【完結】透明の石

N2O

文字の大きさ
上 下
93 / 128
メラン編

93

しおりを挟む
次にトウヤが目覚めたのは翌日の昼前だった。起きたと同時にぐぅー、とお腹が鳴る。
キョロキョロと辺りを見渡すが、シーンとやや冷たい空気がしばらくこの部屋にトウヤ以外誰もいなかったことを教えてくれた。

ベッドからそっと足を下ろして立ち上がる。よたよたするが、なんとか歩けそうだ・・と思った瞬間コケた。サイドテーブルにあった桶をひっくり返してしまい、バシャンっと大きな音がする。

するとすぐにコンコン、とノックの音がして「トウヤ様?お目覚めですか?どうかされましたか?」と声がした。「あ・・す、すみません、桶をひっくり返しちゃって・・」と恐る恐る答えると「失礼します」と騎士が2人入ってきた。見たことのある顔である。


「みゅ、ミュラーさん・・す、すみません。桶が・・それにこんな格好で・・あ、あのみんなはどこですか・・・?」

「サザン、ここを片付けてくれ。トウヤ様、お召し物は濡れていませんか?・・少々失礼しますね。」

「へ?わあ!あ、歩けます、重いですよ、俺!あの、お腹が空いて、その、食堂に・・・」

「食事はお持ちしますので、こちらにお召替えを。あと軽すぎます。もっと食べてください。ソファでよろしいですか?」


服が濡れている上に、歩けないと判断されたのだろう。ミュラーに軽々抱きかかえられてしまった。もちろんお姫様抱っこスタイルである。「みんな俺を抱えることに抵抗ないのか?結構重いし可愛くないぞ!?」とトウヤの頭の中は混乱中である。

サザン、と呼ばれた騎士は手際よく桶を片付け、トウヤの食事を取りに行ってくれた。ミュラーから聞いた話では、今朝王城から次期領主全員に召集がかかったそうで嫌々ながら従ったとのことだった。王の命令に嫌々とは?と思ったのはトウヤだけではないはずだ。

魔物と戦った時には少々力不足だった中央騎士団だったが、対人は慣れていた。要人と接する機会が多いのだろう。

「お目覚めになったと聞いたときは大変安心しました。詳しくはわかりませんが・・ありがとうございます。あなたが倒れたのは民のためでしょう?」

「あ、い、いえ。そんな大したことは・・・でも心配してくれたんですか・・ありがとうございます。」

「それに・・本来の瞳の色はそんな色なんですね。とても・・・お似合いです。」

そういえば魔法を使っていない。おそらく今は本来の色のままだ。「あ・・・」と思わず声が漏れたが戸惑ったトウヤを見ると「内緒にしておきますね」と人差し指を口元に当てニカっと笑った。やはりどこかアルトに似ている。思わずトウヤはミュラーにふふっと笑いかけた。そしてミュラーの頬はいつものように少しだけ赤く染まるのであった。



ちょうどその時、コンコン、とノックの音が聞こえた。

「サザンか?早かったな、食事ありが・・・ラドリー様?なぜここに・・・?王城に行かれたのでは・・?」

突然出てきたラドリーの名にトウヤの肩がピクリと揺れた。正直あまり会いたくない人である。そんなことは言えないが。

「護衛ご苦労。食事は私が代わりに持ってきた。サザンは帰したぞ。ミュラー、お前も下がれ。私だけで護衛は十分だ。」

「・・っ、しかし、と、トウヤ様はまだお身体が・・」

「聞こえなかったか?下がれと言ったぞ。」

「・・・分かりました。」


味方(仮)が居なくなってしまう!と条件反射でミュラーの裾をラドリーから見えないようにしてキュッと掴んだ。それに気付いたミュラーは小さな小さな声で「・・呼んで参ります。ご安心を」とだけ呟き、ラドリーに礼をして退室した。



「・・ようやく2人っきりですね。を見てから、私はあなたの虜です。」


そう言ってラドリーは不敵に笑い、ソファへと近づいてきたのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

処理中です...