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「どうか、どうか・・・貴方様・・・の御尊名だけでも教えていただけないでしょうか・・・っ」
「•・・・・・・・・・・・・」
眼下で片膝を付き、片手を胸にあて、乞い願う男の瞳は燃える様な赤色。
あー・・・これは超絶面倒くさい。何なら時間を巻き戻す魔法とかないのかな。ないけど。
調子に乗った俺が悪いのはわかってる。完全に自分で蒔いた種だ。
だって今日はめちゃくそ汚い家の掃除して、感じの悪い雇い主で、予定より時間かかったからとか難癖つけられて賃金値下げするとか言われて「イイコトさせてくれるなら、元の賃金払うけど」って尻触ってきたから一発蹴り入れて・・・・・・とりあえずむしゃくしゃしてたんだよ!
森中をバサバサ飛び回って羽を突散らかして、ここどこだ?ってぐらい見知らぬ所まで来たもんだから、一息ついて、落とした羽を拾いに回って(光ってるからすぐ分かる)・・・・・・たら、こいつに見つかったんだよ。
それにしても男前だなー、こいつ。
彫りの深い顔が浅黒い肌に合ってるし、ルビーみたいな赤い目も、日に焼けて色が少し抜けた茶色の短い髪も、逞しい体も。どっか異国のモデルみたい。いや、ここ異世界か。
・・・いや、とにかくどうしたものか、この状況。男が握りしめて離しそうもないその虹色の羽も、消し損ねた俺の背中から生えた同じく虹色に輝く翼も、言い訳のしようが無い。
そんでもって俺らの周りには、隠れてるみたいだけど他の人の気配もする。というか多分この男前の護衛か何かだろ。その格好からして身分高そうだし。
あーー・・・下手こいたー・・・
「申し遅れました。私、シハーヴと申します。」
「・・・・・・見逃してくれません?」
「そ、そんな・・・っ!愛し子様がこの世に本当に存在し、ましてやこのようにお会いできるなど言葉に出来ないほどの幸運なのです!どうか、どうか・・・そのようにおっしゃらないでください・・・っ」
「えぇ・・・・・・?」
ほろり、ほろり、と涙を流す男前。
えー・・・そんなー・・・泣かなくても・・・。
どうすっかなー・・・んー・・・やっぱこういう時は・・・。
「逃げの一手。」
「あっ、お待ちください!愛し子様ーーーーーー!」
『どうもこうもならない時は、逃げてもいい。』
高校の時の担任から言われた言葉だ。全部に頑張ってたら疲れるだろ、って。まあ、確かに。全部逃げるのは駄目だろって思うけど、今!この時!が俺のどうもこうもならない時だ。
「この翼のせいでこうなったけど、翼があってよかったわ。飛べるし。」
あの男前から見えなくなるところまで飛べば問題ない。
この世界に魔法はあるけど、俺みたいに飛んだりできないみたいだし。なんなら魔力持った人めっちゃ少ないし。
「・・・しばらくは心穏やかに仕事できるところだけに行こう。」
元はと言えばあのセクハラ親父の家で仕事をしたのが間違いだった。
俺が荒ぶることなく仕事ができれば、こんな羽を突散らかすこともなかったのに。
さっきの男前が持ってた羽以外は回収できたし、さっさと家帰って寝よ。
ボッ、と火魔法で集めた羽を燃やす。その燃えかすが風に靡いて空に舞った。
「燃えても尚綺麗って、すげーよなー・・・」
誰に話しかけたでもなく、俺のただの独り言。
明日は仕事ないし、明後日はターリャさんのとこだ。
今日はあの果物もたらふく食べて、買ってきた串焼きも食べて、ごろごろして、そのまま寝てやる。
青い屋根が見えると少しホッとした。
この家の周囲には、魔物は勿論人間も、入れないからだ。
元々一人に慣れている。嫌でも慣れないといけない環境だったから、いつの間にかそれが普通になっていた。
「・・・・・・疲れた時には甘いもの。」
また独り言を呟きながら、あの桃に似た果物をもぐ。
空に浮かんだままそれを齧ると、口いっぱいに甘い果汁が広がって、少し落ち着いた。
「•・・・・・・・・・・・・」
眼下で片膝を付き、片手を胸にあて、乞い願う男の瞳は燃える様な赤色。
あー・・・これは超絶面倒くさい。何なら時間を巻き戻す魔法とかないのかな。ないけど。
調子に乗った俺が悪いのはわかってる。完全に自分で蒔いた種だ。
だって今日はめちゃくそ汚い家の掃除して、感じの悪い雇い主で、予定より時間かかったからとか難癖つけられて賃金値下げするとか言われて「イイコトさせてくれるなら、元の賃金払うけど」って尻触ってきたから一発蹴り入れて・・・・・・とりあえずむしゃくしゃしてたんだよ!
