上 下
4 / 22

しおりを挟む
「あった!あった!今日は大量!ユイ、喜ぶぞ~!」


木の上に隠しておいた籠の中へ木の実をポイっ、ポイっと、入れていく。
あんまり採りすぎてもそんなにたくさん運べないから、余った分は野生のリスにでも分けてあげよう。

るんるん気分で森の中を散策していると、何か音が聞こえる。



「・・・・・・声?」



風で揺れる木の枝や葉。
それに混じる・・・・・・これは、動物の声。

籠を斜めがけにして僕は声がした方に走る。
苦しそうな声だから放っておけないよ。





「うわっ、君怪我してるじゃないか・・・!」





声を辿り、見つけたのは子鹿。
親の姿は見えないから、一人で散歩でもしてたんだろう。
この森はそのくらい動物にとって平和なはずなのに・・・
左の後ろ足に鋭い刃のついた狩用の罠が付いていて、ダラダラと血が垂れている。





《 ──── 》

「うん、うん、痛かったね。すぐ外してあげるからちょっと待っててね。」





人魚は動物の言葉が分かる。
鳴き声が勝手に頭の中で変換される感じ。
やっぱりこの子鹿は散歩途中に罠にかかってしまったらしい。
とんでもなく痛いから思わず叫んじゃったんだって。

・・・そりゃそうだよ、刃がギザギザしてて、食い込んでるもの。
うひゃ~・・・痛そう・・・・・・!



罠をどうにかこじ開けた隙に逃げて欲しくて僕は持っていた布で自分の手を覆い、罠に直接手を掛けた。




「ぐっ・・・か、固い・・・ちょ、っと、待っ、」

「そこで何をしている。」

「っ!うっ、わぁ!痛あああっっ!」







僕の背後から男の人の声がして驚いた僕は左手を思いっきり罠に挟んでしまった。
・・・子鹿くん、これ、本当にとんでもなく痛いね。
たった今、僕も身を持って体感したよ。




「い、いい、いいい・・・・・・っ、」

「・・・急に声をかけてすまない。密猟者かと思ったが・・・その逆か。こいつを助けようとしてたのか?」

「・・・・・・!」





痛すぎて言葉が出ない。
必死に頭を前後させ、こくこくと頷いた。

せっかく無事罠が外れたの子鹿くん、心配そうに僕を見て
帰るタイミングを見失ってる。
本当ごめんね。絶対僕のほうが歳上なのに心配かけちゃった。



痛すぎたら涙さえ出ない・・・新しい発見。
代わりに脂汗・・・っていうの?じわじわ額に浮かんで垂れてきた。






「シエロ様、こんなところで屈んで何し・・・ってえええええ!君、大丈夫?!」

「騒ぐな、フィンツ。手を貸せ。」

「うっひゃ~・・・こりゃ痛い。よっこいせ。」






痛すぎて目を閉じてたら別の男の人の声がした。
よっこいせ、の掛け声と共に食い込んでた刃が外れる。

・・・・・・い、痛い。痛すぎる。
血だらけの手を見る勇気がなくて目を開けられないままの僕は、何て情けないんだろう。






「俺の責任だ。ここで治すぞ。多少痛むが我慢しろ。」

「い、痛いの、やだぁ・・・」

「・・・善処する。目は閉じておけ。」

「殿下っ?!あ、じゃなくて、シエロ様?!この子治すんですか?」

「フィンツはそこで鹿の止血だ。そいつも治す。」

「ええ?!」






知らない誰かの体温が僕の手に広がる。
少し動かすだけでも痛くて、呻き声が出る。

我慢しろよ、と耳元で低い声がした。
悲鳴をあげる暇もなく、ビリビリとした痺れを感じる。
でもある瞬間を境に痛みを全く感じなくなった。




・・・え?ぼ、僕の手・・・無くなってないよね・・・?



「・・・怖いのか?」

「・・・うう、」

「大丈夫だ。大丈夫、ゆっくり目を開けてみろ。」

「は、はいぃ・・・・・・」



大きな手が背中を優しく上下に行き来する。
父様くらい大きな手。そして、何より温かい。
優しい手の感触はどこか婆様に似ていて、僕は少し涙が出そうになる。

でも泣いては、駄目だ。

僕が泣いてしまっては、一瞬で人魚だとバレてしまうから。




勇気を出して片目を開ける。
あの痛みが嘘だったかのように元に戻った僕の左手。



それと────・・・





「ほら、大丈夫だっただろう?」





僕を覗き込み、少し弧を描いたあの黄金の瞳。
随分と伸びた銀の髪の王子様が、そこにいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。 前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち… でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ… 優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

処理中です...