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グレイス編

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ひゅー・・・と、また風が丘を吹き抜ける。



目の前のヒトはロシュさん達と同じ隊服を着ているけど、首周りのラインの色が違う。
ロシュさん達は臙脂色だけど、このヒトのは深緑色だ。


ヒト懐っこそうな満面の笑み。
翼と同じ黒みの強い焦茶のふわふわした髪。
瞳は金・・・と言うより橙色かな。
まん丸で大きな瞳は好奇心に満ち溢れ、きらきら輝いて見えた。



「ど・・・どちら様、です、うわっ!あれ?!ロシュさん!?」


後ろから抱え上げられ、振り向くと不機嫌そうなロシュさんが居た。
そのまた後ろにいるフォルさんも、ハア、と頭を抱えている。



「・・・・・・ヨミ、陸路で帰れとあれほど言っただろう。シンを驚かせるな。」

「ロシュ!久しぶり。・・・あれぇ?!その子の首輪・・・ロシュのじゃん!そう言うことなのぉ?」

「そうだ。だから気安く近づくな。」

「んー・・・でも僕は、その子の魔力に興味があるんだなぁ・・・ロシュ、邪魔だから吹き飛ばしていい?」

「・・・やってみろ。魔法馬鹿が。」

「け、喧嘩はダメ、ですよっ、ロシュさん!」



ぴりぴり、とした険悪な空気。

目の前のヒトはニコニコ笑ってるけど、言ってることなかなか破天荒じゃない・・・?





「・・・ヨミ。やめろ。」




ロシュさんでも、フォルさんでもない、威圧感のある低い声。



「あちゃー・・・。ヴァンったらもう追いついたの?・・・ちぇ、わかったよ。」

「ヴァン、お前こいつから目離すなって。面倒くせぇ。」

「・・・・・・はい。」

「ヴァンさんも苦労するっすね・・・自由な上官を持つと・・・」

「・・・も、とは何だ、フォル。」

「団長は、身に覚えあるっすよね?」

「・・・・・・チッ」

「・・・ふ、ふふっ、」

「・・・・・・・・・か・・・い、」

「え?」

ロシュさんとフォルさんのやりとりに思わず笑っていたら、あの低い声がかすかに聞こえた。
でも僕がそちらを見ると、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。


ヴァン、と呼ばれたそのヒトは、かなり短い白銀の髪に同じ色の丸みがかった耳。
ちらりと見えた尻尾も白くて、短め。

筋肉質だと言うことは服の上からでも分かるくらい身体が大きい。

「あ、あの。初めまして。人間のシン、と言います・・・えっと、こちらでお世話に、なってます・・・」

「・・・・・・第二の副団長のヴァンだ。」

「あーーーーっ、ヴァンばっかりお話ししてズルいっ!僕はヨミだよ。第二騎士団の団長なんだぁ。」

「あ、そうな・・・・・・ん?・・・えっ?」

「だからぁ、僕が団長なんだってばぁ。ビックリしたぁ?」

「ええええっ!?・・・あっ、ご、ごめんなさいっ!」




「気にしないでいいよぉ」と、ニコニコ笑うヨミさん。え?!だ、団長?!ヴァンさん副団長?!
ヨミさんは獣人にしては割と小柄な体格(それでも僕よりは十分大きい)。
雰囲気も・・・ロシュさんとはまた違ったタイプの団長さんだ。




「ソレイユの騎士団は完全実力主義なんすよ。」

「はっ、あ、そ、そうなんです、ね!」

「ロシュ団長はゴリゴリの戦闘タイプで、こっちのヨミ団長は魔法に特化してるタイプっす。」

「うんうん!この国魔道具の設置も僕がしてきたよぉ。やぁっと終わったから、今日から第一に合流!はぁ~疲れた。」

「・・・ヨミ、そこで寝るなよ。」

「はぁい。」

「ヨミ団長とヴァンさんは幼馴染なんす。・・・世話係と言っても過言ではないっすね・・・」

「な、なるほど・・・!」


こしょこしょっと小さな声でフォルさんが補足してくれる。納得。ものすごく納得。
この短時間でヨミさんの自由奔放な感じは伝わってきたけど、ヴァンさんの言うことはヨミさん聞いてるもんね・・・!幼馴染って、凄い。


「さっ!シンくん!」

「は、はいっ!何でしょうか?」

「明日から、魔道具に魔力を送ってねぇ。魔道具の位置は僕が教えてあげるから。」

「・・・?」

「あっ、魔道具って言ってね、それに浄化ができる君みたいな人達の魔力を貯めておけば、毎日浄化しなくても、魔道具の中で勝手に魔力を循環させてくれるから、この国も魔素は大丈夫になるんだよぉ。あ!仕組みについて教えてあげようか?!えっとね、まず、中の魔石を細かく分類してね、」
「ヨミ、止まれ。」

「え~~?!だって、シンくんがいたら色んなこと試せそうだからさぁ~・・・」

「・・・ヨミ。」

「んもう、分かったよぉ。じゃあ、シンくん、また明日お話ししようね。」

「は、はいっ、よろし、むぐっ」

「今日は通常通り浄化はしたんだから、シンはもう帰ろう。朝飯もまだだろ。」

「うはぁ~っ!!ロシュ、ヤキモチなんか焼くのぉ???おもしろーーーいっ!」

「・・・飛べねぇように羽凍らすぞ、コラ」

「きゃ~~怖いっ!じゃ、僕凍る前に帰っとくよぉ!報告もあるから、またあとでね、ヤキモチロシュ~!キャハハっ!」

「・・・・・・五月蝿ぇ、鳥。」



ヨミさんは羽をバサっと羽ばたかせると、一気に上空へ上昇した。
キャハハ、とまだ笑い声が聞こえる。



「・・・・・・ソレイユの騎士団の方って、」

「ちょっと、イカれてるっすよね。分かってるっす。でも、戦ったらちゃんと強いんで、安心してくださいね、シンくん。」

「いや、あの、ゆ、ユニークな方が多いな、と思って・・・」

「・・・必死のフォローに泣きそうっすよ、俺。」

「ええっ!フォルさん、な、泣かないで、」

「フォルが泣くわけねーだろ。さ、帰るぞ、シン。お前の好きな果物用意する。」

「ヴァンさんも帰るっすよー。」




ヴァンさんは静かにこくりと頷いて、僕たちよりも先にテントの方に向かってスタスタ歩いて行った。



なんて、自由な人たちなんだ、と僕は思ったけど、口には出さなかった。



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