【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O

文字の大きさ
上 下
12 / 37

11 餌

しおりを挟む
「簡単に言うと、あいつらには魔力持ちの人間が美味しそうに見えるわけよ。」


ベッド脇に寄せられた机の上にならんだ料理。
どこからか持ってきた椅子に座り、チーズ入りのパンをかじりながら、とんでもないことを平然とした顔で言い出したのはもちろんあの男。

何の脈絡もなく突然始まったこの研究者の話に、スプーンで掬いかけたスープを器に戻し、はあ、とため息をつく俺。


「・・・・・・なんか、食欲なくします・・・」

「あ~ら、やだあ!レヴィちゃんそんなに繊細なの!?」

「繊細とかじゃなくて・・・」

「図太く生きなさい!その方が良いことあるわよ!ほらもっと食べて!」

「・・・はい。」


妙に説得力のあるディランさんの言葉を聞いてから、再びスプーンでスープを掬い、口に運ぶ。

ちょっと遅くなった昼食はフェイさんが作ってくれたらしい。
言うなればこれこそ繊細、優しい味つけ。
俺用にスープの他に、すりおろした果物。

完全に病人の食事。(事実)
あ、噛み跡のある巨大なサーダ肉は丁重にお断りしておいた。


「魔力を持った生物を摂取することで、一時的だけど力が強まるみたいね。」

「・・・ってことは、人間も・・・竜も・・・そうなんですか・・・?」

「んー・・・・・・どんな答えがお望みかしら?」


そう言って肉にかぶりついたディランさんは「冗談よ」と言って被りを振った。よかった、本当冗談で。


「魔力のための捕食は魔族特有の能力よ。」

「よ、かったです・・・・・・」

「・・・でもね、いつも思うの。人間と竜の"それ"をどうやって調べたのかしらって。」

「・・・・・・」

「ま、当然だけど倫理観を持った人間ならしないわ。"いない"とは断言できないけど、前提としてどの国でも大罪。」


今も昔も研究者、怖い。
魔力を持った人間が少ない=魔族に食べられちゃったから減った、ってこと・・・?

想像しただけで、身震いしてしまう。


「人間の場合は、そもそも魔力を生み出す器官が十分に発達する個体が少ないの。」

「・・・なる、ほど。」

「魔力が遺伝する例もあれば、突発的に強い魔力を持って生まれる例もあって、色々特定が難しいの。俺はそれを研究してるわけね。わかった?」

「・・・・・・(一人称、俺、なんだ・・・)」

「ねえ、聞いてる?」

「きっ、聞いてます!!首!ヤメテ!!」

「もう♡本当、お茶目な子♡」

「・・・・・・・・・」


うふふ、と笑うディランさんを横目に食事を再開し、何とか全部食べ終える。
それを確認したディランさんは「さてと」と両手を合わせ、次の瞬間には俺の足元にかかっていた布団を剥ぎ取っていた。


「じゃ、早速行きましょっか♡」

「・・・・・・ど、どこに?」

「どこにって、もちろん────」


両手で頭を挟まれ、ぐりんっと音がしたんじゃないかってぐらい首を半転される。
実際パキ、ポキ、と首から小さな音がした。

窓の外は先ほどからしとしと雨が降り続いていて、時折吹く涼しい風が湿った匂いを運んでいた。


「あそこに行くわよ!」

「・・・はあ?ど、どこ・・・・・・、ええ・・・っ?!」

「俺も久しぶりでわくわくしちゃう♡」

「ちょっ、えっ、ほ、本当にあそこ?!」

「?ええ、もちろん♡レヴィちゃんも騎士団の見習いだから入れるわよ♡」

「・・・・・・!?」


筋肉質で逞しい腕。
その腕にふさわしい立派な指が指し示したのは、あのユシュフ山脈の方だった。


「研究室から外套持ってこなくちゃ♡あとはおやつと記録用紙と、」

「待っ、ちょっ、」

「あとでジェイスちゃんに迎えにこさせるから、あなたはここで待っていてね!」

「ジェ、ジェイスさんも?!そもそも、な、何の為にっ、」

「そうそう、あいつ本当気難しいから手土産でも持っていこうかしらね~」

「ねえっ、ディランさんっ、」

「じゃ、またあとでね♡逃げちゃダメよ♡」


そう言って人差し指でおでこを突かれ、あまりの強さにそのまま後ろに倒れ込む。
後頭部を守ってくれた枕が少し硬くて、倒れ込んだ勢いで視界がぐわんと大きく揺れた。


「・・・・・・マジでなんなの、あの人。」


視線を横にすると、あの木の表紙の本が見えた。
一体、この本で俺の何が分かったのか、さっぱりわからない。

突然始まった魔族の話といい、ユシュフ山脈への同行といい、頭も心もぐちゃぐちゃだ。


「・・・・・・俺、ただの人間なんだけど。」

「そうだな。レヴィは人間だ。」

「っ、びっくりした・・・っ」


扉にもたれかかってジェイスさんがこちらを見ていた。
独り言を聞かれたうえに返事をされるなんて、めちゃくちゃ気まずい。
耳が熱くなるのを感じながら、急いで体を起こす。
挨拶がわりに小さく頭を下げた。


「ジェイスさんが昨日医務室に運んでくれたんですよね?」

「今日はイーライ達の突撃に遭ったらしいな。目を離してすまない。」

「・・・いえ、大丈夫です。その節はお世話になりました。」

「何を言う。こちらこそ、本当にありがとう。」

「・・・え?」


近づいてきたジェイスさんは何の迷いもなく、ベッドに腰掛けた俺の前で膝をついた。
俺を見上げる赤い瞳が少しだけ弧を描き、一礼して再び立ち上がる。

その一連の動作があまりにも洗練されていて、俺の耳はさらにカァ~っと熱くなった。


「んなっ、なんですか、急に?!」

「白竜を助けてくれただろう?本当に感謝している。」

「俺は、べ、べ、別に、」

「レヴィだからできたんだ。人間の、優しい君だからこそできた。」

「・・・へ?」

「だから、ありがとう。」


爺ちゃんとは違う大きな手が、俺の頭を労るように撫でた。
ジェイスさんの言葉が、さっきまでのぐちゃぐちゃな感情を溶かしていく。


「・・・どう、いたし・・・まして・・・?」

「それでいい。」

「・・・・・・はい。」

「照れると尚幼く見えるな。」

「・・・は?!」

「とても可愛らしいと思うぞ。」

「・・・・・・は!??」


至って真顔のジェイスさんの顔に、俺は何だか居た堪れなくなってベッドから立ちあがる。
そして足にうまく力が入らず、ぺしゃんとその場に座り込んだ俺をジェイスさんは何の躊躇いもなく抱え上げ、そのまま部屋を出発した。
















しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。 前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち… でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ… 優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...