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メラン編
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ガバァっと飛び起きる。「ディーめ、揶揄いやがって!」と鼻息を荒くしたままのトウヤはまたあの柱の間の台の上・・・・ではなく、見たことのない部屋のベッドに寝かされていたようだ。柱の間のまるで生贄台のような台は、本来供物や花を置く所なのだろう、硬い石で出来ていた。ベッドだと断然寝心地がいい。
部屋の窓からは陽の光が差し込んでいる。
「俺、結構寝てたみたいだな・・・」
誰に言うわけでもなく呟いたトウヤ。
「・・そうですよ、丸ニ日ほど寝てました。ここは、神殿の隣の建物にある部屋です。気分はいかがですか。」
返ってくると思っていなかった返答が聞こえた方を振り向くと、ベッドから少し離れたソファに座り、パタンと本を閉じるイーサンがいた。無表情でトウヤを見ている。
「あ、い、イーサン様。おはようございます・・・って丸ニ日ぁ?!俺そんなに寝てたんですか?!」
「・・・はい。交代で少しずつ魔力譲渡しておりました。先程までタミル様もいらっしゃいましたが、今は私だけです。」
「魔力・・を?あ、そ、そういえば少しだけ溜まってます・・お、お手数おかけしました・・・」
手を握ったり、開いたりして身体の感じを確かめる。
イーサンの言うように、少しだけ魔力を感じた。あの特有の熱も感じないので、おそらく模様以外の身体に触れて譲渡してくれていたのだろう。
トウヤが一頻り身体の状態を確かめ、ふっと顔を上げるとすぐ近くにイーサンの顔があった。
思わぬ接近に「うひゃあ!」と変な声が出たが、イーサンの表情は一貫して変わらなかった。
「・・・瞳の色がまた違いますね・・」
「んぇ?!ひ、瞳?あ、ま、魔力が少ししか溜まってないから・・だと思います・・・」
イーサンは魔力の状態を確かめるために近づいたらしい。変な声をあげてしまった自分が恥ずかしくなって返事がしどろもどろになってしまった。
「・・・あれはとても綺麗でした。」
「あ、あれ?!な、なんのことですか?」
「・・・あの明け方のあなたの魔法です。今まで見たどんなものよりも美しかった・・・」
「へ?え?あ、あ、ありがとうございます・・・?」
契約した時も一貫して無表情で、冷淡だと感じたイーサンが、トウヤの魔法を褒めている。
小さい時から両親に割とよく褒めてもらい、褒められること自体はそんなに慣れていないわけではないが、あのイーサンからの褒め言葉だ。意外すぎる。
戸惑いと喜びとで、トウヤはイーサンを見てへにゃりと笑った。
するとそのへにゃりにつられたのか、イーサンも切長の目を少しだけ下げ、口角を上げ、微笑んだのである。オッドアイの瞳がとても綺麗だ。
「トウヤ様、模様から魔力をお渡ししても?」
「へっ?あ、は、はい。ご迷惑でなければよろしくお願いします・・・あと、俺の方が歳下だと思うんで、トウヤと。敬語もやめてください・・・」
「・・・善処し・・・・する、トウヤ。」
そう言うとまた少し微笑んだように見えた。
イーサンが模様に触りやすいようにと、着ていた黒地のシャツのボタンを二つほど外し、後ろにするりっとずらす。
そしてイーサンの方に頸を向け、頭を前方に少し下げた。トウヤの少し日に焼けた肌が見える。
恥ずかしさが込み上げてくるトウヤだが「これは魔力のため、魔力のため」と心で繰り返し、ディーに言われた花瓶を意識した。
「・・・触れるぞ、トウヤ。」
今度は人差し指ではなく、手のひら全体をそっと優しく頸に当てた。黒い靄は出てこなかった。
あの時みたいにトウヤの身体の中を暴れるような熱はない。
暖炉のそばにいるような、身体の芯から温まるような、そんな優しい熱だった。
だが、魔力が流れ込む感覚にはおそらく今後も慣れることはないのではないか、とトウヤは考えた。
ただでさえ、急所であるが故に敏感な頸から魔力が流れ込む。ゾワリ、と頸から背中に違和感を感じるのだ。呻き声はやはり止められなかった。
「うぅん・・ん。ん、い、イーサン様、ありがとうございました・・・」
「・・前回よりは吸い取られていないな。何か理由があるのか?」
「・・ん、えっと、ディーから身体の中の花瓶に魔力を溜めるイメージを作れって言われたので、今実践してみました・・・身体大丈夫ですか・・?」
「なるほど。・・・ああ、身体は問題ない。・・むしろもう少し渡そう。」
