【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O

文字の大きさ
上 下
6 / 19

しおりを挟む
離宮には小さいが広間がある。

そこで一時間ほど踊り続けている青年二人。
男女問わず結婚できることもあり、女性のパートも男性のパートもマスターするのがこの世界の社交ルールのようなもの。
慣れないステップに、はあ、はあ、と少し息を切らす小柄なリシェル。
そしてリシェルの細腰に手を回しどこかうっとりとした表情でリシェルを堪能するのが第一王子のルイーズだ。

約束通りルイーズはリシェルにダンスを教えにきた。
・・・と言うか、これはここ連日の光景。
ルイーズは離宮に足繁く通い、自分が執務で来れない時にはリシェル専用のダンス講師を派遣している。



「やっぱり筋がいい。さすがは踊り子の息子だね。」

「あ、ありがとう・・・ございます・・・」

「さ、そろそろ休憩にしようか。疲れただろう?」

「きゅ、休憩!?お、終わりではなくて、ですか?!」

「・・・ああ、悲しいな、リシェル。兄さんとそんなに早く離れたいのかい?」

「ちちちち、違います!ルイーズ様の貴重なお時間が、」

「兄様、だろう?リシェル。それに・・・、」

「・・・・・・?」



そう言うとリシェルの肩をくいっと引き寄せ、横から顔を覗き込むルイーズ。
もう片方の腕は腹当たりに回され、身動きが取れない。
その天使のような美しい顔が急に近付いたものだから、リシェルは息が止まりそうになった。



「リシェルと過ごす時間以上に、大事なものなど存在しないよ。」



首を傾げ「君は違うのかい?」と問われたリシェルはボンッと顔が真っ赤になる。
一国の、それもこんな美しい王子からとんでもないことを言われたのだ。
リシェルは恥ずかしさで「う、あ、」と言葉がうまく出てこなくなってしまった。

一方ルイーズは頸まで真っ赤になったリシェルに満足そうで、くすくすと、上品に笑う。



「ふ、ふふふ。さぁ、私の可愛いリシェル。あちらでお茶にしようね。」

「・・・うう・・・は、はい。ルイーズに、いさま。」



恥ずかしくて顔を上げられないリシェルの手を引き、にこにこ顔で専属のメイドが用意した茶席に向かう。
鼻歌まで聞こえてきそうだ。

そしてルイーズが本当に小さな声で「・・・成人まで待った甲斐があったよ・・・」と呟いたのをリシェルの背後に控えていたサーシャは聞き逃さなかった。





「城下にも獣人が増えてきたそうだよ。あちらとの交流も久しぶりだからね。私も楽しみだ。」

「そっ・・・、そうなんですね。」

「収穫祭までとは言わないが、お祭りもあるんじゃないかな?」

「お祭り・・・・・・っ!」

「・・・ふふ、リシェルも行きたいかい?」

「あっ、えっと・・・・・・はい。行ったことない、ので・・・、楽しんだろうなぁ・・・ふふっ、」

「・・・・・・っ、行けるように、私が手配しよう。」

「えっ!!?いいんですか?!ぼ、僕、離宮から出てはいけないって言われ、」

「一体誰がそんなこと言ったのかな?」

「・・・あ、」




一瞬にして張り詰めた空気が漂う。
リシェルに対しては優しい口調だがルイーズの瞳から怒りが溢れていた。
余計なことを言ってしまったのかもしれないとリシェルは息をのむ。




「え・・・っと、」

「・・・聞かなくても分かる。母上だろう。」

「・・・・・・」

「すまない、リシェル。私がここまで来るのに時間がかかってしまった。寂しい思いをさせてしまったね。でもこれからは私がリシェルを守るから安心して。誰が何を言っても大丈夫なように色々と根回しをしておいたから。リシェルが王宮あちらに移っても・・・いや、いっそのこと二人だけの城を建て」

「ままままま、待ってください!兄様!お、落ち着いて、」

「ん?なんだい?私は落ち着いているよ。・・・ああ、焦ったリシェルも可愛いね。」

「に、兄様・・・っ、」



リシェルへと手を伸ばしたルイーズはリシェルの柔らかな黒髪をそっと撫でた。
そしていつものようにうっとりとした顔で微笑んでいる。



「私はリシェルのことをずっと・・・ずっと、大切に想っているからね。困ったことがあったらいつでも言うんだよ。」

「・・・あ、りがとうございます・・・ルイーズ兄様。」

「・・・さあっ、休憩はおしまい。ダンスの練習に戻ろうか。ね、リシェル。」

「は、はい!よろしくお願いします。ぼ、僕・・・頑張ります!」

「ふふ、ふふふっ、可愛い。・・・さすが私の・・・・・・、いや、何でもない。さあ、行こう。」

「・・・?は、はい。」



言いかけた言葉は、一体何だったのだろう。
リシェルは少し気になったがそれをすぐに忘れるくらいハードなダンスレッスンが開始され、翌日は全身筋肉痛になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

三度目の人生は冷酷な獣人王子と結婚することになりましたが、なぜか溺愛されています

倉本縞
BL
エルガー王国の王子アンスフェルムは、これまで二回、獣人族の王子ラーディンに殺されかかっていた。そのたびに時をさかのぼって生き延びたが、三回目を最後に、その魔術も使えなくなってしまう。 今度こそ、ラーディンに殺されない平穏な人生を歩みたい。 そう思ったアンスフェルムは、いっそラーディンの伴侶になろうと、ラーディンの婚約者候補に名乗りを上げる。 ラーディンは野蛮で冷酷な獣人の王子と噂されていたが、婚約者候補となったアンスフェルムを大事にし、不器用な優しさを示してくれる。その姿に、アンスフェルムも徐々に警戒心を解いてゆく。 エルガー王国がラーディンたち獣人族を裏切る未来を知っているアンスフェルムは、なんとかそれを防ごうと努力するが……。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる

琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。 落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。 異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。 そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

処理中です...