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メラン編
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ジャンに出ていってもらうのも忍びなくなったトウヤは「これも何かの縁なので」と応接間に残ってもらった。総勢11人である。何か大事になったな、とトウヤは心の中で自分を励ましながら口を開いた。
「とりあえずこれを見て欲しいんだ。」
そう言うと、後ろを向き頸を見せた。今日は首元が少し開いたシャツにして、みんなに見せやすいようにしたのである。そして「みなさんも右腕を見せてください」と4人の契約者にもお願いした。そこにはもう見慣れたあの模様が刻まれている。しばらく頸を見せていたが、反応がない。戸惑ったトウヤは恐る恐る前を向き直すと、全員が一様に驚いて固っていた。何と言っていいのか分からない様子だった。
それもそうだろう、当の本人もそうだったのだから、周りの人間は尚更である。トウヤが一人でうんうん、と納得しているとアルトが口を開いた。
「トウヤ・・・、トウヤはこれからどこか遠いところに行ってしまうのか?」
真っ直ぐトウヤを見たアルトの薄い朱の瞳が揺れている。不安な気持ちが伝わってくるようだった。トウヤは少し微笑むと首を横に振った。
「父さん、俺は必ず戻ってくるから。母さんと父さんのところに必ず戻る、約束するよ。少しの間・・・離れるけど、待っていて欲しいんだ、リーニャ村で。」
「・・・男に二言はないよな、トウヤ。」
「うん。二言はない。約束する。」
「・・・ふぅー。わかった。怪我は・・あまりするな。気をつけて行ってこい!」
アルトはニカっと歯を出して笑う。少し涙が滲んでいるようにも見えるが誰もそこには触れなかった。ただ、タミルが「さすがトウヤのお父さんって感じ」とふわふわ嬉しそうに笑って言うもんだから、トウヤも何だか嬉しくなった。
「俺、実は黒神の後継者らしいんだよね。」
「「「「「「は?」」」」」」
あまりにも揃った戸惑いの声にトウヤはただただ笑うしかなかった。あまりの揃いっぷりにフィンも笑っている。
「何か見てもらった方が早いんだけど・・・あ、ジャンさん。どこか身体に古傷、とかないですか?」
「古傷?大したものはないが・・・今回できた傷でもいいか?」
「・・・え?」
見た限りでは大きな傷はなさそうだったジャンだが、身につけていた防具と服を脱ぐと左肩に包帯が巻いてあった。血がかなり滲んでいる。
「魔物から逃げ遅れた老人がいてな、庇った時にざっくり爪でやられたんだ。治癒はかけてもらったが、傷口も澱みも残っている。これ以上は自然に治るのを待つしかないと言われたぞ?こ、この傷でいいか?・・・トウヤくん?」
「・・・あっ、ご、ごめんなさい。結構大きな傷だったので・・痛かっただろうなと思って・・。ちょっと包帯取ってもいいですか?」
「え、あ、ああ。構わない。見て気分がいいものじゃないが・・・」
そう言うとジャンはするすると包帯を取っていった。傷口は生々しく肉が抉れており、周囲には黒い澱みも残っていた。
魔物から受けた傷は治りにくい。
魔物が持っている澱みと呼ばれる瘴気が纏わりついているからだ。そのため、治癒魔法をかける人間と属性が同じであってもあまり効果が得られないのである。トウヤは痛々しい傷口を見て下唇を噛んだ。
深呼吸をする。深く深く息を吸って神経を集中させた。
トウヤがジャンの傷口に両手をかざす。「一体何をされるのだろう」とジャンは不思議そうな顔だ。
トウヤが手をかざしたところからあの黒い靄が溢れてきた。靄はジャンの傷口を囲うと、黒から灰色へ、灰色からさらに薄い灰色へと、色を変えていき最後はまた透明な光を放ち、消えていく。
