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番外編
42(挿絵有り)
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川の水が流れる音。
風が吹くと揺れる木々。
動物の鳴き声。
森は、いつだって僕を癒してくれる・・・・・・・・・・・・はずなんだけど・・・・・・?
「ソ、ソルフ~・・・ちょっ・・・と・・・ま、待ってよぉ・・・」
『意地を張らず、いい加減背に乗れ。』
「だから・・・っ、こんな森の中でソルフが飛んだら・・・、風で木が全部倒れ・・・ちゃうでしょお・・・!」
『森の一つや二つどうってことな、』
「だ・め・な・の!!」
『・・・・・・全く、困ったものだ。』
「どっちがですか・・・」
小竜姿のソルフは、フンッと鼻を鳴らす。
竜の姿だから表情は分かりにくいはずなのに、僕には人間の姿で眉間に皺を寄せたソルフの顔が重なって見えた。
これは僕にとって、数日ぶりの運動。
森の中だとなかなかハード。
西の森は、訓練にはもってこいの場所だと思う。
『二日もすれば戻ってくるのだろう?大人しく待てばよかったのだ。』
「だっ・・・だってこの小刀、ロシュさん使うだろうから・・・」
『何があっても大人しく待つようにと今朝方、念を押して出て行ったのは虎だぞ?』
「・・・まだこの辺りにいるだろうし・・・団員さんに・・・これ、わ・・・渡したら・・・すぐ・・・帰るもん・・・」
『・・・あの虎の顔が見ものだな。』
なんだか最近益々ソルフが意地悪になってきた気がする。
僕は思わず背後に吹雪が舞うロシュさんを想像して、すぐに首を振った。
先日南方国からの要請で、南の国境沿いにて大規模な魔物討伐がおこなわれた。僕も第一騎士団の団医補佐として、同行したんだけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・情けない事に途中で倒れたんです、はい。
って言っても、あ、あのね・・・そんな大袈裟に、じゃなくて、その・・・
『顔に出ている。あれはやりすぎだった。虎が怒るのも仕方ない。俺もまだ怒っている。』
「・・・だって・・・・・・治療中のフォルさんに・・・襲いかかった魔物がいたから・・・・・・つい・・・」
『"つい"で隣国の魔物全て消し去る奴が他に居るのか?』
「うう・・・」
『倒れるシンを目の当たりにしたこっちはたまったものではなかったぞ。』
「・・・・・・ご・・・めんなさい。」
『重々反省する事だな。』
「・・・・・・むう。」
その時近くにロシュさんは居なかった。
そりゃ、そうだ。ロシュさん団長だもん。
四六時中僕の面倒見てたら仕事にならないでしょ?
で、急に目の前から消えた魔物の群れに嫌な予感がして、僕のところに飛んできたロシュさんは、とんでもなく・・・荒ぶったそう。
団員さんたちは魔物が消えて万々歳だったのに、そこら中を氷や雪が舞って・・・・・・それはもう大変だったんだって・・・・・・・・・(特にフォルさん、ごめんなさい)
『それはそうと近くに誰かいるぞ。』
「え゛!ロ、ロ、ロシュさん?!」
『いや、この気配はおそらく、ヨ』
「あんれぇ~~~?!やっぱりシンくんじゃん!どーしたの?今回はお休みのはずでしょ~?」
「わあああああ、びっ、びっくりしたぁ・・・」
近くの大木の枝からぶら下がるようにして登場したのは、イヒヒ、と悪戯っ子の顔で笑うヨミさんだった。
そういえば、今日は第二の皆さんも一緒だったんだっけ。
・・・・・・い、いけない!ヨミさん、口止めしておかないと!!
「あ、あの!ヨミさん、僕がここに居たことは、な、内緒にしてもらってもいいですか?!」
「んん~?どうしてぇ?」
「えっと、それは、あの・・・・・・、あ!!と、とにかく、こ、これをロシュさんに、渡してください!!」
「ロシュの小刀だぁ。そういえば今日は持ってなかったねぇ。」
「ぐ、偶然、落ちてたのを、空から見つけたってことに、し、してもらって、僕は今すぐ街に戻って、」
「あは。ロシュ、すぐ来るよぉ?」
「・・・・・・え゛」
にこー♡と笑ったヨミさんはソルフに『帰ったらまた飲もうねぇ』と呑気に声をかけている。
あああ・・・!心臓がばくばく鳴りだしたぁ・・・!
