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この世界には人間と人魚が暮らしている。
"ヤルヴ"と呼ばれる大きな湖を囲むように三つの人間の国が栄えていた。
水の国 スィーニー
森の国 ジャッロ
太陽の国 クラート
三つの国の王と人魚の国の王は互いの平和と共存のために遠い昔に一つの約束をした。
【 それぞれの国の王子と、年頃の人魚を許嫁にしよう 】
人魚は少しの間なら人間になれるし、ヤルヴの湖の水を浴びれば再び人魚に戻ることができる。
そして人間と結ばれた人魚は永遠に人間になる。
二人を会わせるのは両者が十八歳になってから【 初めて雪が降る日の夜 】と決まっていた。
それまで両者は会わせない。
名前も顔もお互い知らないまま結婚の儀を執り行う。
昔から変わらない古い掟。
人魚が女であれば人間の王子との間に子を成すこともできる。
人魚は人間よりも長命種だが、繁殖能力は人間よりもかなり低い。
またその二人の間に生まれた子どもは例え人間であろうと人魚にしか使えない不思議な力"魔法"が使えるようになる。
そのため王族には魔法が使える人間が多く、魔法が使えない人間とは一線が引かれていた。
リトは子が成せない男の人魚だったがある特別な力を持っていたために人間に嫁ぐことが六歳の時、突然決まった。
「婆様、僕、さっきね、怖い夢、見てね・・・、な、泣いちゃったの。そしたら、これが・・・・・・」
悪夢にうなされ目を覚ましたリトの瞳から溢れた涙。
人魚の涙は湖の水とすぐ一体化して誰にもバレずに済むはずだった。
「・・・リト、このことは家族以外に教えちゃいけないよ。」
「・・・?わ、わかった・・・、でも僕、どこかおかしくなっちゃったのかなぁ・・・?」
「・・・大丈夫、大丈夫よ。」
リトの大きな瞳からぽろり、ぽろり、と落ちていくのは、涙ではなく虹色に輝く小さな宝玉。
輝く宝玉は水の抵抗を受けながらゆっくりと床に落ちていき、カツン、と小さな音を立てた。
「泣かなくて良いの。これはリトが特別だっていう証拠なの。」
「ひっく、僕、ど、こかおかしいの?ううっ、」
「いいえ、リト。それは違う。あなたは他の人魚より魔力が多いの。」
「・・・父様や母様がつかう不思議な力のこと?」
「そう。それが涙と一緒に固まってこうやって石になるの。」
「・・・僕、変じゃない?」
ちっとも変じゃないわ、と小さな体を抱きしめる。
抱きしめられた本人の赤くなった目にはようやく安堵の色が浮かび、それまでの泣き顔を誤魔化すように眉を下げて笑った。
「この石とっても綺麗だね。僕の足の色みたい。」
「・・・そうね。とっても綺麗だわ。でもね、この宝玉を良くない使い方をする人魚も人間もいる。だから家族だけの秘密よ。分かった?」
「うん。ふぁ・・・僕、眠くなっちゃっ・・・た・・・」
「今日は婆様と一緒に寝ましょうね。こちらへいらっしゃい。」
「・・・ん、おやす、みなさい・・・婆様・・・」
すうすう、と寝息を立てて眠りについたリト。
婆様が宝玉を手に取り、静かに涙を流していたことを知る由もなかった。
どんな怪我や病気でもたちまち治してしまう魔法の結晶、人魚の宝玉。
数十年に一人、いや、数百年に一人の割合。
宝玉を生み出す人魚は良からぬことを考える輩に狙われやすい。
だかや宝玉を生み出すことができる人魚は人間に嫁ぐ優先順位が上がる。
王族に嫁がせることでその貴重な力と宝玉を守ることができる。
「あなたは地上に行ってしまうのね・・・」
静かに呟いた婆様の涙は周りの湖の水に紛れ、すぐに消えて見えなくなった。
"ヤルヴ"と呼ばれる大きな湖を囲むように三つの人間の国が栄えていた。
水の国 スィーニー
森の国 ジャッロ
太陽の国 クラート
三つの国の王と人魚の国の王は互いの平和と共存のために遠い昔に一つの約束をした。
【 それぞれの国の王子と、年頃の人魚を許嫁にしよう 】
人魚は少しの間なら人間になれるし、ヤルヴの湖の水を浴びれば再び人魚に戻ることができる。
そして人間と結ばれた人魚は永遠に人間になる。
二人を会わせるのは両者が十八歳になってから【 初めて雪が降る日の夜 】と決まっていた。
それまで両者は会わせない。
名前も顔もお互い知らないまま結婚の儀を執り行う。
昔から変わらない古い掟。
人魚が女であれば人間の王子との間に子を成すこともできる。
人魚は人間よりも長命種だが、繁殖能力は人間よりもかなり低い。
またその二人の間に生まれた子どもは例え人間であろうと人魚にしか使えない不思議な力"魔法"が使えるようになる。
そのため王族には魔法が使える人間が多く、魔法が使えない人間とは一線が引かれていた。
リトは子が成せない男の人魚だったがある特別な力を持っていたために人間に嫁ぐことが六歳の時、突然決まった。
「婆様、僕、さっきね、怖い夢、見てね・・・、な、泣いちゃったの。そしたら、これが・・・・・・」
悪夢にうなされ目を覚ましたリトの瞳から溢れた涙。
人魚の涙は湖の水とすぐ一体化して誰にもバレずに済むはずだった。
「・・・リト、このことは家族以外に教えちゃいけないよ。」
「・・・?わ、わかった・・・、でも僕、どこかおかしくなっちゃったのかなぁ・・・?」
「・・・大丈夫、大丈夫よ。」
リトの大きな瞳からぽろり、ぽろり、と落ちていくのは、涙ではなく虹色に輝く小さな宝玉。
輝く宝玉は水の抵抗を受けながらゆっくりと床に落ちていき、カツン、と小さな音を立てた。
「泣かなくて良いの。これはリトが特別だっていう証拠なの。」
「ひっく、僕、ど、こかおかしいの?ううっ、」
「いいえ、リト。それは違う。あなたは他の人魚より魔力が多いの。」
「・・・父様や母様がつかう不思議な力のこと?」
「そう。それが涙と一緒に固まってこうやって石になるの。」
「・・・僕、変じゃない?」
ちっとも変じゃないわ、と小さな体を抱きしめる。
抱きしめられた本人の赤くなった目にはようやく安堵の色が浮かび、それまでの泣き顔を誤魔化すように眉を下げて笑った。
「この石とっても綺麗だね。僕の足の色みたい。」
「・・・そうね。とっても綺麗だわ。でもね、この宝玉を良くない使い方をする人魚も人間もいる。だから家族だけの秘密よ。分かった?」
「うん。ふぁ・・・僕、眠くなっちゃっ・・・た・・・」
「今日は婆様と一緒に寝ましょうね。こちらへいらっしゃい。」
「・・・ん、おやす、みなさい・・・婆様・・・」
すうすう、と寝息を立てて眠りについたリト。
婆様が宝玉を手に取り、静かに涙を流していたことを知る由もなかった。
どんな怪我や病気でもたちまち治してしまう魔法の結晶、人魚の宝玉。
数十年に一人、いや、数百年に一人の割合。
宝玉を生み出す人魚は良からぬことを考える輩に狙われやすい。
だかや宝玉を生み出すことができる人魚は人間に嫁ぐ優先順位が上がる。
王族に嫁がせることでその貴重な力と宝玉を守ることができる。
「あなたは地上に行ってしまうのね・・・」
静かに呟いた婆様の涙は周りの湖の水に紛れ、すぐに消えて見えなくなった。
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