トウヤが「え?」と聞き返す前に、イーサンはちゅ、と軽く模様に口づけた。
トウヤは突然の行動に理解が追いつかなかったが、大量に流れ込んでくる魔力の熱と感覚が我慢できず、また唸り声をあげたのである。
部屋の窓からは陽の光が差し込んでいる。
「俺、結構寝てたみたいだな・・・」
誰に言うわけでもなく呟いたトウヤ。
「・・そうですよ、丸ニ日ほど寝てました。ここは、神殿の隣の建物にある部屋です。気分はいかがですか。」
返ってくると思っていなかった返答が聞こえた方を振り向くと、ベッドから少し離れたソファに座り、パタンと本を閉じるイーサンがいた。無表情でトウヤを見ている。
「あ、い、イーサン様。おはようございます・・・って丸ニ日ぁ?!俺そんなに寝てたんですか?!」
「・・・はい。交代で少しずつ魔力譲渡しておりました。先程までタミル様もいらっしゃいましたが、今は私だけです。」
「魔力・・を?あ、そ、そういえば少しだけ溜まってます・・お、お手数おかけしました・・・」
手を握ったり、開いたりして身体の感じを確かめる。
イーサンの言うように、少しだけ魔力を感じた。あの特有の熱も感じないので、おそらく模様以外の身体に触れて譲渡してくれていたのだろう。
トウヤが一頻り身体の状態を確かめ、ふっと顔を上げるとすぐ近くにイーサンの顔があった。
思わぬ接近に「うひゃあ!」と変な声が出たが、イーサンの表情は一貫して変わらなかった。
「・・・瞳の色がまた違いますね・・」
「んぇ?!ひ、瞳?あ、ま、魔力が少ししか溜まってないから・・だと思います・・・」
イーサンは魔力の状態を確かめるために近づいたらしい。変な声をあげてしまった自分が恥ずかしくなって返事がしどろもどろになってしまった。
「・・・あれはとても綺麗でした。」
「あ、あれ?!な、なんのことですか?」
「・・・あの明け方のあなたの魔法です。今まで見たどんなものよりも美しかった・・・」
「へ?え?あ、あ、ありがとうございます・・・?」
契約した時も一貫して無表情で、冷淡だと感じたイーサンが、トウヤの魔法を褒めている。
小さい時から両親に割とよく褒めてもらい、褒められること自体はそんなに慣れていないわけではないが、あのイーサンからの褒め言葉だ。意外すぎる。
戸惑いと喜びとで、トウヤはイーサンを見てへにゃりと笑った。
するとそのへにゃりにつられたのか、イーサンも切長の目を少しだけ下げ、口角を上げ、微笑んだのである。オッドアイの瞳がとても綺麗だ。
「トウヤ様、模様から魔力をお渡ししても?」
「へっ?あ、は、はい。ご迷惑でなければよろしくお願いします・・・あと、俺の方が歳下だと思うんで、トウヤと。敬語もやめてください・・・」
「・・・善処し・・・・する、トウヤ。」
そう言うとまた少し微笑んだように見えた。
イーサンが模様に触りやすいようにと、着ていた黒地のシャツのボタンを二つほど外し、後ろにするりっとずらす。
そしてイーサンの方に頸を向け、頭を前方に少し下げた。トウヤの少し日に焼けた肌が見える。
恥ずかしさが込み上げてくるトウヤだが「これは魔力のため、魔力のため」と心で繰り返し、ディーに言われた花瓶を意識した。
「・・・触れるぞ、トウヤ。」
今度は人差し指ではなく、手のひら全体をそっと優しく頸に当てた。黒い靄は出てこなかった。
あの時みたいにトウヤの身体の中を暴れるような熱はない。
暖炉のそばにいるような、身体の芯から温まるような、そんな優しい熱だった。
だが、魔力が流れ込む感覚にはおそらく今後も慣れることはないのではないか、とトウヤは考えた。
ただでさえ、急所であるが故に敏感な頸から魔力が流れ込む。ゾワリ、と頸から背中に違和感を感じるのだ。呻き声はやはり止められなかった。
「うぅん・・ん。ん、い、イーサン様、ありがとうございました・・・」
「・・前回よりは吸い取られていないな。何か理由があるのか?」
「・・ん、えっと、ディーから身体の中の花瓶に魔力を溜めるイメージを作れって言われたので、今実践してみました・・・身体大丈夫ですか・・?」
「なるほど。・・・ああ、身体は問題ない。・・むしろもう少し渡そう。」
トウヤが「え?」と聞き返す前に、イーサンはちゅ、と軽く模様に口づけた。
トウヤは突然の行動に理解が追いつかなかったが、大量に流れ込んでくる魔力の熱と感覚が我慢できず、また唸り声をあげたのである。
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