森中をバサバサ飛び回って羽を突散らかして、ここどこだ?ってぐらい見知らぬ所まで来たもんだから、一息ついて、落とした羽を拾いに回って(光ってるからすぐ分かる)・・・・・・たら、こいつに見つかったんだよ。
それにしても男前だなー、こいつ。
彫りの深い顔が浅黒い肌に合ってるし、ルビーみたいな赤い目も、日に焼けて色が少し抜けた茶色の短い髪も、逞しい体も。どっか異国のモデルみたい。いや、ここ異世界か。
・・・いや、とにかくどうしたものか、この状況。男が握りしめて離しそうもないその虹色の羽も、消し損ねた俺の背中から生えた同じく虹色に輝く翼も、言い訳のしようが無い。
そんでもって俺らの周りには、隠れてるみたいだけど他の人の気配もする。というか多分この男前の護衛か何かだろ。その格好からして身分高そうだし。
あーー・・・下手こいたー・・・
「申し遅れました。私、シハーヴと申します。」
「・・・・・・見逃してくれません?」
「そ、そんな・・・っ!愛し子様がこの世に本当に存在し、ましてやこのようにお会いできるなど言葉に出来ないほどの幸運なのです!どうか、どうか・・・そのようにおっしゃらないでください・・・っ」
「えぇ・・・・・・?」
ほろり、ほろり、と涙を流す男前。
えー・・・そんなー・・・泣かなくても・・・。
どうすっかなー・・・んー・・・やっぱこういう時は・・・。
「逃げの一手。」
「あっ、お待ちください!愛し子様ーーーーーー!」
『どうもこうもならない時は、逃げてもいい。』
高校の時の担任から言われた言葉だ。全部に頑張ってたら疲れるだろ、って。まあ、確かに。全部逃げるのは駄目だろって思うけど、今!この時!が俺のどうもこうもならない時だ。
「この翼のせいでこうなったけど、翼があってよかったわ。飛べるし。」
あの男前から見えなくなるところまで飛べば問題ない。
この世界に魔法はあるけど、俺みたいに飛んだりできないみたいだし。なんなら魔力持った人めっちゃ少ないし。
「・・・しばらくは心穏やかに仕事できるところだけに行こう。」
元はと言えばあのセクハラ親父の家で仕事をしたのが間違いだった。
俺が荒ぶることなく仕事ができれば、こんな羽を突散らかすこともなかったのに。
さっきの男前が持ってた羽以外は回収できたし、さっさと家帰って寝よ。
ボッ、と火魔法で集めた羽を燃やす。その燃えかすが風に靡いて空に舞った。
「燃えても尚綺麗って、すげーよなー・・・」
誰に話しかけたでもなく、俺のただの独り言。
明日は仕事ないし、明後日はターリャさんのとこだ。
今日はあの果物もたらふく食べて、買ってきた串焼きも食べて、ごろごろして、そのまま寝てやる。
青い屋根が見えると少しホッとした。
この家の周囲には、魔物は勿論人間も、入れないからだ。
元々一人に慣れている。嫌でも慣れないといけない環境だったから、いつの間にかそれが普通になっていた。
「・・・・・・疲れた時には甘いもの。」
また独り言を呟きながら、あの桃に似た果物をもぐ。
空に浮かんだままそれを齧ると、口いっぱいに甘い果汁が広がって、少し落ち着いた。
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