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"シャオ、またお皿を割ったのですか?"
"何故そこにバケツを置いたのです。見なさい、水浸しになったでしょう。"
"ああ、もう・・・歯を磨きながら寝ないでください。本当あなたは見かけによらず────・・・"
「僕を子ども扱いしすぎだ!!」
「っ、び、っくりしたぁ・・・っ!」
「ああああっ!種がっ、」
「今のはシャオさんのせいですからね?」
僕の大きな独り言に飛び跳ねて驚いた助手オリヴァーくん。
彼が紙袋に入れて持っていたヤミルの種がそこら中に散らばった。
やっと畝が完成し、「いざ!」ってところだったのに。
小指の先っぽくらいしかない種を這いつくばって拾い集める羽目になった。
これもそれも全部!あの!マシューとかいう!男のせいだ!
「神官長様と寝食を共にしてるだなんて他の職員に知られたら袋叩きに遭いますよ。」
「・・・あの男のこと何も知らないでしょう。」
「知っています。絵に描いたような美しく慎ましい聖職者じゃありませんか。羨ましい。」
「・・・・・・チッ」
「え?!今の舌打ちですか!?今日は一段と情緒おかしいですよ!?」
「うるさいです。さっさと日陰で休憩してください。」
オリヴァーくんが僕のところへ来たのはつい二週間前のこと。
アレンの紹介というだけあって、オリヴァーくんも社交性の塊だ。
「怖~い♡」と騒ぎながら手際よく大きな植物の葉を丸め、簡易カップを製作中。
そして悔しいことに気が利くこの男は僕の分のお茶まで用意してくれる。
アレン、ありがとう。
オリヴァーくんなら薬草園を託しても大丈夫な気がしてきた。
あの部屋に僕を監禁し、魔力について熱く語ったマシューは、僕を職員宿舎へ帰すどころか神殿内で生活するよう言いつけてきた。
僕の体の中に眠る魔力の花瓶を起こすためだとか、何だとか。
何を言ってるんだ、この男狐は。
部屋の外にあるトイレへ行くふりをして「やってられるか!」と神殿を飛び出し、宿舎に戻ってみると僕の部屋はすでにもぬけの殻。
僕が神殿に向かった時点ですでに手筈は済んでいたってことか、この野郎。
そして神殿から迎えにきたという何故か屈強な男たちに連行され、突如として始まった神殿生活。
マシューと隣同士の部屋で毎日規則正しい生活を送り、そして毎日小言小言小言・・・・・・!
ああ、うるさい。
「シャオさん薬草に関してはピカイチですけど、それ以外本当ポンコツですもんね。一人にしたらすぐ死にそう。」
「・・・一人暮らしをしていたことだってあります。」
「あっという間にゴミ屋敷になって、見兼ねた所長が引っ張り出してここに連れてきたんですよね!俺それ聞いてめちゃ笑いました。」
「・・・・・・情報元はアレンですね。」
「げ!やば、顔怖っ!ほ、ほら!種蒔きましょう!ゴーゴー!」
「・・・・・・」
ぐいぐい背中を押され、ジト目のまま畑仕事に戻る。
僕だって薬草と農具と書類の管理はできるんだぞ。
ただちょっと掃除が苦手で、
料理すると何故か全部焦げて、
論文書いてたらご飯食べるのを忘れてそのうち倒れてるってだけ。
神殿生活二日目くらいには僕の生態がマシューにバレて、断っているのに随分と世話を焼かれてる。
だから宿舎でが良かったのに。
たまに掃除してもらえるし、ご飯だって食堂に行けばいい。
シャワーも風呂も共同だけど、アレンが声を掛けてくれるから行き忘れることもない。
これも!全部!あのマシューとかいう(以下略)
「でも楽しみですねー!異世界派遣なんて。男のロマンって感じがします!」
「代わってください。喜んでお譲りします。」
「代われないってちゃんと分かってるから毎日苛々してるんですよね。」
「・・・・・・チッ」
「ほら、楽しみじゃないですか?あっちの食べ物とか動物とか・・・、あ!薬草だってこっちと違うんじゃないですか?」
「・・・・・・は?」
「だって向こうには人間がいないんですよね?だったら生態系も違うってことだし、こっちにはないものが沢山あ、」
「オリヴァーくん!あなた天才ですね!!」
「へ?」
悔しいけどマシューが言っていたことを思い出す。
『それが薬の一部だとも知らずに、固定された見方でしか判断ができない。』
それは見方を変えれば、どのようにも化けるということ。
「盲点です!僕はあちらに"行くこと"しか考えていませんでした・・・!」
「そ、そうですか・・・」
「オリヴァーくんの言う通りです!あちらの薬草に関する情報は何もありません。未知の薬草があるかもしれないということです!」
「は、はい・・・」
「うわぁ・・・っ!凄い。俄然やる気になってきました・・・!ありがとう!」
「お、役に立てて光栄です・・・?」
「さあ、種を蒔きましょう。採集と乾燥の時期はオリヴァーくん一人ですからくれぐれも慎重に頼みますね。ヤミルは日が昇る前に採集しないと花弁が開いて効能が落ち、」
「はいはいはいはい、分かりました。あとは研究室で教えてください。」
種を半分に分け、お互い手袋をはめる。
さっきまであんなに苛々していたのが嘘のようだ。
新しい薬草と新しい薬が待っているかもしれない。
そう考えるだけで作業も捗るというもの。
そして興奮冷めやらぬ僕は、オリヴァーくんが教えてくれた重要な事実を聞き逃していた。
『だって向こうには人間がいないんですよね?』
この言葉は後に最重要項目となるわけだが、種を蒔き終わり背伸びをする僕の頭にはもうすでに残っていなかった。
"何故そこにバケツを置いたのです。見なさい、水浸しになったでしょう。"
"ああ、もう・・・歯を磨きながら寝ないでください。本当あなたは見かけによらず────・・・"
「僕を子ども扱いしすぎだ!!」
「っ、び、っくりしたぁ・・・っ!」
「ああああっ!種がっ、」
「今のはシャオさんのせいですからね?」
僕の大きな独り言に飛び跳ねて驚いた助手オリヴァーくん。
彼が紙袋に入れて持っていたヤミルの種がそこら中に散らばった。
やっと畝が完成し、「いざ!」ってところだったのに。
小指の先っぽくらいしかない種を這いつくばって拾い集める羽目になった。
これもそれも全部!あの!マシューとかいう!男のせいだ!
