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メラン編
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カランコロン、と音の鳴る玩具が好きだった頃から、早いもので17年が過ぎた。
小さな赤子だったトウヤは、もう17歳である。
癖のある黒髪は短く整え、まるで透明のような薄い灰色の瞳を持った少年である。
丸く大きめの瞳が、更に幼い印象を与えるが、子ども扱いされるのをトウヤはとても嫌がった。
生後半年経ち、中央神殿のあるメランに家族3人で向かったものの、
「透明な誕生石など、聞いたことがない。」
この一点張りだった。
その日神殿にいた神官に門の前で追い返され、御祈祷もして貰えないままイグニス領に戻ったのである。
それを聞いたイグニス領主、ターナーは夫妻を不憫に思い、快く朱の神殿で御祈祷をしてくれた。
「何色であろうと、君たち家族はイグニス領民なのだから。朱の神はこの子を護ってくださるさ。」
その言葉に夫妻は涙を流し、感謝した。
その反面、中央神殿には二度と近付くまいーー、と心に誓ったのである。
そんな苦い経験もあったが、トウヤはスクスク育った。
幸運なことに、怪我も病気も一切しない超健康優良児だった。
すり傷のような小さな怪我なんかは、「唾つけときゃ治る」と全く気にしなかった。
「おーい、父さぁーん!今日加工する革これだけ?なんか最近、少なくないか?」
ま、俺の仕事少なくなるから楽だけど。と心で呟く。
「お、トウヤ。なんだぁ?もっと仕事をくれってか?生憎だが、最近獲れる魔物が少ねーみたいでな。革がなかなか手に入りづれーんだ。」
そう言って、アルトはトウヤの頭を、わしゃわしゃと大きな手で撫でた。
「わっ、撫でんな!子ども扱いするなって言ってんだろ!」
トウヤはアルトの手を振り払い、フーーーっと毛を逆立てた猫のように怒った。
おーおー、こりゃ失礼、と喉を鳴らして笑うアルトをジロ~っと睨みながら、今日加工する革を工房に運ぶ。
アルト一家は、リーニャ村で靴工房を営んでいる。
魔物から獲れる革を加工し、好きな色に染色したり、防水などの簡単な魔法を付与したりして、靴を作るのだ。
下準備である革の加工をトウヤ、染色・魔法付与・革の切り出し・成形をアルト、靴のデザインをサキが行なっている。
(アルトとトウヤの美的センスは壊滅的なため)靴のデザインはサキにしか出来ないが、他の工程はアルトを軸に、トウヤも手伝っている。
一番最初の革の加工、要は下準備だが、これがなかなか大変なのだ。
革をまず良く洗い、天日に干してよく乾かす。
専用の道具を使って鞣す作業を繰り返して、ようやく次の工程に進めるのだ。
この作業、手を抜くと良い靴にはならない。
履き心地も違ってくる。
幼少期からアルトに技術を鬼のように叩き込まれたトウヤは、なかなか腕の良い靴職人見習いになった。
未だアルトから一人前認定して貰えない。トウヤは納得いかない、とぶつぶつ文句を垂れるのだ。
「まあまあ、そんなにツンケンしないの、トウヤ。あなたが準備した革で作った靴は評判がいいのよ。」
工房の奥から、父と子のやり取りを見ていたサキはふふ、っと笑いながらトウヤを褒めた。
褒められて満更でもなさそうなトウヤは、口をへの字に曲げながらも革の加工に取り掛かった。
大きな洗い場でまず革をよく洗う。
力をかけて、ゴシゴシ洗わないと汚れが落ちず、見劣りするのだ。
「ふぅ~~、今日は一段とあっちぃな、汗止まんねーじゃねーか!」
額の汗を手で拭い、着ていた長袖のシャツを乱暴に脱ぐと、筋肉のつきにくいトウヤの上半身が露わになる。
「これで少しはマシだな。」
脱いだシャツを腰に巻いて、作業を再開した。
