63 / 128
メラン編
63※
しおりを挟む
割れたコップは誰かが片付けてくれたらしい。すっかり冷めてしまっていたが、部屋にあった夕食を食べた。
湯浴みをするため、部屋を移動する。今朝事前にダニエルに聞いた小さめの風呂場だ。ここを使うのはダニエルだけなので誰も来ないとのことらしい。「俺にとっては十分でかいけど」と一人呟いた。少しぬるめのお湯が張ってある。
身体をわしゃわしゃ洗ってから、ゆっくり身体を湯船に浸けると、その温かさに思わずはぁ、と息が漏れた。
「毎日が濃すぎてわけわかんねー。」
田舎にある靴工房見習い息子、それだけだったはずなのに、いつの間にか神の後継者だし、婿候補(アルト的思考)だらけだし。
人としてはもうすでに好きだけど、色恋に疎かったトウヤにはそれが恋愛としての感情なのか分からなかった。
トウヤは根が真面目なのだ。適当に返すなんて失礼なことはできないので、頭を悩ませているのである。
「結界張り終わるまで、まだまた長いし・・・ゆっくり考えれば・・いっか。」
トウヤの呟きに答える人はいなかったが、心の整理を少し済ませた後、トウヤは着替えて部屋へ戻っていった。
「あ~!トウヤ、湯浴みに行ってたの?僕も誘ってくれればよかったのにぃ。」
「・・・・・・・タミル・・部屋入ろう。」
忘れていたわけではないが、部屋の前で本当にタミルが待っていた。タミルの格好はすでに寝巻きで、どこで寝る気なのかすぐ分かった。廊下は少し冷えるので、とりあえず部屋の中へ入って言い訳を聞こうと思ったのである。
「タミル、その格好なんだ?どこで寝る気だ?」
「ええ~!トウヤったら、分かってるくせにぃ。ハンスくんとも寝てたんだから、別に僕が一緒に寝てもいいでしょ~?魔力渡してそのまま寝たらいいじゃーん。」
ケインの屋敷でタミルが言っていたいいこととはこの事だな、とトウヤは理解した。大体ハンスとは部屋が一緒だっただけで、一緒には寝てない。ニュアンスは似ているが、意味は全く違うのだ。
「・・・魔力はありがたく貰うけど・・・ったく、お前は。俺がソファ使うから、タミルはベッドで寝ろよ。」
「ダメだよぉ。トウヤ、今日は色々あって疲れてるでしょ?僕、トウヤより小さいから、一緒にベッドで寝ても問題ないよぉ。あ、これは決定事項だから。僕の性格、もう分かってるでしょう?ふふ。」
「・・・・・・・・離れて寝ろよ。」
タミルは一度言い出したら引かない。これはすでに経験済みである。タミルが言うように今日トウヤは疲れていた。早く寝たい。ここで長々反論しても時間の無駄だとキッパリ諦め、妥協案を提案したのだ。しかし、タミルはまた天使の顔でにっこり笑い「さあ、魔力あげるからこっち来てね~」とトウヤの言ったことに了承はしなかったのである。
手を引いて連れていかれたのはベッドの上だった。理由を尋ねると「そのまま寝れるから楽でしょ」と言われ、それもそうかと納得した。ベッドに座った瞬間から、ドッと眠気が押し寄せてくる。トウヤは目を擦りながら、タミルに背を向け頸を見せるように頭を少し下げる。すると後ろからふふっと笑い声が聞こえた。
「トウヤ、分かっててやってるの?僕はこっちから渡したいの。」
トウヤはこてん、とベッドに倒されタミルと向かい合わせにさせられると、更に布団までかけられた。
「あーあ、こんなに眠そうな顔してさぁ。ふふ、可愛い。そのまま寝てもいいからね?」
「ん、タミル・・・魔力は・・・」
目をしぱしぱさせながらトウヤがそう言いかけた時、ちゅ、と唇が重なり、舌と共に唾液が入ってきた。チロチロと優しく口の中を舐められる。ゆっくりゆっくり魔力が流れてきて、ほわっと身体が温かくなった。
優しい温かさと眠気が合わさり、トウヤは「ん、ん」と声を漏らしながら目がとろんと蕩けた。
「ふふ、気持ちよさそう。僕、魔力操作上手でしょ?少しずつ流してあげるからね。」
「ん・・・ん。あったか、くて・・きもち・・い、んん」
この日最後にトウヤが覚えているのは、優しい優しいタミルの「おやすみ」と言う言葉と、頭を優しく撫でる手の感触だった。
湯浴みをするため、部屋を移動する。今朝事前にダニエルに聞いた小さめの風呂場だ。ここを使うのはダニエルだけなので誰も来ないとのことらしい。「俺にとっては十分でかいけど」と一人呟いた。少しぬるめのお湯が張ってある。
身体をわしゃわしゃ洗ってから、ゆっくり身体を湯船に浸けると、その温かさに思わずはぁ、と息が漏れた。
