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その後のはなし①
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「で、どうなん?最近。」
焼き鳥を串から外すのに夢中だった俺は、その一言で我にかえり目の前の人物を睨みつけた。
ビールのジョッキ片手に、ニヤついた顔を俺に向けるのはもちろん穣。
ここは俺の家から徒歩圏内の居酒屋だ。
『出張で隣の県まで来た。ここ集合。』と居酒屋の住所と共に連絡があったのはつい二時間ほど前。
俺は残っていた仕事を大急ぎで片付けて、電車に飛び乗ったわけだ。
無視しない俺、優しい。
そして穣は、俺が着いた時にはすでに二杯目を飲み始めていた。
「・・・何が。」
「何がってそりゃあ、お前の"番犬くん"のその後に決まってんじゃん。」
「・・・・・・べ、つに・・・」
「別にってそんなわけねぇだろ。フェスの日だって、急にいなくなったと思ったらイカついマンバン男からバックハグされたまま顔真っ赤っか登場だったのお前。勝手に嫉妬丸出しで超絶威嚇されるわ、帰りのシャトルバス乗り場でそいつが離れたくないとかゴネにゴネて俺まで乗り損ねるわ、まだ根に持っ、」
「わーーーーーー!うわーーーーーーーー!」
穣の口を塞ごうと、慌てて立ち上がった拍子にビールジョッキが倒れて尚大騒ぎになった。
周りの視線が痛い・・・っ
店員のお姉さん、すげぇ苦笑いだったな・・・超謝ったけど、仕事増やして本当すみません。
一方、綺麗になった席に新たに運ばれてきたジョッキ片手に、穣はたこわさをつまみだす。
お前、寿司のわさびは抜くじゃん。
何でたこわさは食うんだよ。意味わからん。
「あれから会ってんだろ?あいつ、えーっと・・・な、な、な・・・?」
「・・・なほ。」
「そーそー。那保くん。あの子ゴネ方異常だったけど、超イケメンだったな~」
「・・・・・・・・・・・・うん。」
「うわ~~~顔真っ赤~~~ピュア~~~」
「酒の!せい!だかんな!!!」
二ヶ月前のフェスで突然俺に告白してきた那保とは、あれから何回か会った。
元々音楽にさほど興味はないみたいだったけど、いくつかバンドを勧めたらハマったらしく、来月一緒にワンマンツアーに参戦することになったし、映画にも行って、ジムにも行った。
那保の筋トレの仕方はその体つきから想像できるくらいヤバかった(相当ハード)けど、俺にもできそうなトレーニング教えてくれて、意外と楽しかった。
「マジでまだ付き合ってねーの?いい加減ちゃんと返事してやれよ。」
「・・・・・・」
那保といるのは、とても楽しい。
年齢の差なんてさほど感じることもなく、話も合う。
一見怖そうに見えるあの切れ長の目だって、俺を見る時は凄く柔らかくなる。
眉間に皺がよったり、逆にふわっと花がほころぶように笑うことも多くて、案外表情豊かだ。
会えば毎回、気持ちを伝えてくれる。
でも那保は、あの日以来俺に一切触ってこなくなった。
「・・・・・・何て言えば、いいのか・・・わからん。」
「ハッ!童貞かよ。いや、童貞処女だから仕方ねぇか。」
「うっせぇーーーーーーーーーー!」
「板木くんによると、那保くんクッソモテるらしいぜ?」
「んなっ、何で、お前が板木くん知ってんだよ!」
「シャトルバス乗り損ねた時に世話になったの板木くんだから礼がてら飯行って仲良くなったんだよ!!」
「・・・・・・・・・・・・スミマセン」
恋愛ド初心者の俺にとって、この気持ちをいつ、どうやって伝えればいいのかわからない。
那保からはいつも気持ちをもらってばかりで、正直ちょっと焦ってる。
どうしてそんなに自分の気持ちを表現できるんだろう。
なかなか素直になれない俺はほんと、馬鹿だ。
今日こそは、今日こそは、と思って会っても、結局何も気持ちを伝えられずに帰るのがオチ。
「お前は頭で考えすぎ。」
「・・・うっせぇ。わ・・・わかってる。」
「全っっ然、わかってねんだなー。」
「はあ?」
「ほら、面倒くせぇアラサーは飲め飲め。」
「お、お前も、アラサーだろ!!」
「俺はお前みたいに面倒くさくない。」
「~~~~~!!」
売り言葉に買い言葉。
穣に煽られた、と言い訳して、俺はいつもよりペースを上げて酒を飲んだ。
ビールに日本酒、ハイボールに梅酒。
そして、あっという間に超面倒くさい酔っ払い男が完成した。
「ーーー、ーーーー、」
穣の奴、俺を放って誰かと電話してる。
・・・いやそれ、俺のスマホじゃね?
