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「あった!あった!今日は大量!ユイ、喜ぶぞ~!」
木の上に隠しておいた籠の中へ木の実をポイっ、ポイっと、入れていく。
あんまり採りすぎてもそんなにたくさん運べないから、余った分は野生のリスにでも分けてあげよう。
るんるん気分で森の中を散策していると、何か音が聞こえる。
「・・・・・・声?」
風で揺れる木の枝や葉。
それに混じる・・・・・・これは、動物の声。
籠を斜めがけにして僕は声がした方に走る。
苦しそうな声だから放っておけないよ。
「うわっ、君怪我してるじゃないか・・・!」
声を辿り、見つけたのは子鹿。
親の姿は見えないから、一人で散歩でもしてたんだろう。
この森はそのくらい動物にとって平和なはずなのに・・・
左の後ろ足に鋭い刃のついた狩用の罠が付いていて、ダラダラと血が垂れている。
《 ──── 》
「うん、うん、痛かったね。すぐ外してあげるからちょっと待っててね。」
人魚は動物の言葉が分かる。
鳴き声が勝手に頭の中で変換される感じ。
やっぱりこの子鹿は散歩途中に罠にかかってしまったらしい。
とんでもなく痛いから思わず叫んじゃったんだって。
・・・そりゃそうだよ、刃がギザギザしてて、食い込んでるもの。
うひゃ~・・・痛そう・・・・・・!
罠をどうにかこじ開けた隙に逃げて欲しくて僕は持っていた布で自分の手を覆い、罠に直接手を掛けた。
「ぐっ・・・か、固い・・・ちょ、っと、待っ、」
「そこで何をしている。」
「っ!うっ、わぁ!痛あああっっ!」
僕の背後から男の人の声がして驚いた僕は左手を思いっきり罠に挟んでしまった。
・・・子鹿くん、これ、本当にとんでもなく痛いね。
たった今、僕も身を持って体感したよ。
「い、いい、いいい・・・・・・っ、」
「・・・急に声をかけてすまない。密猟者かと思ったが・・・その逆か。こいつを助けようとしてたのか?」
「・・・・・・!」
痛すぎて言葉が出ない。
必死に頭を前後させ、こくこくと頷いた。
せっかく無事罠が外れたの子鹿くん、心配そうに僕を見て
帰るタイミングを見失ってる。
本当ごめんね。絶対僕のほうが歳上なのに心配かけちゃった。
痛すぎたら涙さえ出ない・・・新しい発見。
代わりに脂汗・・・っていうの?じわじわ額に浮かんで垂れてきた。
「シエロ様、こんなところで屈んで何し・・・ってえええええ!君、大丈夫?!」
「騒ぐな、フィンツ。手を貸せ。」
「うっひゃ~・・・こりゃ痛い。よっこいせ。」
痛すぎて目を閉じてたら別の男の人の声がした。
よっこいせ、の掛け声と共に食い込んでた刃が外れる。
・・・・・・い、痛い。痛すぎる。
血だらけの手を見る勇気がなくて目を開けられないままの僕は、何て情けないんだろう。
「俺の責任だ。ここで治すぞ。多少痛むが我慢しろ。」
「い、痛いの、やだぁ・・・」
「・・・善処する。目は閉じておけ。」
「殿下っ?!あ、じゃなくて、シエロ様?!この子治すんですか?」
「フィンツはそこで鹿の止血だ。そいつも治す。」
「ええ?!」
知らない誰かの体温が僕の手に広がる。
少し動かすだけでも痛くて、呻き声が出る。
我慢しろよ、と耳元で低い声がした。
悲鳴をあげる暇もなく、ビリビリとした痺れを感じる。
でもある瞬間を境に痛みを全く感じなくなった。
・・・え?ぼ、僕の手・・・無くなってないよね・・・?
