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メラン編
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トウヤが夢から覚醒したのは、日付が変わってすぐの真夜中だった。
ゆっくり目を開けると、あの夢の世界によく似た真っ白の天井、壁、床。
そしてトウヤが寝ている台のすぐ隣には床から天井まで続く五角形の巨大な黒い柱が見えた。
身体はあまり動かないが、足を少しだけ左右に揺すってみた。
ガラス片が刺さっていた足は全く痛くない。
ディーが言っていたようにあの時、自分で修復したのだろう。
黒い柱からは何か温かい波動のようなものが伝わってくる。おそらくこれが魔力なのだ。
ディーがいたあの夢の場所はたぶんここだったんだなー・・
そんなことを寝たままボーっと考えていると、視界にひょこっと見たことのない男が入ってきた。
夢から覚醒した直後で、しかもあんな力を使った後だ。
うまく身体を起こせないトウヤは「ヒィッ」という情けない声を出すしか出来なかったのである。
「目が覚めたようですね、トウヤ様。初めまして。中央神殿の神官長のダニエルでございます。お会いできて光栄です。」
トウヤは「は、はぃ・・」とまた情けない声しか出ない。
灰色の瞳で短めの銀髪を後ろに流したダニエルはトウヤのか細い返事を聞き、ただでさえ細い目をさらに細くさせ微笑んだ。
ダニエルさん(様をつけるのはやめて下さいとお願いされた)が、後ろに控えていた神官に声をかけると、よく冷えた果実水を運んできてくれた。
自分で身体を起こしづらかったが、ダニエルさんが手伝ってくれ、支えてもらいながら、少し甘みのある果実水を飲むと、ずっと緊張していた身体の強張りが取れたような気がした。
血まみれだった服もいつの間にか綺麗な服に変わっている。黒地に銀糸の刺繍が入った長袖のシャツとズボン。手触りから高級さが伝わってくる。
誰かが着替えさせてくれたらしい。そう思うと恥ずかしくなったが、素直に心の中で感謝した。
しばらくすると、バタバタバタバタと複数の足音が聞こえる。
バーーーン、とトウヤがいる柱の間の扉が開いた。
「~~っ、もう、トウヤのバカ!心配したんだからねぇ!」
金の瞳がゆらゆら揺れている。
うっすら濡れているようにも見えた。
そのままトウヤに向かって来る。もちろんタミルが。
「あ、これまた失神コースじゃん・・」とトウヤは覚悟してぎゅっと目を閉じた。だが、予想していた衝撃は来ない。
そろり、と片目を開くとタミルの身体中に蔓が絡まって動きを封じられている。
万が一の衝撃に備えたであろうダニエルの腕もトウヤの身体の前にガードを作った状態で止まっている。
タミルは突然の仕打ちにただただ目を見開き驚いた様子。
まさか柱の間で魔法を使われると思っておらず油断したらしい。
後方の蔓の発生源に目を向けると、またトウヤの見たことない男が立っていた。
「あ、あ、ごごごめんなさい!また怪我しちゃったら、た、大変だと思って・・・咄嗟に・・」
深緑色の瞳に品のいい丸メガネ、肩につかない程度のふわふわした茶髪の青年が何故か申し訳なさそうにペコペコと頭を下げている。
その突き出された右手にはぐるぐると蔦が巻き付き、それがタミルの方まで伸びていた。
「・・・エドガー、魔法を消して差し上げなさい・・・」
「・・・あ、父上!そうですよね!けけけ消します!ごごごめんなさい!」
そう言うと右手から出していた蔓を一瞬にして消した。
タミルがその拍子でドシャっと床に落とされる。
「ああああ、わ、悪気はなくて!!!」とまたペコペコ頭を下げるエドガーだった。
「タミル様、エドガーが大変失礼致しました。トウヤ様もお疲れです。飛びついたりしてはまた気を失ってしまうやもしれませんぞ。」
「・・・失礼しましたぁ。」
タミルはごもっともな言葉にむすっと顔を一瞬顰めたが、すぐに平静を取り繕った。
その中「誰だこいつら?」と口をポカンと開けていたトウヤに、ダニエルがコソッと耳元で彼らの情報を教えてくれた。
タミルにやんわりと苦言を呈したのは、シェマフ領主、トウヤを守ろうとしたのはシェマフ次期領主らしい。
また偉い人が集まってら・・・と他人事のように考えていると、扉付近に控えていたフィンが無言でトウヤに近づく。
「いつも余計なことしか言わないフィン様が無言・・・!」と心の中で怯えていると、フィンはトウヤの前で少し屈み、目をジィッと合わせてきた。
「さて、トウヤ。目が覚めて何よりだ。で、俺たち何か話すことないか?」
「・・・はい・・たくさんあります・・・」
