11 / 42
グレイス編
11
しおりを挟む
只今絶賛、乱闘騒ぎ中。
・・・騒ぎ、じゃないか。
立派な乱闘だね。
戸惑う僕を他所に、団員のヒト達は、慣れた手つきで吹き飛んだテントをいそいそと建て直し始めた。
もしかして割とよく起こるのかな、このお二人の乱闘。
・・・よしっ、僕ぼーっとしてる場合じゃないよね!お世話になってるんだから、少しでも役に立たなくちゃ!
あのくらいの、小さい支柱なら運べるかも!
せーーーのっ。
「・・・・・・っ?!ぐぅ・・・お、おも・・・」
え?え?
何この重さ。この支柱、一体何の素材で出来てるの?
周りのヒト達、僕が今、持ち上げ損ねた支柱よりも、もっとずっと太くて長いの持ってたよね?!
うう・・・っ、僕ただでさえ弱っちいのに、情けない・・・!
・・・こうなったら引きずってでも・・・!
「うわっ、ああああ、て、天使様!?本当にか、かわい・・・!あ゛、いやっ!あの、その、ここは、あ、危ないですからっ、」
「あっ・・・ご、ごめんなさいっ!ぼ、僕、お邪魔でし」
「いいえ!!!!邪魔だなんて、とんでもない!むしろこんなに近くで拝むことができて幸・・・ヒィッッッ」
「・・・?ひぃ?」
「あっ、い、いえ!さ、さっき、や、火傷をしまして、その、ヒィリヒリするなぁっと・・・あははは、はは、」
「え?!火傷?!大変・・・っ!どこですか?見せてください!僕、腕力はないけど、治癒魔法ならお役に立てます!」
「ヒィッ!い、いえ!だ、だ、大丈夫です、から!で、ではっ!し、失礼します!!!!」
「お、お大事に・・・?」
今のヒト、顔赤かったし、汗もかいてた・・・。本当に大丈夫かな。
後で探して、様子を見た方が良さそう。
そういえば、足元を見てみるとロシュさんの魔法で雪がちょっと積もってる。
もっとたくさん積もってたら、雪だるま作ってみたかったな。
ロシュさんは氷魔法が得意で、ディーナさんは風魔法が得意なんだそうだ。(遠い目+小声のフォルさん情報)
うん、うん。
二人とも凄い魔力量だし、さっきまでの戦闘も速すぎて僕は目で追うのがやっとだったもん。
僕も魔力は多いんだけど、戦闘系の魔法はてんでダメ。
村で暮らしてた頃に、少しだけ練習したことがあるけど「村が吹っ飛ぶからやめなさい」って、本気で怒られたことがある。
浄化と回復系の魔法なら得意なんだけどな・・・。
走り去るヒトの背中を目で追いながら、僕はそんなことをぼんやり考えていた。
・・・僕の背後でそのヒトを、鋭い眼差しで睨みつける大きな二人が立っていることなんか、全く気付かないくらいに。
「シン、どこを見ている?」
耳元で、低くて、男らしい声が響く。
びっくぅ、と飛び上がりながら、後ろを振り向くと、いつの間にか乱闘は終わっていて、ロシュさんとディーナさんが立っていた。
「わぁぁあっ、ロシュ、さん!び、びっ、くりし、」
「よそ見をする、シンが悪い。」
「あらぁ、やーだ。男の嫉妬ほど醜いものはないわよねぇ?・・・ところでさっきの奴は、どこの担当の男かしら・・・?私の代わりにシンちゃんの面倒見てくれてたなら、お礼くらい言わないと・・・ねぇ?」
妖艶に微笑むディーナさんと、明らかに不機嫌そうなロシュさん。
「これはきっと黙秘する案件だ」と、さすがに悟った僕。
さっきのヒトのことは何も知らないけど、余計なことを言わない方がいい・・・はず!
話を逸らすしかない!
チラッと、一瞬フォルさんを見る。
僕の言いたいことが伝わったのか、物凄い勢いで頷いていた。
一体、ど、どうすれば・・・!?
「・・・ぼ、く、お腹す、きました・・・」
捻り出した僕の一言は、これだった。
この際、二人に食いしん坊って思われてもいい・・・!
これしか思い浮かばなかったんだもん・・・!
そしたら、本当にお腹が「ぐぅ・・・」って鳴って、予期せぬ事態に僕は顔が真っ赤になった。
恥ずかしくて顔を上げられなくなっちゃった。
・・・ん?二人とも・・・何か唸ってない?
・・・お腹空いてたのかな?
「・・・シンちゃん!ハーブティーは好きかしら?美味しい果物もあるわよ!?」
「・・・は、はい。好きで、むぐっ」「シン、答えなくていい。テントに帰るぞ。俺たちの、な。」
「・・・グルル・・・グルルル・・・この、石頭虎野郎が・・・っ、」
「ひゃっ!ディ、ディーナさん!あ、明日!明日ハーブティー戴いても、い、いいですか?!」
綺麗な唇の奥から見えた、きらりと光る立派な牙をどうにか閉まってほしくて、僕は必死にお願いした。
僕のお願いを聞いたディーナさんは、牙をスッと引っ込めてくれて、「ええ!勿論よぉ!第二が来るまで暇ですものね。」と、その赤い瞳を輝かせていた。
はぁぁあ~・・・よかった。
これでこの場は何とか収まっ・・・
「・・・・・・シン、テントに帰ったら大事な話がある。」
僕がホッと一息つく前に。
今までで一番低い、低い、お腹の底に響くような声が耳元で聞こえてきて、僕は「ひゃい・・・」と情けない返事を小さく返すしか出来なかった。
・・・騒ぎ、じゃないか。
立派な乱闘だね。
戸惑う僕を他所に、団員のヒト達は、慣れた手つきで吹き飛んだテントをいそいそと建て直し始めた。
もしかして割とよく起こるのかな、このお二人の乱闘。
・・・よしっ、僕ぼーっとしてる場合じゃないよね!お世話になってるんだから、少しでも役に立たなくちゃ!
