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しおりを挟む「いい加減離さぬか!無礼者!」
吊し上げるように片手で掴んだ足は、鳥の足。
いいか。『鳥のような細い人間の足』のことを言ってるんじゃない。間違いなく、鳥の足。
鶏ガラからスープをとって料理をするような趣味も金もないけど、こんなその辺に転がった木の棒みたいな足からあんな美味い出汁がとれるとは未だに信じがたい。
ましてや、目の前の『今からこの鳥を捌いてみましょう!』とテロップが付きそうな格好で俺に吊し上げられた鳥の羽が、七色に輝く虹色だなんて、誰が信じられるのだろうか。
そしてここがほんの数時間前まで居た俺の生まれ育った世界とは全く違う異世界だと言うことも。
神様の気まぐれで連れてこられた所謂異世界転移したということも。
信じてやらないし、とりあえず全ての元凶であるこの五月蝿い目の前のキラキラ鳥を何とかしてやりたい。
「・・・へぇ~。火魔法ってこんな勢いよく火が出るんだな~。本当に魔法使えんだな、ここ。あー、焼き鳥食いたいな~。」
「こ、この、た、戯け・・・、ま、まさか・・・や、やめろ!や、やめてくれ!」
「人にお願いするときの態度とは思えねぇなー。あー、焼き鳥にはやっぱ塩かなー、タレかなー。」
「やめてください!お願いします!!」
「分かればいいんだよ、分かれば。・・・で?俺にこれから何をさせるつもりだったんだっけ?なぁ、カミサマ。」
「・・・・・・お主、やはり只者ではないな。連れてきた甲斐があ・・・、これ、よさぬか!やめ、やめろ!やめてください!」
「・・・・・・・・・・・・」
実際に近くで見たことはないけど、鷹とか鷲とか、そのくらいの大きさだろうな。
俺が今「カミサマ」と呼んだこの鳥は、こちらの世界で言う、本当に、本物の、正真正銘、神様らしい。
「お主には全属性最高ランクの魔法が使えるようにしてやったぞ」と言われても「僕はUFOと交信ができるんです」と言われているような、まあ、詐欺に遭っている最中のような感覚だったけど、実際に使えたのだからもう信じるしかない。
俺は得体もしれない異世界に、この目の前の虹色の鳥のせいで連れてこられ、
しかも二度と元の世界には戻れない。
何だそのとんでも展開は。
幼少期の育児放棄からの児童相談所からの児童養護施設からの仕事の虫の俺の帰りを待つ奴なんて居ないけどさ。
戻れないって分かってたら、あの冷蔵庫に入れっぱなしのたまにしか買えない牛乳プリン食いたかった。
・・・とりあえず、俺はまだこんなこと考えるくらいには混乱している。当然だよな?
「・・・何で羽拾っただけでこんなことになんだよ。意味わかんねぇだろ。」
そう、俺はビル清掃の仕事から築30年のボロアパートに帰る途中、偶然にも道に落ちていた綺麗な虹色の羽を拾っただけ。
街灯がない寂れた街の道だったけど、月明かりで光り輝いていて、本当に綺麗だったから思わず手を伸ばし、拾って、顔を上げたらもう雲の上だよ?
雲海の上に俺、立ってんの。で、目の前には拾った虹色の羽と同じ翼の喋る鳥。
何回も頬をつねったし、叩いたけど、夢じゃなくて現実だから、ただ痛いだけだった。
「そちらの世界の神とは古い友でな。好む人間を一人こちらに連れて行って愛でるといい、と言われたのだ。」
「・・・・・・・・・」
何という身勝手な神なのか。
そもそも神様なんて本当に居たんだな。
八百万の神、なんて聞くけど一体どこのどの神だ。見つけだした暁には一発殴ってもいいよな。
「その我の羽には真に魔法の素質がある者、我と相性の良い魂を持った者にしか見えぬよう細工をした。そちらの世界の色々なところに置いて試したが、アヤトしかその羽を手にしなかった。余程其方の魂が我と合うのであろう。其方であれば立派に愛し子としての役目を果たし、我にとびきり美味い神力を、」
「待て待て待て。待・て・!新しいワードが出てきたぞ。愛し子って何だ、神力って何だ、今すぐ答えろ、吐け、しかも今美味い神力っつったな?てめぇ、まさか自分の飯のために俺をここに連れて来たわけじゃねぇよな?ああ?」
「・・・・・・・・・さて、其方には南方の国が良いと思っておる。あちらは特に我への信仰心も強いからな。其方もさぞ暮らしやすかろう。さあ、行ってこい!」
「はぁ?はああ?ちょっ、雲、がっ!消えてんじゃ、はああああ?!てめぇ!!まじで次会ったら焼くからな!!!」
「アヤト、期待しておるぞ。その翼は消すこともできるからな。今後の活躍期待しておるぞ。」
俺の足元にあった雲が消え、あっという間に落ちていく。スカイダイビングなんかしたことないのに、こんな形で経験するとは思わなかった。
にこりと微笑んでいるように見えるあのキラキラ鳥が自身の翼を大きく動かすと、俺の体はさらにぐんっと速く急降下し、地上だと思われる方に落下して行った。
「このっ・・・・・・クソ神がぁぁぁああああ!!!」
全身全霊の叫びも虚しく、あれよあれよと地上に落ちて行った俺は、あの神様が言っていた南方の国【イーリス】で暮らすことになったのだった。
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