家へと歩き始めた。
年季の入った玄関扉を二度ノックする。
ドタバタと、想像以上に大きく鳴り響く足音がこちらへと近づいてきて、ハニルは何故か嫌な予感がした。
「「「おかえり!」」」
「・・・・・・思ってたのと違う。」
数年前に会った従兄弟は、ハニルの胸元ぐらいの背丈だったのにとっくに越されている。
デカい、ゴツい。可愛さはどこへ?
そんなハニルのもやもや感なんて、微塵も気づかない三つ子は突然、揃いも揃って鼻を動かし始めた。
くんくんくんくんくんくんくん・・・もう鬱陶しいほどに。
ララの焼き菓子がそんなに食べたいのか、とハニルは三人の目の前に紙袋を差し出す。
「ほら、これだろ。お前たちの好きなララの焼き菓、」
「何で兄さん、この匂いさせてんの?」
「やっぱ、そうだよな?あの子の匂いだ!」
「すっげぇ、いい匂い!どこから・・・あっ!これじゃん!このバングルから匂いがする!」
「・・・はあ?」
せっかく買ってきたララの焼き菓子を丸無視した三つ子が夢中になっている物。
それは先ほどナディルに貰ったばかりのバングルだった。
くんくんくんくんくんくんくんくん・・・・・・
ああ、鬱陶しい・・・!
大男が群がって、鬱陶しすぎる!
「~~っ、このバングルが何だ!?ランドルフ様の番からいただいたんだよ!ああっ、もういい加減離れ、」
「「「はあああ?!番?!」」」
「っ、そうだよ、番!それが何だ?!」
三人揃ってぽかんと口が開く。
こんな時でも三つ子は息ぴったりだ。
ハニルは自分に纏わりついた手を払いのけ、三人を置いて一人リビングの方へ向かった。
リビングには自分の両親と叔父がテーブルを囲んでいた。
「久しぶりだな!・・・ん?どうした、疲れてるのか?仕事が忙しすぎるのもよくないぞ。」
「・・・叔父さん、これは三つ子のせいだから。」
お門違いの心配をする叔父に、ハニルはまたため息をついた。
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