「神官長様と寝食を共にしてるだなんて他の職員に知られたら袋叩きに遭いますよ。」
「・・・あの男のこと何も知らないでしょう。」
「知っています。絵に描いたような美しく慎ましい聖職者じゃありませんか。羨ましい。」
「・・・・・・チッ」
「え?!今の舌打ちですか!?今日は一段と情緒おかしいですよ!?」
「うるさいです。さっさと日陰で休憩してください。」
オリヴァーくんが僕のところへ来たのはつい二週間前のこと。
アレンの紹介というだけあって、オリヴァーくんも社交性の塊だ。
「怖~い♡」と騒ぎながら手際よく大きな植物の葉を丸め、簡易カップを製作中。
そして悔しいことに気が利くこの男は僕の分のお茶まで用意してくれる。
アレン、ありがとう。
オリヴァーくんなら薬草園を託しても大丈夫な気がしてきた。
あの部屋に僕を監禁し、魔力について熱く語ったマシューは、僕を職員宿舎へ帰すどころか神殿内で生活するよう言いつけてきた。
僕の体の中に眠る魔力の花瓶を起こすためだとか、何だとか。
何を言ってるんだ、この男狐は。
部屋の外にあるトイレへ行くふりをして「やってられるか!」と神殿を飛び出し、宿舎に戻ってみると僕の部屋はすでにもぬけの殻。
僕が神殿に向かった時点ですでに手筈は済んでいたってことか、この野郎。
そして神殿から迎えにきたという何故か屈強な男たちに連行され、突如として始まった神殿生活。
マシューと隣同士の部屋で毎日規則正しい生活を送り、そして毎日小言小言小言・・・・・・!
ああ、うるさい。
「シャオさん薬草に関してはピカイチですけど、それ以外本当ポンコツですもんね。一人にしたらすぐ死にそう。」
「・・・一人暮らしをしていたことだってあります。」
「あっという間にゴミ屋敷になって、見兼ねた所長が引っ張り出してここに連れてきたんですよね!俺それ聞いてめちゃ笑いました。」
「・・・・・・情報元はアレンですね。」
「げ!やば、顔怖っ!ほ、ほら!種蒔きましょう!ゴーゴー!」
「・・・・・・」
ぐいぐい背中を押され、ジト目のまま畑仕事に戻る。
僕だって薬草と農具と書類の管理はできるんだぞ。
ただちょっと掃除が苦手で、
料理すると何故か全部焦げて、
論文書いてたらご飯食べるのを忘れてそのうち倒れてるってだけ。
神殿生活二日目くらいには僕の生態がマシューにバレて、断っているのに随分と世話を焼かれてる。
だから宿舎でが良かったのに。
たまに掃除してもらえるし、ご飯だって食堂に行けばいい。
シャワーも風呂も共同だけど、アレンが声を掛けてくれるから行き忘れることもない。
これも!全部!あのマシューとかいう(以下略)
「でも楽しみですねー!異世界派遣なんて。男のロマンって感じがします!」
「代わってください。喜んでお譲りします。」
「代われないってちゃんと分かってるから毎日苛々してるんですよね。」
「・・・・・・チッ」
「ほら、楽しみじゃないですか?あっちの食べ物とか動物とか・・・、あ!薬草だってこっちと違うんじゃないですか?」
「・・・・・・は?」
「だって向こうには人間がいないんですよね?だったら生態系も違うってことだし、こっちにはないものが沢山あ、」
「オリヴァーくん!あなた天才ですね!!」
「へ?」
悔しいけどマシューが言っていたことを思い出す。
『それが薬の一部だとも知らずに、固定された見方でしか判断ができない。』
それは見方を変えれば、どのようにも化けるということ。
「盲点です!僕はあちらに"行くこと"しか考えていませんでした・・・!」
「そ、そうですか・・・」
「オリヴァーくんの言う通りです!あちらの薬草に関する情報は何もありません。未知の薬草があるかもしれないということです!」
「は、はい・・・」
「うわぁ・・・っ!凄い。俄然やる気になってきました・・・!ありがとう!」
「お、役に立てて光栄です・・・?」
「さあ、種を蒔きましょう。採集と乾燥の時期はオリヴァーくん一人ですからくれぐれも慎重に頼みますね。ヤミルは日が昇る前に採集しないと花弁が開いて効能が落ち、」
「はいはいはいはい、分かりました。あとは研究室で教えてください。」
種を半分に分け、お互い手袋をはめる。
さっきまであんなに苛々していたのが嘘のようだ。
新しい薬草と新しい薬が待っているかもしれない。
そう考えるだけで作業も捗るというもの。
そして興奮冷めやらぬ僕は、オリヴァーくんが教えてくれた重要な事実を聞き逃していた。
『だって向こうには人間がいないんですよね?』
この言葉は後に最重要項目となるわけだが、種を蒔き終わり背伸びをする僕の頭にはもうすでに残っていなかった。
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