ああダメだ・・・・・・・・・眠い。眠すぎる。
俺は酒にめっぽう強い。眠くなるだけ。
でも、明日が仕事休みでよかった。
二日酔いもしないタイプだから、明日の体調を心配することはない。
ただ、今日はこのまま何もせず寝たい。
勇気の出ない自分への嫌悪と、情けなさ。
寝たところで何もならないけど、起きていても、何もならない。
----------------⭐︎
「あ、店着いた?おーい!こっちこっち・・・って、うっわ。こっわ。俺のこと覚えてるっしょ?穣ね。こいつの幼馴染。」
「・・・・・・・・・連絡、あざっした。」
「颯太の家わかる?えっとこの店出て右に、」
「わかります。あざっした。」
「・・・君、おもしろいね。今度一緒に飲もうよ。もちろん三人で、」
「じゃ、連れてかえりますんで。金は俺が払います。」
「・・・あはっ!さすがに金はいいって。そいつよろしく。」
「・・・・・・あざっした。」
----------------⭐︎
焼き鳥を串から外すのに夢中だった俺は、その一言で我にかえり目の前の人物を睨みつけた。
ビールのジョッキ片手に、ニヤついた顔を俺に向けるのはもちろん穣。
ここは俺の家から徒歩圏内の居酒屋だ。
『出張で隣の県まで来た。ここ集合。』と居酒屋の住所と共に連絡があったのはつい二時間ほど前。
俺は残っていた仕事を大急ぎで片付けて、電車に飛び乗ったわけだ。
無視しない俺、優しい。
そして穣は、俺が着いた時にはすでに二杯目を飲み始めていた。
「・・・何が。」
「何がってそりゃあ、お前の"番犬くん"のその後に決まってんじゃん。」
「・・・・・・べ、つに・・・」
「別にってそんなわけねぇだろ。フェスの日だって、急にいなくなったと思ったらイカついマンバン男からバックハグされたまま顔真っ赤っか登場だったのお前。勝手に嫉妬丸出しで超絶威嚇されるわ、帰りのシャトルバス乗り場でそいつが離れたくないとかゴネにゴネて俺まで乗り損ねるわ、まだ根に持っ、」
「わーーーーーー!うわーーーーーーーー!」
穣の口を塞ごうと、慌てて立ち上がった拍子にビールジョッキが倒れて尚大騒ぎになった。
周りの視線が痛い・・・っ
店員のお姉さん、すげぇ苦笑いだったな・・・超謝ったけど、仕事増やして本当すみません。
一方、綺麗になった席に新たに運ばれてきたジョッキ片手に、穣はたこわさをつまみだす。
お前、寿司のわさびは抜くじゃん。
何でたこわさは食うんだよ。意味わからん。
「あれから会ってんだろ?あいつ、えーっと・・・な、な、な・・・?」
「・・・なほ。」
「そーそー。那保くん。あの子ゴネ方異常だったけど、超イケメンだったな~」
「・・・・・・・・・・・・うん。」
「うわ~~~顔真っ赤~~~ピュア~~~」
「酒の!せい!だかんな!!!」
二ヶ月前のフェスで突然俺に告白してきた那保とは、あれから何回か会った。
元々音楽にさほど興味はないみたいだったけど、いくつかバンドを勧めたらハマったらしく、来月一緒にワンマンツアーに参戦することになったし、映画にも行って、ジムにも行った。
