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ソレイユ編
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しおりを挟むぴちょん、と冷たい滴がほっぺたに落ちて、僕は重い瞼をゆっくり開いた。
頭がぼーっとする。
僕どれくらいここで寝てたんだろう。
寝ていた身体の下には、何重にも敷かれた布。
周りを見渡せば、ごつごつとした岩しかない。
ここは・・・?
「・・・ど、うくつの中・・・?」
『そうだ。目が覚めたか。』
「えっ、」
呟いた言葉に返事が返ってくるとは思っていなくて、ビクッと身体が勝手に揺れる。
頭の上からあの声がした。
声のした方を見上げると、洞窟の中の一部がくり抜かれていて、出入り口になっている。
そこから大きな赤い翼を羽ばたかせながら彼は僕のいる所まで降りてきた。
『気を失ったから驚いた。すまない、人間を運んだのは初めてでな。』
「・・・・・・ここは、どこですか・・・」
地面に降り立った彼は、ディーナさんとはまた少し違った、でも、燃えるような赤い瞳をしていた。
瞳の奥で、赤い炎が揺らめいているみたいに見える。
薄い唇、切長な目元。
そして、器用に三つ編みにされた赤い髪。
『魔力だけではなかったか。瞳まで美しい。』
スタスタと、僕の目の前まで歩いてきた彼は片膝をついて、僕のほっぺたにその冷たい手を添える。
うっとりと微笑んだ彼は、親指で僕の目尻を優しく撫で始めた。
『ここは俺の巣だ。誰も入ってこれない。安心しろ。』
「・・・・・・ぼ、くをロシュさん達のところ、に帰してください・・・!」
『・・・?なぜだ。帰すも何も、お前は俺と暮らすんだ。もっと広い巣がいいのか?』
「・・・え?」
彼は心底不思議そうに、首を傾げる。
一緒に暮らす・・・ここで・・・?
「ぼ、くは一緒に住めません・・・!あなたは・・・一体誰で・・・何を言ってるんですか・・・?」
『お前はこの国の者ではなかったか。なるほど・・・俺が何者か知らないわけか・・・。』
「そうで、すけど・・・。人攫い、に、話すことなんか・・・ないで、す・・・」
『・・・アッハハハハ!人攫い!この俺がか。アハハハハ!』
彼は大口を開けて、笑い出す。
笑う間も僕の顔や頭を撫で続けていた。
一頻り、笑い終えた後。
彼は突然僕を横抱きにすると、大きな翼を羽ばたかせ、ふわりと宙に浮かび、あの出入り口から外に出た。
突然の浮遊感に、僕は心臓がキュッとなって、やむ終えず彼にしがみついた。
「ひゃっ、こ、怖い!お、降ろしてください!」
『落とさないからそう怯えるな。自分の目でここがどこか確かめた方が早いだろう?』
「早いって何が・・・えっ、」
いきなり外に出たから目が眩んだ。
風が強く吹いていて、目を開けるのに苦労する。
そして、目を細めて見えたのは、
点々と見える洞窟の入り口、
遥か先に見える建物、
空を舞う、大きな、大きな翼を持った生き物。
本でしか見たことがない。
「・・・・・・竜・・・・・・?!」
『ここは俺達の縄張り。俺は火龍のソルフと言う。』
「だ、だって、身体が、」
『・・・?竜の姿にも、ヒトの姿にもなれるぞ?ソレイユ以外の人間ともなると、そんなことも知らないのか。』
なるほど・・・とブツブツ何か言いながら考え込むように、僕の顔をジロジロ見るソルフ。
ロシュさんと違って、僕より体温が低いみたい。密着した肌が少しひんやりとする。
『まずお前の名前を教えろ。話はそれからだ。』
にやり、と薄く形のいい唇が上がる。
・・・名前を言うまで、絶対に地面に下ろしてくれないな。この人、意地悪な気配がする。
「・・・・・・シン。人間の、シン。」
『くっく。シン、良い名だ。空を飛ぶのは初めてだったか?』
「・・・そう・・・だから、早く降ろして、ください。」
『そうかそうか。これから慣れていけばいい。』
「・・・・・・・・・」
ぷいっと、顔を逸らした僕が面白かったのか、またソルフは喉を鳴らして笑っていた。
ロシュさん達、心配してる・・・かな。
心配かけたこと、謝らないと。
そんなことを考えていたら、ソルフが急降下するもんだから僕は小さな悲鳴をあげて、また意識が飛びそうになった。
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