あのくらいの、小さい支柱なら運べるかも!
せーーーのっ。
「・・・・・・っ?!ぐぅ・・・お、おも・・・」
え?え?
何この重さ。この支柱、一体何の素材で出来てるの?
周りのヒト達、僕が今、持ち上げ損ねた支柱よりも、もっとずっと太くて長いの持ってたよね?!
うう・・・っ、僕ただでさえ弱っちいのに、情けない・・・!
・・・こうなったら引きずってでも・・・!
「うわっ、ああああ、て、天使様!?本当にか、かわい・・・!あ゛、いやっ!あの、その、ここは、あ、危ないですからっ、」
「あっ・・・ご、ごめんなさいっ!ぼ、僕、お邪魔でし」
「いいえ!!!!邪魔だなんて、とんでもない!むしろこんなに近くで拝むことができて幸・・・ヒィッッッ」
「・・・?ひぃ?」
「あっ、い、いえ!さ、さっき、や、火傷をしまして、その、ヒィリヒリするなぁっと・・・あははは、はは、」
「え?!火傷?!大変・・・っ!どこですか?見せてください!僕、腕力はないけど、治癒魔法ならお役に立てます!」
「ヒィッ!い、いえ!だ、だ、大丈夫です、から!で、ではっ!し、失礼します!!!!」
「お、お大事に・・・?」
今のヒト、顔赤かったし、汗もかいてた・・・。本当に大丈夫かな。
後で探して、様子を見た方が良さそう。
そういえば、足元を見てみるとロシュさんの魔法で雪がちょっと積もってる。
もっとたくさん積もってたら、雪だるま作ってみたかったな。
ロシュさんは氷魔法が得意で、ディーナさんは風魔法が得意なんだそうだ。(遠い目+小声のフォルさん情報)
うん、うん。
二人とも凄い魔力量だし、さっきまでの戦闘も速すぎて僕は目で追うのがやっとだったもん。
僕も魔力は多いんだけど、戦闘系の魔法はてんでダメ。
村で暮らしてた頃に、少しだけ練習したことがあるけど「村が吹っ飛ぶからやめなさい」って、本気で怒られたことがある。
浄化と回復系の魔法なら得意なんだけどな・・・。
走り去るヒトの背中を目で追いながら、僕はそんなことをぼんやり考えていた。
・・・僕の背後でそのヒトを、鋭い眼差しで睨みつける大きな二人が立っていることなんか、全く気付かないくらいに。
「シン、どこを見ている?」
耳元で、低くて、男らしい声が響く。
びっくぅ、と飛び上がりながら、後ろを振り向くと、いつの間にか乱闘は終わっていて、ロシュさんとディーナさんが立っていた。
「わぁぁあっ、ロシュ、さん!び、びっ、くりし、」
「よそ見をする、シンが悪い。」
「あらぁ、やーだ。男の嫉妬ほど醜いものはないわよねぇ?・・・ところでさっきの奴は、どこの担当の男かしら・・・?私の代わりにシンちゃんの面倒見てくれてたなら、お礼くらい言わないと・・・ねぇ?」
妖艶に微笑むディーナさんと、明らかに不機嫌そうなロシュさん。
「これはきっと黙秘する案件だ」と、さすがに悟った僕。
さっきのヒトのことは何も知らないけど、余計なことを言わない方がいい・・・はず!
話を逸らすしかない!
チラッと、一瞬フォルさんを見る。
僕の言いたいことが伝わったのか、物凄い勢いで頷いていた。
一体、ど、どうすれば・・・!?
「・・・ぼ、く、お腹す、きました・・・」
捻り出した僕の一言は、これだった。
この際、二人に食いしん坊って思われてもいい・・・!
これしか思い浮かばなかったんだもん・・・!
そしたら、本当にお腹が「ぐぅ・・・」って鳴って、予期せぬ事態に僕は顔が真っ赤になった。
恥ずかしくて顔を上げられなくなっちゃった。
・・・ん?二人とも・・・何か唸ってない?
・・・お腹空いてたのかな?
「・・・シンちゃん!ハーブティーは好きかしら?美味しい果物もあるわよ!?」
「・・・は、はい。好きで、むぐっ」「シン、答えなくていい。テントに帰るぞ。俺たちの、な。」
「・・・グルル・・・グルルル・・・この、石頭虎野郎が・・・っ、」
「ひゃっ!ディ、ディーナさん!あ、明日!明日ハーブティー戴いても、い、いいですか?!」
綺麗な唇の奥から見えた、きらりと光る立派な牙をどうにか閉まってほしくて、僕は必死にお願いした。
僕のお願いを聞いたディーナさんは、牙をスッと引っ込めてくれて、「ええ!勿論よぉ!第二が来るまで暇ですものね。」と、その赤い瞳を輝かせていた。
はぁぁあ~・・・よかった。
これでこの場は何とか収まっ・・・
「・・・・・・シン、テントに帰ったら大事な話がある。」
僕がホッと一息つく前に。
今までで一番低い、低い、お腹の底に響くような声が耳元で聞こえてきて、僕は「ひゃい・・・」と情けない返事を小さく返すしか出来なかった。
113
お気に入りに追加
2,381
あなたにおすすめの小説
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる