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離宮には小さいが、広間がある。


そこで一時間ほど、踊り続けている青年二人。
男女問わず結婚できることもあり、女性のパートも、男性のパートもマスターするのがこの世界の社交ルールのようなもの。


慣れないステップに、はあ、はあ、と少し息を切らす小柄なリシェル。
そしてそんなリシェルの細腰に手を回し、どこかうっとりとした表情でリシェルを堪能するのが、第一王子のルイーズだ。

約束通りルイーズはリシェルにダンスを教えにきたのである。
・・・と言うか、これはここ連日の光景で、ルイーズは離宮に足繁く通い、自分が執務で来れない時にはリシェル専用のダンス講師を派遣している。





「やっぱり筋がいいよ、リシェル。さすがは踊り子の息子だね。」

「あ、ありがとう・・・ございます・・・」

「さ、そろそろ休憩にしようか。疲れただろう?」

「きゅ、休憩!?お、終わりではなくて、ですか?!」

「・・・ああ、悲しいな、リシェル。兄さんとそんなに早く離れたいのかい?」

「ちちちち、違います!ルイーズ様の貴重なお時間が、」

「兄様、だろう?リシェル。それに・・・、」

「・・・・・・?」



そう言うとリシェルの肩をくいっと引き寄せ、横から顔を覗き込むルイーズ。
もう片方の腕は腹当たりに回され、身動きが取れない。
その天使のような美しい顔が急に近付いたものだから、リシェルは息が止まりそうになった。



「リシェルと過ごす時間以上に、大事なものなど存在しないよ。」



首を傾げ「君は違うのかい?」と問われたリシェルはボンッと顔が真っ赤になる。
一国の、それもこんな美しい王子からとんでもないことを言われたのだ。
リシェルは恥ずかしさで「う、あ、」と言葉がうまく出てこなくなってしまった。

一方ルイーズは頸まで真っ赤になったリシェルに満足そうで、くすくすと、上品に笑う。



「ふ、ふふふ。さぁ、私の可愛いリシェル。あちらでお茶にしようね。」

「・・・うう・・・は、はい。ルイーズに、いさま。」


恥ずかしくて顔を上げられないリシェルの手を引き、にこにこ顔で専属のメイドが用意した茶席に向かう。鼻歌まで聞こえてきそうだ。


そして、ルイーズが本当に、本当に、小さな声で「・・・成人まで待った甲斐があったよ・・・」と呟いたのを、リシェルの背後に控えていたサーシャは聞き逃さなかった。


















「城下にも獣人が増えてきたそうだよ。あちらとの交流も久しぶりだからね。私も楽しみだ。」

「そ、そうなんですね。」

「収穫祭までとは言わないが、お祭りもあるんじゃないかな?」

「お祭り・・・・・・っ!」

「・・・ふふ、リシェルも行きたいかい?」

「あっ、えっと・・・・・・はい。行ったことない、ので・・・、楽しんだろうなぁ・・・ふふっ、」

「・・・・・・っ、行けるように、私が手配しよう。」

「えっ!!?いいんですか?!ぼ、僕、離宮から出てはいけないって言われ、」「一体誰がそんなこと言ったのかな?」


一瞬にしてピリ、と張り詰めた空気が漂う。
リシェルに対しては優しい口調だが、ルイーズの瞳から怒りが溢れていた。
余計なことを言ってしまったのかもしれない、とリシェルは息をのむ。



「え・・・っと、・・・あ、」

「・・・聞かなくても分かる。母上だろう。」

「・・・・・・・・・・・・」

「すまない、リシェル。私が来るのに時間がかかってしまった。寂しい思いをさせてしまったね。でもこれからは私がリシェルを守るから安心して。誰が何を言っても大丈夫なように色々と根回しをしておいたから。リシェルが王宮あちらに移っても・・・いや、いっそのこと二人だけの城を建て」「ままままま、待ってください!兄様!お、落ち着いて、」

「ん?なんだい?私は落ち着いているよ。・・・ああ、焦ったリシェルも可愛いね。」

「に、兄様・・・っ、」



リシェルへと手を伸ばしたルイーズは、リシェルの柔らかな黒髪をそっと撫でた。
そしていつものように、うっとりのした顔で微笑んでいる。



「私はリシェルのことをずっと・・・ずっと、大切に想っているからね。困ったことがあったらいつでも言うんだよ。」

「・・・あ、りがとうございます・・・ルイーズ兄様。」

「・・・さあっ、休憩はおしまい。ダンスの練習に戻ろうか。ね、リシェル。」

「は、はい!よろしくお願いします。ぼ、僕・・・頑張ります!」

「ふふ、ふふふっ、可愛いね。・・・さすが・・・・・・、いや、何でもない。さあ、行こう。」

「・・・?はい。」




言いかけた言葉は、一体何だったのだろう。
リシェルは少し気になったが、それをすぐに忘れるくらい、ハードなダンスレッスンが開始され、翌日は全身筋肉痛になったのである。
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