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「リシェルは踊れるんだっけ?」
「ッ、ケホっ、ご、ごめんなさ、ゴホッ、」
「ああ、ごめんね。急に話しかけて。」
ゴホッゴホッと、咳き込むリシェルの背中を優しくさするルイーズ。
すぐにメイドが寄ってきて、手際よくテーブルセットを変えていた。
「落ち着いた?お茶も新しいのに変えたから、良かったら飲んでね。」
「ご、ごめんなさい・・・、えっと、な、何でしたっけ・・・」
「んー・・・?あ、ダンスの話だったかな。今度のあれは夜会もあるだろうしさ。」
「あ、夜会・・・!そっちの踊りですね、」
「・・・そっちの?」
「あ゛っ、いえ、その、僕は、夜会出たことなくて、あの、」
「・・・そうだったね。じゃあ私が教えてあげる。今度離宮に行くよ。」
「そそそそんな、ご、迷惑では、」
「迷惑なわけないでしょ。可愛い・・・可愛い、リシェルのためだもの。それなりに踊れないとさ、アグリアの王族も来るだろうし。」
「・・・なるほど・・・、で、でも・・・」
「それとも私じゃ、力不足かな?」
「!!?とんでもありません!!!」
「じゃあ、決まりだね。日取りは追って連絡するよ。・・・ふふっ、楽しみだな。」
「・・・っ、よ、ろしく・・・お願いします・・・」
本当に嬉しそうなルイーズな顔にリシェルはどうしていいかわからなくなり、新しいお茶に手を伸ばす。
そして猫舌のリシェルが「あちっ!」と、紅茶の温度に驚いて、ルイーズから死ぬほど心配されたのはこの後すぐだった。
----------------⭐︎
「・・・ってわけで、今度大きな条約を結びにアグリアの王族が来るんだって。それで、僕も一応王子だから顔出さなくちゃいけなくなって・・・。いつもなら、呼ばれないのに・・・」
「一応・・・・・・つまり、その方々の相手を押し付けられた訳ですね。」
「うう・・・やっぱりそうなのかなぁ?アグリアってことは、リリベット様のいう穢れた血・・・だもんね。」
「全く・・・品も学もない御言葉です。一国の王妃とは未だにとても・・・。あ、内緒ですよ。私、リシェル様を残してまだ死にたくありません。」
「ふっ・・・ふふっ、言うわけないよ。サーシャには長生きしてもらわなきゃ。」
「ありがとうございます。・・・で、催されるであろう夜会のために、ルイーズ殿下からダンスを習うことになった、と。」
「そそそうなんだよ!ルイーズ様もお忙しいのに、どうして僕なんかに構うのかなぁ・・・。しかもダンスの練習なんて・・・、ルイーズ様の顔が綺麗すぎて、直視できないよ、僕。」
「リシェル様の方がお美しいですよ。」
「なっ、何言ってんのサーシャ!?そんな訳ないでしょ!?も、もう、揶揄わないで!」
「私、本当のことしか言いませんが・・・」
「ほ、ほら、早くご飯食べよう!あ!あと僕今日はまた夜勉強するから、絶対部屋に入ってこないでね!!」
「・・・畏まりました。」
サーシャは何か言いたげだったが、可愛い主人の必死の言い訳を無碍にもできず大人しく食事の準備を始めた。
その夜、リシェルの強い魔力を感じたサーシャはそっと小窓からリシェルの部屋を覗き込む。
思った通りそこに主人はおらず、一応机には勉強道具が広げられているのが見えた。
「・・・怪我さえしなければ、いいんですけどね。」
はあ、とため息をつくサーシャ。
身分は違えど内心リシェルのことを実の弟のように大切に想っている。
あの気弱なリシェルが高度な転移魔法まで使って夜な夜などこかに出かけていることは最初から気づいていた。
確かあれは半年ほど前。
止めようとしたこともあるが翌朝の晴れ晴れとしたリシェルの顔を見るとそれもできなくなってしまった、
今まで沢山我慢を強いられてきたのだから、リシェルがしたいことをすればいい。
ただ────・・・
「・・・悪い虫がついたときはどうしようかしら。」
持っていたリシェル用の夜食を今日もそのまま持ち帰る。
心配じゃない、と言ったら嘘になる。
が、きっと今夜リシェルはどこかで充実した楽しい時間を過ごしているのだろうと思うと、サーシャは少しだけ笑みが溢れた。
「ッ、ケホっ、ご、ごめんなさ、ゴホッ、」
「ああ、ごめんね。急に話しかけて。」
ゴホッゴホッと、咳き込むリシェルの背中を優しくさするルイーズ。
すぐにメイドが寄ってきて、手際よくテーブルセットを変えていた。
「落ち着いた?お茶も新しいのに変えたから、良かったら飲んでね。」
「ご、ごめんなさい・・・、えっと、な、何でしたっけ・・・」
「んー・・・?あ、ダンスの話だったかな。今度のあれは夜会もあるだろうしさ。」
「あ、夜会・・・!そっちの踊りですね、」
「・・・そっちの?」
「あ゛っ、いえ、その、僕は、夜会出たことなくて、あの、」
「・・・そうだったね。じゃあ私が教えてあげる。今度離宮に行くよ。」
「そそそそんな、ご、迷惑では、」
「迷惑なわけないでしょ。可愛い・・・可愛い、リシェルのためだもの。それなりに踊れないとさ、アグリアの王族も来るだろうし。」
「・・・なるほど・・・、で、でも・・・」
「それとも私じゃ、力不足かな?」
「!!?とんでもありません!!!」
「じゃあ、決まりだね。日取りは追って連絡するよ。・・・ふふっ、楽しみだな。」
「・・・っ、よ、ろしく・・・お願いします・・・」
本当に嬉しそうなルイーズな顔にリシェルはどうしていいかわからなくなり、新しいお茶に手を伸ばす。
そして猫舌のリシェルが「あちっ!」と、紅茶の温度に驚いて、ルイーズから死ぬほど心配されたのはこの後すぐだった。
----------------⭐︎
「・・・ってわけで、今度大きな条約を結びにアグリアの王族が来るんだって。それで、僕も一応王子だから顔出さなくちゃいけなくなって・・・。いつもなら、呼ばれないのに・・・」
「一応・・・・・・つまり、その方々の相手を押し付けられた訳ですね。」
「うう・・・やっぱりそうなのかなぁ?アグリアってことは、リリベット様のいう穢れた血・・・だもんね。」
「全く・・・品も学もない御言葉です。一国の王妃とは未だにとても・・・。あ、内緒ですよ。私、リシェル様を残してまだ死にたくありません。」
「ふっ・・・ふふっ、言うわけないよ。サーシャには長生きしてもらわなきゃ。」
「ありがとうございます。・・・で、催されるであろう夜会のために、ルイーズ殿下からダンスを習うことになった、と。」
「そそそうなんだよ!ルイーズ様もお忙しいのに、どうして僕なんかに構うのかなぁ・・・。しかもダンスの練習なんて・・・、ルイーズ様の顔が綺麗すぎて、直視できないよ、僕。」
「リシェル様の方がお美しいですよ。」
「なっ、何言ってんのサーシャ!?そんな訳ないでしょ!?も、もう、揶揄わないで!」
「私、本当のことしか言いませんが・・・」
「ほ、ほら、早くご飯食べよう!あ!あと僕今日はまた夜勉強するから、絶対部屋に入ってこないでね!!」
「・・・畏まりました。」
サーシャは何か言いたげだったが、可愛い主人の必死の言い訳を無碍にもできず大人しく食事の準備を始めた。
その夜、リシェルの強い魔力を感じたサーシャはそっと小窓からリシェルの部屋を覗き込む。
思った通りそこに主人はおらず、一応机には勉強道具が広げられているのが見えた。
「・・・怪我さえしなければ、いいんですけどね。」
はあ、とため息をつくサーシャ。
身分は違えど内心リシェルのことを実の弟のように大切に想っている。
あの気弱なリシェルが高度な転移魔法まで使って夜な夜などこかに出かけていることは最初から気づいていた。
確かあれは半年ほど前。
止めようとしたこともあるが翌朝の晴れ晴れとしたリシェルの顔を見るとそれもできなくなってしまった、
今まで沢山我慢を強いられてきたのだから、リシェルがしたいことをすればいい。
ただ────・・・
「・・・悪い虫がついたときはどうしようかしら。」
持っていたリシェル用の夜食を今日もそのまま持ち帰る。
心配じゃない、と言ったら嘘になる。
が、きっと今夜リシェルはどこかで充実した楽しい時間を過ごしているのだろうと思うと、サーシャは少しだけ笑みが溢れた。
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