その首元で、あの透明な誕生石が付いた首飾りがトウヤの動きに合わせ、ゆらゆらと揺れていた。
小さな赤子だったトウヤは、もう17歳である。
癖のある黒髪は短く整え、まるで透明のような薄い灰色の瞳を持った少年である。
丸く大きめの瞳が、更に幼い印象を与えるが、子ども扱いされるのをトウヤはとても嫌がった。
生後半年経ち、中央神殿のあるメランに家族3人で向かったものの、
「透明な誕生石など、聞いたことがない。」
この一点張りだった。
その日神殿にいた神官に門の前で追い返され、御祈祷もして貰えないままイグニス領に戻ったのである。
それを聞いたイグニス領主、ターナーは夫妻を不憫に思い、快く朱の神殿で御祈祷をしてくれた。
「何色であろうと、君たち家族はイグニス領民なのだから。朱の神はこの子を護ってくださるさ。」
その言葉に夫妻は涙を流し、感謝した。
その反面、中央神殿には二度と近付くまいーー、と心に誓ったのである。
そんな苦い経験もあったが、トウヤはスクスク育った。
幸運なことに、怪我も病気も一切しない超健康優良児だった。
すり傷のような小さな怪我なんかは、「唾つけときゃ治る」と全く気にしなかった。
「おーい、父さぁーん!今日加工する革これだけ?なんか最近、少なくないか?」
ま、俺の仕事少なくなるから楽だけど。と心で呟く。
「お、トウヤ。なんだぁ?もっと仕事をくれってか?生憎だが、最近獲れる魔物が少ねーみたいでな。革がなかなか手に入りづれーんだ。」
そう言って、アルトはトウヤの頭を、わしゃわしゃと大きな手で撫でた。
「わっ、撫でんな!子ども扱いするなって言ってんだろ!」
トウヤはアルトの手を振り払い、フーーーっと毛を逆立てた猫のように怒った。
おーおー、こりゃ失礼、と喉を鳴らして笑うアルトをジロ~っと睨みながら、今日加工する革を工房に運ぶ。
アルト一家は、リーニャ村で靴工房を営んでいる。
魔物から獲れる革を加工し、好きな色に染色したり、防水などの簡単な魔法を付与したりして、靴を作るのだ。
下準備である革の加工をトウヤ、染色・魔法付与・革の切り出し・成形をアルト、靴のデザインをサキが行なっている。
(アルトとトウヤの美的センスは壊滅的なため)靴のデザインはサキにしか出来ないが、他の工程はアルトを軸に、トウヤも手伝っている。
一番最初の革の加工、要は下準備だが、これがなかなか大変なのだ。
革をまず良く洗い、天日に干してよく乾かす。
専用の道具を使って鞣す作業を繰り返して、ようやく次の工程に進めるのだ。
この作業、手を抜くと良い靴にはならない。
履き心地も違ってくる。
幼少期からアルトに技術を鬼のように叩き込まれたトウヤは、なかなか腕の良い靴職人見習いになった。
未だアルトから一人前認定して貰えない。トウヤは納得いかない、とぶつぶつ文句を垂れるのだ。
「まあまあ、そんなにツンケンしないの、トウヤ。あなたが準備した革で作った靴は評判がいいのよ。」
工房の奥から、父と子のやり取りを見ていたサキはふふ、っと笑いながらトウヤを褒めた。
褒められて満更でもなさそうなトウヤは、口をへの字に曲げながらも革の加工に取り掛かった。
大きな洗い場でまず革をよく洗う。
力をかけて、ゴシゴシ洗わないと汚れが落ちず、見劣りするのだ。
「ふぅ~~、今日は一段とあっちぃな、汗止まんねーじゃねーか!」
額の汗を手で拭い、着ていた長袖のシャツを乱暴に脱ぐと、筋肉のつきにくいトウヤの上半身が露わになる。
「これで少しはマシだな。」
脱いだシャツを腰に巻いて、作業を再開した。
その首元で、あの透明な誕生石が付いた首飾りがトウヤの動きに合わせ、ゆらゆらと揺れていた。
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