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ソレイユ編

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「シンくん、あっちの人達頼めるっすか?」

「はいっ!勿論です。ソルフ行こ!」

『張り切りすぎるなよ、シン。また倒れたら、俺が小言言われるんだぞ。』

「・・・はぁい。」







北側の森で魔物が出たとの知らせを受けて、僕は第一騎士団のヒト達と一緒に現地に向かった。

先に討伐にあたっていた隊のヒト達が怪我をしていて、僕はフォルさんと一緒に治癒と浄化にあたったいる。







王都に住み始めて、もう数ヶ月が経った。


あの日、謁見した王族の方達からは、僕を黒髪としての保護対象者に加え、数百年ぶりの竜の愛し子として、大々的に発表し、保護したい、と言われた。



「ぶ、無礼かもしれませんが、丁重に、お断りしま、す・・・」



そう答えるのに、僕がどれだけ勇気が必要だったことか・・・身体も声も、ガタガタ震えたのを今でも覚えてるし、思い出すだけで背中がヒヤッとする。
僕の隣に太々しく座っていたソルフが『王族が絡むと面倒臭いから嫌だ』とキッパリ断ってくれて(まさに吐き捨てていた)、事なきを得たんだけど。


僕の取り扱いについては第一騎士団に委任されて、こうしてフォルさんの助手みたいな感じで働かせてもらっている。


働かなくても・・・と、ロシュさんにもソルフにも度々言われたけど、それはどうしても嫌で、首を横に振り続けた。

誰かに依存するんじゃなくて、ちゃんと自分で生活できるように、自立したかったから。







「団医補佐のシンです。わっ・・・痛そうですね・・・。すぐ治しますから、待っててください。」

「・・・いってぇ・・・早く治し・・・・・・はっ?シン様?!!」

「は、はいっ!シンです!あ、フォルさんがあちらの対応をしていて・・・すみません、僕で。痛くないように治」「嫌なわけありません!!!!よろしくお願いします!!!」

「?!!は、はい!こちらこそ、よろしくお願いします。」








「天使が来たじゃん!シャー!!!今日俺ツイてる~~!」

「・・・お前、ソルフ様の顔見てからそれ言えよ。死ぬぞ。」

「・・・・・・うす。」

「お待たせしま・・・、どうしましたか?顔色が・・・出血はそんなに多くなさそうですけど、」

「「何でもないっす!!!!」」

「・・・そ、うですか?では、治癒魔法かけますね。」






騎士団のヒトはどの隊の方も親切で、僕を優しく見守ってくれるから本当に働きやすい。


何回か、加減を忘れて一気に治癒魔法を使ってしまった時があって・・・本当にびっくりするぐらい叱られた。

勿論その相手は・・・






「シン、程々にしとけよ。分かってるか?」

「ひゃっ!ロシュさん!きゅ、急に後ろから抱き付かないでくださいって言ってるじゃないですか!」

「シンはすぐ倒れるからな。ソルフがいても心配なんだ。」

『様付けろ、様を。クソ虎が。すぐ抱きつくな。』

「ソルフにそれを言われる筋合いはない。」

『・・・・・・婚約者で無ければ、かみ殺してやったのに。』





そう、僕とロシュさんはついに正式に婚約した。
ロシュさんの首には、僕の瞳の色と同じ黒い石が付いた首輪が付けられている。


ディーナさんは「諦めてないからね!」とロシュさんには言っていたけど、「揶揄うの楽しいからしばらく付き合ってね。悔しいけど、お幸せに」とこっそり僕に打ち明けてくれた。




「ソ・ル・フ!!」

『・・・・・・チッ。分かった、分かった。おっ、あっちに魔物だぞ。シン、出番だ。』





ヒト型のソルフが軽々しく指をさした先には、中型くらいの魔物が見えた。
魔道具があるとは言え、魔物が全く出ないと言うわけではない。

魔素が溜まりやすい場所にはこうして魔物が現れる。





「わっ!本当だ!みなさん、離れてくださいね!・・・ロ、ロシュさんも!!」

「・・・俺はこのままでも大丈夫だっただろう?」

「何かあったら怖いんです!・・・大事なヒトだから・・・」

「分かった。離れよう。その前に、」







顎を掴まれ、グイッと上を向かされた先にあったのは、やっぱりあの黄金の瞳で。



「愛してるよ、婚約者シン。浄化、よろしく頼むな。」




優しく微笑む黄金の瞳がぐんっと近くなったのはこの後すぐのこと。




唇にちゅ、と小さな音を立てたあと、綺麗に弧を描いた瞳はすぐ離れていった。



取り残された僕はまた、湯気が出そうなくらい顔が真っ赤になったけど、その恥ずかしさを目の前の魔物に全部ぶつけてやった。





サラサラと綺麗な光を残して消えていく魔物の姿を見ながら、僕はあの塔を思い出す。





「こんな自由が来るなんて、思いもしなかった。」






そして、こんなに大切に想うヒト達が出来ることも。









「・・・助けてくれて、ありがとう。大好き。」



小さく呟いたその言葉は、その縞模様の耳にきっと届いているはず。


今日は一体どんな風に、僕に愛を伝えてくれるのか、実は楽しみにしているだなんて、口が裂けても言えないけど。









さあ帰ろう、と後ろを振り向いたら、至近距離にロシュさんが立っていて僕は思わず小さく悲鳴をあげた。

「び、び、びっくり、」
「俺の方こそ、そばに居てくれてありがとう、シン。」

「へっ?」




ふわりと宙に浮いた身体は、いつもの逞しい腕に抱きしめられていた。



「一生愛すと誓う。これからも一緒に居てくれ。それと、」







「来月の誕生日には、ここ噛むからな。」



ここ、と大きな左手で触られたのは僕の頸。
くすぐったくて「んっ、」と声が漏れた。


「・・・嫌って言っても、一緒に居ますからね。」

「それは俺のセリフだな。お、鬼顔のソルフが待ってるぞ。一緒に戻ろう。」

「・・・ひゃい。」




ぎゅっと抱きついたロシュさんからは、甘い甘い香りがする。


この匂いをこれからずっと独占できるだなんて、僕はなんて、




「幸せ者だ。」

「?俺の事か?」

「ふっ、んふふ、僕のことです。」

「・・・そうか。」



ロシュさんの金の瞳が嬉しそうに揺れていて、僕は思わずロシュさんのおでこに、触れるだけのキスをした。













ソレイユ編 おしまい




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