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「・・・ヨル、お前やつれてねぇか?」
「・・・あ、フォンさん・・・こんばんは。最近ちょっと忙しくて・・・」
「今日は帰って寝た方がいいんじゃねえか?」
「いえ!僕いつも来れるわけじゃないから、来れる時は思いっきり踊りたいんです。」
そう言いつつ「ふわぁ」と小さな欠伸をするヨルこと、リシェル。
ここでは偽名を使っているのだ。
この店の存在を知ったのは一年ほど前のことで、おしゃべり好きな庭師のマーシャルが教えてくれたのだ。
マーシャルも、まさか主人が出演しているとは夢にも思ってないだろう。
リシェルもここに来れるのは、マーシャルが絶対に城下町に居ない日だけ。
つまり、マーシャルの夜の庭の見回り当番の日。だからここでの名前はそれにちなんで「ヨル」にした。
髪型を少し変え、魔法で瞳の色を変え、気休めほどの変装しているが、さすがに直接会えば気付かれるだろう。
自分の身分がバレてしまっては、もうここに来れなくなるのは分かっている。
王子でも、誰かの邪魔者でもない、自由な自分でいられる場所を、リシェルは守りたかった。
「そうか?じゃ、頑張れよ。お前かなり人気あるからな。店主も儲かるって喜んでたぞ。現金なことだ。」
「えへへ、それでも嬉しいです。フォンさんにも喜んでもらえるように頑張りますね。」
「ゲホッ、お、お前、自分の面の良さ分かってやってんのか?・・・簡単にそう言うこと他の奴に言うなよ。」
「・・・?は、はい。わかりました・・・?」
「・・・わかってねぇだろ。」
「・・・えへへ。」
おでこをフォンの太い指でツン、と突かれたヨルはまたへらり、と笑った。
フォンはやれやれ、とため息をつくと店を見回す。いつもと同様満席だが、少し客層が違うようだ。
「今日は獣人も多いな。そういやもうすぐアグリアの王族が来るんだろう?町もお祭り騒ぎだもんな。」
「ソ、ソウナンデスカ・・・?」
「・・・何で片言なんだよ。俺も楽しみなんだ。王族が来るってことは騎士もついて来る。ぜひ手合わせ願いたいもんだ。」
フォンは、王都の騎士団の一人。
「割と強いんだぜ」と自信満々な顔で腕に力瘤をつくるフォンの姿をリシェルは思い出す。
「・・・そういえば僕、こんなに近くで獣人の方を見るのは初めてかもしれません・・・!」
「はあ?!なんだそれ。お前やっぱりどこぞの金持ちの・・・しかも箱入り息子だろ?!」
「ちちちちちちちち、ちがっ、うわっ、」
「おっと!・・・ブハッ!!!アハハハハ!慌てすぎだろ!アハハハハ!」
図星をつかれ、慌てふためいたリシェルは自分の靴を自分で踏んづけて転びかけた。
その華奢な身体を抱き止めたフォンは、腹を抱えて笑い、リシェルは顔を真っ赤にしてフォンの胸元をぽかぽかと叩く。
「ひっ、ひひ、あー・・・笑った笑った。おっ、ほら次だろ、ヨルの番。さっさと行ってこい。」
「~~っ、もう!行ってきます!!ちゃんと見ててくださいね!!」
「くっくくっ、怒ってら。お前だけ見てるよ。今日も頑張れ。」
「・・・はぁい。」
お前だけ見てる、なんて言われたものだから少し気恥ずかしくなってしまい、リシェルは耳を赤くしてステージへと向かった。
この日もリシェルの踊りは拍手喝采で、フォンの同僚の獣人からも話しかけられた。
近くで見る獣人の迫力にリシェルは最初おどおどしていたが、いざ話してみると優しくて面白い。
獣人と言っても、何も怖いことはない。
身体の作りが少し違うだけで、あとは人間と同じだ。
そして何も穢れてなんかいない、とリシェルは改めて思うのであった。
そしてこの話しかけてきた騎士団所属の狐の獣人、ジュードとの出会いは、今後のリシェルの人生を大きく左右することになる。
そのことを、まだリシェルは知る由もなかった。