「・・・怖いのか?」
「・・・うう、」
「大丈夫だ。大丈夫、ゆっくり目を開けてみろ。」
「は、はいぃ・・・・・・」
大きな手が背中を優しく上下に行き来する。
父様くらい大きな手。そして、何より温かい。
優しい手の感触はどこか婆様に似ていて、僕は少し涙が出そうになる。
でも泣いては、駄目だ。
僕が泣いてしまっては、一瞬で人魚だとバレてしまうから。
勇気を出して片目を開ける。
あの痛みが嘘だったかのように元に戻った僕の左手。
それと────・・・
「ほら、大丈夫だっただろう?」
僕を覗き込み、少し弧を描いたあの黄金の瞳。
随分と伸びた銀の髪の王子様が、そこにいた。
木の上に隠しておいた籠の中へ木の実をポイっ、ポイっと、入れていく。
あんまり採りすぎてもそんなにたくさん運べないから、余った分は野生のリスにでも分けてあげよう。
るんるん気分で森の中を散策していると、何か音が聞こえる。
「・・・・・・声?」
風で揺れる木の枝や葉。
それに混じる・・・・・・これは、動物の声。
籠を斜めがけにして僕は声がした方に走る。
苦しそうな声だから放っておけないよ。
「うわっ、君怪我してるじゃないか・・・!」
声を辿り、見つけたのは子鹿。
親の姿は見えないから、一人で散歩でもしてたんだろう。
この森はそのくらい動物にとって平和なはずなのに・・・
左の後ろ足に鋭い刃のついた狩用の罠が付いていて、ダラダラと血が垂れている。
《 ──── 》
「うん、うん、痛かったね。すぐ外してあげるからちょっと待っててね。」
人魚は動物の言葉が分かる。
鳴き声が勝手に頭の中で変換される感じ。
やっぱりこの子鹿は散歩途中に罠にかかってしまったらしい。
とんでもなく痛いから思わず叫んじゃったんだって。
・・・そりゃそうだよ、刃がギザギザしてて、食い込んでるもの。
うひゃ~・・・痛そう・・・・・・!
罠をどうにかこじ開けた隙に逃げて欲しくて僕は持っていた布で自分の手を覆い、罠に直接手を掛けた。
「ぐっ・・・か、固い・・・ちょ、っと、待っ、」
「そこで何をしている。」
「っ!うっ、わぁ!痛あああっっ!」
僕の背後から男の人の声がして驚いた僕は左手を思いっきり罠に挟んでしまった。
・・・子鹿くん、これ、本当にとんでもなく痛いね。
たった今、僕も身を持って体感したよ。
「い、いい、いいい・・・・・・っ、」
「・・・急に声をかけてすまない。密猟者かと思ったが・・・その逆か。こいつを助けようとしてたのか?」
「・・・・・・!」
痛すぎて言葉が出ない。
必死に頭を前後させ、こくこくと頷いた。
せっかく無事罠が外れたの子鹿くん、心配そうに僕を見て
帰るタイミングを見失ってる。
本当ごめんね。絶対僕のほうが歳上なのに心配かけちゃった。
痛すぎたら涙さえ出ない・・・新しい発見。
代わりに脂汗・・・っていうの?じわじわ額に浮かんで垂れてきた。
「シエロ様、こんなところで屈んで何し・・・ってえええええ!君、大丈夫?!」
「騒ぐな、フィンツ。手を貸せ。」
「うっひゃ~・・・こりゃ痛い。よっこいせ。」
痛すぎて目を閉じてたら別の男の人の声がした。
よっこいせ、の掛け声と共に食い込んでた刃が外れる。
・・・・・・い、痛い。痛すぎる。
血だらけの手を見る勇気がなくて目を開けられないままの僕は、何て情けないんだろう。
「俺の責任だ。ここで治すぞ。多少痛むが我慢しろ。」
「い、痛いの、やだぁ・・・」
「・・・善処する。目は閉じておけ。」
「殿下っ?!あ、じゃなくて、シエロ様?!この子治すんですか?」
「フィンツはそこで鹿の止血だ。そいつも治す。」
「ええ?!」
知らない誰かの体温が僕の手に広がる。
少し動かすだけでも痛くて、呻き声が出る。
我慢しろよ、と耳元で低い声がした。
悲鳴をあげる暇もなく、ビリビリとした痺れを感じる。
でもある瞬間を境に痛みを全く感じなくなった。
・・・え?ぼ、僕の手・・・無くなってないよね・・・?
「・・・怖いのか?」
「・・・うう、」
「大丈夫だ。大丈夫、ゆっくり目を開けてみろ。」
「は、はいぃ・・・・・・」
大きな手が背中を優しく上下に行き来する。
父様くらい大きな手。そして、何より温かい。
優しい手の感触はどこか婆様に似ていて、僕は少し涙が出そうになる。
でも泣いては、駄目だ。
僕が泣いてしまっては、一瞬で人魚だとバレてしまうから。
勇気を出して片目を開ける。
あの痛みが嘘だったかのように元に戻った僕の左手。
それと────・・・
「ほら、大丈夫だっただろう?」
僕を覗き込み、少し弧を描いたあの黄金の瞳。
随分と伸びた銀の髪の王子様が、そこにいた。
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