これから始まるであろう怒涛の質問攻めにトウヤは果たして耐えられるのか、と天を仰ぎ、ここにはいないディーに文句を言いたくなった。
ゆっくり目を開けると、あの夢の世界によく似た真っ白の天井、壁、床。
そしてトウヤが寝ている台のすぐ隣には床から天井まで続く五角形の巨大な黒い柱が見えた。
身体はあまり動かないが、足を少しだけ左右に揺すってみた。
ガラス片が刺さっていた足は全く痛くない。
ディーが言っていたようにあの時、自分で修復したのだろう。
黒い柱からは何か温かい波動のようなものが伝わってくる。おそらくこれが魔力なのだ。
ディーがいたあの夢の場所はたぶんここだったんだなー・・
そんなことを寝たままボーっと考えていると、視界にひょこっと見たことのない男が入ってきた。
夢から覚醒した直後で、しかもあんな力を使った後だ。
うまく身体を起こせないトウヤは「ヒィッ」という情けない声を出すしか出来なかったのである。
「目が覚めたようですね、トウヤ様。初めまして。中央神殿の神官長のダニエルでございます。お会いできて光栄です。」
トウヤは「は、はぃ・・」とまた情けない声しか出ない。
灰色の瞳で短めの銀髪を後ろに流したダニエルはトウヤのか細い返事を聞き、ただでさえ細い目をさらに細くさせ微笑んだ。
ダニエルさん(様をつけるのはやめて下さいとお願いされた)が、後ろに控えていた神官に声をかけると、よく冷えた果実水を運んできてくれた。
自分で身体を起こしづらかったが、ダニエルさんが手伝ってくれ、支えてもらいながら、少し甘みのある果実水を飲むと、ずっと緊張していた身体の強張りが取れたような気がした。
血まみれだった服もいつの間にか綺麗な服に変わっている。黒地に銀糸の刺繍が入った長袖のシャツとズボン。手触りから高級さが伝わってくる。
誰かが着替えさせてくれたらしい。そう思うと恥ずかしくなったが、素直に心の中で感謝した。
しばらくすると、バタバタバタバタと複数の足音が聞こえる。
バーーーン、とトウヤがいる柱の間の扉が開いた。
「~~っ、もう、トウヤのバカ!心配したんだからねぇ!」
金の瞳がゆらゆら揺れている。
うっすら濡れているようにも見えた。
そのままトウヤに向かって来る。もちろんタミルが。
「あ、これまた失神コースじゃん・・」とトウヤは覚悟してぎゅっと目を閉じた。だが、予想していた衝撃は来ない。
そろり、と片目を開くとタミルの身体中に蔓が絡まって動きを封じられている。
万が一の衝撃に備えたであろうダニエルの腕もトウヤの身体の前にガードを作った状態で止まっている。
タミルは突然の仕打ちにただただ目を見開き驚いた様子。
まさか柱の間で魔法を使われると思っておらず油断したらしい。
後方の蔓の発生源に目を向けると、またトウヤの見たことない男が立っていた。
「あ、あ、ごごごめんなさい!また怪我しちゃったら、た、大変だと思って・・・咄嗟に・・」
深緑色の瞳に品のいい丸メガネ、肩につかない程度のふわふわした茶髪の青年が何故か申し訳なさそうにペコペコと頭を下げている。
その突き出された右手にはぐるぐると蔦が巻き付き、それがタミルの方まで伸びていた。
「・・・エドガー、魔法を消して差し上げなさい・・・」
「・・・あ、父上!そうですよね!けけけ消します!ごごごめんなさい!」
そう言うと右手から出していた蔓を一瞬にして消した。
タミルがその拍子でドシャっと床に落とされる。
「ああああ、わ、悪気はなくて!!!」とまたペコペコ頭を下げるエドガーだった。
「タミル様、エドガーが大変失礼致しました。トウヤ様もお疲れです。飛びついたりしてはまた気を失ってしまうやもしれませんぞ。」
「・・・失礼しましたぁ。」
タミルはごもっともな言葉にむすっと顔を一瞬顰めたが、すぐに平静を取り繕った。
その中「誰だこいつら?」と口をポカンと開けていたトウヤに、ダニエルがコソッと耳元で彼らの情報を教えてくれた。
タミルにやんわりと苦言を呈したのは、シェマフ領主、トウヤを守ろうとしたのはシェマフ次期領主らしい。
また偉い人が集まってら・・・と他人事のように考えていると、扉付近に控えていたフィンが無言でトウヤに近づく。
「いつも余計なことしか言わないフィン様が無言・・・!」と心の中で怯えていると、フィンはトウヤの前で少し屈み、目をジィッと合わせてきた。
「さて、トウヤ。目が覚めて何よりだ。で、俺たち何か話すことないか?」
「・・・はい・・たくさんあります・・・」
これから始まるであろう怒涛の質問攻めにトウヤは果たして耐えられるのか、と天を仰ぎ、ここにはいないディーに文句を言いたくなった。
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