【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O

文字の大きさ
上 下
5 / 19

しおりを挟む
「・・・ヨル、なんかお前窶れてねぇか?」

「・・・あ、フォンさん・・・最近ちょっと忙しくて・・・」

「今日は帰って寝た方がいいんじゃねえか?」

「いえ!僕いつも来れるわけじゃないから、来れる時は思いっきり踊りたいんです。」



そう言いつつ「ふわぁ」と小さな欠伸をするヨルこと、リシェル。
ここでは偽名を使っている。

そもそもこの店の存在を知ったのは一年ほど前のことで、おしゃべり好きな庭師のマーシャルが教えてくれた。
マーシャルもまさか主人が出演しているとは夢にも思ってないだろう。
リシェルもここに来れるのはマーシャルが絶対に城下町に居ない日だけ。
つまりマーシャルの夜の庭の見回り当番の日。
だからここでの名前はそれにちなんで「ヨル」にした。

髪型を少し変え、魔法で瞳の色を変え、気休めほどの変装しているが、さすがに直接会えば気付かれるだろう。
自分の身分がバレてしまっては、もうここに来れなくなるのは分かっている。


王子でも、誰かの邪魔者でもない、自由な自分でいられる場所を、リシェルは守りたかった。




「お前かなり人気あるからな。店主も儲かるって喜んでたぞ。」

「えへへ、それでも嬉しいです。フォンさんにも喜んでもらえるように頑張りますね。」

「ゲホッ、お、お前、自分の面の良さ分かってやってんのか?・・・簡単にそう言うこと他の奴に言うなよ。」

「・・・?は、はい。わかりました・・・?」

「・・・わかってねぇだろ。」

「・・・えへへ。」



おでこをフォンの太い指でツン、と突かれたヨルはまたへらり、と笑った。
フォンはやれやれ、とため息をつくと店を見回す。
いつもと同様満席だが少し客層が違うようだ。


「今日は獣人も多いな。そういやもうすぐアグリアの王族が来るんだろう?町もお祭り騒ぎだもんな。」

「ソ、ソウナンデスカ・・・?」

「・・・何で片言なんだよ。俺も楽しみなんだ。王族が来るってことは騎士もついて来る。ぜひ手合わせ願いたいもんだ。」



フォンは王都の騎士団の一人。
「割と強いんだぜ」と自信満々な顔で腕に力瘤をつくるフォンの姿をリシェルは思い出す。




「・・・そういえば僕、こんなに近くで獣人の方を見るのは初めてかもしれません・・・!」

「はあ?!なんだそれ。お前やっぱりどこぞの金持ちの・・・しかも箱入り息子だろ?!」

「ちちちちちちちち、ちがっ、うわっ、」

「おっと!・・・ブハッ!!!アハハハハ!慌てすぎだろ!アハハハハ!」



図星をつかれ、慌てふためいたリシェルは自分の靴を自分で踏んづけて転びかけた。
その華奢な身体を抱き止めたフォンは、腹を抱えて笑い、リシェルは顔を真っ赤にしてフォンの胸元をぽかぽかと叩く。



「ひっ、ひひ、あー・・・笑った笑った。おっ、ほら次だろ、ヨルの番。さっさと行ってこい。」

「~~っ、もう!行ってきます!!ちゃんと見ててくださいね!!」

「くっくくっ、怒ってら。お前だけ見てるよ。今日も頑張れ。」

「・・・はぁい。」



お前だけ見てる、なんて言われたものだから少し気恥ずかしくなってしまい、リシェルは耳を赤くしてステージへと向かった。
この日もリシェルの踊りは拍手喝采で、フォンの同僚の獣人からも話しかけられた。
近くで見る獣人の迫力にリシェルは最初おどおどしていたが、いざ話してみると優しくて面白い。

獣人と言っても、何も怖いことはない。
身体の作りが少し違うだけで、あとは人間と同じだ。
そして何も穢れてなんかいない、とリシェルは改めて思うのであった。

そしてこの話しかけてきた騎士団所属の狐の獣人、ジュードとの出会いは、今後のリシェルの人生を大きく左右することになる。





そのことを、まだリシェルは知る由もなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

三度目の人生は冷酷な獣人王子と結婚することになりましたが、なぜか溺愛されています

倉本縞
BL
エルガー王国の王子アンスフェルムは、これまで二回、獣人族の王子ラーディンに殺されかかっていた。そのたびに時をさかのぼって生き延びたが、三回目を最後に、その魔術も使えなくなってしまう。 今度こそ、ラーディンに殺されない平穏な人生を歩みたい。 そう思ったアンスフェルムは、いっそラーディンの伴侶になろうと、ラーディンの婚約者候補に名乗りを上げる。 ラーディンは野蛮で冷酷な獣人の王子と噂されていたが、婚約者候補となったアンスフェルムを大事にし、不器用な優しさを示してくれる。その姿に、アンスフェルムも徐々に警戒心を解いてゆく。 エルガー王国がラーディンたち獣人族を裏切る未来を知っているアンスフェルムは、なんとかそれを防ごうと努力するが……。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

処理中です...