少し離れたところから何やら声が聞こえてきた。これはおそらく第一の方々の声。必死に叫んでるけど、これは間違いなくみなさん僕を逃がそうとしてくれてる。こんなにも優しいみなさんを、巻き込んでしまって、ご、ご、ごめんなさい・・・!
「シンくんも甘いなぁ。ロシュにバレないはずがないでしょお。」
「ゔっ・・・」
「わぁ~、ロシュこっわ~い!じゃ、シンくん!頑張ってぇ!」
「が、が、がんば、がんばるって、な、な、なにを、」
「ほら、あそこ。もう凍ってるねぇ。ロシュったら、元気だなぁ。」
「・・・ひゃあ・・・・・・」
ヨミさんが指を差した先。
地面がパキパキと、凍りついていくのが見える。
僕は背中がぞぞぞ、と冷たくなったけど、これは冷気によるものなのか、恐怖からなのか、もう分かりそうもない。
「・・・そうだ!ソルフも怒ったロシュの相手面倒でしょ~?あっちにみんないるからさ。ちょっと訓練の相手してやってよ!ね!」
『・・・・・・いいだろう。では、シン。また後でな。』
「え゛!・・・えええ゛!?」
ヨミさんのとんでもない提案に、ソルフが頷く。唖然とする僕を横目に、ポンっと人間の姿になったソルフの顔は・・・それはそれは・・・・・・悪い顔だった。
『この際、あの虎によく叱られるといい。』
「ん゛ええええっっ!?」
「あはは、やっぱりソルフも怒ってる。じゃ、シンくん、あっとでねぇ~♡」
「まっ、ま、待っ、」
「あとは、よろしく~!ロシュ~!」
「ああ、任せろ。・・・なあ?シン。」
「\$#%#○*、ひゃ、ひゃいぃ・・・っ!」
すぐ後ろからロシュさんの低~~~い声と本物の冷気を感じる。
地面がバギパキッと一瞬で凍りついついくのを僕は黙って見つめるしかできない。
・・・こんな時でも僕の足元だけ丸く取り残すようにして凍らせないロシュさんは、今一体どんな表情をしているのだろうか。
「俺は今朝、シンに何と言った?」
「よ、よく寝て、よく食べて、ロシュさんたちが、か、帰ってくるのを待っておくように・・・です・・・」
「あれからどのくらい経った?」
「・・・半日、です・・・」
「そうか。なあ、シン。どうやら俺たちはじっ・・・くりと、話し合う必要があるようだ。そう思わないか?」
「・・・・・・はい・・・」
背後から僕の前へ回り込み、少し屈んだロシュさんは俯いていた僕の頬をぷす、ぷす、と指で突く。全く痛くはない。
そして、僕が恐る恐る顔を上げた先のロシュさんはそれはもう・・・・・・にっこりと・・・にっっこりと、微笑んでいて。
僕は生きた心地がしなかった。
-------------------------⭐︎
「ーーーーってこともあったっすね。あの後の団長なかなかめんど・・・いや、何でもないっす。」
あはは、と誤魔化し、果物を齧るフォルさんの声が森に響く。
今日は第一だけで弾丸日帰り遠征訓練。
西の森は王都からそこまで離れてない場所だけど、日帰りでしかも行きも帰りも走って移動というロシュさんの提案に、団員さん達は白目をむいていた。
「・・・そ、その節はみなさんに大変ご迷惑をおかけしました・・・っ!」
「フォル、終わった話を蒸し返すな。」
「シンくん、しばらく"森"って聞くだけで肩揺らしてたっすね。」
「も、もう、十分反省したので揺れません!」
そうです。
僕はとても反省したのです。
この件は、ロシュさんの過保護とはまた別の話。騎士団という"集団"に属すなら、上官の命令は守るべきだ、と。
もう・・・・・・ごもっともすぎて、ですね・・・・・・
あの時のことを思い出して、再び反省中。
僕は二度とロシュさんを本気で怒らすような愚かなことはすまい、と誓ったのである。
無意識に目を閉じて反省していると、突然体がふわりと浮いた。ロシュさんから抱き上げられたことはすぐに分かったんだけど、思わず『んぐぅ』と変な声を出して、バタバタしてしまったのは許してほしい。
「・・・シン、あちらへ行くぞ。フォルがうるさい。」
「うるさい!?俺が!?」
「わああっ、ど、どこ行くんですか?!僕、フォルさんと交代で次の訓練の、」
「今のシンくんの役目は団長の機嫌を直すことっすよ~。俺にはそれできないっす。」
「間違いないな。フォル、なかなか賢いぞ。」
「へいへい、どーも。団長戻ってくるまでディーナさんに指揮権任せますからね~」
「ああ。頼んだ。」
「えええ・・・?」
フォルさんの方を振り向きもせず、森の奥へと進んでいくロシュさんに代わり、僕はフォルさんの肩の辺りから顔を出して何度も頭を下げた。
そんな僕たちをにこにこと笑って見送るフォルさんは、本当に出来た人だと思う。
「うっわぁ~・・・!川だぁ・・・!」
目の前に流れる小川。
澄んだ水は、見ているだけで涼しい気分になる。
まだ冷たいかなぁ。
でも川の水って、冷たいくらいが気持ちいいんだよね。足だけなら・・・・・・?
