【完結】透明の石

N2O

文字の大きさ
上 下
128 / 128
その後

あれから2年後

しおりを挟む
今日は天気がいい。
こんな日はよく革が乾く。やっぱり魔法を使うより自然乾燥で乾かした方が、いい靴になる気がする。



「トウヤぁ、先週の分、もうアルトさんのとこ持っていっていぃ?あっちの棚使いたいんだぁ。」

「あ、悪い。頼めるか?俺これが終わったら手伝うよ。結構量あっただろ?」

「ううん、大丈夫。トウヤはそれやってていいよぉ。僕の方が力持ちだし。あはは。」

「・・・・・・頼んだ。」


俺がむすっとした顔をすると、更に「あはは」と笑いながらアルトのところへ向かったのは、タミルである。

結界を張る旅は予定より半年ほど長くかかってしまった。まあ、途中寄り道したり、ヒュドールの領主ラクランの熱烈大歓迎を受けたりしただけなのだが。
そして先月ようやくここ、リーニャ村に戻ってきた。

イグニス領主のターナーが、5人の婚約を聞きつけ、リーニャ村のはずれに馬鹿デカい屋敷を建ててくれていた。
そしてアルトはトウヤの顔を見た瞬間からニヤニヤ顔で「俺のは当たっただろ?」と大きな口で笑ったのである。

フィンは来年、領主になるらしい。そのため、イグニス領に帰って来てからほとんどイグニスの中心アドムの屋敷にいる。「俺が領主になったら、リーニャ村こっちをイグニスの拠点にするからな」と規模の大きいことを言っていたが、フィンならやりかねないな、とトウヤは思っている。

そしてイーサンは、弟と妹がまだ小さい、と言う理由からあと3年ほどはヒュドールで次期領主育成に力を入れる、ということになったのである。別れ際「浮気は許さないからな、トウヤ」と繰り返されたが、そんな恐ろしいこと絶対にするわけない、と全力で訴えた。そして渋々ヒュドールへと戻っていったのである。

エドガーはアルトの工房で手伝いをすることもあるが、大体はリーニャ村の隣の村にある神殿で、古書を読み漁り、古代魔法の研究をしている。人柄も良いし、博識で、魔力も高いので神官達からも大歓迎されている。夕方にはあの馬鹿デカい屋敷に戻ってくるので、トウヤとタミルはいつもエドガーが作った美味しい食事を食べている。


「何か俺、めちゃくちゃ幸せ者じゃない?」


エドガーが作ったデザートのプディングをスプーンで掬いながら、トウヤは思わず呟いた。
黙々と食べていたトウヤが突然ハッピー発言をしたものだから、タミルもエドガーも目を丸くしている。

「んん?今頃気付いたのぉ?僕は毎日幸せだよぉ?」

「私も毎日幸せですよ。イーサン様から羨ましいとひたすら愚痴が書かれた手紙が届くほどには。ふふ。」

「いや、俺も毎日幸せだと思ってるけど・・・これも全部この石のおかげなのかなぁ。」


この石、と言ってトウヤは首飾りを取り出す。石の色は生まれた時から変わらない透明だ。

「イーサンとフィンがここに住むようになったらさ、また騒がしくなるけど、俺楽しみで仕方ない!」

「あはは、そうだね。またトウヤの取り合いだね。」

「では今のうちにたくさんトウヤを独占しておきましょう。」

「ええ・・・?お手柔らかに・・・お願い、な?」


3人は目を合わせ、あははと笑い、残りのプディングを頬張ったのだった。






おしまい
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

くまち。
2022.07.26 くまち。

めちゃくちゃ面白かったですー!
(*n´ω`n*)
もっと読んでいたかったです!

2022.07.26 N2O

くまち。様

ひゃ〜!ありがとうございます(;_;)
このお話は、本当はもっと話を練りたかったんですが、力不足で・・・!
でも、くまち。様に楽しんでいただけて、とても嬉しいです♪

解除

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。