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メラン編
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生誕祭2日目は昨日よりも早く靴も皿も昼前に完売した。
昨日購入した客からの噂を聞きつけて、人が更に集まったのだ。
あとは陳列のために借りた棚などを片付けておけば、メラン最終日は殆どすることがない。
幌馬車に乗り込み、ジャンと合流、あとは来た道をまた戻るだけである。
「はーーーーー!達成感・・・!」
トウヤは両腕を上にぐぃーっと伸ばしてストレッチをする。
その背中にはべったりとタミルがくっ付いている。
あの不穏な登場で「また喧嘩か?」と心配したが、さすがに商売中ということで2人とも睨み合いだけで終わった。
「店にいても邪魔なんで、どっか行ってください。」
容赦ないトウヤはそう言い放ち、さっさと仕事に戻ったのである。
フィンはちゃっかり靴を2足(トウヤが選んだもの)を購入していた。
後からそれに気づいたタミルはそりゃあもう拗ねて、トウヤの背中に張り付いたのである。
「フラーウムにも靴工房あるだろ~?そっちで買えばいいじゃねーか。」
「トウヤは分かってないんだよぉ!僕はトウヤが作ってトウヤが僕のために選んでくれた靴が欲しかったの!」
「・・・はぁ。じゃあ、いつかうちの工房に遊びにくればいいだろ。見繕ってやるよ。」
「え!!!!!いいの!!!!行く!!!一緒に住む!!!」
「いや、住めとは言ってない。お前次期領主なの覚えてっか?」
「本当仲良くなりましたよねぇ。トウヤ、村に帰れるの~?んふ。」
「帰るに決まってんだろ!不吉なこと言うな!ハンス!・・・タミルは考え込むな!怖い!」
「おっ、悪ぃな三つ編み。俺はこいつと同じ領に帰るぜ~。」
「フィン様!煽らないでください!」
商品ががらんと無くなった屋台の下で簡易椅子を引っ張り出し、買ってきた串焼きを頬張りながら小競り合いが始まった。
アルトとマルクルは少し離れたところで茶を啜り、一息ついている。こちらはえらく平和だ。
空腹が満たされ、トウヤチャージも済んだタミルはだいぶ興奮も落ち着いたようだ。
トウヤがその雰囲気に気づき「よかった、勢いのままフラーウムへ拉致、は無さそうだ」と安心していると、タミルは徐にトウヤの襟巻きに鼻を突っ込み、くんくん匂いを嗅ぎ出した。
トウヤはあの模様のことをすっかり忘れていた。
タミルの奇行により、ぐわぁ~っと一気にそれを思い出し、冷や汗まで出てきた。
「うっわ!や、やめろよ、嗅ぐな。汗かいてんだから!」
「んん~?トウヤの匂い、いい匂いだよぉ。・・・でもね、何かここ昨日と違う感じがするんだぁ。」
相変わらず鋭いタミルに、トウヤは背中にたらりと冷や汗が流れるのが分かった。
思わず目が合ったハンスも「そういえば模様何だったんだ?」と思っているのだろう。
2人して固まり、何も言えずにいた。
「そういや、トウヤ。今日は魔法の色だな。昨日の色・・・綺麗だったのにもったいねぇなぁ。」
「・・・その話はもうぶり返さないでください、フィン様。」
「いや、だってよ。あんなの初めて見たぜ?イグニスに戻ったら一回神殿に行けよ。俺も一緒に行ってやる。」
「・・・考えておきます。」
そういえば、この先どうすればいいのだろう。
ディーの話振りからして、トウヤが何かしらの動きを見せなければ、結界とやらが危ういようだし、それで結界が壊れて魔物が襲って来たら・・・
「・・・俺、どうすりゃいいんだ。」
思わずポロッと溢れたトウヤの本音。
俯いて突然口に出すものだから、ハンスもタミルもフィンも戸惑っている。
お互いに目を見合わせ、誰が一番に声をかけるか決めあぐねていた時。
ジトっと、突然肌に纏わりつくような不穏な気配を感じた。
背後にいたタミル、前方にいたフィンも同様の反応だ。
素早く立ち上がり周囲を警戒している。
「・・・10、いや20体はいる。中型から大型。」
タミルからいつものフワフワ感が消えていた。
いつの間にか変装を解き、両手に数本のナイフを持っている。
「・・・上か。」
フィンが確信したように上を見上げた。
つられてトウヤやハンスも目線を上げる。
さっきまで晴れていた青い空がじわりじわりと陰りはじめ、空に亀裂のようなものが見える。
その中心には何やら黒い塊が集まっているようだ。
