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「こんにちは、ターリャさん。今日は屋敷に人が多いですね。何かあるんですか?」
休みの日は時間が経つのが早い。
あっという間に今日はターリャさんのところで仕事の日だ。
昨日は朝から晩まで思う存分ゴロゴロしてやった。腹が減ったらあの果物食えばいいし。
水浴びだって湖でできる。
一昨日痛い目見たから、翼を出して飛ぶのは家の周りだけにしたし。
休みを満喫して、リフレッシュした俺の前にはいつもにも増してニコニコしているターリャさん。
いつもこの屋敷には数人のメイド?みたいな人達がいるけど、今日はニ倍くらいの人がいる。
みんな慌ただしく働いていて、何だか忙しそうだ。
「こんにちは、アヤトさん。今日からしばらく坊っ・・・、旦那様がこちらに滞在されるとのことで、皆喜んでお出迎えの準備をしているのですよ。応援に人を呼んだのですが、アヤトさんにもお手伝いいただきます。よろしくお願いしますね。」
「へー・・・あ、はい。よろしくお願いします。」
余程嬉しいのか、本当にターリャさんニコニコしてて、(見えない)花まで舞っている。
今日は初めて屋敷の奥の方まで通されて、主人が過ごすと言う書斎とかの清掃を手伝うことになった。
こんなにも広いとそりゃ人手がいくらあっても足りないよな。「アヤトさんになら信用して任せられます」なんて言われたら、俺だって張り切っちゃうぞ。
「しばらくあの森を見て回りたいそうなんです。こちらに長期間滞在するのは大変珍しいのですよ。」
「ほー・・・ソウナンデスカ・・・」
「はい。何やら並々ならぬ気合が入っているそうで、騎士達も大勢来るようなのです。凶悪な魔物に関する情報でも得たのでしょう。」
「ほー・・・ほー・・・」
花の咲き誇る庭の片隅で、休憩の茶を飲みながら思わずフクロウみたいな相槌になってしまう面倒臭そうな案件を聞いてしまった。
領主が、
森を、
見て回る?
えー・・・?帰り道鉢合わせたら魔物と勘違いされて連行とかされちゃうの?めんどくせぇー・・・。
遠回りだけど、いつもと違う道通って帰るか。はぁ。ツイてない。
「・・・?アヤトさん、どうかされましたか?私としたら・・・浮かれすぎて仕事を任せすぎました・・・。お疲れでしたら今日はもう上がってよろしいですよ。」
「い、いえ!ちょっとボーッとしてただけで疲れてないです。大丈夫です。あと少しで終わりますから。」
「そう・・・ですか?では引き続きよろしくお願いします。もうすぐ旦那様もお帰りになられますから、ぜひアヤトさんもお会いになられてください。」
「お、俺のことはお構いなく。じゃ、じゃあ、俺仕上げしてきますね!お茶ご馳走様でした!」
「あ、アヤトさん・・・?」
急いで立ちあがり、小走りで今日の持ち場に戻る。
ターリャさん驚いてたけど、とにかく俺は偉い奴と関わろうなんてこれっぽっちも望んでない。
静かにひっそりと、たまに串焼きでも買って小さな贅沢しながら森で暮らせればそれでいい。
あの神様の言っていた『美味い神力』が未だに何なのかは分からんが、クレームも来てないし(来るのかも知らん)、まあ、大丈夫だろ。
うっし。あとはこの書斎の窓を拭き上げれば終わり。
さっさと済ませて、森に帰ろう。
「触らぬ神に祟りなしってな・・・」
「それはどのような意味があるお言葉なのですか?」
「?!!!?!!」
書斎から繋がっている庭の方に出て、しゃがみ込んで、窓の縁をきゅっ、きゅっ、と拭きあげながら、いつもの様に溢れてしまった独り言。
誰も聞いていないと信じていたのに、左横から低く響く良い声で返事が返ってきた。
顔を覗き込まれて、ドアップで近づいてきたのは、あの、一昨日見た、あの、あの、あの男前ーーーーー・・・!!
「ああ・・・やはりお美しい・・・!まさかこのような場所でお会いできようとは夢にも思わず、このような格好で申し訳ございません。」
「なっ、えっ、なん、で、ここ、え?もしかして、お、おまえ、」
「シハーヴ、とお呼びください、愛し子様。ここは・・・私の屋敷ですよ。」
「#$○☆〆*~~?!!」
ターリャさんの言う旦那様、まさか男前かーい。・・・ってことは、領主じゃん。偉い奴じゃん。関わりたくなかった奴じゃーーん。
じゃあまさか森で探そうとしてたの魔物じゃなくて・・・・・っ!?
「我が領地の威信をかけて貴方様をお探ししようとこちらへ参ったのですが・・・私は何と果報者でしょうか。貴方様から来てくださった・・・!」
「い、いや、別にお前に会いにここに、来たわけで、はなくてだな、」
「どのような形であれ、ここでお会いできたのは我らが偉大なる神、グリューエン様の思召でしょう。後程盛大に祈りを捧げなければ・・・!」
「・・・・・・・・・・・・」
よりによって捧げる相手あの鳥かよ。
全ての元凶じゃねぇか。
俺は何だか頭が痛くなった気がして、はぁ、とおでこに両手を当てた。
「どうされましたか?!」と慌てまくる隣の男前は、そう言いながらも俺の腰に手を回し、ガッチリと固定して離す気はないらしい。
一昨日会った時は、オールバックみたいな感じで後ろに髪を流してた。今日はそこまでカチッとセットしてないらしく、前髪があって少し幼く見える。
キラキラと目を輝かせたシハーヴという男は、何やら思い出した様にハッとして、腰紐あたりに手を伸ばすと、俺の前にある物を差し出した。
「愛し子様。こちら、先日のお忘れ物ですが・・・頂戴してもよろしいでしょうか?」
満面の笑みと共に差し出されたのは、俺が一昨日唯一拾い損ねたあの虹色に輝く羽だった。
休みの日は時間が経つのが早い。
あっという間に今日はターリャさんのところで仕事の日だ。
昨日は朝から晩まで思う存分ゴロゴロしてやった。腹が減ったらあの果物食えばいいし。
水浴びだって湖でできる。
一昨日痛い目見たから、翼を出して飛ぶのは家の周りだけにしたし。
休みを満喫して、リフレッシュした俺の前にはいつもにも増してニコニコしているターリャさん。
いつもこの屋敷には数人のメイド?みたいな人達がいるけど、今日はニ倍くらいの人がいる。
みんな慌ただしく働いていて、何だか忙しそうだ。
「こんにちは、アヤトさん。今日からしばらく坊っ・・・、旦那様がこちらに滞在されるとのことで、皆喜んでお出迎えの準備をしているのですよ。応援に人を呼んだのですが、アヤトさんにもお手伝いいただきます。よろしくお願いしますね。」
「へー・・・あ、はい。よろしくお願いします。」
余程嬉しいのか、本当にターリャさんニコニコしてて、(見えない)花まで舞っている。
今日は初めて屋敷の奥の方まで通されて、主人が過ごすと言う書斎とかの清掃を手伝うことになった。
こんなにも広いとそりゃ人手がいくらあっても足りないよな。「アヤトさんになら信用して任せられます」なんて言われたら、俺だって張り切っちゃうぞ。
「しばらくあの森を見て回りたいそうなんです。こちらに長期間滞在するのは大変珍しいのですよ。」
「ほー・・・ソウナンデスカ・・・」
「はい。何やら並々ならぬ気合が入っているそうで、騎士達も大勢来るようなのです。凶悪な魔物に関する情報でも得たのでしょう。」
「ほー・・・ほー・・・」
花の咲き誇る庭の片隅で、休憩の茶を飲みながら思わずフクロウみたいな相槌になってしまう面倒臭そうな案件を聞いてしまった。
領主が、
森を、
見て回る?
