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番外編

誕生日のはなし

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「ファベル、お前の弟今、いくつだ。」

「ディル?20歳・・・だったかな。あ、ノクス、氷飛んでくるよ。」

「あ゛?マーディ!!攻撃が雑すぎんだよ!!!舐めてんのかぁ!!!!」

「ヒィーーー!!な、舐めてませんんん・・・っ!」



左後方から飛んできた氷の塊に手を向けたノクスは、一瞬でその塊を溶かす。

氷を放った本人である牛の獣人マーディは、絵に描いたような真っ青な顔で、そのままノクスの放ったとんでもない風圧の風で吹き飛ばされていった。






今日は朝から魔法師団の総合訓練。
森や岩場を模した巨大な訓練場で、団長のノクス、副団長のファベルの両者が参加している。



ノクス又はファベルが持つ旗を、取る、焼く、壊す、落とす、凍らせる・・・、何かしらの攻撃が届いた隊から、訓練終了。



太陽が頭上にのぼった昼下がり。
当然のように、全隊が未だ残っていた。




「ディルと歳が近い彼の好きなものを探そうってことかな?」

「な゛っ、んで、分か、んだよ!!」

「そりゃ分かるでしょ。誕生日?」

「・・・・・・そう、だ。」

「ふぅ~ん・・・、ま、何でも喜ぶと思うよ。」

「・・・・・・それが一番困んだよ・・・」

「・・・可愛いなぁ、ほんと。」




喋りながらももちろん団員の相手をするため、魔法は使い続けている二人。
ファベルなんか、ティーセットまで用意してきたらしい。

最早、化け物である。


可愛い可愛い弟分のノクスが、番のために頭を悩ませる姿。
ファベルは内心ニヤニヤが止まらなかったが、そのニヤニヤを表に出してしまったら、もうこうやって相談すらしてくれないかもしれないという計算の元、必死に微笑みで堪えている。
その鬱憤を、向かってくる団員にぶつけているのだから、実に可哀想な団員たちだ。


「身につけられるものがいいんじゃない?形に残るものでさ。」

「・・・なるほど。」

「若い子達に人気があるお店教えようか?」

「・・・身につけるもの、なら、店知ってる・・・。」

「そう。ならそこに行って相談するといいよ。一緒に行」
「かなくていい。・・・あ、りがとよ。」

「・・・・・・っ、どういたしまして。」



目線は下、照れたような赤い頬。
お兄ちゃん的(偽)には、悶絶ものの破壊力だった。
その顔を糧にこの日のファベルはいつも以上の堕天使ぶりを発揮して、とうとう夕方になっても僅か二班しか旗を壊せないままだった。





















「ノクスさん?どうしたんですか、そんなモジモジして。早く寝ましょ。」

「・・・寝る前に、話がある。」


夜も深まった、宿舎のノクスの部屋。

キイチがどこからか入手してきた大きめのベッドの上で、二人は向かい合って座っていた。


元々ノクスの隣の部屋は空いていて、キイチにはそこに住むよう提案したが、頑なに同じ部屋がいいと譲らなかった。
最終的にはノクスが折れ、スィーガに一応許可を貰ったのである。





「え゛!?話?!な、何ですか?!俺、最近はノクスさんに言われた通り一晩までで我慢してるじ」
「そそそそそ、そういう話じゃなくてだな!!その・・・キ、キイチ、た、んじょう日だっただろ・・・こないだ・・・」

「・・・?はい。お祝いしてくれたじゃないですか。スィーガさんから聞いたノクスさんが、慌ててケーキ買ってきてくれたの、俺めちゃくちゃ嬉しかったですよ。」

「・・・・・・う、手出して・・・」

「手?いいですけど・・・?」




ノクスの前に突き出された太い腕。
最近は騎士団の方の訓練にも参加しているからなのか、益々日に焼けて、逞しく見える。


「目、つぶっとけ。」

「・・・?ふふ、はい。これでいいですか?」

「・・・ん。ちょっと待ってて。」

「・・・?」


ごそごそと、何かを取り出す音。
そして、差し出されたキイチの右手首にノクスは何かを巻き始めた。


「ふはっ、くすぐったい。」

「わっ、もうちょっとだから、我慢しろ・・・・・・、よし、出来た。・・・目、開けていい、ぞ。」



ノクスがそう言い終わった瞬間に、パチリと、音が聞こえるんじゃないかと思うほど、勢いよく開かれた焦茶色の瞳。


その目線の先には、キイチにも見覚えのある糸で編まれた腕輪が巻かれていた。

ノクスのと殆ど同じデザインだが、ノクスのものより少し太めの糸で、所々金糸も使われている。
敢えて首輪にしなかったのはキイチが「見せびらかしたい」と言っていたからだろう。



キイチは目線をその腕輪からノクスに移す。

ノクスは初めての贈り物が恥ずかしいのか、口をツンと尖らせ、頬も赤い。
目線は少し泳いでいるようだ。




「・・・キイチの魔力流して。俺のはもう流してある。糸の端ここな。」

「・・・・・・やっべぇ・・・俺、泣きそうなんですけど・・・っ、」

「なっ、泣くなよ!!笑えって!!!」

「あ゛い・・・っ、魔力流し、ま゛す・・・」

「・・・ふはっ、もう泣いてんじゃん。・・・キイチ、これでお揃いだな。」

「~~っ、もーーーーー!何?!可愛い顔しちゃって!!!!嬉しすぎる!!」

「よ、喜んで・・・くれたなら、よかった・・・、あ、あと、これ・・・」



ノクスは、自分の小さな手をキイチの手に重ね、何かを握らせた。

金属で出来ている物らしい。
ひんやりとしていて、握った瞬間に使い道が分かる、特有の形の物だった。

勿論キイチは握った瞬間わかったようで、尻尾がぶんぶん横に揺れだし、腕を大きく広げると、そのままぎゅう~~っと、ノクスを抱きしめた。



「俺を可愛さで殺す気でしょ!!!!!?鍵じゃん!!!!家探してくれたの??!」

「く、訓練場に、近い所で、いい部屋あったから・・・・・・この部屋狭いし・・・、か、壁、う、すいから・・・っ、声っ、が、」


キイチの背中に回された手が、もじもじと服をいじっている。

キイチは思わず上を向き、片手で頭を押さえた。

可愛い。
可愛すぎやしないか、28歳。


当の本人であるノクスはきょとん、としていたが、キイチはもう色々と我慢できなくなったらしい。



「・・・はい、勃った。これはノクスさんのその可愛さのせいだよね~~?今日は抱き潰していいってことで。はい。大好き。死ぬほど好き。」

「はっ???!何で今ので勃つんだ、わ、こらっ!!!首筋舐め、るの、やめ、んん、~~キイチっ!!」

「今日は諦めてくださいよ。・・・ほら、誕生日プレゼントってことで、ね?」

「・・・・・・っ、に、二回、までだ、からな、」

「・・・・・・・・・じゃ、脱ぎましょうねぇ♪」

「今の間は何だよ!?返事は?!ひゃっ、尻揉むなって、んんっ、」

「もう・・・ほんと大好き。死ぬまで離さないし、天国でも離さないから。」

「ひぃっ・・・」



どさっと、ノクスを押し倒すキイチの目は、まだ涙で濡れていたが、その奥には欲にまみれた雄が前面に溢れ出ていた。






ノクスはやっぱり今日も、狼からは逃れられず、結局外が明るくなるまで離してはもらえなかった。

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