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メラン編
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割れたコップは誰かが片付けてくれたらしい。すっかり冷めてしまっていたが、部屋にあった夕食を食べた。
湯浴みをするため、部屋を移動する。今朝事前にダニエルに聞いた小さめの風呂場だ。ここを使うのはダニエルだけなので誰も来ないとのことらしい。「俺にとっては十分でかいけど」と一人呟いた。少しぬるめのお湯が張ってある。
身体をわしゃわしゃ洗ってから、ゆっくり身体を湯船に浸けると、その温かさに思わずはぁ、と息が漏れた。
「毎日が濃すぎてわけわかんねー。」
田舎にある靴工房見習い息子、それだけだったはずなのに、いつの間にか神の後継者だし、婿候補(アルト的思考)だらけだし。
人としてはもうすでに好きだけど、色恋に疎かったトウヤにはそれが恋愛としての感情なのか分からなかった。
トウヤは根が真面目なのだ。適当に返すなんて失礼なことはできないので、頭を悩ませているのである。
「結界張り終わるまで、まだまた長いし・・・ゆっくり考えれば・・いっか。」
トウヤの呟きに答える人はいなかったが、心の整理を少し済ませた後、トウヤは着替えて部屋へ戻っていった。
「あ~!トウヤ、湯浴みに行ってたの?僕も誘ってくれればよかったのにぃ。」
「・・・・・・・タミル・・部屋入ろう。」
忘れていたわけではないが、部屋の前で本当にタミルが待っていた。タミルの格好はすでに寝巻きで、どこで寝る気なのかすぐ分かった。廊下は少し冷えるので、とりあえず部屋の中へ入って言い訳を聞こうと思ったのである。
「タミル、その格好なんだ?どこで寝る気だ?」
「ええ~!トウヤったら、分かってるくせにぃ。ハンスくんとも寝てたんだから、別に僕が一緒に寝てもいいでしょ~?魔力渡してそのまま寝たらいいじゃーん。」
ケインの屋敷でタミルが言っていたいいこととはこの事だな、とトウヤは理解した。大体ハンスとは部屋が一緒だっただけで、一緒には寝てない。ニュアンスは似ているが、意味は全く違うのだ。
「・・・魔力はありがたく貰うけど・・・ったく、お前は。俺がソファ使うから、タミルはベッドで寝ろよ。」
「ダメだよぉ。トウヤ、今日は色々あって疲れてるでしょ?僕、トウヤより小さいから、一緒にベッドで寝ても問題ないよぉ。あ、これは決定事項だから。僕の性格、もう分かってるでしょう?ふふ。」
「・・・・・・・・離れて寝ろよ。」
タミルは一度言い出したら引かない。これはすでに経験済みである。タミルが言うように今日トウヤは疲れていた。早く寝たい。ここで長々反論しても時間の無駄だとキッパリ諦め、妥協案を提案したのだ。しかし、タミルはまた天使の顔でにっこり笑い「さあ、魔力あげるからこっち来てね~」とトウヤの言ったことに了承はしなかったのである。
手を引いて連れていかれたのはベッドの上だった。理由を尋ねると「そのまま寝れるから楽でしょ」と言われ、それもそうかと納得した。ベッドに座った瞬間から、ドッと眠気が押し寄せてくる。トウヤは目を擦りながら、タミルに背を向け頸を見せるように頭を少し下げる。すると後ろからふふっと笑い声が聞こえた。
「トウヤ、分かっててやってるの?僕はこっちから渡したいの。」
トウヤはこてん、とベッドに倒されタミルと向かい合わせにさせられると、更に布団までかけられた。
「あーあ、こんなに眠そうな顔してさぁ。ふふ、可愛い。そのまま寝てもいいからね?」
「ん、タミル・・・魔力は・・・」
目をしぱしぱさせながらトウヤがそう言いかけた時、ちゅ、と唇が重なり、舌と共に唾液が入ってきた。チロチロと優しく口の中を舐められる。ゆっくりゆっくり魔力が流れてきて、ほわっと身体が温かくなった。
優しい温かさと眠気が合わさり、トウヤは「ん、ん」と声を漏らしながら目がとろんと蕩けた。
「ふふ、気持ちよさそう。僕、魔力操作上手でしょ?少しずつ流してあげるからね。」
「ん・・・ん。あったか、くて・・きもち・・い、んん」
この日最後にトウヤが覚えているのは、優しい優しいタミルの「おやすみ」と言う言葉と、頭を優しく撫でる手の感触だった。
湯浴みをするため、部屋を移動する。今朝事前にダニエルに聞いた小さめの風呂場だ。ここを使うのはダニエルだけなので誰も来ないとのことらしい。「俺にとっては十分でかいけど」と一人呟いた。少しぬるめのお湯が張ってある。
身体をわしゃわしゃ洗ってから、ゆっくり身体を湯船に浸けると、その温かさに思わずはぁ、と息が漏れた。
「毎日が濃すぎてわけわかんねー。」
田舎にある靴工房見習い息子、それだけだったはずなのに、いつの間にか神の後継者だし、婿候補(アルト的思考)だらけだし。
人としてはもうすでに好きだけど、色恋に疎かったトウヤにはそれが恋愛としての感情なのか分からなかった。
トウヤは根が真面目なのだ。適当に返すなんて失礼なことはできないので、頭を悩ませているのである。
「結界張り終わるまで、まだまた長いし・・・ゆっくり考えれば・・いっか。」
トウヤの呟きに答える人はいなかったが、心の整理を少し済ませた後、トウヤは着替えて部屋へ戻っていった。
「あ~!トウヤ、湯浴みに行ってたの?僕も誘ってくれればよかったのにぃ。」
「・・・・・・・タミル・・部屋入ろう。」
忘れていたわけではないが、部屋の前で本当にタミルが待っていた。タミルの格好はすでに寝巻きで、どこで寝る気なのかすぐ分かった。廊下は少し冷えるので、とりあえず部屋の中へ入って言い訳を聞こうと思ったのである。
「タミル、その格好なんだ?どこで寝る気だ?」
「ええ~!トウヤったら、分かってるくせにぃ。ハンスくんとも寝てたんだから、別に僕が一緒に寝てもいいでしょ~?魔力渡してそのまま寝たらいいじゃーん。」
ケインの屋敷でタミルが言っていたいいこととはこの事だな、とトウヤは理解した。大体ハンスとは部屋が一緒だっただけで、一緒には寝てない。ニュアンスは似ているが、意味は全く違うのだ。
「・・・魔力はありがたく貰うけど・・・ったく、お前は。俺がソファ使うから、タミルはベッドで寝ろよ。」
「ダメだよぉ。トウヤ、今日は色々あって疲れてるでしょ?僕、トウヤより小さいから、一緒にベッドで寝ても問題ないよぉ。あ、これは決定事項だから。僕の性格、もう分かってるでしょう?ふふ。」
「・・・・・・・・離れて寝ろよ。」
タミルは一度言い出したら引かない。これはすでに経験済みである。タミルが言うように今日トウヤは疲れていた。早く寝たい。ここで長々反論しても時間の無駄だとキッパリ諦め、妥協案を提案したのだ。しかし、タミルはまた天使の顔でにっこり笑い「さあ、魔力あげるからこっち来てね~」とトウヤの言ったことに了承はしなかったのである。
手を引いて連れていかれたのはベッドの上だった。理由を尋ねると「そのまま寝れるから楽でしょ」と言われ、それもそうかと納得した。ベッドに座った瞬間から、ドッと眠気が押し寄せてくる。トウヤは目を擦りながら、タミルに背を向け頸を見せるように頭を少し下げる。すると後ろからふふっと笑い声が聞こえた。
「トウヤ、分かっててやってるの?僕はこっちから渡したいの。」
トウヤはこてん、とベッドに倒されタミルと向かい合わせにさせられると、更に布団までかけられた。
「あーあ、こんなに眠そうな顔してさぁ。ふふ、可愛い。そのまま寝てもいいからね?」
「ん、タミル・・・魔力は・・・」
目をしぱしぱさせながらトウヤがそう言いかけた時、ちゅ、と唇が重なり、舌と共に唾液が入ってきた。チロチロと優しく口の中を舐められる。ゆっくりゆっくり魔力が流れてきて、ほわっと身体が温かくなった。
優しい温かさと眠気が合わさり、トウヤは「ん、ん」と声を漏らしながら目がとろんと蕩けた。
「ふふ、気持ちよさそう。僕、魔力操作上手でしょ?少しずつ流してあげるからね。」
「ん・・・ん。あったか、くて・・きもち・・い、んん」
この日最後にトウヤが覚えているのは、優しい優しいタミルの「おやすみ」と言う言葉と、頭を優しく撫でる手の感触だった。
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