「足だけならいい。」
「んえっ?!」
「入りたいんだろう?」
「な、な、なんで、僕の考えてること、分かったんですか?!」
「・・・・・・がはっ、あははははっ、」
「・・・?!」
思わず声が大きくなってしまった僕を見て、ロシュさんは大口を開けて笑い出す。僕は何だか恥ずかしくなってきて、耳がカァ~っと熱くなるのが分かった。
「わ、笑いすぎです・・・ロシュさん・・・」
「く、くく、すまない。思った以上に喜んでくれたから嬉しかったんだ。」
「・・・・・・むう。」
「ほら、支えててやるから。機嫌を直せ、シン。」
「・・・・・・もう。しょ、しょうがないですね・・・」
必死に取り繕った僕の言葉に笑いをこぼすロシュさんは、僕の背にそっと手を添えてくれた。
足を川につけると想像以上に冷たくて、少し胸がキュッとする。
「大丈夫か?」
「はい。とっても気持ちいいです。」
「・・・・・・シン、あの時は・・・、」
「・・・?あの時は?」
「怖い思いをさせて・・・すまなかった。だが、」
「謝らないでください。」
僕は首を横に振る。ロシュさんは何か言いたそうな顔をしたけど、これは譲れない。
あれは、僕がいけなかった。
ロシュさんは僕のため、そして、団員さんたちのために沢山のことを考えてくれていたのに。
「僕が100%悪かったんです。あれで僕が怪我をしようと、倒れようと、僕の責任です。ロシュさんは何も悪くありません。でも、」
「でも、何だ?」
僕は足を川から出して、ロシュさんの方を向いて立つ。少し体がぐらついてロシュさんが慌てた顔をしたけど、何とか一人で体を支え、片手を胸に当ててこう言った。
「これからそうならないように、僕は僕のことも、ロシュさんのことも守ります。」
任せてください、と僕は笑った。
ロシュさんはしばらく目をパチパチさせて、驚いた顔をしていた。
「・・・俺の番は、随分と逞しい。」
「僕だって大好きなヒトを守りたいんです。」
「・・・そうか。」
今度は少し泣きそうな顔をして、僕のことを抱き上げたロシュさん。安心する優しい匂いがして、僕は心がくすぐったくなる。
「ふふ。ロシュさんは泣き虫ですね。」
「・・・夜はシンが鳴く番だけどな。」
「・・・・・・っ、もう!!ロシュさん!!!」
予想外の返答に真っ赤な顔の僕。
ロシュさんは自分の鼻をくっつけて嬉しそうに微笑んだ。
すぐ近くで見るロシュさんの瞳は、まるで太陽を吸い込んだ宝石みたい。
川の水が流れる音。
風が吹くと揺れる木々。
動物の鳴き声。
大好きなヒトと、大好きな人達。
僕はやっぱり幸せ者で、それをこれから大事に、大事に守っていきたい。
-------------------------⭐︎
またまたこんにちは、N2Oと申します。
素敵な絵を描いていただいたので、絵をヒントに話を書きました。
この二人、美しすぎませんか・・・?
絵師様(@ninihhc)の才能に乾杯です。
小説のアイコンにもさせていただきました。
この番外編はなんて事ない(?)日常の話なのですが、シンくんが自分のことも相手のことも大切にできる子に育ってくれてるといいな、と思いながら書きました。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
またどこかでお会いできたら嬉しいです。
R5.10.28
風が吹くと揺れる木々。
動物の鳴き声。
森は、いつだって僕を癒してくれる・・・・・・・・・・・・はずなんだけど・・・・・・?