那保の筋トレの仕方はその体つきから想像できるくらいヤバかった(相当ハード)けど、俺にもできそうなトレーニング教えてくれて、意外と楽しかった。
「マジでまだ付き合ってねーの?いい加減ちゃんと返事してやれよ。」
「・・・・・・」
那保といるのは、とても楽しい。
年齢の差なんてさほど感じることもなく、話も合う。
一見怖そうに見えるあの切れ長の目だって、俺を見る時は凄く柔らかくなる。
眉間に皺がよったり、逆にふわっと花がほころぶように笑うことも多くて、案外表情豊かだ。
会えば毎回、気持ちを伝えてくれる。
でも那保は、あの日以来俺に一切触ってこなくなった。
「・・・・・・何て言えば、いいのか・・・わからん。」
「ハッ!童貞かよ。いや、童貞処女だから仕方ねぇか。」
「うっせぇーーーーーーーーーー!」
「板木くんによると、那保くんクッソモテるらしいぜ?」
「んなっ、何で、お前が板木くん知ってんだよ!」
「シャトルバス乗り損ねた時に世話になったの板木くんだから礼がてら飯行って仲良くなったんだよ!!」
「・・・・・・・・・・・・スミマセン」
恋愛ド初心者の俺にとって、この気持ちをいつ、どうやって伝えればいいのかわからない。
那保からはいつも気持ちをもらってばかりで、正直ちょっと焦ってる。
どうしてそんなに自分の気持ちを表現できるんだろう。
なかなか素直になれない俺はほんと、馬鹿だ。
今日こそは、今日こそは、と思って会っても、結局何も気持ちを伝えられずに帰るのがオチ。
「お前は頭で考えすぎ。」
「・・・うっせぇ。わ・・・わかってる。」
「全っっ然、わかってねんだなー。」
「はあ?」
「ほら、面倒くせぇアラサーは飲め飲め。」
「お、お前も、アラサーだろ!!」
「俺はお前みたいに面倒くさくない。」
「~~~~~!!」
売り言葉に買い言葉。
穣に煽られた、と言い訳して、俺はいつもよりペースを上げて酒を飲んだ。
ビールに日本酒、ハイボールに梅酒。
そして、あっという間に超面倒くさい酔っ払い男が完成した。
「ーーー、ーーーー、」
穣の奴、俺を放って誰かと電話してる。
・・・いやそれ、俺のスマホじゃね?
ああダメだ・・・・・・・・・眠い。眠すぎる。
俺は酒にめっぽう強い。眠くなるだけ。
でも、明日が仕事休みでよかった。
二日酔いもしないタイプだから、明日の体調を心配することはない。
ただ、今日はこのまま何もせず寝たい。
勇気の出ない自分への嫌悪と、情けなさ。
寝たところで何もならないけど、起きていても、何もならない。
----------------⭐︎
「あ、店着いた?おーい!こっちこっち・・・って、うっわ。こっわ。俺のこと覚えてるっしょ?穣ね。こいつの幼馴染。」
「・・・・・・・・・連絡、あざっした。」
「颯太の家わかる?えっとこの店出て右に、」
「わかります。あざっした。」
「・・・君、おもしろいね。今度一緒に飲もうよ。もちろん三人で、」
「じゃ、連れてかえりますんで。金は俺が払います。」
「・・・あはっ!さすがに金はいいって。そいつよろしく。」
「・・・・・・あざっした。」
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