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番外編

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むせ返るような甘い香り。
まだここは城の廊下だ。


「・・・暴走するなよ、俺。」














五日間の討伐予定をどうにか短縮してやろうと必死になって戦ったが、予想より多くの魔物が出たり、周辺の村を見て回ったりしていたら、結局五日になってしまった。


「みんなで打ち上げでもしましょうよぉ?ねえ、ロシュ~?」


ディーナこいつ、今日がシンの誕生日と知ってて言っているな、とすぐ分かるくらい顔がニヤついている。

そんなディーナを無視して、俺は先を急いだ。



ようやく、シンと番になれる。

ようやく、だ。



自分の中の獣が、歓喜に満ちている。



あの白い頸に、俺の牙を突き立てていいのだ、と。

城にいるシンの元へと馬を走らせていると、小竜姿のソルフが飛んできた。
ヒト型ではないからその表情は分からないはずなのに、俺には心底面白くなさそうに顔を顰めているように見えて、思わず「んはっ」と笑いが溢れた。



『笑うな、クソ虎。』

「申し訳ないと思っている。」

『・・・お前がいない間、シンはよく我慢していた。』

「・・・・・・そうか。」

『だから、今日は・・・許す。ささやかだが、部屋に贈り物を施しておいた。』

「ほお・・・それはありがたい。礼を言う。」

『・・・ふん。早く行ってやれ。ネネの奴が張り切って準備とやらをしていたぞ。』




顔をふいっと、横に反らせ、空高く飛んでいく。
あの方向だと、おそらく詰所だな。
ヨミの所にでも行くのだろう。














「ただい・・・ま、シン。」

コンコン、とノックすると小さな返事が返って来た。
久しぶりに聞くシンの声だけで、身体の芯が熱くなる。


部屋に入ると、廊下よりもさらに濃厚な、甘い香り。
俺のなけなしの理性が、焼き切れてしまいそうだ。



部屋を見回すが、シンの姿が見えない。
奥の寝室か・・・?


恐る恐る寝室へ、足を踏み入れる。
いつもなら一歩そこへ入っただけでも、怒り狂うソルフがいない。

何とまあ、楽なことだ。



大きめなベッドが目に入る。

その上に、ちょこん、と座ったシンの姿。
それだけで、愛が溢れそうになる。
シーツを被り自分の身体を隠したシンは、くるり、と俺の方を振り返る。
どうやら、今見ているのはシンの後ろ姿のようだ。

愛くるしいその顔は頬に少し赤みがさしていて、いつもとは違う色気が漂う。




「ロシュ、さん、おかえりなさい。無事で、良かったです。あの、その・・・」

「・・・っ、シーツに包まってどうした?それにしてもこの香りは・・・っ、」

「えっ!?!変な匂いしますか??!ネネさんがめちゃくちゃ念入りに、」
「・・・違うっ・・・シンの・・・甘い香りが・・・っ」

「ぼ、ぼ、僕の?!いつも言ってる香りですか?!」




くんくんと自分の身体を匂い始めたシン。
身体に巻き付けられていたシーツが、身体を起こした拍子にはらり、とベッドに落ちた。



「あっ・・・」

「・・・・・・ネネ、やるな。」




思わず、自分の口を押さえた。
今にも、牙を剥き出しそうになったからだ。





黒く、手触りの良さそうな薄手で光沢のある生地。


腰の付け根から首元まで背中が大きく開いていて、首輪で頸は隠れているものの、肌が顕になっている。


小さく灯る魔道具の灯りが、そのシンの白い背中をゆらり、ゆらり、と照らしていて、堪らなく色気があった。

ズボンも同じ生地だろうが、サイドが少し開いているタイプのもので、隙間から太ももが見える。


背中まで真っ赤なシンは、恥ずかしそうにまたシーツを手繰り寄せようと身を捩る。






「隠すな、シン。全て見せて欲しい。」



小さな手をそっと、止める。
俯いた目元は、その長いまつ毛で影ができていた。




「これ、ぼ、僕似合わないって、言ったんですけど・・・えっと、」

「とても似合っ・・・似合いすぎている。さすがネネ。今度酒でも振る舞うか。ああ見えて大酒飲みだからな。」

「・・・は、ずかしい・・・から、あんまり見ないで・・・ください、」

「・・・すまないが、それは無理だな。」





シンをぎゅっと抱きしめる。
いつもより服の生地が薄いのもあって、肌の熱さがより一層伝わってくる。


緊張しているのか、少し汗が滲んだ身体。

むせ返るほどの、甘い香りが俺の理性を刺激する。






「シン、改めて言う。俺の番になってくれ。一生をかけて、幸せにすると誓う。・・・どうだ?」




手の甲にキスをして、心から言葉を紡ぐ。


出会ってくれて、ありがとう。

生きていてくれて、ありがとう。






「・・・ひっく、もちろん、です、ロシュさん。僕を番にして、ください、大好き。愛してます・・・」







ぽろぽろと、頬を伝うシンの涙。
それを思い切り、ベロン、と舐めとった。

驚いたシンの涙がピタリと止まり、そのあまりの可愛さに俺は思わず笑ってしまった。







「さ、シン。ここからは大人の時間だ。・・・いいよな?今日からソレイユでも成人だもんな。」




顔がにやけるのを抑えられない。

ベッドの上でシンを組み敷いているのだから。





「・・・お手柔らかに・・・お願い、します・・・」

「・・・善処しよう。」





首輪を外し、現れた頸。


大きく開いた口。

その口から見えただろう、俺の牙を、シンは怖がるどころか嬉しそうに笑って見ていて。




俺は思わず、涙がこぼれそうになった。










番外編 おしまい


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