「ソ、ソルフ~・・・ちょっ・・・と・・・ま、待ってよぉ・・・」
『意地を張らず、いい加減背に乗れ。』
「だから・・・っ、こんな森の中でソルフが飛んだら・・・、風で木が全部倒れ・・・ちゃうでしょお・・・!」
『森の一つや二つどうってことな、』
「だ・め・な・の!!」
『・・・・・・全く、困ったものだ。』
「どっちがですか・・・」
小竜姿のソルフは、フンッと鼻を鳴らす。
竜の姿だから表情は分かりにくいはずなのに、僕には人間の姿で眉間に皺を寄せたソルフの顔が重なって見えた。
これは僕にとって、数日ぶりの運動。
森の中だとなかなかハード。
西の森は、訓練にはもってこいの場所だと思う。
『二日もすれば戻ってくるのだろう?大人しく待てばよかったのだ。』
「だっ・・・だってこの小刀、ロシュさん使うだろうから・・・」
『何があっても大人しく待つようにと今朝方、念を押して出て行ったのは虎だぞ?』
「・・・まだこの辺りにいるだろうし・・・団員さんに・・・これ、わ・・・渡したら・・・すぐ・・・帰るもん・・・」
『・・・あの虎の顔が見ものだな。』
なんだか最近益々ソルフが意地悪になってきた気がする。
僕は思わず背後に吹雪が舞うロシュさんを想像して、すぐに首を振った。
先日南方国からの要請で、南の国境沿いにて大規模な魔物討伐がおこなわれた。僕も第一騎士団の団医補佐として、同行したんだけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・情けない事に途中で倒れたんです、はい。
って言っても、あ、あのね・・・そんな大袈裟に、じゃなくて、その・・・
『顔に出ている。あれはやりすぎだった。虎が怒るのも仕方ない。俺もまだ怒っている。』
「・・・だって・・・・・・治療中のフォルさんに・・・襲いかかった魔物がいたから・・・・・・つい・・・」
『"つい"で隣国の魔物全て消し去る奴が他に居るのか?』
「うう・・・」
『倒れるシンを目の当たりにしたこっちはたまったものではなかったぞ。』
「・・・・・・ご・・・めんなさい。」
『重々反省する事だな。』
「・・・・・・むう。」
その時近くにロシュさんは居なかった。
そりゃ、そうだ。ロシュさん団長だもん。
四六時中僕の面倒見てたら仕事にならないでしょ?
で、急に目の前から消えた魔物の群れに嫌な予感がして、僕のところに飛んできたロシュさんは、とんでもなく・・・荒ぶったそう。
団員さんたちは魔物が消えて万々歳だったのに、そこら中を氷や雪が舞って・・・・・・それはもう大変だったんだって・・・・・・・・・(特にフォルさん、ごめんなさい)
『それはそうと近くに誰かいるぞ。』
「え゛!ロ、ロ、ロシュさん?!」
『いや、この気配はおそらく、ヨ』
「あんれぇ~~~?!やっぱりシンくんじゃん!どーしたの?今回はお休みのはずでしょ~?」
「わあああああ、びっ、びっくりしたぁ・・・」
近くの大木の枝からぶら下がるようにして登場したのは、イヒヒ、と悪戯っ子の顔で笑うヨミさんだった。
そういえば、今日は第二の皆さんも一緒だったんだっけ。
・・・・・・い、いけない!ヨミさん、口止めしておかないと!!
「あ、あの!ヨミさん、僕がここに居たことは、な、内緒にしてもらってもいいですか?!」
「んん~?どうしてぇ?」
「えっと、それは、あの・・・・・・、あ!!と、とにかく、こ、これをロシュさんに、渡してください!!」
「ロシュの小刀だぁ。そういえば今日は持ってなかったねぇ。」
「ぐ、偶然、落ちてたのを、空から見つけたってことに、し、してもらって、僕は今すぐ街に戻って、」
「あは。ロシュ、すぐ来るよぉ?」
「・・・・・・え゛」
にこー♡と笑ったヨミさんはソルフに『帰ったらまた飲もうねぇ』と呑気に声をかけている。
あああ・・・!心臓がばくばく鳴りだしたぁ・・・!
少し離れたところから何やら声が聞こえてきた。これはおそらく第一の方々の声。必死に叫んでるけど、これは間違いなくみなさん僕を逃がそうとしてくれてる。こんなにも優しいみなさんを、巻き込んでしまって、ご、ご、ごめんなさい・・・!