『明日は気をつけろ。嫌な予感がする』
ディーのあの言葉が繰り返しトウヤの頭の中で響いた。
昨日購入した客からの噂を聞きつけて、人が更に集まったのだ。
あとは陳列のために借りた棚などを片付けておけば、メラン最終日は殆どすることがない。
幌馬車に乗り込み、ジャンと合流、あとは来た道をまた戻るだけである。
「はーーーーー!達成感・・・!」
トウヤは両腕を上にぐぃーっと伸ばしてストレッチをする。
その背中にはべったりとタミルがくっ付いている。
あの不穏な登場で「また喧嘩か?」と心配したが、さすがに商売中ということで2人とも睨み合いだけで終わった。
「店にいても邪魔なんで、どっか行ってください。」
容赦ないトウヤはそう言い放ち、さっさと仕事に戻ったのである。
フィンはちゃっかり靴を2足(トウヤが選んだもの)を購入していた。
後からそれに気づいたタミルはそりゃあもう拗ねて、トウヤの背中に張り付いたのである。
「フラーウムにも靴工房あるだろ~?そっちで買えばいいじゃねーか。」
「トウヤは分かってないんだよぉ!僕はトウヤが作ってトウヤが僕のために選んでくれた靴が欲しかったの!」
「・・・はぁ。じゃあ、いつかうちの工房に遊びにくればいいだろ。見繕ってやるよ。」
「え!!!!!いいの!!!!行く!!!一緒に住む!!!」
「いや、住めとは言ってない。お前次期領主なの覚えてっか?」
「本当仲良くなりましたよねぇ。トウヤ、村に帰れるの~?んふ。」
「帰るに決まってんだろ!不吉なこと言うな!ハンス!・・・タミルは考え込むな!怖い!」
「おっ、悪ぃな三つ編み。俺はこいつと同じ領に帰るぜ~。」
「フィン様!煽らないでください!」
商品ががらんと無くなった屋台の下で簡易椅子を引っ張り出し、買ってきた串焼きを頬張りながら小競り合いが始まった。
アルトとマルクルは少し離れたところで茶を啜り、一息ついている。こちらはえらく平和だ。
空腹が満たされ、トウヤチャージも済んだタミルはだいぶ興奮も落ち着いたようだ。
トウヤがその雰囲気に気づき「よかった、勢いのままフラーウムへ拉致、は無さそうだ」と安心していると、タミルは徐にトウヤの襟巻きに鼻を突っ込み、くんくん匂いを嗅ぎ出した。
トウヤはあの模様のことをすっかり忘れていた。
タミルの奇行により、ぐわぁ~っと一気にそれを思い出し、冷や汗まで出てきた。
「うっわ!や、やめろよ、嗅ぐな。汗かいてんだから!」
「んん~?トウヤの匂い、いい匂いだよぉ。・・・でもね、何かここ昨日と違う感じがするんだぁ。」
相変わらず鋭いタミルに、トウヤは背中にたらりと冷や汗が流れるのが分かった。
思わず目が合ったハンスも「そういえば模様何だったんだ?」と思っているのだろう。
2人して固まり、何も言えずにいた。
「そういや、トウヤ。今日は魔法の色だな。昨日の色・・・綺麗だったのにもったいねぇなぁ。」
「・・・その話はもうぶり返さないでください、フィン様。」
「いや、だってよ。あんなの初めて見たぜ?イグニスに戻ったら一回神殿に行けよ。俺も一緒に行ってやる。」
「・・・考えておきます。」
そういえば、この先どうすればいいのだろう。
ディーの話振りからして、トウヤが何かしらの動きを見せなければ、結界とやらが危ういようだし、それで結界が壊れて魔物が襲って来たら・・・
「・・・俺、どうすりゃいいんだ。」
思わずポロッと溢れたトウヤの本音。
俯いて突然口に出すものだから、ハンスもタミルもフィンも戸惑っている。
お互いに目を見合わせ、誰が一番に声をかけるか決めあぐねていた時。
ジトっと、突然肌に纏わりつくような不穏な気配を感じた。
背後にいたタミル、前方にいたフィンも同様の反応だ。
素早く立ち上がり周囲を警戒している。
「・・・10、いや20体はいる。中型から大型。」
タミルからいつものフワフワ感が消えていた。
いつの間にか変装を解き、両手に数本のナイフを持っている。
「・・・上か。」
フィンが確信したように上を見上げた。
つられてトウヤやハンスも目線を上げる。
さっきまで晴れていた青い空がじわりじわりと陰りはじめ、空に亀裂のようなものが見える。
その中心には何やら黒い塊が集まっているようだ。
『明日は気をつけろ。嫌な予感がする』
ディーのあの言葉が繰り返しトウヤの頭の中で響いた。
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