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14 菓

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人から注目されることに、慣れていない。
こちらに来てから注目される機会が増えたと言えばそうだし、仕方がないことだと頭では理解している。
この学校にきた人間は過去を遡っても僕だけで、それ以外の場所で人間に出会ったことがある生徒はごく僅か。

要はとても珍しい。僕は珍獣みたいなもの。


まあそのうち僕に対する関心も薄れるだろうから、空いた時間は薬草管理と薬の調合を好きなだけできるはず────・・・なんて。

思ってましたよ、ごく最近まで。




「シャオさん属性何だった!?・・・え?火も水も・・・雷も?!何それ?!」
「上級魔法使えるってほんとう?見せてぇ」
「ミカエル先生は明後日まで学会だって!」
「先生いないと薬草園行っちゃだめなんだろ?」
「ククル先輩が怒るもんなー!」
「今日チャンスじゃん!ククル先輩、討伐の日だろ?!」
「迎えに行くね!最後の授業はどこの教室??」



「・・・みんな座って食べようね・・・」




既視感のある光景はさらにパワーアップして帰ってきた。
食堂に座る僕を見つけるや否や、我先にと隣の席は争奪戦になり、すでに食べ終わっていた僕は退席できずに誰かが持ってきてくれた紅茶を嗜むことになる。
授業で顔を合わせると言っても、僕は全学年の授業に少しずつお邪魔する形だから、ゆっくりと話すような時間はない。
空いている時間はいつも移動時間みたいなもので、こちらに来てから少し体が引き締まって痩せたぐらいだ。



最初の魔法基礎学の後、僕はあらゆる方法で魔力を調べられ、とても珍しい体質だと言うことが判明した。
それからと言うもの、先生たちも何だか目の色を変えて教えに来るし、あれもこれもやってみてほしい!といろんな魔法を試すように言われ・・・


正直、少し疲れた。



遠い目でやんややんやと大騒ぎする生徒たちを見ながら紅茶を啜っていると、するりと左腕に何かが巻き付く。
艶のある毛並みに独特の縞模様。
連戦連勝で僕の隣の席を勝ち取った尾の持ち主は、他の子違って騒ぐことなく僕のことをじっと眺めていた。




「なあ、シャオは討伐に行かんの?」

「・・・ああ、あの報酬制の課題のことですか?行きませんよ。」

「寮弟は普通どこにでもついて行くのが習わしだろ?」

「あー・・・、まあ、それなりに興味はあったんですけど、ククルに止められまして・・・」

「・・・止めた?先輩が?」

「?はい。絶対来るなと。」

「・・・ふーん・・・」




納得いかないような顔で自分の尻尾を巻きつけた僕の腕を撫でるイザークくん。
ふわふわしたそれは思わず撫で回したくなる魅力的なビジュアルだけど、先日の「耳触りたい」事件のこともあって、僕は迂闊なことを口にしてはいけない、と自分に釘を刺している。


さて、この《報酬付き課題》とやらについて説明しよう。

この学校では五年生、もしくはその他の学年の特に優秀な生徒の中で希望した者のみ、外部組織からの魔物討伐を受けることができるそうだ。
僕の世界の学校といえば裕福な家庭の子女が通う場所。
でもこちらの世界は金銭的な優劣ではなく、魔力の資質能力でのみ入学の許可がおりる。
裕福な子もいればそうでない子もいて、学費を自分の力で何とかしたいという希望を持つ子もいる。

そう言う生徒には在学中でも仕事を斡旋、というのがこの魔物討伐にあたる。




「俺も今度行く。」

「・・・・・・え?!イザークくんまだ一年生でしょう?!」

「強いから許可おりた。褒めろ。」

「・・・え、らい・・・すごい・・・?」

「ん。がんばる。」

「そ、そう・・・」




ムフー、と自慢げな顔のイザークくんの耳がぴくぴく動く。
ああ・・・可愛い耳・・・触りたい・・・。
我慢、我慢、我慢・・・と心の中で唱える僕を置いて、今日の放課後の予定が勝手に決定されたらしく、わざわざ時間と場所と持ち物を書かれた紙を置いて、元気な一年生たちは解散して行った。

・・・自由だな────・・・!