えー・・・?帰り道鉢合わせたら魔物と勘違いされて連行とかされちゃうの?めんどくせぇー・・・。
遠回りだけど、いつもと違う道通って帰るか。はぁ。ツイてない。
「・・・?アヤトさん、どうかされましたか?私としたら・・・浮かれすぎて仕事を任せすぎました・・・。お疲れでしたら今日はもう上がってよろしいですよ。」
「い、いえ!ちょっとボーッとしてただけで疲れてないです。大丈夫です。あと少しで終わりますから。」
「そう・・・ですか?では引き続きよろしくお願いします。もうすぐ旦那様もお帰りになられますから、ぜひアヤトさんもお会いになられてください。」
「お、俺のことはお構いなく。じゃ、じゃあ、俺仕上げしてきますね!お茶ご馳走様でした!」
「あ、アヤトさん・・・?」
急いで立ちあがり、小走りで今日の持ち場に戻る。
ターリャさん驚いてたけど、とにかく俺は偉い奴と関わろうなんてこれっぽっちも望んでない。
静かにひっそりと、たまに串焼きでも買って小さな贅沢しながら森で暮らせればそれでいい。
あの神様の言っていた『美味い神力』が未だに何なのかは分からんが、クレームも来てないし(来るのかも知らん)、まあ、大丈夫だろ。
うっし。あとはこの書斎の窓を拭き上げれば終わり。
さっさと済ませて、森に帰ろう。
「触らぬ神に祟りなしってな・・・」
「それはどのような意味があるお言葉なのですか?」
「?!!!?!!」
書斎から繋がっている庭の方に出て、しゃがみ込んで、窓の縁をきゅっ、きゅっ、と拭きあげながら、いつもの様に溢れてしまった独り言。
誰も聞いていないと信じていたのに、左横から低く響く良い声で返事が返ってきた。
顔を覗き込まれて、ドアップで近づいてきたのは、あの、一昨日見た、あの、あの、あの男前ーーーーー・・・!!
「ああ・・・やはりお美しい・・・!まさかこのような場所でお会いできようとは夢にも思わず、このような格好で申し訳ございません。」
「なっ、えっ、なん、で、ここ、え?もしかして、お、おまえ、」
「シハーヴ、とお呼びください、愛し子様。ここは・・・私の屋敷ですよ。」
「#$○☆〆*~~?!!」
ターリャさんの言う旦那様、まさか男前かーい。・・・ってことは、領主じゃん。偉い奴じゃん。関わりたくなかった奴じゃーーん。
じゃあまさか森で探そうとしてたの魔物じゃなくて・・・・・っ!?
「我が領地の威信をかけて貴方様をお探ししようとこちらへ参ったのですが・・・私は何と果報者でしょうか。貴方様から来てくださった・・・!」
「い、いや、別にお前に会いにここに、来たわけで、はなくてだな、」
「どのような形であれ、ここでお会いできたのは我らが偉大なる神、グリューエン様の思召でしょう。後程盛大に祈りを捧げなければ・・・!」
「・・・・・・・・・・・・」
よりによって捧げる相手あの鳥かよ。
全ての元凶じゃねぇか。
俺は何だか頭が痛くなった気がして、はぁ、とおでこに両手を当てた。
「どうされましたか?!」と慌てまくる隣の男前は、そう言いながらも俺の腰に手を回し、ガッチリと固定して離す気はないらしい。
一昨日会った時は、オールバックみたいな感じで後ろに髪を流してた。今日はそこまでカチッとセットしてないらしく、前髪があって少し幼く見える。
キラキラと目を輝かせたシハーヴという男は、何やら思い出した様にハッとして、腰紐あたりに手を伸ばすと、俺の前にある物を差し出した。
「愛し子様。こちら、先日のお忘れ物ですが・・・頂戴してもよろしいでしょうか?」
満面の笑みと共に差し出されたのは、俺が一昨日唯一拾い損ねたあの虹色に輝く羽だった。
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