何度見ても美しいその瞬間をただ、ただ、全員息を飲んで見ていた。
あの痛々しいジャンの傷口は、まるで何もなかったかのように、傷一つない肌に戻っていたのである。
「とりあえずこれを見て欲しいんだ。」
そう言うと、後ろを向き頸を見せた。今日は首元が少し開いたシャツにして、みんなに見せやすいようにしたのである。そして「みなさんも右腕を見せてください」と4人の契約者にもお願いした。そこにはもう見慣れたあの模様が刻まれている。しばらく頸を見せていたが、反応がない。戸惑ったトウヤは恐る恐る前を向き直すと、全員が一様に驚いて固っていた。何と言っていいのか分からない様子だった。
それもそうだろう、当の本人もそうだったのだから、周りの人間は尚更である。トウヤが一人でうんうん、と納得しているとアルトが口を開いた。
「トウヤ・・・、トウヤはこれからどこか遠いところに行ってしまうのか?」
真っ直ぐトウヤを見たアルトの薄い朱の瞳が揺れている。不安な気持ちが伝わってくるようだった。トウヤは少し微笑むと首を横に振った。
「父さん、俺は必ず戻ってくるから。母さんと父さんのところに必ず戻る、約束するよ。少しの間・・・離れるけど、待っていて欲しいんだ、リーニャ村で。」
「・・・男に二言はないよな、トウヤ。」
「うん。二言はない。約束する。」
「・・・ふぅー。わかった。怪我は・・あまりするな。気をつけて行ってこい!」
アルトはニカっと歯を出して笑う。少し涙が滲んでいるようにも見えるが誰もそこには触れなかった。ただ、タミルが「さすがトウヤのお父さんって感じ」とふわふわ嬉しそうに笑って言うもんだから、トウヤも何だか嬉しくなった。
「俺、実は黒神の後継者らしいんだよね。」
「「「「「「は?」」」」」」
あまりにも揃った戸惑いの声にトウヤはただただ笑うしかなかった。あまりの揃いっぷりにフィンも笑っている。
「何か見てもらった方が早いんだけど・・・あ、ジャンさん。どこか身体に古傷、とかないですか?」
「古傷?大したものはないが・・・今回できた傷でもいいか?」
「・・・え?」
見た限りでは大きな傷はなさそうだったジャンだが、身につけていた防具と服を脱ぐと左肩に包帯が巻いてあった。血がかなり滲んでいる。
「魔物から逃げ遅れた老人がいてな、庇った時にざっくり爪でやられたんだ。治癒はかけてもらったが、傷口も澱みも残っている。これ以上は自然に治るのを待つしかないと言われたぞ?こ、この傷でいいか?・・・トウヤくん?」
「・・・あっ、ご、ごめんなさい。結構大きな傷だったので・・痛かっただろうなと思って・・。ちょっと包帯取ってもいいですか?」
「え、あ、ああ。構わない。見て気分がいいものじゃないが・・・」
そう言うとジャンはするすると包帯を取っていった。傷口は生々しく肉が抉れており、周囲には黒い澱みも残っていた。
魔物から受けた傷は治りにくい。
魔物が持っている澱みと呼ばれる瘴気が纏わりついているからだ。そのため、治癒魔法をかける人間と属性が同じであってもあまり効果が得られないのである。トウヤは痛々しい傷口を見て下唇を噛んだ。
深呼吸をする。深く深く息を吸って神経を集中させた。
トウヤがジャンの傷口に両手をかざす。「一体何をされるのだろう」とジャンは不思議そうな顔だ。
トウヤが手をかざしたところからあの黒い靄が溢れてきた。靄はジャンの傷口を囲うと、黒から灰色へ、灰色からさらに薄い灰色へと、色を変えていき最後はまた透明な光を放ち、消えていく。
何度見ても美しいその瞬間をただ、ただ、全員息を飲んで見ていた。
あの痛々しいジャンの傷口は、まるで何もなかったかのように、傷一つない肌に戻っていたのである。
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