「毎日が濃すぎてわけわかんねー。」
田舎にある靴工房見習い息子、それだけだったはずなのに、いつの間にか神の後継者だし、婿候補(アルト的思考)だらけだし。
人としてはもうすでに好きだけど、色恋に疎かったトウヤにはそれが恋愛としての感情なのか分からなかった。
トウヤは根が真面目なのだ。適当に返すなんて失礼なことはできないので、頭を悩ませているのである。
「結界張り終わるまで、まだまた長いし・・・ゆっくり考えれば・・いっか。」
トウヤの呟きに答える人はいなかったが、心の整理を少し済ませた後、トウヤは着替えて部屋へ戻っていった。
「あ~!トウヤ、湯浴みに行ってたの?僕も誘ってくれればよかったのにぃ。」
「・・・・・・・タミル・・部屋入ろう。」
忘れていたわけではないが、部屋の前で本当にタミルが待っていた。タミルの格好はすでに寝巻きで、どこで寝る気なのかすぐ分かった。廊下は少し冷えるので、とりあえず部屋の中へ入って言い訳を聞こうと思ったのである。
「タミル、その格好なんだ?どこで寝る気だ?」
「ええ~!トウヤったら、分かってるくせにぃ。ハンスくんとも寝てたんだから、別に僕が一緒に寝てもいいでしょ~?魔力渡してそのまま寝たらいいじゃーん。」
ケインの屋敷でタミルが言っていたいいこととはこの事だな、とトウヤは理解した。大体ハンスとは部屋が一緒だっただけで、一緒には寝てない。ニュアンスは似ているが、意味は全く違うのだ。
「・・・魔力はありがたく貰うけど・・・ったく、お前は。俺がソファ使うから、タミルはベッドで寝ろよ。」
「ダメだよぉ。トウヤ、今日は色々あって疲れてるでしょ?僕、トウヤより小さいから、一緒にベッドで寝ても問題ないよぉ。あ、これは決定事項だから。僕の性格、もう分かってるでしょう?ふふ。」
「・・・・・・・・離れて寝ろよ。」
タミルは一度言い出したら引かない。これはすでに経験済みである。タミルが言うように今日トウヤは疲れていた。早く寝たい。ここで長々反論しても時間の無駄だとキッパリ諦め、妥協案を提案したのだ。しかし、タミルはまた天使の顔でにっこり笑い「さあ、魔力あげるからこっち来てね~」とトウヤの言ったことに了承はしなかったのである。
手を引いて連れていかれたのはベッドの上だった。理由を尋ねると「そのまま寝れるから楽でしょ」と言われ、それもそうかと納得した。ベッドに座った瞬間から、ドッと眠気が押し寄せてくる。トウヤは目を擦りながら、タミルに背を向け頸を見せるように頭を少し下げる。すると後ろからふふっと笑い声が聞こえた。
「トウヤ、分かっててやってるの?僕はこっちから渡したいの。」
トウヤはこてん、とベッドに倒されタミルと向かい合わせにさせられると、更に布団までかけられた。
「あーあ、こんなに眠そうな顔してさぁ。ふふ、可愛い。そのまま寝てもいいからね?」
「ん、タミル・・・魔力は・・・」
目をしぱしぱさせながらトウヤがそう言いかけた時、ちゅ、と唇が重なり、舌と共に唾液が入ってきた。チロチロと優しく口の中を舐められる。ゆっくりゆっくり魔力が流れてきて、ほわっと身体が温かくなった。
優しい温かさと眠気が合わさり、トウヤは「ん、ん」と声を漏らしながら目がとろんと蕩けた。
「ふふ、気持ちよさそう。僕、魔力操作上手でしょ?少しずつ流してあげるからね。」
「ん・・・ん。あったか、くて・・きもち・・い、んん」
この日最後にトウヤが覚えているのは、優しい優しいタミルの「おやすみ」と言う言葉と、頭を優しく撫でる手の感触だった。
11
お気に入りに追加
338
あなたにおすすめの小説
【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。
狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。
表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。
権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は?
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
【注意】※印は性的表現有ります
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる