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「これを話題に出した時点で、死んだと思え。分かったな。」
今日も今日とて、魔法師団と騎士団の団員達は扱き場集合。
今日の午前中の訓練は、副団長のファベル担当だったが、午後はノクスの担当である。
ノクスが魔王なら、ファベルは堕天使だ。
ファベルは羊の獣人で、ウェーブがかった白髪を耳にかけた美青年。
羊にしては身体も大きく、キイチと比べても変わらないくらいだ。
にこにこと天使のように微笑みながら、恐ろしい魔力量で攻撃してくる。
団員の多く、特に肉食系獣人は「何で魔法師団の草食系獣人はこんなに強いんだ」と内心、戦々恐々としている。
だから午前の訓練に当たろうが、午後の訓練に当たろうが、どっちもどっち・・・なのだが。
いつもなら誰よりも早く訓練場に来て、団員を迎え入れるノクスが、なんと今日は一番遅くに到着したのだ。
それだけで団員はざわついた。
それに加えて首には、何とも意味深な包帯を巻いているものだから、益々ざわつく。
空気をわざと読まないファベルがいれば、すぐにでも突っ込んだのだろうが、ちょうど席を外している時だった。
そして冒頭の、死刑宣言である。
昨日、ノクスを颯爽と掻っ攫って行った狼の獣人(名乗りもせずに出て行った)が関係しているだろうし、何となく・・・いや、確実に理由は想像できるのだが、もう誰も突っ込めなくなった。
「・・・・・・俺、実は団長のこと狙ってたんだよね・・・超可愛いじゃん・・・」
「いや、わかるけど。お前、番持ちに手出したら死ぬぞ、やめとけ。」
「そこの二人、何をコソコソ話してんだ?余程身体を動かしたいってことか。いい度胸だな。」
「「ひぃっ・・・」」
鹿と狐の獣人二人の側に、バリバリバリ、と稲妻が飛んでくる。
「今日はやめとけ、本当に死ぬぞ。」と、周囲の団員の目が語っていて、二人は目配せをした後、無言で頷いた。
「はぁ~~~、だらしねぇ。今日は俺もあんま動けな・・・ん゛んっ、とにかく!手加減してんだぞ!!お前らやる気あんのか?」
「「「「「・・・う゛う・・・」」」」」
既視感のある、この光景。
ご存知のように、とある理由で、全身筋肉痛のノクスは、確かに昨日よりは手加減しているようだ。
だが圧倒的な魔力差により、団員達は昨日同様地面に転がされ、唸り声を上げる。
それを見下ろすノクスは仁王立ちで、大層不満そうなご尊顔。
「ったく、あいつもディトにまた城連れて行かれたしよ、ファベルもどこほっつき歩いて、」
「ノクス、この赤い痕すごいな。ふふっ、お相手はよっぽど独占欲が強いみたいだね。」
魔王の薄手の白シャツの裾をぺらっと捲る命知らずは、堕天使ファベル。
地面に突っ伏していた団員達の空気が一瞬にしてピシリと凍りつき、一様に死んだふりを始めた。
皆んな自分の身の守り方ぐらいは心得ている。これは関わらない方がいい案件、と瞬時に判断したのである。
「・・・・・・・・・優雅に紅茶の香りさせながら戻ってきた一言目がそれかよ、ファベル。殺すぞ。」
「やだなぁ。俺だってゆっくり昼休憩ぐらいとりたいよ。で、その相手はどこなの?・・・・・・挨拶させて。」
にこにこと微笑むファベルは、ノクスよりも背が高い。
気配を消しながら相手に近づく戦い方はファベルの十八番だ。
そのファベルをノクスはまさに魔王の名にふさわしい顔で見上げ、睨みつけた。
「・・・今いねぇよ。お前には関係ないだろ。黙っとけ。」
「関係あるでしょ。・・・俺の可愛いノクスを獲ったんだからさ。丁重に挨拶しなきゃ。」
「うわっ!!!!引っ付くな!!!馬鹿!!」
「・・・・・・匂いが違う。」
「ひっ、離せっつってんだろ!!お前、羊のくせに力強すぎなんだよ!!いい加減にしねぇと、」
後ろからすっぽりと抱きしめたファベルは、面白くなさそうな顔でノクスの匂いを嗅いでいる。
ファベルは元々ノクスへのスキンシップが激しい。これも謂わばいつもの光景なのだが、それをそう捉えない者が一人いる。
「誰ですか、あんた。俺の番から離れろよ。」
ビリビリと空気が震える程の強烈な威嚇と共に聞こえてきたのは、今朝方までノクスが聞いていた甘い声とは違った、唸るように低い声だった。
それを聞き、ビクッと身体を震わせたのはノクス。じんわりと背中に汗まで浮かんできた。
「・・・わあ、怖い。随分若い男だけど。君の趣味ってああいう男なんだね、ノクス。」
「・・・・・・・・・・・・おまえ、面白がってんじゃねぇよ。」
頭に手を当て、思わずため息をついたのは、勿論黒耳の兎だった。
今日も今日とて、魔法師団と騎士団の団員達は扱き場集合。
今日の午前中の訓練は、副団長のファベル担当だったが、午後はノクスの担当である。
ノクスが魔王なら、ファベルは堕天使だ。
ファベルは羊の獣人で、ウェーブがかった白髪を耳にかけた美青年。
羊にしては身体も大きく、キイチと比べても変わらないくらいだ。
にこにこと天使のように微笑みながら、恐ろしい魔力量で攻撃してくる。
団員の多く、特に肉食系獣人は「何で魔法師団の草食系獣人はこんなに強いんだ」と内心、戦々恐々としている。
だから午前の訓練に当たろうが、午後の訓練に当たろうが、どっちもどっち・・・なのだが。
いつもなら誰よりも早く訓練場に来て、団員を迎え入れるノクスが、なんと今日は一番遅くに到着したのだ。
それだけで団員はざわついた。
それに加えて首には、何とも意味深な包帯を巻いているものだから、益々ざわつく。
空気をわざと読まないファベルがいれば、すぐにでも突っ込んだのだろうが、ちょうど席を外している時だった。
そして冒頭の、死刑宣言である。
昨日、ノクスを颯爽と掻っ攫って行った狼の獣人(名乗りもせずに出て行った)が関係しているだろうし、何となく・・・いや、確実に理由は想像できるのだが、もう誰も突っ込めなくなった。
「・・・・・・俺、実は団長のこと狙ってたんだよね・・・超可愛いじゃん・・・」
「いや、わかるけど。お前、番持ちに手出したら死ぬぞ、やめとけ。」
「そこの二人、何をコソコソ話してんだ?余程身体を動かしたいってことか。いい度胸だな。」
「「ひぃっ・・・」」
鹿と狐の獣人二人の側に、バリバリバリ、と稲妻が飛んでくる。
「今日はやめとけ、本当に死ぬぞ。」と、周囲の団員の目が語っていて、二人は目配せをした後、無言で頷いた。
「はぁ~~~、だらしねぇ。今日は俺もあんま動けな・・・ん゛んっ、とにかく!手加減してんだぞ!!お前らやる気あんのか?」
「「「「「・・・う゛う・・・」」」」」
既視感のある、この光景。
ご存知のように、とある理由で、全身筋肉痛のノクスは、確かに昨日よりは手加減しているようだ。
だが圧倒的な魔力差により、団員達は昨日同様地面に転がされ、唸り声を上げる。
それを見下ろすノクスは仁王立ちで、大層不満そうなご尊顔。
「ったく、あいつもディトにまた城連れて行かれたしよ、ファベルもどこほっつき歩いて、」
「ノクス、この赤い痕すごいな。ふふっ、お相手はよっぽど独占欲が強いみたいだね。」
魔王の薄手の白シャツの裾をぺらっと捲る命知らずは、堕天使ファベル。
地面に突っ伏していた団員達の空気が一瞬にしてピシリと凍りつき、一様に死んだふりを始めた。
皆んな自分の身の守り方ぐらいは心得ている。これは関わらない方がいい案件、と瞬時に判断したのである。
「・・・・・・・・・優雅に紅茶の香りさせながら戻ってきた一言目がそれかよ、ファベル。殺すぞ。」
「やだなぁ。俺だってゆっくり昼休憩ぐらいとりたいよ。で、その相手はどこなの?・・・・・・挨拶させて。」
にこにこと微笑むファベルは、ノクスよりも背が高い。
気配を消しながら相手に近づく戦い方はファベルの十八番だ。
そのファベルをノクスはまさに魔王の名にふさわしい顔で見上げ、睨みつけた。
「・・・今いねぇよ。お前には関係ないだろ。黙っとけ。」
「関係あるでしょ。・・・俺の可愛いノクスを獲ったんだからさ。丁重に挨拶しなきゃ。」
「うわっ!!!!引っ付くな!!!馬鹿!!」
「・・・・・・匂いが違う。」
「ひっ、離せっつってんだろ!!お前、羊のくせに力強すぎなんだよ!!いい加減にしねぇと、」
後ろからすっぽりと抱きしめたファベルは、面白くなさそうな顔でノクスの匂いを嗅いでいる。
ファベルは元々ノクスへのスキンシップが激しい。これも謂わばいつもの光景なのだが、それをそう捉えない者が一人いる。
「誰ですか、あんた。俺の番から離れろよ。」
ビリビリと空気が震える程の強烈な威嚇と共に聞こえてきたのは、今朝方までノクスが聞いていた甘い声とは違った、唸るように低い声だった。
それを聞き、ビクッと身体を震わせたのはノクス。じんわりと背中に汗まで浮かんできた。
「・・・わあ、怖い。随分若い男だけど。君の趣味ってああいう男なんだね、ノクス。」
「・・・・・・・・・・・・おまえ、面白がってんじゃねぇよ。」
頭に手を当て、思わずため息をついたのは、勿論黒耳の兎だった。
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