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グレイス編

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「・・・何でお前がここにいるんだ、ディーナ。今日は周辺の片付けのはずだろ。」

「そんなものさっさと終わらせてきたわよ。タチの悪い残党数名の始末、無抵抗な市民の保護。・・・で、何か文句あるかしら?」

「・・・・・・ねぇよ。クソッ。」

「あっ!ディーーーナさんっ!先日は、ご心配をおかけしましたーーー!ハーブティーとルルの実も、おいしかったですーーー!」

「私、今本物の天使見えてない?幻かしら?」

「本物より断然天使だっつうの。俺のシンは。」

「・・・・・・本当五月蝿い、猫だこと。」




ディーナに向かって、シンが大きく手を振る。
シンがこのテントに来て、もう1週間以上が過ぎた。



テントから少し離れたこの小さな川。
今日も、シンはここに来て水浴びをしている。


最初、その澄んだ川の水は人間のシンにはやや冷めたすぎるのではないかと心配したが、「冷たいのは慣れてますから大丈夫です」とシンは、何でもないかのように笑った。

「・・・シンくん、ソレイユに帰ったら宿舎の風呂に入ればいいっすよ!」

「えっ!?お、お風呂があるんですか?!」

「・・・シンは風呂が好きなのか?」

「はいっ!ぼ、ぼく、貧乏だったので、家には無かったんですけど、村に小さな共同浴場があったので、そこによく行ってたんです。」

「・・・共同、か。」

「?はい。・・・まさかその宿舎、って言うところには共同じゃない・・・お風呂があるんですか・・・?!」

「ああ、俺の部屋にはある。そこに入るといい。」

「~~っ!はいっ!う、嬉しいです!」

「シンくん、もちろん一人で入っていいっすからね!一人で!」

「本当ですか?!わぁ~・・・!贅沢ですね・・・!」

「・・・チッ。」



ほんの小さな耳打ちも、俺たちには十分聞こえる。
赤茶の小さめの耳をピクリと動かしたフォルが、ジトっとした目で、俺を見る。


・・・何だ。余計なことはまだ何も言ってなかっただろう。

そう俺が目で無言の反論をすると、フォルは仕方なさそうにため息をついた後、シンの頭を撫でていた。



・・・気安く触るな。俺の番だぞ。


















あの日。
シンが俺の腕の中で静かに涙を流しながら眠りについた、あの日の翌朝。


シンは熱を出し、しばらくの間寝込んだ。



すぐフォルを呼び、治癒魔法を頼んだが、シンの熱はなかなか下がらず、精神的なものだろう、とフォルは結論づけた。




「シンくん困らせるの今後一切禁止っすからね!!!!」と、怒りに満ち溢れ、身体に電気を纏わせるフォルはなかなか見ものだったが・・・

俺は首を縦に振ることになったのだ。



そしてシンは三日ほど経つと、ようやく起き上がれるようになった。

何かしたいことはがあるか尋ねた時に、申し訳なさそうな顔で「・・・汗かいたから、水浴びしたいです・・・」とこぼしたのだ。


そして、連れてきたのがこの川。
偶然見回りの最中見つけた場所だが、水も綺麗で、奥は森だ。
街からも距離があるし、誰も近づかないだろう。

風呂の話を聞いてからは、周辺にも風呂がないか探した。だが、さすがに風呂はなく、その代わり毎日ここで水浴びをしている。

「川に入ると、子どもの頃を思い出します」と、はしゃぐシンの姿を俺は誰にも見せたくなかった。










なのに。

「・・・この場所を漏らしたのは、フォルだな。というか、奴しかいない。」

「私が黙秘しても、バレバレでしょうね。フォルは嘘つけないから。」

「一瞬で分かる。で、用件はなんだ。」

「天使ちゃんに会いにきたのが一番の用件よ。あとは、今日第二が到着予定。さっきヨミの使い魔が知らせに来たわ。」

「・・・分かった。」

「それに、もうすぐ時間だからシンちゃんに教えてあげてほしいって頼まれたのよね。」

「・・・シンが決めたこととは言え、俺はまだ納得してない。」

「・・・そういう子なのよ。あんたが何言っても無駄。あ、ほら。自分から来たわ。・・・んまぁっ!華奢ねぇ~~!ぎゅうっと抱きしめたら折れちゃいそう!気をつけなくっちゃ。」

「・・・そんな機会はないと思え。」

「あんたにそんなこと言われる筋合いないわよっ!」

「?ディーナさん、おはようございます!何かあったんですか?大きな声出してましたけど・・・」

「いいえ。何でもないわ。それより時間よ、シンちゃん。」

「もしかして、わざわざ知らせに来てくださったんですか・・・?!あ、ありがとうございます。すぐ着替えますね!」

「・・・っ、シンちょっと、」

「えっ?」




俺の静止が間に合わず、濡れた服をバサッと脱ぎさり、乾いた服に袖を通し始めたシン。



きょとん、と首を傾げてる場合じゃない!
素肌が見えるだろう!素肌がっ!


俺は急いでディーナの前に立ち、シンの姿を隠した。





「・・・バッチリ見えたわよ。ご馳走様。」

「・・・・・・後で耳の毛毟ってやるからな・・・っ!」






軽々しい口を聞くディーナの顔をふと横目で見る。
・・・顔が赤くなってるじゃねぇか。柄にもなく照れてんじゃねーぞ!
クソッ!シンの裸は誰にも見せたくなかったっつうのに!






「着替え終わり・・・うわぁっ、ロシュ、さん!僕、一人でも歩けますよ?!」

「・・・さあ、行くぞ、シン。」



さも当然かのように俺はシンを抱き抱える。
シンもだいぶ慣れてきたようだが、ディーナの前だからか、顔が少し赤くなる。






「・・・本当可愛い。食べちゃいたい。」





ディーナが漏らした本音を、俺は決して聞き逃さなかった。


「・・・シン、その耳飾り・・・」

「へ?耳飾りが何ですか?」

「・・・何でもない。少し走るぞ。舌噛まないように口閉じておけ。」

「わっ、えっ、は、速っ、」





少しでもいい。

シンとの二人の時間が欲しい俺は、テントまで走って戻った。



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