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グレイス編

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それは、まるで、満天の星が散らばるような、美しい光景だった。


















「団長っ!!!ディーナっ、ディーナさんの隊がっ、こちらへ合流直前で魔物に・・・っ!!」



慌てふためいた様子でテント に入ってきたのは、先程まで俺を揶揄っていたフォルだった。


「・・・っ、すぐ行く。救護所だな?」



フォルのあの表情からして、悪い状態だと言うことは予想がついた。

俺は抱えていたシンを簡易ベッドにそっと寝かせ、テントを出た。

だが・・・あの、ディーナがやられる?
とても想像ができなかった。





半信半疑のまま、救護所に着くと、黒い血に塗れ、無惨に横たわったディーナの隊の者達が目に飛び込んできた。



「・・・まさか、そ、んな・・・っ、」


よほどの数の魔物を相手したのだろう。
無数の傷跡、そして黒い血に溢れ、ディーナがそこに倒れていた。



「おいっ、ディーナ!!!目ぇ開けろ!!この程度で死ぬ奴じゃねぇーだろ!?」

「・・・何、よ。その顔、ゴボッ、あたしに、触ると、魔、素が、ゴホッゴボッ、」

「喋んな!でも絶対寝るなよ?!目は開けておけ!いいな!!?クソッ、」

「・・・んふふ、顔、が良い男が、苦しむのは・・・ゴボッ、見ていて、気持ちいい、ゴボッ」

「馬っ鹿野郎!!」


ディーナが咳き込むたび、口からは黒い血が溢れる。

こいつとは腐れ縁だ。
子どもの頃から、一緒にいる。

俺と同じくらい強くて、クソ性格が悪い。
だが、憎めない奴だ。
そいつが・・・・・・・・・っ!




治癒魔法は得意ではないが、かけないよりはマシだろう。

団医フォルは他の団員の治療にあたっているし、何よりディーナはこう見えて部下を大事にする。

自分の治療は後回しにするよう、命じたはずだ。

だからと言って・・・このままじゃ・・・・・・!




嫌な汗が背中を伝う。

その時だった。




ふわりと、あの甘い香りがした。


まさか、と思って顔を上げた先には、裸足のままのシンの姿。

シンに気付いた団員達は、ざわざわと騒ぎ出している。


何たって、あの美しい黒髪に、前髪から覗く黒い瞳。
そしてあの儚げな相貌だ。

こんなところでも、目を引く存在だろう。


「・・・っ!シンっ!何故ここに!?今すぐテントに戻れ!!」


気づけば声を張り上げていた。

俺の声に気付いたシンが振り向く。
そして、俺の抱えるディーナに気がつくと、血相を変え、一目散にこちらへ走り出したのだ。




そして、ディーナに向かって手をかざし、何か小さな声で呟いた。

その直後、シンの手から満天の星が弾けたように、輝く無数の光の粒が散らばっていった。






何とも、神秘的で、美しい光景だった。




「・・・あれ?傷が・・・、魔素も・・・えっ?!」
「本当だ・・・・・・!!完全に浄化されてる!!?」
「何だ?!今の光は!もしかして、あの人間が・・・?!」



横たわっていたディーナの隊の者や、治療に加わっていた他の団員が一様に騒ぎ出す。


そして、俺の目の前のディーナも、先程までの死相が嘘のような顔つきだった。

「何よ、これ・・・!」


ディーナがそう言うのも無理はない。






これが、シンの浄化の力。

最早、奇跡そのものだ。





国一つを、一人で浄化していたと言うのは本当だったのだ。



自分の身体の変化に騒ぎ出すディーナから視線を移し、シンの方を見る。

俺と目が合うと、心底安心したような、優しい顔で微笑んだ後、そのまま身体が前にぐらりと倒れていった。




「シンっ!!!!」



受け止められない・・・!!



その焦りで息が止まりそうになったが、シンが倒れる直前、渦を巻いた風がシンを受け止めてくれた。

ディーナお得意の風魔法だ。


「・・・あんた、口より先に魔法使いなさいよ。馬鹿ね。私、頭打ったじゃない。」



俺が急に立ち上がったせいで、足元に転がった状態のディーナ。

ジト、と俺を睨みつけるその赤い瞳は、健康体そのものだ。


「・・・すまない。礼を言う。助かった・・・」

「・・・あんたが素直に礼を言うなんて、よっぽどね。」

「ああっ!ディーナさんっ!無事っすか!?良かったっす・・・!」

「フォル、五月蝿い。・・・・・・んん?あれ?何よ。あの子の首輪、あんたのじゃない。・・・えッ?!ええ?!」

「・・・お前は本当に目敏いな、ディーナ。」

「えっ、ちょ、アハハハハハハハハ!展開がっ、は、早すぎて!!アハハハハハハハハ!」

「・・・ふは、あは、あははは!みんな無事で良かったっす!ハハハハハハハハ!」

「・・・はぁ。」



笑い転げるディーナを横目に、俺はシンを抱きかかえた。



「無茶をして・・・後でお仕置きだな、シン。だが・・・ありがとう。」


ディーナには聞こえないように、小さな小さな声でそうシンの耳元で呟いた。
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