紙を手に呆然とする僕の肩を叩く人物。
振り向くのも億劫で、頭を後ろに反らせると、相手の額とゴチンッ!とぶつかってしまい、二人してしゃがみ込む。



「~・・・っ、ご、ごめんね、イザークくん・・・!」

「・・・べ、別にいい・・・っ、ほ、ほら、口、開けろ。」

「・・・口?こ、こう・・・・・・?んぐっ!?」



被害者のお願いは素直に聞き入れよう。
あーん、と上下に口を開くと、小粒の物体が口に投げ込まれた。
反射的に口を閉じると、じゅわ~・・・と口いっぱいに果実のような甘さが広がって、思わず僕は両手で頬を押さえた。




「なにこれ!?お、おいし・・・!」

「・・・果物蜜の菓子。シャオ、疲れてるよな?やる。」

「えっ、ええ・・・っ!ありがとう・・・!」



ぽりぽりと鼻の頭を掻いて「別に・・・」と横を向くイザークくん。
あっという間に口の中の菓子は溶けていき、なくなってしまった。
僕、顔に疲れが出てたかな・・・?
ククルからは言われたけど、他に誰も気が付かなかったのに・・・




「・・・お礼に頭撫でろ。ん。」

「?!撫で?!だ、ダメですよ?!」

「・・・何でなん。」

「え?!だ、だって、耳を触るのはその、えっと、意味があるって・・・」

「・・・じゃあ耳は触らんで。頭ならいいじゃん。ほら、もう一個やるし。」

「え、ええ・・・?」




戸惑う僕の口に投げ込まれる二つ目の菓子。
さっきとは違う味だ・・・!美味しい・・・!
今度作り方教えてもらおう。

えっと、今はそうじゃなくて────・・・




「ほ、本当に、嫌じゃないですか?」

「・・・嫌じゃないから礼になるの。」

「そ、そうだよね・・・?じゃ、じゃあ、し、失礼しまーす・・・」



そっと伸ばした手が、イザークくんの綺麗な金髪に触れる。
見た目以上に柔らかくて、ふわっふわ。
思わず両手で包み込んで、わしゃわしゃ撫でてしまい、鳥の巣みたいに爆発状態になってしまってから僕は急いで手を引っ込める。


謝罪の言葉を口にする前に、右手首は掴まれて戻って来れなくなっちゃったけど。




「ごごごごめん!あ、あまりにも、触り心地が良くてつい・・・!」

「・・・ククル先輩はシャオを危ない目に合わせたくないんだね。」

「・・・え?な、なに?声が小さくて聞こえな、」

「そんなこと気にする人には見えないのに。」

「・・・イザークくん?どうしたの?」

「・・・別に。今度は耳も触っていいよって言ったの。」

「??!ダメです!」

「・・・まだ、ね。」




一瞬にしてにこりと笑ったイザークくんの顔はどこか大人びていて、僕の手の甲にふっと息を吹きかけて手を離す。




「放課後は俺も行くけん。ちゃんと来いよ、シャオ。」

「んえっ?!あ、え、は、はい!」

「またあとでね。」

「う、うん・・・?あ!お、お菓子、ありがとう!」



僕の言葉にひらひらと手を振って、いなくなったイザークくんを見送る僕の左手には招待状のような紙、そして右手にはあのふわふわな髪の感触。


口の中は甘さでいっぱいで、体の疲れが少しとれた気がした。


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感想 3

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みんなの感想(3件)

白眼
2024.11.20 白眼
ネタバレ含む
N2O
2024.11.20 N2O

白眼 さま

萌チャージになりましたか?!わーい☺️🫶ウレシ
なんたって翼ハグの出典元は白眼さまです✌︎
そしてまさかのククルにポンコツ要素の兆しが見えてきました・・・!どうぞ気長に見守ってください🙇‍♀️

解除
白眼
2024.11.16 白眼

体調、大丈夫ですか? 
季節の変わり目とはいえ、天候は安定しないし、暑いのか寒いのか分からない日々が続いてますもん。体調不慮にもなります。ご無理の無い様にです。

N2O
2024.11.16 N2O

白眼 さま

うわ〜ん・・・お気遣いありがとうございます・・・😭
見事に長引いておりまして、咳がとまりません!
季節の変わり目、白眼さまもどうぞお気をつけて🙇‍♀️

解除
白眼
2024.11.04 白眼
ネタバレ含む
N2O
2024.11.04 N2O

白眼 さま

いつも読んでくださりありがとうございます✨
ククルくんはシャオに振り回されます☺️ガンバレ

定期落ち込み中にまた白眼さんの温かいお言葉・・・!沁み渡りました🙏ジュワ
こちら非公開にしようかめちゃくちゃ迷ってたんですが、もう少し頑張ってみます・・・✌︎

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