上 下
7 / 42
グレイス編

しおりを挟む
「・・・っ、・・・く!早く!誰か魔道具をかき集めてきてくれ!」



バタバタ、と何人もの慌ただしい大きな足音で目が覚めた。




「・・・こ、こは・・・」



僕がいつも寝ていた場所の白い天井じゃない。
深緑色のテントの天蓋が目に入った。


簡易ベッドのようなところに何枚も何枚も布を重ねた形跡がある。
その上に僕一人だけが寝かされていたみたい。


「・・・ロシュさん達、ど、こ・・・?」


僕をあそこから助けてくれた二人がいなくなっていて、急に不安に襲われた。

勝手にカタカタ身体まで震え出す。


自分の身体を抱きしめるように両腕で小さくなろうとした時、首に違和感を覚えた。



「・・・あ、首輪・・・ちゃんと、ある・・・」


これがどういう意味なのか、さっき詳しくは聞けなかったけど、とても大事な意味があるものなのだろうということは僕でも分かった。


その丈夫な革でできた首輪をゆっくりと、指でなぞる。
ザラザラしたところや、少し亀裂が入っているところ。

そして首の中央には、ロシュさんの瞳の色と同じ、黄金の石が輝いていた。



「・・・なんか安心、する。」


さっきまで勝手に震えていた身体も、首輪を触っているうちにいつの間にか止まっていた。


ロシュさんと、フォルさんは、きっと信じてもいいヒト達だ。

・・・でも、どこに行ったんだろう。

テーブルの上には、まだほのかに湯気の立つコップが置かれてあるから、居なくなってそう時間は経っていないはずだし・・・。


「・・・ここで待ってたって何も変わらない、よね。」


僕は裸足のまま立ち上がり(神殿の中ではいつも裸足だったから慣れっこ)、テントの出入り口からひょこっと顔を出した。



「・・・・・・嫌な気配・・・」



魔素を感じる時、それが目で見える人、匂いでわかる人、それぞれだけど、僕の場合は目でも見えるし、匂いもする。


そして何より、肌で感じるんだ。


だから、あそこに閉じ込められちゃったわけだけど。


でも、こんなに強い気配は久しぶりだな。
誰か直接魔物に襲われた可能性が高い。


「さっきの足音は確かこっちから・・・」



嫌な気配と、先ほどの足音がした方向に向かって、僕はパタパタ走った。







不思議なことに、途中誰にもすれ違わなかった。







でも、そこに着いてその理由がすぐにわかった。




「おいっ!魔道具を・・・くそっ、もう無いのか?!」

「こっちは血を流しすぎている・・・・・・っ、誰か止血剤をくれ!治癒魔法が使える者は・・・、フォルさんっ、早くこちらへ!」

「俺は一人しかいねぇすよっ!重症者が先っす!」




何人ものヒトが血塗れで、布の上に寝かされている。
苦しそうに呻き声をあげるヒト、もう意識がないヒト。

そしてみんな魔物に襲われた時特有の、黒い血を流していた。


魔素を大量に体内に取り込むと、ああなって、最終的には・・・・・・・・・っ、





「・・・っ!シンっ!何故ここに!?今すぐテントに戻れ!!」



僕の背後から、探していたヒトの叫ぶ声が聞こえた。

そちらの方を振り向くと、あの黄金の瞳と目が合う。
悲しそうに、いや、悔しそうに、瞳が揺れているように見えた。


そしてその腕の中には、綺麗な銀髪のヒトが口から黒い血を流して倒れて・・・・・・、


・・・アレは、まずい。




ロシュさんの叫び声で、周りにいた多くのヒトの視線が僕に集まったことも気づかないぐらい、僕はその銀髪のヒトの元へ走り出していた。



それくらい、あのヒトはもう、危ない。




走りながら僕は急いで、出せる限りの魔力を、両手に集めた。

「シン!?一体なにを・・・っ、」





《 元に、戻って 》




ロシュさんの抱えたヒトに向かって、僕が、小さくそう呟くと、集めておいた魔力が、一気に霧状に拡散する。



あそこにいた時は、毎日この浄化の光景を一人で見るのが、どこか苦しくて、辛かった。



でも今は、不思議とそうは思わなかった。



間接的じゃなく、直接的に魔素を浄化するのは久しぶりだったけど、毎日毎日あそこから浄化してたから。


これできっと、このヒトも、周りのヒトも、大丈夫。


そう思ったら、何だか気が抜けて。
ふにゃ、っとだらしない顔になっちゃった。

周りのヒトの状態も見て回らなきゃ。
よいしょ、と、立ち上がる。








「あ、」





いきなり走ったのと、急に膨大な魔力を使った反動が来たみたい。

立った瞬間、ぐらり、と視界が反転する。
そしてそのまま、僕の目の前は真っ暗になっていった。



「シンっ!!!!」


倒れていく時、何故か全てがスローモーションに見えた。

ロシュさんの驚いた顔が目に入って、僕はまた「勝手なことしてごめんなさい」と、心の中で、謝ることしかできなかった。



しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

処理中です...