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今まで生きてきて、研究者という職業の人に直接関わることがなかった。
そういう人たちが開発した物や技術の恩恵に肖ってはいるんだろうけど、毎度毎度そんなことに感謝を抱いて生きてない。

ダートにいる多くの研究者が竜や魔力について研究していて、とても熱心な人が多いのだと言う。
整えられた環境に、持って生まれた資質能力。
一体どんな立派な人間なのだろうかと思ったり、思わなかったり。



「ね?ね?ちょっとよ?ちょっっとだけでいいの!」

「・・・いや、あの、俺、何のことだかさっぱりで、」

「んも~~~そんなわけないじゃない!その証拠に今寝込んでるんだから!おかげで逃げられなくて済むけど~~♡うふふふ」

「・・・・・・・・・」

「やーね!そんな顔しても逃さないわよ!逃げられないだろうけどお♡」

「・・・(怖)」


ベッドに横たわる俺。
目線の先には見慣れない木の天井と、一人のスキンヘッド男。
この人、今朝早く目が覚めた時にはもうベッド横に居て、キラキラした目で俺のことを見ていた。怖い。


・・・・・・なんでこんな状況なのか、思い返してみよう。



----------------⭐︎


コルヴィを騎士団の竜舎まで連れて行くのは結構骨が折れそう。
威嚇するもんだから馬が超ビビって逃げるし。(俺一人で乗れるようになったんだぜ)

なんせ、デカい。
翼が木にぶつかって、森の中をまともに連れて歩けない。
《 ぜーんぶ倒していけばいいじゃん! 》とケラケラ笑うコルヴィに思わず頭が痛くなる。


どうすっかなーと頭を抱えているとコルヴィは意気揚々と俺の後方にまわり、襟元の服に歯を引っ掛けた。
「ん?」と後ろを振り返る間もなく、翼を広げ、俺の踵が浮き始めたもんだから、俺、滝汗。
必死に体をバタバタさせて、抵抗を試みる。



「ちょ、ちょ!ちょっと待て!飛ぶなよ?!」

《 飛んだ方が楽だもん 》

「お、お、落ちたらどうする!?う、馬も、置いて行けないし!な?落ち着け。」

「馬は俺が連れて帰る。じゃーなー!」

「?!このっ、裏切り者!!」

《 背に乗せればいいの?なら早く乗ってよ 》

「は?えっと、ええ・・・・・・?マジで・・・?」

《 早くサーダ食べたい 》

「食いしん竜め・・・!」


頭から首まで屈むようにして、俺が乗りやすいよう体勢を整えるコルヴィ。
こりゃ、相当腹が減ってるらしい。
腹の虫も聞こえるし、やたら素直だ。

俺も腹を括り、よっこいせっと背に乗る。
何度もずるずる落ちかけたけど、見かねたコルヴィが爪で引っ掛けてくれて何とかなった。

(おかげて俺の隊服ボロボロな!)



「でもさ・・・その翼で飛べるか?痛くねーの?」

《 えー?痛いの通り越した 》

「・・・・・・それ、やばくね?」

《 じゃあニンゲンが何とかしてよ 》

「な、何とかって、言ったって・・・・・・ん?」



右の翼の先端に見覚えのあるあの文字みたいな、模様みたいなものが書かれた布が引っかかっているのが見えた。
青空の下で見ると、翼を覆う黒い靄があの布から湧き出てるのがわかる。
それに・・・背に乗った瞬間から感じるこの肌を刺すピリピリとした嫌な感じ。

全部あれが原因かもしれない。



《 なあ、どうしたの? 》

「・・・俺の手が届くところに翼近づけられるか?」

《 で・・・できるけど、でも・・・ 》

「大丈夫だって。この前も同じようなの見たから。」

《 ほ、本当だな・・・? 》

「おう!まかせとけ!」

《 ほ、ほら・・・ 》



ゆっくり、ゆっくり、近づいてきた白い翼。
竜舎に帰ったら思いっきり水浴びさせてやろう。
綺麗な翼が砂埃と血で汚れてしまって、見てられない。

布が体に近づくと、あのピリピリが強くなる。
背中に生温い汗が伝うのを感じながら、俺は布に手を伸ばした。


『 バチン 』


目の前の黒い靄とあの布が、イーライの"あの時"みたいに一瞬で消えて無くなって、弾けるような小さな音が、俺の中から聞こえた。

コルヴィの《 重いの取れた! 》という嬉しそうな声が聞こえた後、

俺は体から溢れる ナニカ に飲み込まれる。
熱い。
痛い。
苦しい。


体勢が保てなくなって、コルヴィの背中からずるっと落ちていく。
慌てたような声をあげるコルヴィの大きな口が俺の服を咥えたのを見てすぐ、目の前が真っ暗になった。


----------------⭐︎

・・・思い返しても、あんまり役に立たなかった。


多分一番肝心なところ、ぶっ倒れてたから覚えてないし。
ここは・・・宿舎の医務室、かな。
この薬っぽい匂い、結構好きだ。

起き上がろうと横向きになって、肘に力を入れて・・・・・・やっぱ無理。
体に重石が乗ってるみたい。
風邪引いた時みたいに体が火照ってるし、汗も止まらない。

そんな俺と目があったスキンヘッドさんは「あら、気が利かなくてごめんなさいね」と人差し指をくるりとひと回し。
するとそこからひんやりとした風が吹いてきて、魔法の凄さが身に沁みた。



「それにしてもあの白竜ちゃん、とってもお利口だったわね。」

「・・・お、おりこう・・・?」

「飛んでる間はあなたが落ちないように背中全体を風魔法で覆っててね、ここに着いた後もあなたから離れず威嚇してるの。あなたを守ろうと必死みたいだったわ。」

「・・・・・・そう、ですか・・・」

「あらあなた、笑った方がいいわよ♡可愛い・・・♡」

「んひいっ」

「やーだ、何もしないわよ♡・・・今はね♡」

「・・・・・・・・・あの、俺に聞きたいことって何ですか。」

「・・・うふ♡協力してくれるのね?話が早くて嬉しいわ。」

「・・・・・・へい。」


押しが強すぎるこのスキンヘッドさんの名前はディラン。
俺がこの人の研究の"何か"に協力をする約束を無事こぎつけて満足したのか、「準備があるから」と投げキッスをして部屋を出て行った。

そしてそれから俺が目を覚ましたことが一気に広まり、窓ガラスを突き破ってあの三馬鹿竜+コルヴィが顔を出したのを見て、俺は最早ため息も出なかった。


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