「シンくんも甘いなぁ。ロシュにバレないはずがないでしょお。」
「ゔっ・・・」
「わぁ~、ロシュこっわ~い!じゃ、シンくん!頑張ってぇ!」
「が、が、がんば、がんばるって、な、な、なにを、」
「ほら、あそこ。もう凍ってるねぇ。ロシュったら、元気だなぁ。」
「・・・ひゃあ・・・・・・」
ヨミさんが指を差した先。
地面がパキパキと、凍りついていくのが見える。
僕は背中がぞぞぞ、と冷たくなったけど、これは冷気によるものなのか、恐怖からなのか、もう分かりそうもない。
「・・・そうだ!ソルフも怒ったロシュの相手面倒でしょ~?あっちにみんないるからさ。ちょっと訓練の相手してやってよ!ね!」
『・・・・・・いいだろう。では、シン。また後でな。』
「え゛!・・・えええ゛!?」
ヨミさんのとんでもない提案に、ソルフが頷く。唖然とする僕を横目に、ポンっと人間の姿になったソルフの顔は・・・それはそれは・・・・・・悪い顔だった。
『この際、あの虎によく叱られるといい。』
「ん゛ええええっっ!?」
「あはは、やっぱりソルフも怒ってる。じゃ、シンくん、あっとでねぇ~♡」
「まっ、ま、待っ、」
「あとは、よろしく~!ロシュ~!」
「ああ、任せろ。・・・なあ?シン。」
「\$#%#○*、ひゃ、ひゃいぃ・・・っ!」
すぐ後ろからロシュさんの低~~~い声と本物の冷気を感じる。
地面がバギパキッと一瞬で凍りついついくのを僕は黙って見つめるしかできない。
・・・こんな時でも僕の足元だけ丸く取り残すようにして凍らせないロシュさんは、今一体どんな表情をしているのだろうか。
「俺は今朝、シンに何と言った?」
「よ、よく寝て、よく食べて、ロシュさんたちが、か、帰ってくるのを待っておくように・・・です・・・」
「あれからどのくらい経った?」
「・・・半日、です・・・」
「そうか。なあ、シン。どうやら俺たちはじっ・・・くりと、話し合う必要があるようだ。そう思わないか?」
「・・・・・・はい・・・」
背後から僕の前へ回り込み、少し屈んだロシュさんは俯いていた僕の頬をぷす、ぷす、と指で突く。全く痛くはない。
そして、僕が恐る恐る顔を上げた先のロシュさんはそれはもう・・・・・・にっこりと・・・にっっこりと、微笑んでいて。
僕は生きた心地がしなかった。
-------------------------⭐︎
「ーーーーってこともあったっすね。あの後の団長なかなかめんど・・・いや、何でもないっす。」
あはは、と誤魔化し、果物を齧るフォルさんの声が森に響く。
今日は第一だけで弾丸日帰り遠征訓練。
西の森は王都からそこまで離れてない場所だけど、日帰りでしかも行きも帰りも走って移動というロシュさんの提案に、団員さん達は白目をむいていた。
「・・・そ、その節はみなさんに大変ご迷惑をおかけしました・・・っ!」
「フォル、終わった話を蒸し返すな。」
「シンくん、しばらく"森"って聞くだけで肩揺らしてたっすね。」
「も、もう、十分反省したので揺れません!」
そうです。
僕はとても反省したのです。
この件は、ロシュさんの過保護とはまた別の話。騎士団という"集団"に属すなら、上官の命令は守るべきだ、と。
もう・・・・・・ごもっともすぎて、ですね・・・・・・
あの時のことを思い出して、再び反省中。
僕は二度とロシュさんを本気で怒らすような愚かなことはすまい、と誓ったのである。
無意識に目を閉じて反省していると、突然体がふわりと浮いた。ロシュさんから抱き上げられたことはすぐに分かったんだけど、思わず『んぐぅ』と変な声を出して、バタバタしてしまったのは許してほしい。
「・・・シン、あちらへ行くぞ。フォルがうるさい。」
「うるさい!?俺が!?」
「わああっ、ど、どこ行くんですか?!僕、フォルさんと交代で次の訓練の、」
「今のシンくんの役目は団長の機嫌を直すことっすよ~。俺にはそれできないっす。」
「間違いないな。フォル、なかなか賢いぞ。」
「へいへい、どーも。団長戻ってくるまでディーナさんに指揮権任せますからね~」
「ああ。頼んだ。」
「えええ・・・?」
フォルさんの方を振り向きもせず、森の奥へと進んでいくロシュさんに代わり、僕はフォルさんの肩の辺りから顔を出して何度も頭を下げた。
そんな僕たちをにこにこと笑って見送るフォルさんは、本当に出来た人だと思う。
「うっわぁ~・・・!川だぁ・・・!」
目の前に流れる小川。
澄んだ水は、見ているだけで涼しい気分になる。
まだ冷たいかなぁ。
でも川の水って、冷たいくらいが気持ちいいんだよね。足だけなら・・・・・・?
「足だけならいい。」
「んえっ?!」
「入りたいんだろう?」
「な、な、なんで、僕の考えてること、分かったんですか?!」
「・・・・・・がはっ、あははははっ、」
「・・・?!」
思わず声が大きくなってしまった僕を見て、ロシュさんは大口を開けて笑い出す。僕は何だか恥ずかしくなってきて、耳がカァ~っと熱くなるのが分かった。
「わ、笑いすぎです・・・ロシュさん・・・」
「く、くく、すまない。思った以上に喜んでくれたから嬉しかったんだ。」
「・・・・・・むう。」
「ほら、支えててやるから。機嫌を直せ、シン。」
「・・・・・・もう。しょ、しょうがないですね・・・」
必死に取り繕った僕の言葉に笑いをこぼすロシュさんは、僕の背にそっと手を添えてくれた。
足を川につけると想像以上に冷たくて、少し胸がキュッとする。
「大丈夫か?」
「はい。とっても気持ちいいです。」
「・・・・・・シン、あの時は・・・、」
「・・・?あの時は?」
「怖い思いをさせて・・・すまなかった。だが、」
「謝らないでください。」
僕は首を横に振る。ロシュさんは何か言いたそうな顔をしたけど、これは譲れない。
あれは、僕がいけなかった。
ロシュさんは僕のため、そして、団員さんたちのために沢山のことを考えてくれていたのに。
「僕が100%悪かったんです。あれで僕が怪我をしようと、倒れようと、僕の責任です。ロシュさんは何も悪くありません。でも、」
「でも、何だ?」
僕は足を川から出して、ロシュさんの方を向いて立つ。少し体がぐらついてロシュさんが慌てた顔をしたけど、何とか一人で体を支え、片手を胸に当ててこう言った。
「これからそうならないように、僕は僕のことも、ロシュさんのことも守ります。」
任せてください、と僕は笑った。
ロシュさんはしばらく目をパチパチさせて、驚いた顔をしていた。
「・・・俺の番は、随分と逞しい。」
「僕だって大好きなヒトを守りたいんです。」
「・・・そうか。」
今度は少し泣きそうな顔をして、僕のことを抱き上げたロシュさん。安心する優しい匂いがして、僕は心がくすぐったくなる。
「ふふ。ロシュさんは泣き虫ですね。」
「・・・夜はシンが鳴く番だけどな。」
「・・・・・・っ、もう!!ロシュさん!!!」
予想外の返答に真っ赤な顔の僕。
ロシュさんは自分の鼻をくっつけて嬉しそうに微笑んだ。
すぐ近くで見るロシュさんの瞳は、まるで太陽を吸い込んだ宝石みたい。
川の水が流れる音。
風が吹くと揺れる木々。
動物の鳴き声。
大好きなヒトと、大好きな人達。
僕はやっぱり幸せ者で、それをこれから大事に、大事に守っていきたい。
-------------------------⭐︎
またまたこんにちは、N2Oと申します。
素敵な絵を描いていただいたので、絵をヒントに話を書きました。
この二人、美しすぎませんか・・・?
絵師様(@ninihhc)の才能に乾杯です。
小説のアイコンにもさせていただきました。
この番外編はなんて事ない(?)日常の話なのですが、シンくんが自分のことも相手のことも大切にできる子に育ってくれてるといいな、と思いながら書きました。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
またどこかでお会いできたら嬉しいです。
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ねむ 様
とっっても嬉しいお言葉ありがとうございます・・・!
いつもはちょっとクレイジーなヨミですが、とっても優しい子のイメージでキャラクターを想像してお話を書いていたので、そこを汲み取ってくださって、本当嬉しいです。
高校生の母 様
ご感想、ご質問ありがとうございます!
とても嬉しいです♪
私の考えるお話は基本男性妊娠はありません。
『大切な人と一緒に過ごせること』が終着点でいつも考えています(^^)
ご期待に添えなかった場合は申し訳ありません。
少しでもお楽しみいただけたら、幸いです。
pacot 様
質問ありがとうございます。
ハーレム寄りですね・・・!
最終着地点は固定にしたいんですが・・・。
同じような方がいらっしゃったらいけないので、タグ増やしておきます。
申し訳ありません。