「・・・あ、フォンさん・・・こんばんは。最近ちょっと忙しくて・・・」
「今日は帰って寝た方がいいんじゃねえか?」
「いえ!僕いつも来れるわけじゃないから、来れる時は思いっきり踊りたいんです。」
そう言いつつ「ふわぁ」と小さな欠伸をするヨルこと、リシェル。
ここでは偽名を使っているのだ。
この店の存在を知ったのは一年ほど前のことで、おしゃべり好きな庭師のマーシャルが教えてくれたのだ。
マーシャルも、まさか主人が出演しているとは夢にも思ってないだろう。
リシェルもここに来れるのは、マーシャルが絶対に城下町に居ない日だけ。
つまり、マーシャルの夜の庭の見回り当番の日。だからここでの名前はそれにちなんで「ヨル」にした。
髪型を少し変え、魔法で瞳の色を変え、気休めほどの変装しているが、さすがに直接会えば気付かれるだろう。
自分の身分がバレてしまっては、もうここに来れなくなるのは分かっている。
王子でも、誰かの邪魔者でもない、自由な自分でいられる場所を、リシェルは守りたかった。
「そうか?じゃ、頑張れよ。お前かなり人気あるからな。店主も儲かるって喜んでたぞ。現金なことだ。」
「えへへ、それでも嬉しいです。フォンさんにも喜んでもらえるように頑張りますね。」
「ゲホッ、お、お前、自分の面の良さ分かってやってんのか?・・・簡単にそう言うこと他の奴に言うなよ。」
「・・・?は、はい。わかりました・・・?」
「・・・わかってねぇだろ。」
「・・・えへへ。」
おでこをフォンの太い指でツン、と突かれたヨルはまたへらり、と笑った。
フォンはやれやれ、とため息をつくと店を見回す。いつもと同様満席だが、少し客層が違うようだ。
「今日は獣人も多いな。そういやもうすぐアグリアの王族が来るんだろう?町もお祭り騒ぎだもんな。」
「ソ、ソウナンデスカ・・・?」
「・・・何で片言なんだよ。俺も楽しみなんだ。王族が来るってことは騎士もついて来る。ぜひ手合わせ願いたいもんだ。」
フォンは、王都の騎士団の一人。
「割と強いんだぜ」と自信満々な顔で腕に力瘤をつくるフォンの姿をリシェルは思い出す。
「・・・そういえば僕、こんなに近くで獣人の方を見るのは初めてかもしれません・・・!」
「はあ?!なんだそれ。お前やっぱりどこぞの金持ちの・・・しかも箱入り息子だろ?!」
「ちちちちちちちち、ちがっ、うわっ、」
「おっと!・・・ブハッ!!!アハハハハ!慌てすぎだろ!アハハハハ!」
図星をつかれ、慌てふためいたリシェルは自分の靴を自分で踏んづけて転びかけた。
その華奢な身体を抱き止めたフォンは、腹を抱えて笑い、リシェルは顔を真っ赤にしてフォンの胸元をぽかぽかと叩く。
「ひっ、ひひ、あー・・・笑った笑った。おっ、ほら次だろ、ヨルの番。さっさと行ってこい。」
「~~っ、もう!行ってきます!!ちゃんと見ててくださいね!!」
「くっくくっ、怒ってら。お前だけ見てるよ。今日も頑張れ。」
「・・・はぁい。」
お前だけ見てる、なんて言われたものだから少し気恥ずかしくなってしまい、リシェルは耳を赤くしてステージへと向かった。
この日もリシェルの踊りは拍手喝采で、フォンの同僚の獣人からも話しかけられた。
近くで見る獣人の迫力にリシェルは最初おどおどしていたが、いざ話してみると優しくて面白い。
獣人と言っても、何も怖いことはない。
身体の作りが少し違うだけで、あとは人間と同じだ。
そして何も穢れてなんかいない、とリシェルは改めて思うのであった。
そしてこの話しかけてきた騎士団所属の狐の獣人、ジュードとの出会いは、今後のリシェルの人生を大きく左右することになる。
そのことを、まだリシェルは知る由もなかった。
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