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しおりを挟む「に、いさま・・・、息が・・・、く、るしい・・・っ、」
「・・・この匂いっ、グラッツ!!リシェルを離宮へ連れ帰る!医者も呼べ!」
「は、はい!畏まりました!」
急に胸を押さえ座り込んだリシェルに、ルイーズは勿論、ハザック、離れていたところに控えていたグラッツも戸惑いを隠せない。
息は荒く、頬も赤い。
目には涙が浮かんでいて、とんでもなく甘い香りが漂い始める。
不謹慎かもしれないが、ハザックは思わず生唾を飲んだ。
だがすぐに頭を左右に振り、冷静さを保とうと必死だ。
「ど、どうしたんだ?!この匂い・・・?!リシェルは何か持病でもあるのか?」
「・・・無い、はずだ。リシェル・・・っ、こんなに汗が・・・っ!ハザック、私達はここで失礼するよ。」
「!?俺も行く!!番が・・・・・・っ、こんなに苦しんでいるのに!」
「・・・君の番では無い、と言っている。」
ハザックに向けて、また冷気が放たれる。
目は恐ろしいほど冷たいがハザックもここで引き下がるわけにはいかない。
二人が睨み合う中、ルイーズの裾を遠慮がちに引っ張る小さな手。
ハッとしてルイーズがそちらを向くと、困ったように眉を下げたリシェルの顔があった。
「・・・に、いさま。ハザック、様も・・・離宮、に・・・んっ、」
「・・・何を言うんだ、リシェル・・・?」
「ちゃ、んと話を、したい・・・で、す・・・。兄様も、ハザック様と、話を・・・」
「だ、だが・・・っ、」
「お、ねが・・・い、します・・・ルイーズ兄様・・・」
「・・・わかっ、た。」
「リシェル、ありがとう・・・!」
「気安く名前を呼ばないでくれ。離宮はこちらだ。案内する。」
ルイーズはリシェルを横抱きに抱え、早足で歩く。
ハザックはルイーズの絶対零度の態度にも全く屈せず「大丈夫か?」「リシェル、汗を拭こう」と横から口を出し、ハンカチを出し。
ルイーズは不機嫌そうな顔を隠そうともしなかったが、ハザックはリシェルばかり見ていたから、全く気がついていなかった。
離宮に着き、すぐにダミアンが駆けつけた。
リシェルの胸や腹に器具を当てたり、魔力を流したり、様々な方法で診るダミアン。
彼は王族専属の医者。
だから、王族の身体のことなら何でも知っている。
そしてしばらく診察した後、ダミアンは何やら頭を抱え始めた。
「ダミアン、どうした?・・・リシェルはどこか悪いのか・・・?」
「・・・・・・ルイーズ様、お聞きしたいことがございます。人払いを。」
「・・・分かった。グラッツ、ハザック様を別室にご案内しろ。」
「なっ!?お、俺も居ていいだろう?!」
「申し訳ございません。これはトレードの王族に関する話ですので。」
「・・・・・・っ、話が済んだらすぐ、呼んでくれ。頼む。」
「・・・グラッツ、お連れしなさい。」
了承はしない、といったルイーズの態度にハザックは下唇を噛んだ。
ここが自国だったなら良かったのに、と悔しさで埋め尽くされる。
マダラ模様の尻尾は悲しげに垂れ、横たわるリシェルの方を見ていたが、グラッツに名前を呼ばれ、名残惜しそうに部屋を出ていった。
「・・・リシェル様に全てお話したのですか?」
「・・・まだだ。何故そのようなことを、今、聞く?」
「・・・・・・・・・・・・・・・す。」
「は?」
眉間を押さえ何やら言いにくそうな顔のダミアン。
小さな声で何かもごもご言っているがルイーズはリシェルの身体が心配でその煮え切らないダミアンの態度に苛立ちを隠せない。
「だから、何だ。ハッキリ言え。リシェルの身体に何が起こっている?」
今日何度目かの威圧の魔力。
こんなにも感情をコントロールできないのは珍しい。
番の存在とは、それほどに、恐ろしいほどに、重要なのだ。
「~~っ、で、ですから・・・・・・、リシェル・・・様は・・・、は、発情・・・されている、かと・・・・・・」
「・・・・・・・・・なんだと?」
「で、ですから・・・・・・、発情、でございます・・・ルイーズ様・・・、あまり、な、何度も言わせないで下さい・・・」
「・・・・・・・・・は?」
六十代の男の耳が赤くなっている。
そんな姿を見るために、聞き直したわけでは無い。
「リシェルが発情・・・?」と、繰り返し独り言のように呟くルイーズに、ダミアンは何度も静かに頷いていた。
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